4月1日、午後2時──。

 僕──ダナン・アンテルドは、今、アイリーン、パトリシア、ランダース、そしてもう一人──マリー・エステランさんと一緒に、ライリンクス王国の南にいる。

 そこはライルコース(こう)大桟橋(だいさんばし)という場所。

 世界剣術大会が開催(かいさい)されるジャパルジアへ、豪華客船に乗って出発するためだ。

 出場選手の剣術家も、ちらほら見える。

 報道陣もたくさんいる。

 だが、それどころじゃない!

 大桟橋(だいさんばし)には来たが、ジャパルジアに行けるかどうか、分からないのだ。

 問題が発生している。

 僕が所属しているマルスタ・ギルドのギルド長も、一緒に世界剣術大会に行かなければならない。

 しかし、肝心(かんじん)のギルド長の国王……いや、ブーリン氏は入院中だ!

 そこで、僕はマリー・エステランさんに、臨時のギルド長代理を頼んだ。

「だから! 私がマルスタ・ギルドの、臨時のギルド長になるって言ってるじゃないの!」

 一緒に来てくれたマリーさんは、テント小屋の世界剣術大会の役員に詰め寄った。

「マリーさんねえ、一度、ランゼルフ・ギルドのギルド長の資格を失われていますよねぇ、あなた」

 驚いたことに、その大会役員はドルガーの腰ぎんちゃく、ジョルジュだった。

 コネでも使って、役員になったのか? ど、どういうことだ?

「一度、ギルド長の資格を失っている方は、臨時でもギルド長と認められないんで」

 ジョルジュはにんまり笑って、マリーさんに言った。

 あいつ! 僕らを世界剣術大会に出場させない気だな!

 多分ドルガーに、僕らの出場を阻止(そし)するように言われたのだ。

「ギルドに、そんな規則(きそく)はなかったはずよ!」

 マリーさんは声を上げたが、ジョルジュはクスクス笑っている。

「さあ? 僕は規則(きそく)通りに申し上げているだけですよ~。残念」

 そのとき丸々太った、メガネをかけたヒゲの男が歩いてきた。

 大会役員長の腕章を、腕にはめている。

「さわがしいですなあ。私はバーデン・マックスという者だ。世界剣術大会、ライリンクス王国選手団の役員長を務めておる」

 おや? 見たことがあるぞ、この男!

「あなたは! バーデン・マックスさん?」

 マリーさんは声を上げた。

 バ、バーデン・マックス?

 ドルガーの父親だ! そして、ランゼルフ・ギルドの創業者だ。

 マリーさんはランゼルフ・ギルドの元ギルド長なので、マックス氏と面識(めんしき)があるはず。

 僕といえば、マックス氏と小さい頃、何度も会ったことがある。

「久しぶりだな、マリーさん」

 マックス氏は、ポケットに手を突っ込みながら言った。

「ジョルジュ君が言うような、その~……規則(きそく)があってね。一度ギルド長をやめた者は、再びギルド長には就任(しゅうにん)できないんだよ」
「ウソです! ギルドの規則(きそく)では、一度ギルド長をやめた者でも、ギルド所属者の支持があれば、ギルド長に復職(ふくしょく)できるはず!」
「私は大商人だ。この世界剣術大会のスポンサーでもあるんだよ? 大金を出しているんだ」

 マックス氏は当然、口調が強くなった。

 まるで威嚇(いかく)するような口調だ。

「マルスタ・ギルドは今後二度と、大会に出場できなくしてやろうか?」
「へえ、息子のドルガーに何か言われたの? 『パパ、ダナンを出場させないでよ』とか」

 マリーさんは言葉を返した。

 しかし、マックス氏はイライラをしながら、「知らんな」と言いつつ腕時計を見ている。

「あなたの息子……ドルガーは、ダナンとの試合で魔獣に変身した!」

 マリーさんは声を上げた。

「息子が、試合であんな恐ろしい反則行為をしたくせに、よく言えたものね」
「フン。私は魔法についてはよく分からん。息子から、あれも技術の一つだと聞いている。……まあ、私も最初は驚いたがな」

 マックス氏はそんなことはどうでもよい、という顔だ。

「息子は、すでに豪華客船に乗り込んでいるんだ。もういいかね? さ、帰ってくれ」

 マックス氏は舌打ちしつつ、マリーさんをにらみつけた。

 肝心のドルガーも、やはりここに来ている!
 
 つまり、世界剣術大会に出場するわけだ。

 こないだの試合の魔獣変身は、おとがめなしか。

 すると、ジョルジュは得意気になって、口を開いた。

「とにかく、マリーさんは現在、ギルド長じゃないですよね? 今回は、マルスタ・ギルドの選手は、出場をあきらめるしかないですねぇ?」

 ドルガーが出場するなら、僕も出場して、ドルガーをもう一度倒さなくてはいけない。

 長年、アイリーンの心を傷つけ、手下を使って僕を事故に合わせたんだからな。

 しかし、このままでは、僕は出場できないぞ? どうする?

 するとその時……!

「話は、すべて聞いていたぞ……」

 かすれているが、(しん)の強そうな男の声が、僕の後ろでした。

 どよっ……。

 報道陣が驚きの声を上げる。

 アイリーンが叫んだ。

「ダナン! 国王様よ!」

 えっ?
 
 僕が振り返ると、そこにはライリンクス国王が車椅子に座っていた! 
  
 ブーリンさんだ!

 執事(しつじ)のマイケルダール氏が、車椅子を押している。

 な、何で、大桟橋(だいさんばし)にいるんだ?

「ダナン君……私にまかせろ。君は世界剣術大会に、出場できる……」

 国王は、()せこけた顔をしていたが、僕にそう言った。