僕とドルガーの試合が、開始された。

 ドルガーはニヤリと笑って言った。

「俺の『闇』の力を見せてやる」

 こいつ……! 何を言っているんだ? 悪魔に、魂でも売ったわけじゃあるまいし?

 この試合は、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)という、人対人試合用魔法武具を使用する。刃の部分が、魔法でできているのだ。

 相手も斬っても、電撃が走るだけで、致命傷(ちめいしょう)にはならない。ただ、電撃は強烈だ。完全に急所を斬られると、一~二日、寝込まなければならない。

 ドルガーは、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を振りかぶり、何度も上から斬り落としてきた。

 ガキッ
 
 ガキイイッ

 ガシイッ

 僕は右腕に持った、自分の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で、それを受けた。

(なるほど)

 ものすごい力だ。まるでハンマーを落とされているような感覚だ。しかも連撃!

 左手の松葉杖でしっかり支えないと、バランスを崩し、倒れそうだ。

 ドルガーのこの力は……人間の力なのか?

 ヒュッ

 ドルガーの四撃目、僕は上体をそらして彼の剣を()けた。

(よし、(すき)あり!)

 僕は右から、ドルガーの右脇を斬り上げようとした。しかし、それはあまりにも大振りのため、()けられたが──。

 角度を変え、剣の軌道(きどう)を──真上から落とした!

「う、うおおっ」

 ドルガーはうめいて後退した。

 ビッ

 そんな音とともに、僕の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)が、ドルガーの右頬(みぎほお)をかすった。

「き、貴様~!」

 ドルガーは(ほお)を気にしつつ、大きく突進してくる!

「突進剣技《とっしんけんぎ》!」
 
 ドルガーは声を上げ、思い切り剣を突いてきた。

 ここだっ!

 僕は突きをかわし、彼の魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を振り払った。

「もらったぞ、ドルガー!」

 僕は距離を縮めつつ、剣を回転させ、逆手(さかて)に持ち替えた。そして!

 ──下段剣技《げだんけんぎ》! 逆手足甲突《さかてそっこうとつ》!

 ドルガーの右足の甲目がけて、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を突き刺そうとした。

「あ、足の甲だと!」

 ドルガーがわめく。

 ガキイイイッ

「くううっ」

 ドルガーはあわてて横に飛び、それとともに自分の剣を拾い、また構えた。僕が放った右足の甲への攻撃を、何とか()けたか。

 僕の剣は、舞台床を突き刺していた。

「な、なんなんだ、お前は?」

 ドルガーは目を丸くして僕を見た。

「な、なんでそんな芸当ができるんだ? 試合中に、剣を逆手(さかて)に持ち替えるだとぉお?」

 ギリイイッ

 ドルガーは歯噛(はが)みしつつ──思いきり、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を──!

 上段で横に振ってきた!

 僕の側頭部を狙っている!

 ガイイイイン

 僕はまたしても、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で受けた。

(なるほど、やはりすごい力だな)

 僕は三メートルは後退させられた。あまりの力で、僕の右手が(しび)れている。

 しかし僕は松葉杖を使い、徐々(じょじょ)にドルガーに近づいた。

 ブワッ

 ドルガーは今度は横に、魔力模擬剣(まりょくもぎけん)を振ってきた。

 僕にとって後方にかわすのは造作(ぞうさ)ない。

 しかし、僕は思い切って前に進み出た。

「ま、前に出るだとっ!」

 ドルガーは声を上げた。

 松葉杖と動く左足、動かない右足を支えにして効率よく動けば、最短距離で接近できる!

 ここなら死角! ドルガーの攻撃は当たらない。

「はああっ!」

 僕は魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で、彼の右肩を斬ろうとした。

「うっ、うおおおおっ」

 ドルガーはうめき、飛んで後退し、その場を離れた。

 ガキイッ

 僕の剣は、地面に当たった。かわしたか……。

 ドルガーは声を上げた。

「や、やるじゃねえか。松葉杖をついているくせに、速すぎる。俺は『闇のスキル』を植え付けてもらったっていうのに──」
「闇のスキル?」

 何だそれは? 普通のスキルとは違うのか?

 その時!

 ヒュ

「うっ!」

 何かが僕の腕をかすめた。

 その瞬間、僕の右腕がビリリと(しび)れた。

 手前の舞台床を見ると、光る矢が突き刺さっている。

(魔法の矢だ! まさか!)

 後ろを振り返ると、東側の最前列席に座っていたジョルジュが、あわてて弓矢をカバンにしまいこんでいた。
 
 あれは魔力模擬弓(まりょくもぎきゅう)だ!

 あの弓と矢は、人対人で使われる、試合用魔法武具だ。矢は魔法で作られており、当たると致命傷(ちめいしょう)にはならないが、体が(しび)れてしまう。

「もらったあああ!」

 ドルガーの僕の足狙いの下段斬り! 僕の弱点の右足をついてきたか!

 ガキイイイッ

 僕は咄嗟(とっさ)に、彼の攻撃を魔力模擬剣(まりょくもぎけん)で防いだ。

 しかし、腕が(しび)れる。

 原因はさっきの矢だ。

 矢はかすった程度だが、僕の斬撃の正確性に、狂いが生じるか?
 
「じょ、冗談じゃないわっ!」

 西の最前列席に座っていたアイリーンが、審判団席に詰め寄って声を上げた。

「ドルガーの完全な反則です! 1対1の剣術勝負のはずなのに、部外者がダナンを矢で攻撃した!」

 しかし、審判長は首を横に振るだけだ。

「矢が飛んできたのは見た。だが、矢を放ったのは、ドルガー君の仲間とは限らない。さあ、試合続行!」

 ドルガーは審判長の言葉を聞いて、ニヤア~ッと薄気味わるく笑った。

「ガハハ! ま、(さっ)しろよ」

 ドルガーはそう言った。なるほど、審判長を買収しているのか?

 僕は再び、剣を構えた。