「私は明言(めいげん)します」

 私は言った。

「あなたたちも──この村の村人たちも、毒を()られている──! 何者かに!」
「な、なにっ?」

 オールデン村長は目を丸くして私を見た。

「ちょ、ちょっと待て。それは本当か?」
「ええ、間違いないと思われます」
「そ、そう言われると俺たちは何も食べられないじゃないか」
「あ、うーん……そうですね」

 しかし村人の体内に毒があることは確かなのだ。

 食物で摂取(せっしゅ)していると考えるのが(もっと)妥当(だとう)だろう。

 この村の食料はすぐに調査したほうが良い──私はそう判断した。

「皆さん、食料はどうやって手に入れるのですか?」
「村の食料は──村人が畑で()れた野菜などを食料庫に置く。そして朝と夕、各自村人が食料庫から持っていく。それを各家庭で料理する。食料庫の使用料は村長の俺に払ってもらう」

 私は「へえ」と驚いた。

「面白い制度ですね」
飢饉(ききん)がきたときに困らないように、(つね)に食料は倉庫にあるように管理しておく。この村は(まず)しい。村人が協力し合わないと……」
「ちょっとその食料庫を見せていただけますか?」

 私は申し出た。

 パメラは集会所の(すみ)で眠ってしまっている。

 だいぶ(つか)れたんだろう。

 私は使用していない毛布を、寝ている彼女の体にそっとかけた。

 ◇ ◇ ◇
 
 今は夕方近くの十五時半──。
 
 そろそろ日が落ちそうだ。

 私とオールデン村長が集会所から外に出たとき、ウォルターが村の外の見回りから帰ってきた。

 ジャッカルはまだ村の周囲を探索(たんさく)しているという。

 私がウォルターに、グレンデル国王のことや彼の体内の毒のことを話すと、彼は非常に驚いていた。

「驚く話ばかりだが……。その食料の話も興味深い」

 ウォルターは深く考えているようだった。

「結局、君は食料が(あや)しいと思っているのだな」

 ウォルターの言葉に私はうなずいて答えた。

「ええ、村人は全員、ひどく()せているのです。また、彼らの(アーダ)からも毒が見えます」
「ふむ……。やはり毎日の食事に、何らかの原因で毒が混入(こんにゅう)していると考えるのが自然か。つまりその(もと)──食料庫の食材に何かがある……」

 ウォルターは何かを考えているようだった。

「実はな、僕は食事を非常に研究しているのだ」
「えっ? それは初耳ですね」
騎士(きし)団員時代は体作りに気を使っていた。力を出すときに力が出ないといけない。そういうときに食事が(もっと)も重要なのだ。とにかく食料庫を見よう。──アンナ、君は食材に毒がないか見ることができるか?」
「えっ? しょ、食材に毒がないか……見る?」

 私は戸惑(とまど)った。

 人間に毒があるか()ることはできるが、食料に毒があるか調べるなんてしたことがない。

 そんなことができるのだろうか?

 ◇ ◇ ◇

 ──食料庫は、村外れの商店街の奥にあった。

 私はウォルター、オールデン村長、そして炭鉱(たんこう)近くの国王の家から戻ってきたレギーナさんと一緒に食料庫に入った。

 さて、食料庫の中だが──。

 多くはないが、二週間分の食料、食材が置かれている。

「ええっと……。人参、ジャガイモ、米、キャベツ、砂糖、塩、バター、そして何らかの肉がありますね」

 私は食材を一つずつ確認した。

 とくにジャガイモとキャベツ、塩は袋に山()りになっており、二週間であれば十分な量だろう。

「野菜や調味料は、足りなくなったら近くの街で買い足す。肉はイノシシ肉だな。旅人に分けてもらう」

 オールデン村長は眉をひそめながら私に聞いた。

「ど、どうだ? 食材に毒はありそうか?」
「ええっと……」

 私は目を()らした。

 塩、砂糖、野菜などの食材からそれぞれ(アーダ)噴出(ふんしゅつ)している。
 
 ふむ……。

 食材からは深緑色の(アーダ)が出ていない。

 つまりどの食材にも毒がないことが分かった。

 それにしても──私が食材の毒を調べるのは一応可能であることが分かった。
 
 これはなかなか興味深い発見だ。

「これらの食料の中には毒素はなさそうです」

 私はそう結論を出した。

「ふう、そ、そうなのか」

 オールデン村長は胸をなでおろした。

 ……そうなると村人は、毒をどこから摂取(せっしゅ)しているのか?

 いや、そもそも村人は本当に毒を摂取(せっしゅ)しているのか。

 私は余計な調査をして、村を混乱させているだけなのか?

「うーん……」

 私はちょっと自信がなくなっていた。

「大丈夫だ」

 (さっ)したウォルターがそう言ってくれた。

「自分を信じろ。アンナはたくさんの人を治癒(ちゆ)してきたのだろう。今日もこの村に逃げてきたグレンデル国王を治癒(ちゆ)したそうだな? それが君の力の証明だろう?」
「は、はいっ」

 私はウォルターの言葉を聞き、背筋(せすじ)を伸ばした。

 私は気を取り直してオールデン村長に聞いた。

「これらの食材はどこで手に入れたのでしたっけ?」
「もちろんこの村の畑だよ。別の街で買ったものもあるが」
「そういえば──(もっと)も重要な食料がありませんね?」

 この世界の(もっと)も重要な食料といえば……パンだ。

 パンはこの世界で(もっと)も食べられている食料、食材であり、パンが無ければ一日が始まらないという人もいるほどである。

 私もネストールほどではないが、パンは一日一回食べなければ気が()まないほうだ。

「我々の主食であるパン……そしてその原料の小麦粉ですが……それが見当たらないですね」
「うむ、実はたまたま昨日、パンがカビていてな。廃棄(はいき)したんだ。よくあることだが」
「ふうん? たまたま?」

 私はオールデン村長をじっと見たが、娘のレギーナさんが言った。

「お父さんの言っていることは本当ですよ。この工業地帯は湿気(しっけ)が多いので、パンがカビることはよくあるのです」
「そうですか。レギーナさんが言うなら信用してもいいかな」

 私が言うと、オールデン村長は怒りだした。

「おい! それってどういう意味だ、まったく」
「失礼しました。ところで、パンはどうやって手に入れるのですか? 手作りですか?」
「いや、それは……」

 オールデン村長は言いにくそうだった。

 おや?

 私はパンに何か秘密がある、と感じていた。