僕は、国王がなぜナイフで刺されたのか、解明しなくてはならない。

 国王は僕の恩人、ブーリン氏だったからだ。

 パメラさんが言うには、この国王襲撃事件は……。

・ヨハンネスという少年が黒幕である。

・この事件の解明の(かぎ)は、ゲルダ・プリシッチという少女が持っている。

 ゲルダについては、僕が右足を大怪我した原因となった、事件を思い出さなければならない。

 僕がまだドルガーの魔物討伐(とうばつ)隊に加入しているときだ。

 トードス草原で、魔物のジャイアント・オーガが、とある少女を襲った。

 僕は少女を身をていして、守った。

 そのジャイアント・オーガの棍棒(こんぼう)が、僕の右足に当たり、棍棒(こんぼう)の魔力が僕の骨に侵食(しんしょく)してしまった。
 
 そのときから、僕の右足が不自由になってしまったのだが……。

 僕が守った少女の名は、パメラさんの情報によれば──。

 ゲルダ・プリシッチという名前だった。

 ◇ ◇ ◇

 城の会議室にて──。

「なぜゲルダが、国王襲撃事件の解明の(かぎ)を握っているのですか?」
 
 僕はパメラさんに聞いてみた。

 するとパメラさんは答えた。

「ゲルダは、事件の黒幕、ヨハンネスのことをよく知っているからじゃ」

 どういうことだ?

「ええっと……そのゲルダは、一体、どういう子なんですか?」
「私の調査では、今現在、車椅子に乗っている」
「ええっ?」

 僕は驚いた。

 僕は彼女を守ったはずだ。僕は大怪我してしまったが……。

「お前さんはゲルダを守ったはずだ。が、その後、彼女は別の魔物に襲われてしまったのだ」
「そ、そうだったんですか?」

 な、なんてことだ……。

 僕は首を横に振った。

 僕は女の子を守れたと思っていた。

 でも、それは違っていた、勘違いだったのだ……。

「しかしゲルダは、弱い少女ではないぞよ」

 パメラさんは言った。

「彼女の『今』を知りたいか?」
「え? は、はい」
「ゲルダ・プリシッチは、勇者ランキング三位──。おそろしく強い『勇者』になっておる」
「え? ど、どういうことですか?」

 僕は眉をひそめた。

 ゲルダは車椅子に乗っていると聞いた。

 しかし、勇者ランキング三位だって?
 
 勇者ランキングの三位ならば、剣術の使い手、どころではない。

 世界最強に近い称号だ。

 あれ? しかも彼女は……一年前、十二歳くらいだったぞ?

 パメラさんは神妙な顔で言った。

「彼女は十三歳で、勇者ランキング三位になったのじゃ」
「ええっ?」

 僕は信じられない、という気持ちだった。

 しかし、パメラさんはものすごく真剣な顔だ。

 冗談を言っている顔ではなかった。

「い、一体、ゲルダとは、何者なんですか?」
「言葉では説明できんな。会ってみるかね? 住所は調査済みだ」

 パメラさんがそう言うと、僕はうなずいた。

「では、西の県のバーデンロールという村に行くがよい。そこにゲルダがいる」
「彼女に会うと、どうなるんですか?」
「国王襲撃事件の黒幕、ヨハンネスのことが分かる。そしてダナン、お前さんもゲルダを見て、今後の剣術活動に影響を受けるだろう」

 そしてパメラさんは言った。

「お前は、東方の国で、世界剣術大会に出場する予定なんだからな」

 ◇ ◇ ◇

 そして三日後──。

 僕らは馬車に乗り、バーデンロールという隣県に旅立った。

 県境(けんざかい)の林の道を突き抜ける。

「パメラさんに聞いても、ゲルダって子の謎は深まるばかりなんだ」

 僕は馬車の客車に()られ、いつもの仲間たちにゲルダのことを話した。

 馬車の客車に乗っているのは、アイリーン、パトリシア、ランダースだ。

「おいおいおい~」

 僕の目の前に座っている、ランダースが声を上げた。

「十三歳で勇者ランキング三位? しかも車椅子に乗っている? おい、そのパメラってばあさん、まともな情報を得ているのかよ?」
「こらっ!」

 パトリシアは、ランダースの耳を思い切り引っ張った。

 ランダースは叫び声を上げる。

「いててっ! いてえって、バカ!」
「パメラさんは、ダナンの協力者だぞ。無礼なことを言うなっ」
「だってよ、信じられねーじゃねえか。勇者って、剣術も魔法も、相当なレベルに達してなきゃ、『全国勇者協会』に選ばれないだろうがよ」
「私も色々調べてみたわ」

 僕の右隣に座っている、アイリーンが言った。

 馬車はゴトゴトと、ゆっくり農村地帯に入った。

 もうバーデンロール地区に入っただろうか。

「ゲルダって子は、本当に勇者ランキング三位よ。勇者名鑑の名簿にも()っているし、間違いない。しかも一年前に背中を大怪我し、本当に車椅子に乗っているようよ。原因としては、魔族の魔力を背中に受け、両足が効かなくなってしまった」
「だから、それがおかしいっての」

 ランダースは言った。

「車椅子に乗っているのは分かるぜ。だけど、そんな少女が、勇者ランキング三位? しかも十三歳。剣術の常識がくつがえっちまうぜ」
「確かに」

 パトリシアは腕組をして、つぶやく。

「ゲルダは一体、何者なんだ? どういった剣術、戦術、魔法、魔法剣を使用する? 想像がつかない」
「分からない」

 僕は答えた。

「実際に、彼女に会ってみるしかない」

 ◇ ◇ ◇

 僕らは馬車を降り立った。

 そこは農村地帯だったが、村の奥に、美しい白い建物がそびえている。

 パメラさんに教えてもらった住所によれば、あの白い建物が、ゲルダの住む場所のようだ。

「礼拝堂……?」

 僕は思わずつぶやいた。

 白い建物は本当に美しく、神に祈るための礼拝堂のようだった。

 玄関扉もすりガラスでできており、繊細(せんさい)な雰囲気だ。

 玄関横に備えつけられている(かね)を鳴らすと、やがて扉が開き、人が出てきた。

「どなたかな?」

 ()せた中年男性が、出てきた。

 おや? 格好をみると……聖職者か。

 なるほど、本当にここは礼拝堂なのか。

 するとアイリーンが、僕の代わりに答えてくれた。

「一年ほど前、このダナン・アンテルドがゲルダさんという女の子を、身をていして助けたことがあるのですが……。ご存知でしょうか?」
「え?」

 中年男性は僕を見て、目を丸くした。

「き、君は! ダナン君……ダナン君じゃないか!」
「はい、僕はダナンですが……あっ」

 僕は思い出した。

 この中年男性は、僕が助けようとしたゲルダのお父さんだ。確か、当時は、商人の格好をしていた。

「よくぞ、来てくれた! 私はゲルダの父──ラッセル・プリシッチです」

 ラッセルさんは、僕らと握手をしてくれた。

「娘を助けようとしてくれた、ダナン君に会えるとは……さあ、どうぞ。他の三人は、お友達ですかね? ゲルダと会ってください。彼女は礼拝堂にいます」

 僕らは顔を見合わせ、うなずきあった。

 僕らは、ゲルダに興味があった。

 ゲルダ……謎に包まれた女勇者……。

 よし、会ってみよう!