移動式ベッドで運ばれてきた、「国王」は……!

 僕の良く知る、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏だった。

 ど、どういうことなんだ? どうしてブーリン氏が、国王なんだ?

 そしてなぜベッドに寝たきりになっている?

「ダ、ダナン君……!」

 国王が小さくそう言った。

「ブーリンさん!」

 僕が呼びかけると、執事(しつじ)のマイケルダール氏が僕の肩に手をやった。

「国王は今、体力がものすごく低下しているのです。二日前、国王が就寝中、城に忍び込んだ者が、国王の腹をナイフで刺したのです!」

 な、何だって? ナ、ナイフで腹を?

 ざわっ……。

 剣術家たちが、ざわめく。

「犯人は逃げてそのままです」

 マイケルダール氏がそう言ったとき、ブーリン氏……いや、国王は目をつぶってしまった。

 そしてまた衛兵が移動ベッドを押し、外に移動させてしまった。

「剣術家たちに、衛兵が個別に、色々事情を説明いたします。ダナンさん、あなたは国王とつながりが深いようだ。個室に来て、特別にお話いたしましょう。──衛兵!」

 マイケルダール氏が言うと、衛兵たちが、僕の腕をつかんだ。

 え?

「あまり手荒(てあら)なことはするな」

 お、おいっ! なんだ? どういうことだ?

「来いっ! ダナン・アンテルド!」

 僕は衛兵に無理矢理、腕をひっぱられた。

 たくさんの剣術家が、僕のほうを驚いた顔で見ている。

「ダナンに何をするのよっ!」
「おいっ、ふざけるな! ダナンが何をした?」

 アイリーンとパトリシアが叫ぶ。
 
 僕はどうしようもできなくて、三名の衛兵に、ホールの外に連れ出されてしまった。

 い、意味が分からない……。

 ◇ ◇ ◇

 ここは国王衛兵隊の会議室。

 僕はそこに連れ込まれ、強引に椅子に座らされた。

「ダナン・アンテルド、お前は何か知っておろう! 国王がナイフで刺された原因を! 知っておるなら、言え!」

 衛兵副隊長──ヒゲのズオーブリー・ドンチョスが声を上げた。

 な、何で僕が疑われているんだ?

 すると彼は、僕に写真を見せた。

 う、うわああああっ!
 
 ベッドに寝ている国王が、布団の上から、ナイフを突き立てられている写真だ!

 布団が赤く血で染まっている!

「これが犯行当日──二日前の夜の二時の写真だ。国王は寝室で、誰かに腹部を深く、ナイフで刺されてしまわれた。我々は証拠として、国王の痛ましい姿を、写真で残さねばならなかった」
「うーん……まさか」

 僕は衝撃の写真に、驚いて言った。

「国王は今現在までずっと容態が悪い。食べ物も受け付けず、やせ細ってしまわれた」

 ドンチョス副隊長がそう言うので、僕はあわてて聞いた。

「僕を疑っているから、僕を城に呼んだのですか?」
「お前に関してはそうだ! 国王と深いつながりがあったようだらな。もちろん、他の剣術家にも、色々話を聞く予定だが!」

 ちょ、ちょっと……ブーリンさんとつながりがあるからって、僕を疑うのか?

 僕がブーリンさんが国王だって知ったのは、今日なんだぞ?

 僕は聞いた。

「そもそも、国王のブーリン氏がマルスタ・ギルドを経営していたのは、なぜなんですか?」
「国王はギルド経営に、興味をお持ちだった。若い剣術家が、強くなっていく(さま)間近(まぢか)で見たいとおっしゃられていたのだ」

 僕はもう一度、写真を見た。ブーリンさんの痛ましい姿だ。

「その腹部のナイフには、『呪い』がかけられているそうだ」

 ドンチョス氏が言った。

「王国専属の白魔導師、治癒師(ちゆし)たちが()て、国王の腹部から異様な『瘴気(しょうき)』が立ち昇っておられるのだ。我々は、この瘴気(しょうき)の正体を探っている」
 
 そしてドンチョス氏は、僕をジロッとにらんだ。

「しかし、お前は一体何者なんだ? 右足が不自由なのに、試合までしている。ドルガーとの試合を観たが、異様な強さだった」

 ドンチョス氏の顔は、いっそう険しくなった。

 衛兵も身構えている。

 ──確かに、僕は強くなったようだ。

 スキルのおかげでもある。

 しかしそれはマリーさんが、僕の能力を引き出してくれたおかげだ。

 それでも怪しまれるのは、仕方がないのか?

「お前、怪しげな妖術でも使っておるのか?」

 ドンチョス副隊長は、疑いの目を僕に向けている。

「まあ、化け物に変身した相手のドルガーとやらも、怪しいが。──お前が国王に近づき、国王の命を狙い、ナイフで刺したと考えることもできるのだ!」

 ばかなっ!
 
 完全に疑われている。僕だってブーリン氏……つまり国王を心配しているのに!

「こ、国王様は、マルスタ・ギルドのギルド長で、僕の恩人ともいえる人です!」

 僕は、抗弁(こうべん)した。

「それに、ブーリン氏が国王様だったということを知ったのは、今日が初めてだったんですよ!」

 僕がそう言ったとき、会議室の扉が勢いよく開いた。

「こりゃあっ! ダナン・アンテルドは何も怪しくはないっ。怪しい者は私が全て熟知しておる!」

 ん?

 この、子どもみたいなかわいい声は?

 聞き覚えがある……!