僕は急降下してきた(おの)を、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で弾き飛ばした。

 あれだけ巨大な斧だ。どんなに急速で落下しようが、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で、簡単に狙い落とせる!

「な、あっ……バ、バカな」

 魔獣ドルガーが目を丸くして、一歩後退した。

 僕は素早く彼に近づき、飛び上がり──。

 ズバッ
 
 ドルガーの右腕を斬撃した。

 ドルガーは苦痛の表情を見せたが──しかし、右腕は()れ下がらない。攻撃に備え、構えている。

 魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で斬撃すれば、強烈に(しび)れるはずなのに、効いていないのか?

「バカが! 魔力模擬剣(まりょくもぎけん)の魔力など、今の俺にはたいして効かん!」

 ドルガーは豪快(ごうかい)に笑った。

「俺は魔王と会い、闇のスキルを(さず)かったからな。魔力模擬剣(まりょくもぎけん)(しび)れ効果など、たいした致命傷にはならんのだ!」

 な、なんだと? 魔王と会った? ほ、本当なのか。

 ガッ

 魔獣ドルガーは巨大な左手で、僕の首をわし(づか)みにした。

「これで貴様もおしまいだ~! ダナン!」

 すごい力で、首を絞められる。

「ダナン! ドルガーには必ず弱点があるはず」

 アイリーンは舞台外に立ち、声を上げた。

「そう、属性よ! 昔から魔獣系の魔物は、火に弱い、と聞いたことがあるわ!」

 そうか、属性か! それならば!

「魔法剣──炎!」

 僕は首の痛みをこらえ、集中し、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)に魔力を込めた。

 ブワアアアアッ

 ザクッ

 魔獣ドルガーの脇腹に、炎属性の魔力を帯びた、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を突き刺した。

「ギャッ!」

 ドルガーはあわてて、僕の首から手を離した。

 彼の脇腹からは、煙が立ち上っている。

 僕は攻撃を続ける!

「魔法剣──炎連撃(えんれんげき)!」

 ズバッ ズバッ

 僕はドルガーの右腕、左腕を素早く斬撃した。

 ドルガーの両腕が、炎に包まれる。

「ギャアアアアアアッ!」

 魔獣ドルガーは声を上げる。

「き、き、貴様ぁ!」

 ドルガーは炎に包まれながらも、僕の体目がけて、拳を振り上げた。

(ここだっ!)

 ズバアアアアアッ

「魔法剣──焔一閃(ほむらいっせん)!」

 ドルガーの胴を、真横に斬撃した。

「ギョオオオエエエエッ」

 ドルガーは断末魔(だんまつま)のような叫び声をあげた。彼の胴からは火が立ち昇る。

「あ、ぎゃ」

 ドルガーはそんな声とともに、体を震わせた。

 そして左手、右手にそれぞれ持った(おの)を、地面に落とした。

「こ、この野郎がああああ……」

 ドルガーは両腕と腹を火に包まれながら、両手を前にして立ちすくんでいる。

「こ、こんなところで、負けるわけにはいかないのだあああ……」

 僕が彼の攻撃に備えて構えると、すぐに魔獣ドルガーの全身に炎が覆った。

「ごああああああ……!」

 ドルガーの目が、カッと見開いた。

「ぬおおおおおおおーっ!」

 ドルガーは全身が火に包まれた状態で、僕に向かって走り込んできた。

魔獣反動撃(まじゅうはんどうげき)!」

 ドルガーが叫ぶ。決死の技なのだろう。

 ドルガーの全身は、火と闇の魔力で覆われていた。あんな巨体がぶつかってきたら、僕は全身がバラバラになってしまう。

「うおおおおっ!」

 するとドルガーは飛び上がり、僕を全身で(つぶ)そうとしてきた。

 上からその巨体で、僕を(つぶ)す気だ!

(ドルガー、終わりにしよう)

 僕は横に飛び、彼の魔獣反動撃(まじゅうはんどうげき)なる技をかわした。
 
 ドーン

 ドルガーは当然、地面に叩きつけられた。そして──。

 グサアッ

 僕は、ドルガーの背中に、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を突き刺した。

「ギョオオアアアアアッ……ウウウッ……」

 彼は大きくうめき、うつ伏せのまま炎に包まれ、ピクピクと痙攣(けいれん)していた。

 ドーン ドーン ドーン

 試合終了の太鼓(たいこ)の音が鳴った。

 急いで、白魔法医師たちが舞台に上がり込んで、氷結(ひょうけつ)魔法で、ドルガーの全身の炎を消火した。

 彼らの一人は、僕の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)をドルガーの背中から抜き、僕に返してきた。

「彼は……ドルガーはどうなりましたか?」

 僕はあわてて白魔法医師たちに聞くと、白魔法医師たちは、「ドルガーは命に別状はない」と言った。

「彼を(おお)っている闇の魔力のおかげで、火傷(やけど)は最小限で済んだようだ。やはり君の斬撃の威力で、この怪物──いや、ドルガーが倒れたのだ」

 勝敗はどうなるんだ? スタジアム全体がシーンと静まり返っていた。

 その時!

 審判長が仕方なさそうに、舞台に上がってきた。

 そして、苦虫を()(つぶ)したような顔で、僕の手を上げた。

 すると!

『24分50秒、斬撃により、ダナン・アンテルドの勝利です!』

 魔導拡声器(まどうかくせいき)により、コロシアム全体に、僕の勝利が告げられた。その途端──。

 ウオオオオオオオッ

「ダナンが勝った! ダナンが勝った!」
「とんでもない魔法剣だった! 強い!」
「おいおい、そもそもドルガーが(おの)でダナンを攻撃したんだろ。その時点で反則負けだろ」
「なんにしても、完全決着だぜ!」

 観客たちは声を上げている。

 か、勝ったのか? 僕が倒れたドルガーを見て戸惑っていると……。

「ダナン! すごいっ! すごいよおっ」

 アイリーンは飛びついてきて、僕を抱きしめた。

「勝った、勝った! 良かったね!」
「ああ……ううっ?」

 僕はよろけそうになった。【大天使の治癒(ちゆ)】の効果が切れたらしく、右足がまたマヒ状態になってしまった。

「だ、大丈夫?」

 アイリーンは松葉杖を僕に持たせてくれて、僕が倒れないように支えてくれた。

「大丈夫だ、問題ないよ」

 僕が言うと、アイリーンはホッとしたように、笑った。

「良かった……」

 ドルガーはいつの間にか、魔獣の姿からいつもの人間の姿に戻っていた。

 元に戻った彼は、全身に包帯を巻かれている。

(ドルガー……)

 僕はつぶやいた。

 そして、ジョルジュや黒服たちの肩を借りて、舞台を降りていった。

 そのとき、ドルガーは僕のほうを振り返ったのだ。

 ものすごい鋭い目! 僕をにらみつけた!

 ドルガー……!

 まだ続きがある。

 あいつは何かを(たくら)んでいる。そんな気がしてならなかった。