ここは中央都市ガーランディア。
ライリンクス王国で、最も大きな都市である。
その大通りに、「全国勇者協会」という大きな建物があった。
その大ホールでは、「全勇者大交流会」が開かれていた。
全国からたくさんの勇者が集まり、交流するのである。
今年は百名以上の勇者が集まった。
彼ら勇者は、最新の魔物の情報や剣術、世界情勢などの情報交換をする。
「やあ、ドルガー君。久しぶりだね」
目の鋭い美男子が、ドルガーの座っているソファの前に腰掛けた。
ドルガーも一応、勇者なので、全勇者大交流会に出席していた。
「調子はどうだい」
「へっ、勇者ランキング2位の、ヨハンネス・ルーベンスか」
ドルガーは眉をひそめ、このヨハンネスという少年勇者を見やり、舌打ちした。
ちなみに勇者とは、将来、「魔王」を倒す可能性を持つ、才能ある魔物討伐者のことを指す。
この世界の救世主なのだ。
世界に百五十三名しかいない。
では、勇者になるにはどうしたら良いのか?
「全国勇者協会」が、才能のある剣士、魔法剣士、拳闘士、戦士に勇者の称号を与える。
そうすると、その者はその日から勇者を名乗ることができるのだ。
……ただし、勇者の称号は、十億ルピーで買うこともできると言われている。
「調子は最悪だ!」
ドルガーは叫んだ。
「今度、ダナンって野郎と試合をやる。だから、そいつをぶっ倒さなくちゃならねえ」
「ふーん?」
このヨハンネスという少年は、十六歳。
将来、「魔王バルジェフ・グダラ・バルモー」を打倒するのではないかと噂される、天才勇者であった。
この少年の結成した魔物討伐隊──「エクースの剣」は、魔物討伐ランク「SS」だ。
「ドルガー君が最悪というのなら、本当に最悪なんだろうね!」
ヨハンネスは手を叩きながら、笑った。
「で、そのダナンって人は、強いのかい?」
ヨハンネスが聞くと、ドルガーは面白くなさそうに、ソファに寄りかかった。
「ダナンはよく分からねえヤツなんだよ。松葉杖をついているんだが」
「松葉杖?」
ヨハンネスはピクリとドルガーを見た。
「どういうこと?」
「ああ? だからよぉ、右足を怪我してて、左腕で松葉杖をついてるんだよ。そいつが、学生魔法剣術大会の優勝者とかを倒しちまったんだから、わけがわからねえ。パトリシア・ワードナスがやられた」
ドルガーの言葉に、ヨハンネスは少し身を起こして、ソファを座り直した。
「今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシアかい?」
「ああ。ランダース・ロベルタも倒している」
「ランダース! 魔法剣術世界ランキング四十一位か? 二人とも優秀な魔法剣士だぞ。どういうことなんだ? そのダナンという少年は、どういう剣術、戦術を使う?」
「うるせえ野郎だなあ。さっきも言っただろ。左手で松葉杖をついていて、片手──右手で剣を振るうんだよ。でも、どういうわけか、どんなヤツでも、ダナンに倒されちまう」
「か、片手だけで……学生魔法剣術大会優勝者を倒す……。信じられないよ」
ヨハンネスは深く考えるように、眉間を指でこすった。
ドルガーは再び舌打ちする。
「ダナンの野郎……なんか卑怯な方法でも使ってんじゃねぇのか」
(ドルガー君……。勇者の称号を、親の金で買った、君ほどじゃないだろうけどね)
ヨハンネスはそう言おうとしたが、それは口をつぐんだ。
「しかしね。そのダナン君が片手で勝てるとしたら、まず、考えられるのは『スキル』が原因じゃないか?」
「スキル? 聞いたことはある。神に選ばれた者に備わった才能だろ、簡単にいえば。ダナンにそんなものがあるわけねえ」
「いや、本当は誰でも持っているのさ」
ヨハンネスは言った。
「自分がスキルを持っていることに、気付かない人が多いだけでね」
「……よくわからんな。とにかく俺は来月、ダナンの野郎と試合するんだ。色々策略を練らなければならねえ」
「フフッ……。それならばドルガー君。君は、スキルを人工的に植え付けてもらうという手段があることを、知っているかい?」
「ど、どういうこった?」
「人間にスキルを人工的に植え付けるのは、魔法協会、錬金術師協会で『違法』とされている。しかし魔族が施術するならば、法の外でスキルを植え付けられる。『闇のスキル』というものだがね」
「お、おい、あ、危ねぇだろ、それ……」
「ドルガー君。ダナン君に勝ちたいなら、魔族に会い、『闇のスキル』を植え付けてもらうべきだ。ダナン君に確実に勝てるし、もしかしたら最強の勇者にだってなれるかもしれないよ」
最強の勇者! ドルガーはその言葉を聞き、ソファを座り直した。ヨハンネスの言っていることに興味が出てきたのだ。
しかし、不安がある。
「だが、ま、魔族に会うって……。そんなことができるのか?」
「フフフッ」
ヨハンネスは周囲を見回し、小声で言った。
「僕にまかせてくれれば、魔族に会えるよ。しかも魔王にね」
「えっ、お、お前? ま、ま、魔王と知り合いなのか? じょ、冗談だろ」
ドルガーは目を丸くして、ヨハンネスを見た。
ヨハンネスはクスクス笑った。
「君に勇気があるなら、魔王たちに『闇のスキル』を植え付けてもらうに行こうじゃないか。僕が案内するよ、ドルガー君」
こいつ……正気か?
ドルガーはヨハンネスという少年を見て、冷や汗をかいていた。
ライリンクス王国で、最も大きな都市である。
その大通りに、「全国勇者協会」という大きな建物があった。
その大ホールでは、「全勇者大交流会」が開かれていた。
全国からたくさんの勇者が集まり、交流するのである。
今年は百名以上の勇者が集まった。
彼ら勇者は、最新の魔物の情報や剣術、世界情勢などの情報交換をする。
「やあ、ドルガー君。久しぶりだね」
目の鋭い美男子が、ドルガーの座っているソファの前に腰掛けた。
ドルガーも一応、勇者なので、全勇者大交流会に出席していた。
「調子はどうだい」
「へっ、勇者ランキング2位の、ヨハンネス・ルーベンスか」
ドルガーは眉をひそめ、このヨハンネスという少年勇者を見やり、舌打ちした。
ちなみに勇者とは、将来、「魔王」を倒す可能性を持つ、才能ある魔物討伐者のことを指す。
この世界の救世主なのだ。
世界に百五十三名しかいない。
では、勇者になるにはどうしたら良いのか?
「全国勇者協会」が、才能のある剣士、魔法剣士、拳闘士、戦士に勇者の称号を与える。
そうすると、その者はその日から勇者を名乗ることができるのだ。
……ただし、勇者の称号は、十億ルピーで買うこともできると言われている。
「調子は最悪だ!」
ドルガーは叫んだ。
「今度、ダナンって野郎と試合をやる。だから、そいつをぶっ倒さなくちゃならねえ」
「ふーん?」
このヨハンネスという少年は、十六歳。
将来、「魔王バルジェフ・グダラ・バルモー」を打倒するのではないかと噂される、天才勇者であった。
この少年の結成した魔物討伐隊──「エクースの剣」は、魔物討伐ランク「SS」だ。
「ドルガー君が最悪というのなら、本当に最悪なんだろうね!」
ヨハンネスは手を叩きながら、笑った。
「で、そのダナンって人は、強いのかい?」
ヨハンネスが聞くと、ドルガーは面白くなさそうに、ソファに寄りかかった。
「ダナンはよく分からねえヤツなんだよ。松葉杖をついているんだが」
「松葉杖?」
ヨハンネスはピクリとドルガーを見た。
「どういうこと?」
「ああ? だからよぉ、右足を怪我してて、左腕で松葉杖をついてるんだよ。そいつが、学生魔法剣術大会の優勝者とかを倒しちまったんだから、わけがわからねえ。パトリシア・ワードナスがやられた」
ドルガーの言葉に、ヨハンネスは少し身を起こして、ソファを座り直した。
「今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシアかい?」
「ああ。ランダース・ロベルタも倒している」
「ランダース! 魔法剣術世界ランキング四十一位か? 二人とも優秀な魔法剣士だぞ。どういうことなんだ? そのダナンという少年は、どういう剣術、戦術を使う?」
「うるせえ野郎だなあ。さっきも言っただろ。左手で松葉杖をついていて、片手──右手で剣を振るうんだよ。でも、どういうわけか、どんなヤツでも、ダナンに倒されちまう」
「か、片手だけで……学生魔法剣術大会優勝者を倒す……。信じられないよ」
ヨハンネスは深く考えるように、眉間を指でこすった。
ドルガーは再び舌打ちする。
「ダナンの野郎……なんか卑怯な方法でも使ってんじゃねぇのか」
(ドルガー君……。勇者の称号を、親の金で買った、君ほどじゃないだろうけどね)
ヨハンネスはそう言おうとしたが、それは口をつぐんだ。
「しかしね。そのダナン君が片手で勝てるとしたら、まず、考えられるのは『スキル』が原因じゃないか?」
「スキル? 聞いたことはある。神に選ばれた者に備わった才能だろ、簡単にいえば。ダナンにそんなものがあるわけねえ」
「いや、本当は誰でも持っているのさ」
ヨハンネスは言った。
「自分がスキルを持っていることに、気付かない人が多いだけでね」
「……よくわからんな。とにかく俺は来月、ダナンの野郎と試合するんだ。色々策略を練らなければならねえ」
「フフッ……。それならばドルガー君。君は、スキルを人工的に植え付けてもらうという手段があることを、知っているかい?」
「ど、どういうこった?」
「人間にスキルを人工的に植え付けるのは、魔法協会、錬金術師協会で『違法』とされている。しかし魔族が施術するならば、法の外でスキルを植え付けられる。『闇のスキル』というものだがね」
「お、おい、あ、危ねぇだろ、それ……」
「ドルガー君。ダナン君に勝ちたいなら、魔族に会い、『闇のスキル』を植え付けてもらうべきだ。ダナン君に確実に勝てるし、もしかしたら最強の勇者にだってなれるかもしれないよ」
最強の勇者! ドルガーはその言葉を聞き、ソファを座り直した。ヨハンネスの言っていることに興味が出てきたのだ。
しかし、不安がある。
「だが、ま、魔族に会うって……。そんなことができるのか?」
「フフフッ」
ヨハンネスは周囲を見回し、小声で言った。
「僕にまかせてくれれば、魔族に会えるよ。しかも魔王にね」
「えっ、お、お前? ま、ま、魔王と知り合いなのか? じょ、冗談だろ」
ドルガーは目を丸くして、ヨハンネスを見た。
ヨハンネスはクスクス笑った。
「君に勇気があるなら、魔王たちに『闇のスキル』を植え付けてもらうに行こうじゃないか。僕が案内するよ、ドルガー君」
こいつ……正気か?
ドルガーはヨハンネスという少年を見て、冷や汗をかいていた。