ギルド長のいないマルスタ・ギルドでは、僕──ダナン・アンテルドが魔法剣術の指導を行っていた。
国王──つまりギルド長のブーリン氏は、腹部をナイフで刺され、王立白魔法病院に入院中だ。
看護師のアイリーンの情報では、ナイフに特殊な「呪い」がかかっていて、腹部に浸透しているらしい。
……まるで、僕の右足の状況ではないか?
「今日は、応用から始めるよ」
僕は左腕で松葉杖をつきながら、道場生に言った。今日は外の広場に出て、指導している。
今日は小・中等部の合同指導だ。五十名ほどいるだろう。もう十分すぎるほど、生徒がいる。
ランゼルフ・ギルドからマルスタ・ギルドに移籍してくれたモニカ、マチュア、マイラなどもきちんと出席している。
そもそもランゼルフ・ギルドのギルド長は、ドルガーだからな。
あのギルドから、逃げ出したくなるのも分かる。
そもそも、ドルガーは今、何をやっているんだろう。
「魔力の練り方を説明します。肉体には『七つの門』があるとイメージしてください。門が開くと、魔力が発動するからね」
この魔力の出し方は、マリーさんから学んだことだ。
僕は愛用の剣、「グラディウス」を皆に見せた。
「一つ目の門、二つ目の門、そして三つ目の門を開いたところをイメージすると……」
ビキビキビキッ
グラディウスの剣が、氷の魔力を帯びて音を立てた。
「ハアアアッ」
ザンッ
僕は練習用人形に向かい、剣で斬撃した。
すると粘土でできた練習用人形は、たちまち凍ってしまい──。
バキインッ
粉々に、練習用人形が砕け散った!
「うわああっ! 氷の魔法剣だ」
「威力、エグい……」
「カッコいい!」
生徒たちが驚きの声を上げる。
僕は説明した。
「三つ目の門が開くイメージをしたとき、魔法剣が発動する。三つ目の門は、だいたい胃の辺りにあると想像してください」
「正確には、『みぞおち』の辺りだな」
補助師範役のパトリシアに注意されると、僕は頭をかいて、「あー……そう、みぞおちだ」と言った。
「パトリシア先生のほうが、詳しいや。皆、僕じゃなくて、パトリシア先生から学んでください」
道場生から、失笑がもれる。
さて、基本練習が終わり、小休止時間のとき──。
「ダナン! ちょっといい?」
アイリーンが道場に入ってきた。看護師のアルバイトが休みのときは、ギルドの事務の仕事を手伝ってくれている。
「あなたに重要な手紙がきていて……指導が終わったら、あとで中を見て」
◇ ◇ ◇
指導が終わり、僕は近くの喫茶室「エストランダ」に急いだ。
ソファ席に、パトリシアとランダース、アイリーンが座っていた。
「ダナン、『世界剣術大会』の招待状だ。あのライリンクス国王の執事、マイケルダール氏の言う通り、届いたな」
パトリシアは嬉しそうに、青色の封筒を僕に見せながら言った。
「世界剣術大会! あっ、僕にも来たのか?」
アイリーンが、僕宛ての封筒を差し出してくれた。
ランダースも、彼宛ての封筒を持っている。
「私は魔法剣士を辞めているから、招待状はこなかったけど、皆のお手伝いをさせてもらうわ。一緒に、世界剣術大会に行くからね」
アイリーンはそう言ったが、少しさみしそうだ。
やっぱり、少しは剣を振りたいという気持ちがあるんだろう。
僕が封筒を開けて中を見ると、招待状が入っていて、こう書かれていた。
『マルスタ・ギルド所属 ダナン・アンテルド殿
貴殿は、デルガ歴2024年世界剣術大会の出場者に選ばれました。
この世界剣術大会招待状は、世界各地にあるギルド所属者の、
勇者
魔法剣士
剣士
戦士
など、剣術の使い手であり、世界剣術大会委員会に選ばれた者に発送されました。
【開催日】
デルガ歴2024年 4月8日
【開催場所】
東方ジャパルジア トキヨ地区
【ライリンクス王国にお住みの出場者様へ 世界剣術大会出発の集合場所のお知らせ】
集合場所 ライリンクス王国 ライルコース港大桟橋 第5地区
出発日 デルガ歴2024年 4月1日 午後2時30分
出場者は、豪華客船ベルクマーク号に乗船し、ジャパルジアへ出発します』
「お、おい……本当に、東方ジャパルジアに行けるのか……」
パトリシアは感激したように、首を横に振って、言った。
「夢みたいだ……。私の長年の夢がかなうのだ」
「お、おう。マジらしいな、こりゃ」
ランダースは、ヒューッと口笛を吹いた。
ジャパルジアは「剣術の里」と呼ばれる、世界の剣術家のあこがれの国だ。
ものすごい剣の達人が、ゴロゴロいるらしい。
勇者、魔法剣士、剣士、戦士のランキング一位の者は、すべてこのジャパルジアにいる。
僕も、このジャパルジアにあこがれている。
ちなみに僕の魔法剣士ランキングは、最近、832位になった。
微妙だ……。
そんな僕が世界剣術大会に出場できる理由は、入院中のライリンクス国王……ブーリン氏が大会出場に推薦してくれたんだろう。
「噂では、ヨハンネス・ルーベンスも出場することが確実らしい。私の剣術の知り合いが、そう言っていた」
パトリシアが言った。
「ヨハンネスか……」
パメラさんが言うには、あいつが、国王襲撃の黒幕ということだ。
でも、世界剣術大会に呼ばれるってことは、まだ証拠がないってことなのか?
集合場所は、ライルコース港大桟橋 第5地区と書いてある。
そこから、船でジャパルジアへ出発するのか。
他に、我がライリンクス王国からは、誰が出場するんだろう?
ゲルダは? ドルガーは?
いや、僕はこの二人は必ず選ばれて、出場してくると考えている。
「ま、待って」
アイリーンが声を上げた。
「招待状の下に、注意書きがあるわ!」
ん……?
『【重要な注意事項】選ばれた選手は、所属するギルド長と、【必ず】ジャパルジアに入国してください。そうしないと、出場許可が下りません。ギルド長は選手と引率し、選手の怪我、健康を管理していただく必要があります』
え?
「こ、これは……! マズいんじゃない? マルスタ・ギルドには、今、ギルド長はいないわ!」
アイリーンは声を上げた。
「こ、国王様は……ブーリンさんは今、入院しているし……」
「ど、どうするんだ? これじゃあ、ジャ、ジャパルジアに行けないぞ!」
パトリシアはいつになく泣き声を上げた。
ど、どうするったって?
か、解決方法はないのか……?
そうか! 代わりにギルド長に就任してくれる人がいれば……。
で、でも、そんな人がいるのか?
い、いや、いる!
適任者がいる! 僕はすぐに思い出した。
国王──つまりギルド長のブーリン氏は、腹部をナイフで刺され、王立白魔法病院に入院中だ。
看護師のアイリーンの情報では、ナイフに特殊な「呪い」がかかっていて、腹部に浸透しているらしい。
……まるで、僕の右足の状況ではないか?
「今日は、応用から始めるよ」
僕は左腕で松葉杖をつきながら、道場生に言った。今日は外の広場に出て、指導している。
今日は小・中等部の合同指導だ。五十名ほどいるだろう。もう十分すぎるほど、生徒がいる。
ランゼルフ・ギルドからマルスタ・ギルドに移籍してくれたモニカ、マチュア、マイラなどもきちんと出席している。
そもそもランゼルフ・ギルドのギルド長は、ドルガーだからな。
あのギルドから、逃げ出したくなるのも分かる。
そもそも、ドルガーは今、何をやっているんだろう。
「魔力の練り方を説明します。肉体には『七つの門』があるとイメージしてください。門が開くと、魔力が発動するからね」
この魔力の出し方は、マリーさんから学んだことだ。
僕は愛用の剣、「グラディウス」を皆に見せた。
「一つ目の門、二つ目の門、そして三つ目の門を開いたところをイメージすると……」
ビキビキビキッ
グラディウスの剣が、氷の魔力を帯びて音を立てた。
「ハアアアッ」
ザンッ
僕は練習用人形に向かい、剣で斬撃した。
すると粘土でできた練習用人形は、たちまち凍ってしまい──。
バキインッ
粉々に、練習用人形が砕け散った!
「うわああっ! 氷の魔法剣だ」
「威力、エグい……」
「カッコいい!」
生徒たちが驚きの声を上げる。
僕は説明した。
「三つ目の門が開くイメージをしたとき、魔法剣が発動する。三つ目の門は、だいたい胃の辺りにあると想像してください」
「正確には、『みぞおち』の辺りだな」
補助師範役のパトリシアに注意されると、僕は頭をかいて、「あー……そう、みぞおちだ」と言った。
「パトリシア先生のほうが、詳しいや。皆、僕じゃなくて、パトリシア先生から学んでください」
道場生から、失笑がもれる。
さて、基本練習が終わり、小休止時間のとき──。
「ダナン! ちょっといい?」
アイリーンが道場に入ってきた。看護師のアルバイトが休みのときは、ギルドの事務の仕事を手伝ってくれている。
「あなたに重要な手紙がきていて……指導が終わったら、あとで中を見て」
◇ ◇ ◇
指導が終わり、僕は近くの喫茶室「エストランダ」に急いだ。
ソファ席に、パトリシアとランダース、アイリーンが座っていた。
「ダナン、『世界剣術大会』の招待状だ。あのライリンクス国王の執事、マイケルダール氏の言う通り、届いたな」
パトリシアは嬉しそうに、青色の封筒を僕に見せながら言った。
「世界剣術大会! あっ、僕にも来たのか?」
アイリーンが、僕宛ての封筒を差し出してくれた。
ランダースも、彼宛ての封筒を持っている。
「私は魔法剣士を辞めているから、招待状はこなかったけど、皆のお手伝いをさせてもらうわ。一緒に、世界剣術大会に行くからね」
アイリーンはそう言ったが、少しさみしそうだ。
やっぱり、少しは剣を振りたいという気持ちがあるんだろう。
僕が封筒を開けて中を見ると、招待状が入っていて、こう書かれていた。
『マルスタ・ギルド所属 ダナン・アンテルド殿
貴殿は、デルガ歴2024年世界剣術大会の出場者に選ばれました。
この世界剣術大会招待状は、世界各地にあるギルド所属者の、
勇者
魔法剣士
剣士
戦士
など、剣術の使い手であり、世界剣術大会委員会に選ばれた者に発送されました。
【開催日】
デルガ歴2024年 4月8日
【開催場所】
東方ジャパルジア トキヨ地区
【ライリンクス王国にお住みの出場者様へ 世界剣術大会出発の集合場所のお知らせ】
集合場所 ライリンクス王国 ライルコース港大桟橋 第5地区
出発日 デルガ歴2024年 4月1日 午後2時30分
出場者は、豪華客船ベルクマーク号に乗船し、ジャパルジアへ出発します』
「お、おい……本当に、東方ジャパルジアに行けるのか……」
パトリシアは感激したように、首を横に振って、言った。
「夢みたいだ……。私の長年の夢がかなうのだ」
「お、おう。マジらしいな、こりゃ」
ランダースは、ヒューッと口笛を吹いた。
ジャパルジアは「剣術の里」と呼ばれる、世界の剣術家のあこがれの国だ。
ものすごい剣の達人が、ゴロゴロいるらしい。
勇者、魔法剣士、剣士、戦士のランキング一位の者は、すべてこのジャパルジアにいる。
僕も、このジャパルジアにあこがれている。
ちなみに僕の魔法剣士ランキングは、最近、832位になった。
微妙だ……。
そんな僕が世界剣術大会に出場できる理由は、入院中のライリンクス国王……ブーリン氏が大会出場に推薦してくれたんだろう。
「噂では、ヨハンネス・ルーベンスも出場することが確実らしい。私の剣術の知り合いが、そう言っていた」
パトリシアが言った。
「ヨハンネスか……」
パメラさんが言うには、あいつが、国王襲撃の黒幕ということだ。
でも、世界剣術大会に呼ばれるってことは、まだ証拠がないってことなのか?
集合場所は、ライルコース港大桟橋 第5地区と書いてある。
そこから、船でジャパルジアへ出発するのか。
他に、我がライリンクス王国からは、誰が出場するんだろう?
ゲルダは? ドルガーは?
いや、僕はこの二人は必ず選ばれて、出場してくると考えている。
「ま、待って」
アイリーンが声を上げた。
「招待状の下に、注意書きがあるわ!」
ん……?
『【重要な注意事項】選ばれた選手は、所属するギルド長と、【必ず】ジャパルジアに入国してください。そうしないと、出場許可が下りません。ギルド長は選手と引率し、選手の怪我、健康を管理していただく必要があります』
え?
「こ、これは……! マズいんじゃない? マルスタ・ギルドには、今、ギルド長はいないわ!」
アイリーンは声を上げた。
「こ、国王様は……ブーリンさんは今、入院しているし……」
「ど、どうするんだ? これじゃあ、ジャ、ジャパルジアに行けないぞ!」
パトリシアはいつになく泣き声を上げた。
ど、どうするったって?
か、解決方法はないのか……?
そうか! 代わりにギルド長に就任してくれる人がいれば……。
で、でも、そんな人がいるのか?
い、いや、いる!
適任者がいる! 僕はすぐに思い出した。