僕はブーリン氏と一緒にランゼルフ・ギルドに行き、ドルガーたちの話し合いに聞き耳を立てていた。
我慢できなくなったのは、ブーリン氏だ。
「ドルガー! ──勝手なことを言いやがって!」
ブーリン氏が木陰から、ドルガーたちの前に飛び出した。
ドルガーはブーリン氏を見て、目を丸くした。
「な、なんだ? あっ、あんた──ブ、ブーリン?」
「私が大切に経営してきた、マルスタ・ギルドを何だと思っている! お前らなんかに、売るわけがないだろう!」
「ブ、ブーリンさん、あんた、そんなところで隠れて聞いていたのか?」
ドルガーはちょっとたじろいだようだ。
ブーリン氏は、ドルガーよりもギルド長経験が長い。
ギルド長は別名「親方」といって、経験が長いほど、尊敬される傾向にある。
「ダ、ダナンもそこにいたのか?」
ドルガーは木陰にいた僕を見て、ひきつった顔をしながら言った。
僕は仕方なく、松葉杖をつきながらドルガーの前に進み出た。
しかし、ドルガーはブーリン氏を見て、やがてクスクス笑いだした。
「なあ、ブーリンさんよぉ。あんたのマルスタ・ギルド、俺らに売れよ。まあ、小さいギルドだから、300万ルピーでどうだ?」
「バカにするな!」
ブーリン氏は、ドルガーを一喝した。
「だがその話の前に、ドルガー! あんたはダナン君に謝罪しなければならん。王立警察に逮捕されてもおかしくはない!」
ブーリン氏は、僕がパメラさんに解析してもらった五枚の写真を、ドルガーたちに見せつけた。
「あっ……」
バルドンは顔を真っ青にして、声を上げた。
その写真は、僕が馬車に轢かれている瞬間の写真だ。御者が拡大して写っている写真もあるし、加工して御者のヒゲをなくした、バルドンそのものの顔が写っている解析写真もある。
「これは、ドルガー! 君がバルドン君に命令してやったことだろう?」
「な、な、な、何を言っているんだ? なあ? こいつがバルドン? 他人の空似だろ」
ドルガーは冷や汗をかきながら、ジョルジュやバルドンに言った。
「それに、も、も、もしこれがバルドンだとしても、俺に何の関係がある?」
すると! バルドンが口を開いた。
「い、いえ……。これは俺だよ。ドルガーに『ダナン』を馬車で怪我をさせろ、と指示された」
「なっ? て、てめええ~っ! バルドンっ!」
「ド、ドルガー、これは逃げられないよ。お、俺の顔がしっかり写っちまってる」
「バ、バカ野郎が! 黙れっ」
ドガッ
ドルガーはバルドンの頬をなぐりつけた。
「ドルガー、やはり、君の命令だったんだな。今、バルドン君本人の、証言がとれた」
ブーリン氏はため息をつきながら言った。
「うっ、うるせえんだよっ! この小デブオヤジがよおっ!」
ガスウウッ
ドルガーは、今度はブーリン氏の腹を蹴り上げた。
し、しまった! 僕は松葉杖をついているから、ブーリン氏を守る反応が遅れてしまった。
「う、ぐっ……」
ブーリン氏は顔を真っ青にして、その場に倒れ込んだ。
「お、お前っ! ドルガー!」
僕は我慢しきれなくなって、ドルガーの胸ぐらをつかみ上げた。
松葉杖を放り出すような勢いだったので、体のバランスが崩れそうになった。
「どういうつもりだ、ドルガー! ブーリン氏になんてことをする? そもそも、何で、僕を馬車で事故にあわそうとした?」
「は? 気に喰わねえからだよ」
「な、なに?」
「ダナン、お前がムカついてるだけだ。目ざわりなんだよ。消え失せろや」
「お前……!」
すると、ブーリン氏が腹をおさえながら、「ま、待ちたまえ」と顔を上げて言った。
「ブ、ブーリンさん、大丈夫ですか?」
僕があわてて聞くと、ブーリン氏は手で、「大丈夫だ」という合図をした。
「こ、これでは意見がまとまりそうにないな。ダナン君、ドルガー」
ブーリン氏は、よろよろと立ち上がった。
ドルガーは舌打ちをし、近くの木をガシッと蹴っ飛ばしている。まるで反省している様子がない。
「まあ聞け、ドルガー。1ヶ月後、この国全土の地区のギルドが集結する、『全国ギルド大霊祭』がある」
ブーリン氏は、冷静に言った。
「この間の祭りは周辺地区ギルドのみの、小さい祭りだった。しかし、今回はこの国全土、すべてのギルドが集まる祭りだ」
「そ、それで?」
僕があわてて聞くと、ブーリン氏が答えた。
「ダナン君、ドルガー。君たちは魔法剣士と勇者として、全国ギルド大霊祭で、剣術対決をすれば良い。剣術で勝ったほうがこの世界では偉いし、勝者だ。武器は『魔力模擬剣』──文句はあるまい」
魔力模擬剣とは、人対人の対人試合用の、剣型武器である。
形は剣そのもので、刃の部分があるが、人体を斬ることはできない。刃の部分は、魔法で形作られている。
相手を斬っても殺傷はできないが、斬った箇所は痺れてしまう。
その痺 れは1~2日続く。安全と威力を考慮した、対人戦公式の剣型魔法武具なのだ。
「ダナンと俺が対決だと?」
ドルガーはクスクス笑いだした。
「なるほど、面白い。では俺が勝ったら──。ダナン! 俺の手下となって、一生、俺の下で働け!」
な、なんだと? 僕を事故にあわせたことの償いのほうが先だろうが!
しかし、ブーリン氏は僕の肩に手をやった。
「ダナン君、魔法剣士として、この勝負を受けるか、考えてみるべきだ」
う、うーん……。
ドルガーはさっきの証拠写真を見せても、自分の罪を認めないだろう。
だが、僕が剣術勝負でドルガーに勝てば、すべては決着する!
お互い、剣士のプライドを持っているからだ!
「分かりました」
僕はドルガーをにらみつけた。
「ドルガー! この勝負、受けるぞ! いいんだな?」
「いい度胸だ。お前のような弱虫野郎が、勇者の俺に勝てるわけがない。しかも、お前は松葉杖をついている。勝負はすでについているぜ」
ドルガーはニヤニヤ笑って言った。
「俺が勝つのは簡単だ! てめえをギタギタに、斬り裂いてやる!」
急転直下!
僕とドルガーの、1対1の試合が決定した!
我慢できなくなったのは、ブーリン氏だ。
「ドルガー! ──勝手なことを言いやがって!」
ブーリン氏が木陰から、ドルガーたちの前に飛び出した。
ドルガーはブーリン氏を見て、目を丸くした。
「な、なんだ? あっ、あんた──ブ、ブーリン?」
「私が大切に経営してきた、マルスタ・ギルドを何だと思っている! お前らなんかに、売るわけがないだろう!」
「ブ、ブーリンさん、あんた、そんなところで隠れて聞いていたのか?」
ドルガーはちょっとたじろいだようだ。
ブーリン氏は、ドルガーよりもギルド長経験が長い。
ギルド長は別名「親方」といって、経験が長いほど、尊敬される傾向にある。
「ダ、ダナンもそこにいたのか?」
ドルガーは木陰にいた僕を見て、ひきつった顔をしながら言った。
僕は仕方なく、松葉杖をつきながらドルガーの前に進み出た。
しかし、ドルガーはブーリン氏を見て、やがてクスクス笑いだした。
「なあ、ブーリンさんよぉ。あんたのマルスタ・ギルド、俺らに売れよ。まあ、小さいギルドだから、300万ルピーでどうだ?」
「バカにするな!」
ブーリン氏は、ドルガーを一喝した。
「だがその話の前に、ドルガー! あんたはダナン君に謝罪しなければならん。王立警察に逮捕されてもおかしくはない!」
ブーリン氏は、僕がパメラさんに解析してもらった五枚の写真を、ドルガーたちに見せつけた。
「あっ……」
バルドンは顔を真っ青にして、声を上げた。
その写真は、僕が馬車に轢かれている瞬間の写真だ。御者が拡大して写っている写真もあるし、加工して御者のヒゲをなくした、バルドンそのものの顔が写っている解析写真もある。
「これは、ドルガー! 君がバルドン君に命令してやったことだろう?」
「な、な、な、何を言っているんだ? なあ? こいつがバルドン? 他人の空似だろ」
ドルガーは冷や汗をかきながら、ジョルジュやバルドンに言った。
「それに、も、も、もしこれがバルドンだとしても、俺に何の関係がある?」
すると! バルドンが口を開いた。
「い、いえ……。これは俺だよ。ドルガーに『ダナン』を馬車で怪我をさせろ、と指示された」
「なっ? て、てめええ~っ! バルドンっ!」
「ド、ドルガー、これは逃げられないよ。お、俺の顔がしっかり写っちまってる」
「バ、バカ野郎が! 黙れっ」
ドガッ
ドルガーはバルドンの頬をなぐりつけた。
「ドルガー、やはり、君の命令だったんだな。今、バルドン君本人の、証言がとれた」
ブーリン氏はため息をつきながら言った。
「うっ、うるせえんだよっ! この小デブオヤジがよおっ!」
ガスウウッ
ドルガーは、今度はブーリン氏の腹を蹴り上げた。
し、しまった! 僕は松葉杖をついているから、ブーリン氏を守る反応が遅れてしまった。
「う、ぐっ……」
ブーリン氏は顔を真っ青にして、その場に倒れ込んだ。
「お、お前っ! ドルガー!」
僕は我慢しきれなくなって、ドルガーの胸ぐらをつかみ上げた。
松葉杖を放り出すような勢いだったので、体のバランスが崩れそうになった。
「どういうつもりだ、ドルガー! ブーリン氏になんてことをする? そもそも、何で、僕を馬車で事故にあわそうとした?」
「は? 気に喰わねえからだよ」
「な、なに?」
「ダナン、お前がムカついてるだけだ。目ざわりなんだよ。消え失せろや」
「お前……!」
すると、ブーリン氏が腹をおさえながら、「ま、待ちたまえ」と顔を上げて言った。
「ブ、ブーリンさん、大丈夫ですか?」
僕があわてて聞くと、ブーリン氏は手で、「大丈夫だ」という合図をした。
「こ、これでは意見がまとまりそうにないな。ダナン君、ドルガー」
ブーリン氏は、よろよろと立ち上がった。
ドルガーは舌打ちをし、近くの木をガシッと蹴っ飛ばしている。まるで反省している様子がない。
「まあ聞け、ドルガー。1ヶ月後、この国全土の地区のギルドが集結する、『全国ギルド大霊祭』がある」
ブーリン氏は、冷静に言った。
「この間の祭りは周辺地区ギルドのみの、小さい祭りだった。しかし、今回はこの国全土、すべてのギルドが集まる祭りだ」
「そ、それで?」
僕があわてて聞くと、ブーリン氏が答えた。
「ダナン君、ドルガー。君たちは魔法剣士と勇者として、全国ギルド大霊祭で、剣術対決をすれば良い。剣術で勝ったほうがこの世界では偉いし、勝者だ。武器は『魔力模擬剣』──文句はあるまい」
魔力模擬剣とは、人対人の対人試合用の、剣型武器である。
形は剣そのもので、刃の部分があるが、人体を斬ることはできない。刃の部分は、魔法で形作られている。
相手を斬っても殺傷はできないが、斬った箇所は痺れてしまう。
その痺 れは1~2日続く。安全と威力を考慮した、対人戦公式の剣型魔法武具なのだ。
「ダナンと俺が対決だと?」
ドルガーはクスクス笑いだした。
「なるほど、面白い。では俺が勝ったら──。ダナン! 俺の手下となって、一生、俺の下で働け!」
な、なんだと? 僕を事故にあわせたことの償いのほうが先だろうが!
しかし、ブーリン氏は僕の肩に手をやった。
「ダナン君、魔法剣士として、この勝負を受けるか、考えてみるべきだ」
う、うーん……。
ドルガーはさっきの証拠写真を見せても、自分の罪を認めないだろう。
だが、僕が剣術勝負でドルガーに勝てば、すべては決着する!
お互い、剣士のプライドを持っているからだ!
「分かりました」
僕はドルガーをにらみつけた。
「ドルガー! この勝負、受けるぞ! いいんだな?」
「いい度胸だ。お前のような弱虫野郎が、勇者の俺に勝てるわけがない。しかも、お前は松葉杖をついている。勝負はすでについているぜ」
ドルガーはニヤニヤ笑って言った。
「俺が勝つのは簡単だ! てめえをギタギタに、斬り裂いてやる!」
急転直下!
僕とドルガーの、1対1の試合が決定した!