「さあ早く! 女王と女王親衛(しんえい)隊は(おそ)かれ早かれ、ここに来てしまうぞ!」

 グレンデル国王が歩き始めたと同時に、「炭鉱(たんこう)のほうを探せ!」という声が聞こえてきた。

 女王親衛(しんえい)隊がこっちに来る!

 私、パメラ、ウォルター、ジャッカルの四人は、ネストールと別れてグレンデル国王に急いでついていくことにした。

 私たちは炭鉱(たんこう)の中に入っていった。

 ◇ ◇ ◇

 炭鉱(たんこう)の通路──炭坑(たんこう)薄暗(うすぐら)かった。

 岩の突起(とっき)がありパメラが転び、私たちはコウモリに(おそ)われた。

 やがて通路の向こうのほうに光が見えてきた。

 炭坑(たんこう)から外に出ると、光と青空の青色が私たちを包む。

「ここは……!」

 ローバッツ工業地帯の裏の岩場だ。

 後ろを振り向くと、岩場には大きな穴が空いていた。

 私たちはそこから外に出てきたらしい。

 太陽の光が岩場の草木の緑を、よりいっそう(かがや)かせていた。

「さあ早く逃げよ!」

 グレンデル国王は声を上げた。

「南に五キロメートル行くと牧場があり、そこで馬車が借りられる。牧場から南西に二十五キロメートルほど行くと、そこにゾートマルク村があるはずだが……。さあ、その村へ逃げよ! すぐに追手(おって)が来るぞ!」
「国王様、ここは危険です! 私たちと一緒(いっしょ)に逃げましょう」

 私がそう言うと、グレンデル国王は首を横に振った。

「いや、世話になったレギーナのことが心配だ。私はここに残るよ。だが、こんな話をしている(ひま)は……」

 国王がそう言ったそのとき!

「聖女はどこだ!」
()らえよ!」
「この穴の外にいるはずだ!」

 ──炭鉱《たんこう》の穴から女王親衛(しんえい)隊たちの声が聞こえてきた。

「さあ、行くがよい!」

 国王が声を上げたので、私たちは急いで南に向かった。

 ◇ ◇ ◇

 私たちはグレンデル国王と別れ、私たちは徒歩(とほ)で牧場に行き、馬車を借りてそのまま南西に向かった。

 御者(ぎょしゃ)はジャッカル。

 私たちは客車の上で()られながら、ようやくホッと息をつくことができた。

 そこから馬車で二十五キロ移動した。

 そして五、六時間、南西に移動しただろうか──。

「あ、あれは……村? いや、街……か?」

 ジャッカルが叫んだ。

 南西のほうに家々が見えてきた。

 おや? 村というよりは大きな街に見えるが……。

 あれがゾートマルク村?

 村で見かけるような木造の家はなく、モルタルと石(づく)りの白い立派な家々がたくさん建っている!

 こんな荒野(こうや)の真ん中に、いつの間にこんな大きな街ができたのだろうか?

 私たちは目を(うたが)った。

「確かゾートマルクは、『村だ』とグレンデル国王が言ってたよね?」

 パメラが首を(かし)げた。

 確かグレンデル国王はさっき、こう言っていた──。

「牧場から南西に二十五キロメートルほど行くと、そこにゾートマルク村があるはずだが……」

 と言っていたはずだ。

 しかし目の前にあるのは村ではなく大きな街に見える。

 国王の勘違(かんちが)いだろうか?

 私たちが首を(かし)げていると──。

「このゾートマルクに何か用ですか?」

 白いローブを羽織(はお)った長髪の若い青年が、白い大きな建物から出てきた。

 背が高く、性格は何となく真面目そうな人だ。

 整った顔立ちをしている。

 建物は──恐らく礼拝堂(れいはいどう)だ。

「それともあなた方……。死霊病(しりょうびょう)にかかった人たちですか?」

 若い青年は私たちに向かって(つえ)を突き出した。

 杖の先を見ると──魔法の火が()(さか)っている。

 危険!
 
 これは火炎魔法だ!

「火の精霊よ、邪魔者を退(しりぞ)けたまえ!」

 青年はそう(とな)え、火の魔法を杖から(はっ)した。

 轟音(ごうおん)とともに、火の(たま)が私たちの足元に着弾(ちゃくだん)する。

「待って! 待ってください!」

 私が青年にそう言ったとき、彼は再び杖を振り上げるのを止めた。

 そのときウォルターが素早く木剣(ぼっけん)を取り出し──。

 彼の杖を(はら)い落した!

「う、むっ……! 強い!」

 青年は顔をしかめた。

 彼の杖は地面に落ちた。

「君は本当に火の魔法を当てるつもりはなかった。そうだろう?」

 ウォルターが青年に言った。

「……あなた方、何者……?」

 青年は私たちを(にら)みつけていた。