パトリシアとゲルダの練習試合後、僕ら五人は、村の小さいレストランに行った。
ゲルダの父親のラッセルさんは、僕らとゲルダの交流を邪魔したくないらしく、ついてこなかった。
僕らはレストランの個室に通され、バーデンロールの名物を堪能することにした。
「まったく、納得がいかないぞ」
パトリシアは、名物の子牛のバターソテーを頬張りながら、文句を言った。
「ゲルダ、お前の剣術は、まるで剣自体に知能が宿っているようなものではないか」
「そうです。私の剣術は、実力ではありません」
ゲルダは、少しさみしそうな表情を浮かべて言った。
僕は揚げジャガイモをパリパリ食べつつ、「どういうこと?」と聞いた。
「闇の魔導師グロードジャングスに魔法をかけられたときから、私は普通の女の子ではなくなったのです。私は、元々、単なる商人の娘でした」
そしてゲルダは意を決したように、泣きそうな表情で言った。
「あの魔法を受け、両足が動かなくなったとき──。周囲の物体が、念じるだけで動かせることに気づいたのです」
「じゃあ、あなたの剣術は、その闇の魔導師にかけられてから備わった、ということ?」
アイリーンが聞くと、ゲルダは大きくうなずいた。
「強くなったけど……足のことは、大変だったね……ゲルダ……」
アイリーンはハンカチで涙をぬぐっている。
「ありがとう、アイリーン……。恐らく、闇の魔導師に『呪い』をかけられたんだと思います。私は強さと引き換えに、両足が動かなくなってしまった」
ゲルダは悔しそうに、何かを噛みしめているようだった。
強さと両足と引き換えに、両足が動かなくなってしまったなんて……。僕も彼女の気持ちが分かって、胸が痛くなった。
「でも──そ、そんな? 呪いだって? その闇の魔導師は、一体何者なんだ?」
パトリシアがゲルダを見た。
ゲルダは、幾分落ち着きを取り戻し、口を開いた。
「闇の魔導師グロードジャングスは、勇者ヨハンネス・ルーベンスと一緒に行動していると聞いています。そして、ダナンさんと私を襲ったジャイアント・オーガは……」
ゲルダは静かに、それでいて力強く言った。
「大貴族、ルーベンス家が培養してつくり上げた、人工魔族です」
「え? な、なんだそれ?」
僕は聞き返した。
「あ、あのジャイアント・オーガは、そのルーベンス家っていう貴族がつくった、人工の魔族だっていうのか?」
「そうです」
ゲルダは深くうなずいた。
「十年前から、ドードス草原はルーベンス家の、人工魔族の実験場です。ダナンさんと私は、ルーベンス家の人工ジャイアント・オーガの実験の最中に、居合わせてしまったのですね……」
ゲルダは続けた。
ぼ、僕の右足は、ヨハンネスの一族、ルーベンス家のせいで大怪我したっていうのか?
「そして、そこに闇の魔導師グロードジャングスがいたのは、不思議でもなんでもありません。グロードジャングスは、人工魔族製造の総責任者ですからね」
そ、それが真実なのか……。
「ちょっと待てや」
ランダースがゲルダを見た。
「ってことはだぞ、ゲルダ。お前さんのその力ってのは……その、ヤバい力なんじゃ? 魔族そのものの力、じゃねえのか?」
「ランダース!」
パトリシアが声を上げた。
「ゲルダを侮辱することはゆるさんぞっ。私は、彼女の強さは認めているんだ」
パトリシアが叫んだとき、ゲルダは首を横に振った。
「ランダースさんの言っていることは、事実です。私の勇者としての実力は、闇の魔導師の魔法を受けたことによって生じた、『呪い』によって生まれたのです」
ゲルダは言った。
彼女は背筋を伸ばし、意識してしっかり話そうと努めているように思えた。
「そういえば、君はこの間、ライリンクス城に来なかったな」
僕が聞くと、ゲルダはうなずいた。
「封筒は来ましたが、私はその日、治療があり、行かれませんでした」
「ライリンクス王がナイフで刺された、という話は聞いている?」
「ええ。後日、雑誌で王が寝室で刺された写真を見ました。王に突き刺さったナイフから感じるのは、闇の魔導師グロードジャングスと同様の闇の魔力です。もしかしたら、グロードジャングスに洗脳を受けた者が、王の寝室に忍び込んだのかも」
「しゃ、写真で分かるのか?」
「はい。私の霊感は、写真を通しても見通せます」
「こ、国王は……ブーリン氏はどうなるんだ?」
僕がゲルダに聞くと、ゲルダは答えた。
「ヨハンネスや、彼の背後にいるルーベンス家、そして闇の魔導師グロードジャングスを倒さなければ、国王は回復しないと思われます」
「なぜ?」
「国王を刺したナイフには、私やダナンさんが受けた闇の魔力が宿っているように見えました。その呪いを解かなければ、国王は回復しません。呪いがかけられて、ガッチリと鍵がかけられたような状態なのです」
「待って! 逆に言えば」
アイリーンが声を上げた。
「ルーベンス家の問題を解決すれば、ダナンやゲルダさん、国王は呪いから解放されるということ?」
「そうだと思います」
「では、するべきことはもう決まっているな」
パトリシアははっきりとした声で言った。
え? どういうことだ?
「私たちは、世界剣術大会に出場するしかない。ヨハンネスが勇者ランキング二位ならば、恐らく、世界剣術大会に出場するはずだ。そこでヨハンネスを打ち倒せば、問題は解決に向かうんじゃないか」
「で……そのヨハンネスって野郎は」
ランダースはゲルダに聞いた。
「どれくらい強いんだ? 勇者ランキング二位ってえと……」
「そうですね……」
ゲルダは静かに口を開いた。
「私の十倍は強いです」
「じゅ、十倍だって?」
僕は声を上げた。
「君はパトリシアを打ち負かした。しかしそんな君より、ヨハンネスは十倍強いというのか?」
「へっ、誇張だろ。話を大きくしてるのさ」
ランダースが軽口を叩くと、ゲルダはぴしゃりと言った。
「誇張でもなんでもありませんよ、ランダースさん。ヨハンネスの強さは悪魔的……それはなぜか? 彼は魔族と契約し、魔王とも密約を結んでいるからです!」
な、なんだって?
僕は耳を疑った。
ゆ、勇者とあろう者が、魔族と契約? 魔王とも密約だって?
一体、何なんだ? そのヨハンネスという少年は?
ゲルダの父親のラッセルさんは、僕らとゲルダの交流を邪魔したくないらしく、ついてこなかった。
僕らはレストランの個室に通され、バーデンロールの名物を堪能することにした。
「まったく、納得がいかないぞ」
パトリシアは、名物の子牛のバターソテーを頬張りながら、文句を言った。
「ゲルダ、お前の剣術は、まるで剣自体に知能が宿っているようなものではないか」
「そうです。私の剣術は、実力ではありません」
ゲルダは、少しさみしそうな表情を浮かべて言った。
僕は揚げジャガイモをパリパリ食べつつ、「どういうこと?」と聞いた。
「闇の魔導師グロードジャングスに魔法をかけられたときから、私は普通の女の子ではなくなったのです。私は、元々、単なる商人の娘でした」
そしてゲルダは意を決したように、泣きそうな表情で言った。
「あの魔法を受け、両足が動かなくなったとき──。周囲の物体が、念じるだけで動かせることに気づいたのです」
「じゃあ、あなたの剣術は、その闇の魔導師にかけられてから備わった、ということ?」
アイリーンが聞くと、ゲルダは大きくうなずいた。
「強くなったけど……足のことは、大変だったね……ゲルダ……」
アイリーンはハンカチで涙をぬぐっている。
「ありがとう、アイリーン……。恐らく、闇の魔導師に『呪い』をかけられたんだと思います。私は強さと引き換えに、両足が動かなくなってしまった」
ゲルダは悔しそうに、何かを噛みしめているようだった。
強さと両足と引き換えに、両足が動かなくなってしまったなんて……。僕も彼女の気持ちが分かって、胸が痛くなった。
「でも──そ、そんな? 呪いだって? その闇の魔導師は、一体何者なんだ?」
パトリシアがゲルダを見た。
ゲルダは、幾分落ち着きを取り戻し、口を開いた。
「闇の魔導師グロードジャングスは、勇者ヨハンネス・ルーベンスと一緒に行動していると聞いています。そして、ダナンさんと私を襲ったジャイアント・オーガは……」
ゲルダは静かに、それでいて力強く言った。
「大貴族、ルーベンス家が培養してつくり上げた、人工魔族です」
「え? な、なんだそれ?」
僕は聞き返した。
「あ、あのジャイアント・オーガは、そのルーベンス家っていう貴族がつくった、人工の魔族だっていうのか?」
「そうです」
ゲルダは深くうなずいた。
「十年前から、ドードス草原はルーベンス家の、人工魔族の実験場です。ダナンさんと私は、ルーベンス家の人工ジャイアント・オーガの実験の最中に、居合わせてしまったのですね……」
ゲルダは続けた。
ぼ、僕の右足は、ヨハンネスの一族、ルーベンス家のせいで大怪我したっていうのか?
「そして、そこに闇の魔導師グロードジャングスがいたのは、不思議でもなんでもありません。グロードジャングスは、人工魔族製造の総責任者ですからね」
そ、それが真実なのか……。
「ちょっと待てや」
ランダースがゲルダを見た。
「ってことはだぞ、ゲルダ。お前さんのその力ってのは……その、ヤバい力なんじゃ? 魔族そのものの力、じゃねえのか?」
「ランダース!」
パトリシアが声を上げた。
「ゲルダを侮辱することはゆるさんぞっ。私は、彼女の強さは認めているんだ」
パトリシアが叫んだとき、ゲルダは首を横に振った。
「ランダースさんの言っていることは、事実です。私の勇者としての実力は、闇の魔導師の魔法を受けたことによって生じた、『呪い』によって生まれたのです」
ゲルダは言った。
彼女は背筋を伸ばし、意識してしっかり話そうと努めているように思えた。
「そういえば、君はこの間、ライリンクス城に来なかったな」
僕が聞くと、ゲルダはうなずいた。
「封筒は来ましたが、私はその日、治療があり、行かれませんでした」
「ライリンクス王がナイフで刺された、という話は聞いている?」
「ええ。後日、雑誌で王が寝室で刺された写真を見ました。王に突き刺さったナイフから感じるのは、闇の魔導師グロードジャングスと同様の闇の魔力です。もしかしたら、グロードジャングスに洗脳を受けた者が、王の寝室に忍び込んだのかも」
「しゃ、写真で分かるのか?」
「はい。私の霊感は、写真を通しても見通せます」
「こ、国王は……ブーリン氏はどうなるんだ?」
僕がゲルダに聞くと、ゲルダは答えた。
「ヨハンネスや、彼の背後にいるルーベンス家、そして闇の魔導師グロードジャングスを倒さなければ、国王は回復しないと思われます」
「なぜ?」
「国王を刺したナイフには、私やダナンさんが受けた闇の魔力が宿っているように見えました。その呪いを解かなければ、国王は回復しません。呪いがかけられて、ガッチリと鍵がかけられたような状態なのです」
「待って! 逆に言えば」
アイリーンが声を上げた。
「ルーベンス家の問題を解決すれば、ダナンやゲルダさん、国王は呪いから解放されるということ?」
「そうだと思います」
「では、するべきことはもう決まっているな」
パトリシアははっきりとした声で言った。
え? どういうことだ?
「私たちは、世界剣術大会に出場するしかない。ヨハンネスが勇者ランキング二位ならば、恐らく、世界剣術大会に出場するはずだ。そこでヨハンネスを打ち倒せば、問題は解決に向かうんじゃないか」
「で……そのヨハンネスって野郎は」
ランダースはゲルダに聞いた。
「どれくらい強いんだ? 勇者ランキング二位ってえと……」
「そうですね……」
ゲルダは静かに口を開いた。
「私の十倍は強いです」
「じゅ、十倍だって?」
僕は声を上げた。
「君はパトリシアを打ち負かした。しかしそんな君より、ヨハンネスは十倍強いというのか?」
「へっ、誇張だろ。話を大きくしてるのさ」
ランダースが軽口を叩くと、ゲルダはぴしゃりと言った。
「誇張でもなんでもありませんよ、ランダースさん。ヨハンネスの強さは悪魔的……それはなぜか? 彼は魔族と契約し、魔王とも密約を結んでいるからです!」
な、なんだって?
僕は耳を疑った。
ゆ、勇者とあろう者が、魔族と契約? 魔王とも密約だって?
一体、何なんだ? そのヨハンネスという少年は?