ルーベンス家の大屋敷は、ライリンクス王国の中央都市の一角、デグロムにある。
ヨハンネスは、ルーベンス家の会議に出席していた。
彼は十六歳だが、最も上座に座っている。──それはなぜか?
ヨハンネスの父親のデグロム卿は、病気療養中なのだ。
今現在、ヨハンネスは、ルーベンス家の当主代行だった。
「人工魔族計画は、どうなっているのかな」
ヨハンネスは、会議に集まっている者たちに聞いた。
会議には、闇の魔導師グロードジャングス、ルーベンス家に仕える老魔導師たち十人、ルーベンス家に従う貴族たち十人が座っている。
「ヨハンネス坊っちゃん、計画は順調です」
赤いローブを羽織った、老魔導師の一人、ジェゴ・バルゲスがもみ手をしながら言った。
「ゴブリン三十匹、ジャイアント・オーガニ十匹、ダース・デーモン十匹、スケルトン・ナイト三十匹、アイアン・ナイト十匹……人工培養に成功しております」
バルゲスはルーベンス家が雇っている、最高の魔導師の一人だ。
「生ぬるい! 生ぬるいぞっ!」
ヨハンネスは怒鳴りつけた。
「人工魔族はまだ百体しか、生み出せていないのか? 我々が世界征服をするためには、二百体は必要だぞっ」
「し、しかし、もっと金がかかりますぞ。二百体生み出し、維持するとなると、五千億ルピーはかかります」
バルゲスはハンカチで汗をふきながら、言った。
闇の魔導師グロードジャングスは、クスクス笑っている。
そして口を開いた。
「世界を征服すればそんな金など、すぐに回収できる。そうであろう、ヨハンネス」
「ヨハンネス『様』だろうがっ! グロードジャングス!」
老魔導師たちは怒り狂うように、闇の魔導師をにらみつけて叫んだ。
どうやら、グロードジャングスと老魔導師たちは仲が悪いらしい。
「そんなことはどうでも良い! ──それでは、世界征服を実現するために……」
ヨハンネスはニヤリと笑った。
「魔王と、より深い契約を結ばなければならない!」
それを聞いたとき、老魔導師たちは一斉に顔をしかめた。
「もっと強力な魔族を生み出し、魔王や魔族に協力すればいい。そうすれば、魔族の知識が、もっと手に入る!」
「前にも注意しましたが、あまりにも危険ですぞ!」
バルゲスは声を荒げた。
「ヨハンネス坊っちゃん! 魔王と交流するのはやめてください」
「なんでだ?」
「あ、相手は魔王ですぞ。古代の大魔法を知っている可能性もある。ヤツらはそれを利用し、我々に脅迫してくる可能性もある。魔族は、平気で我々を裏切りますぞ!」
「裏切るだって?」
ヨハンネスはハッハッハと笑った。
「僕はこれまでに、魔王と三十二回の会食、二十五回の会談をしてきたんだぞ。もう彼とは友人さ。魔王が裏切ることはないよ」
「し、しかし……」
老魔導師たちは眉をひそめて、何かコソコソ話している。
すると闇の魔導師グロードジャングスは、ヨハンネスに進言した。
「今、ヨハンネスのやり方に、反発の意を示した者がいたようだぞ」
「……なんだと」
老魔導師たちはギョッとした顔で、ヨハンネスを見た。
ヨハンネスはつぶやくように、闇の魔導師に言った。
「やれ」
「分かった」
グロードジャングスは両手を突き出し、老魔導師のバルゲスに向かって、魔法を飛ばした。
するとバルゲスの首筋に、薄黒い二つの透明な手が現れた。
ヒュッ
バルゲスはその薄黒い手に吊り下げられるように、宙に浮かび──。
「ひ、ひい! やめてくれ。お、降ろしてくれ!」
声を上げた。
すると、そのまま床に──。
ベキッ
落とされた。
バルゲスは強く腰を打った。
これは、確実に腰を骨折しただろう。
バルゲスは他の老魔導師につきそわれ、外の医務室に直行した。
「次は思い切り、頭から床に叩きつけちゃったりして」
ヨハンネスは笑顔で言った。
老魔導士たちは、真っ青な顔でヨハンネスとグロードジャングスを見た。
「みょ、妙な噂を聞いたぞ、ヨハンネスよ!」
今まで黙っていた最長老の老魔導師、ズバンネラ・レーゼンが声を上げた。
彼は、ルーベンス家に仕える老魔導師の中でも、最古参の老人だ。
もう百五十七歳らしい。
「ライリンクス王がナイフで刺されただろう? しかし、刺した犯人が闇の魔導師に洗脳されていたのではないか、という噂がある! 霊能力者たちが、ナイフと国王の腹部を視て、『闇の呪い』がかけられていると言っている」
「それで?」
ヨハンネスは頬杖をついて、レーゼン老を見た。
「グロードジャングス! 王を刺した犯人は、お前が洗脳したのではないか? 呪いを可視化する霊能力者たちが、犯人を追っているぞ!」
「まったく分からない、知らない話だ」
グロードジャングスは笑った。
「私が洗脳したという証拠写真を、ここに持ってこい。私は知らんよ、じいさん」
「……お、お前たち!」
レーゼンは顔を真っ青にしている。
「まさか本当に、ライリンクス王を? お前たちが計画したのか? もしそれが世間にバレたら、大変なことに……ルーベンス家は崩壊するぞ」
「僕らが、ライリンクス王襲撃事件の黒幕だと言いたいの? そんなわけないでしょうが」
ヨハンネスは笑って首を横に振りながら言った。目は笑っていなかったが。
「ヨハンネス様」
その時、ノックする音が響き、会議室に若いメイドが入ってきた。
「お手紙がきております」
「お~、やっときたか」
ヨハンネスはその手紙を受け取りながら、言った。
「『世界剣術大会』の招待状だ」
老魔導師たちは、眉をひそめてヨハンネスを見ていた。
「僕がこの大会に出場し、優勝すれば、我がルーベンス家はもっと発展するぞ! ハハハ」
老魔導師たちは、ヨハンネスとグロードジャングスを、疑いの目で見ていた。
ライリンクス王襲撃事件の黒幕は、ルーベンス家の長男、このヨハンネスと、その助言者であるグロードジャングスだ──。
老魔導師たちは、直感していた。
だが、当のヨハンネスと闇の魔導師は、ただただ、とぼけているのだった。
ヨハンネスは、ルーベンス家の会議に出席していた。
彼は十六歳だが、最も上座に座っている。──それはなぜか?
ヨハンネスの父親のデグロム卿は、病気療養中なのだ。
今現在、ヨハンネスは、ルーベンス家の当主代行だった。
「人工魔族計画は、どうなっているのかな」
ヨハンネスは、会議に集まっている者たちに聞いた。
会議には、闇の魔導師グロードジャングス、ルーベンス家に仕える老魔導師たち十人、ルーベンス家に従う貴族たち十人が座っている。
「ヨハンネス坊っちゃん、計画は順調です」
赤いローブを羽織った、老魔導師の一人、ジェゴ・バルゲスがもみ手をしながら言った。
「ゴブリン三十匹、ジャイアント・オーガニ十匹、ダース・デーモン十匹、スケルトン・ナイト三十匹、アイアン・ナイト十匹……人工培養に成功しております」
バルゲスはルーベンス家が雇っている、最高の魔導師の一人だ。
「生ぬるい! 生ぬるいぞっ!」
ヨハンネスは怒鳴りつけた。
「人工魔族はまだ百体しか、生み出せていないのか? 我々が世界征服をするためには、二百体は必要だぞっ」
「し、しかし、もっと金がかかりますぞ。二百体生み出し、維持するとなると、五千億ルピーはかかります」
バルゲスはハンカチで汗をふきながら、言った。
闇の魔導師グロードジャングスは、クスクス笑っている。
そして口を開いた。
「世界を征服すればそんな金など、すぐに回収できる。そうであろう、ヨハンネス」
「ヨハンネス『様』だろうがっ! グロードジャングス!」
老魔導師たちは怒り狂うように、闇の魔導師をにらみつけて叫んだ。
どうやら、グロードジャングスと老魔導師たちは仲が悪いらしい。
「そんなことはどうでも良い! ──それでは、世界征服を実現するために……」
ヨハンネスはニヤリと笑った。
「魔王と、より深い契約を結ばなければならない!」
それを聞いたとき、老魔導師たちは一斉に顔をしかめた。
「もっと強力な魔族を生み出し、魔王や魔族に協力すればいい。そうすれば、魔族の知識が、もっと手に入る!」
「前にも注意しましたが、あまりにも危険ですぞ!」
バルゲスは声を荒げた。
「ヨハンネス坊っちゃん! 魔王と交流するのはやめてください」
「なんでだ?」
「あ、相手は魔王ですぞ。古代の大魔法を知っている可能性もある。ヤツらはそれを利用し、我々に脅迫してくる可能性もある。魔族は、平気で我々を裏切りますぞ!」
「裏切るだって?」
ヨハンネスはハッハッハと笑った。
「僕はこれまでに、魔王と三十二回の会食、二十五回の会談をしてきたんだぞ。もう彼とは友人さ。魔王が裏切ることはないよ」
「し、しかし……」
老魔導師たちは眉をひそめて、何かコソコソ話している。
すると闇の魔導師グロードジャングスは、ヨハンネスに進言した。
「今、ヨハンネスのやり方に、反発の意を示した者がいたようだぞ」
「……なんだと」
老魔導師たちはギョッとした顔で、ヨハンネスを見た。
ヨハンネスはつぶやくように、闇の魔導師に言った。
「やれ」
「分かった」
グロードジャングスは両手を突き出し、老魔導師のバルゲスに向かって、魔法を飛ばした。
するとバルゲスの首筋に、薄黒い二つの透明な手が現れた。
ヒュッ
バルゲスはその薄黒い手に吊り下げられるように、宙に浮かび──。
「ひ、ひい! やめてくれ。お、降ろしてくれ!」
声を上げた。
すると、そのまま床に──。
ベキッ
落とされた。
バルゲスは強く腰を打った。
これは、確実に腰を骨折しただろう。
バルゲスは他の老魔導師につきそわれ、外の医務室に直行した。
「次は思い切り、頭から床に叩きつけちゃったりして」
ヨハンネスは笑顔で言った。
老魔導士たちは、真っ青な顔でヨハンネスとグロードジャングスを見た。
「みょ、妙な噂を聞いたぞ、ヨハンネスよ!」
今まで黙っていた最長老の老魔導師、ズバンネラ・レーゼンが声を上げた。
彼は、ルーベンス家に仕える老魔導師の中でも、最古参の老人だ。
もう百五十七歳らしい。
「ライリンクス王がナイフで刺されただろう? しかし、刺した犯人が闇の魔導師に洗脳されていたのではないか、という噂がある! 霊能力者たちが、ナイフと国王の腹部を視て、『闇の呪い』がかけられていると言っている」
「それで?」
ヨハンネスは頬杖をついて、レーゼン老を見た。
「グロードジャングス! 王を刺した犯人は、お前が洗脳したのではないか? 呪いを可視化する霊能力者たちが、犯人を追っているぞ!」
「まったく分からない、知らない話だ」
グロードジャングスは笑った。
「私が洗脳したという証拠写真を、ここに持ってこい。私は知らんよ、じいさん」
「……お、お前たち!」
レーゼンは顔を真っ青にしている。
「まさか本当に、ライリンクス王を? お前たちが計画したのか? もしそれが世間にバレたら、大変なことに……ルーベンス家は崩壊するぞ」
「僕らが、ライリンクス王襲撃事件の黒幕だと言いたいの? そんなわけないでしょうが」
ヨハンネスは笑って首を横に振りながら言った。目は笑っていなかったが。
「ヨハンネス様」
その時、ノックする音が響き、会議室に若いメイドが入ってきた。
「お手紙がきております」
「お~、やっときたか」
ヨハンネスはその手紙を受け取りながら、言った。
「『世界剣術大会』の招待状だ」
老魔導師たちは、眉をひそめてヨハンネスを見ていた。
「僕がこの大会に出場し、優勝すれば、我がルーベンス家はもっと発展するぞ! ハハハ」
老魔導師たちは、ヨハンネスとグロードジャングスを、疑いの目で見ていた。
ライリンクス王襲撃事件の黒幕は、ルーベンス家の長男、このヨハンネスと、その助言者であるグロードジャングスだ──。
老魔導師たちは、直感していた。
だが、当のヨハンネスと闇の魔導師は、ただただ、とぼけているのだった。