「この国は極秘で、『魔導監視装置』というものを街中に取り付けておる。その数、1967個!」
パメラさんは、写真を見せてくれた。
するとそこには、馬車にはねられた瞬間の、僕の写真がはっきり写っていた。
「こ、これは……」
「どの地区でも、交差点には魔導街灯用の鉄柱が立っている。その鉄柱に、ひそかに魔導監視装置が取り付けられているのだ。王立警察主導で、国民には一切極秘でな」
「じゃあ、この写真は、その魔導監視装置の写真?」
「その通り。私の巨大水晶球は、様々な地区の魔導監視装置の記録を、ものの数秒で取り出せるのじゃ~! すごいじゃろ」
「こ、この写真の馬車の御者を、拡大して見ることができますか?」
「できるとも」
パメラさんは、また文字板を操作して、今度は馬車の御者の拡大写真を見せてくれた。
ううっ……! こ、これは! 黒服を着た御者が、くっきりと拡大されて写っている。しかも、しっかりと顔まで分かる鮮明さだ!
「見て! ダナン」
アイリーンが声を上げた。
「この御者、口ヒゲがあるわ。でも……どこかで見たことがあるような気がする」
「僕もだ……」
僕がつぶやくように言うと、マリーさんが提案した。
「その御者《ぎょしゃ》の口ヒゲを無くしてみたら? ツケヒゲで変装しているのかも。写真から、ヒゲだけ消去はできる?」
マリーさんの直感だ。さすが占い師。
パメラさんはニヤリと笑った。
「では、写真を加工して、この御者の口ヒゲをなくしてみよう」
パメラさんは色々操作して、また写真を見せてくれた。
あ……っ! な、なんてことだ!
「この人……。いえ、この男!」
アイリーンが声を上げた。
「バルドン! バルドン・ロードス!」
「バ、バルドンか……」
僕もつぶやくように言った。
このちょっといかつい、大柄な男……。まさに幼なじみのバルドンだ。
頭の中が整理できない。
幼なじみで、魔物討伐隊「ウルスの盾」のパーティーメンバーだったバルドンが、御者だった。
な、何でだ?
「答えは一つじゃない?」
アイリーンは怒りを堪えるように言った。
「バルドンに誰かが命令したのよ。そんなことをする人間といえば、『ウルスの盾』のリーダー、ドルガーしかいない! ドルガーがバルドンに、馬車の御者になり、ダナンを怪我させろと命令したのよ」
「そ、そんなバカな……」
「確か、バルドンはお金に相当困っていたはずよ。飲み屋のツケ、家賃も相当、滞納していたと聞いたわ」
「……分かった。事故のことで今の時点で分かる事実は、バルドンが御者だった、ということだ。──では、僕がランゼルフ・ギルドで道場生に暴力をふるっている写真は、なんなんだ?」
「その写真をお見せ」
パメラさんも乗り気だ。
僕は、ブーリン氏から渡された僕の暴力写真を、パメラさんに手渡した。僕がランゼルフ・ギルドで、道場生を木剣でなぐっている写真だ。
僕自身は、こんな暴力、身に覚えはないけれど……。
「怪しい写真だね」
パメラさんはその写真を装置で読み取らせて、何か操作している。
「できた。この解析写真を見よ。ダナン、お前の顔部分を拡大してある」
パメラさんは僕の暴力写真の、拡大写真を見せてきた。僕の顔部分が、拡大されている。
よく見ると、僕の顔の周囲に黒いスジがあり、首にも黒いスジがある。
「よくできとるのぉ~。これはプロの捏造写真家、ドッツ・ボードマートがよくやる合成手法じゃわい」
パメラさんは説明した。
「元の誰かの暴力写真に、お前さんの顔写真を切り抜いて貼り付け、その写真を再撮影しただけじゃ」
「え? そ、そんな簡単な……」
「ただし、その貼り付けた部分には、独特の線がでる。ボードマートはその線を薬剤で消去するのが得意でな。巧妙な捏造写真を新聞社に売りつけて、大儲けしとるわ。しかし、ワシの分析装置にかかれば、その線の存在はバレてしまう!」
「一つの仮説だけど」
アイリーンは言った。
「元々、ドルガーか誰かが、ランゼルフ・ギルドで暴力写真を撮影した。それは演技でもやらせでも、何でもいい。その顔部分に、ダナンの顔写真を切り抜いて、貼り付けたのね」
「単純だな……でも、分かって一安心だ」
僕は言った。
「甘いっ! 一安心ではない」
しかし、パメラさんは怒鳴った。
「写真というものはな、『焼き増し』『複製』ができるんじゃ。お前さんの、この捏造写真が様々なギルドにバラまかれると、ダナン──! お前さんの信用は、完全に地に落ちてしまうぞ」
「で、でも、僕はこんな暴力はやっていないんですよ」
「やっていなかろうが、関係ない。人はゴシップを好むからな。お前の暴力写真が、人々によって拡散してしまえば、大変なことになる。早急に手を打て!」
「そうね。解決方法としては──」
マリーさんが口を開いた。
「あなたが所属する、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏にランゼルフ・ギルドでの暴力が事実無根であることを話す。写真を見せれば、何とかなりそうね。──それから、馬車の事故の犯人を、きっちりドルガーに問い詰める」
「御者はバルドン。指示役は……多分、ドルガーだと思います」
僕が言うと、アイリーンはうなずいた。
「そうね。すぐに行動しましょう。ドルガーも何か手をうってくるかもしれないわ。意地でも、自分の指示であなたを事故にあわせたなんて、バレたくないはずだもの」
僕とアイリーンはパメラさんから、たくさんの証拠写真をもらい、マルスタへ帰ることにした。
パメラさんは、写真を見せてくれた。
するとそこには、馬車にはねられた瞬間の、僕の写真がはっきり写っていた。
「こ、これは……」
「どの地区でも、交差点には魔導街灯用の鉄柱が立っている。その鉄柱に、ひそかに魔導監視装置が取り付けられているのだ。王立警察主導で、国民には一切極秘でな」
「じゃあ、この写真は、その魔導監視装置の写真?」
「その通り。私の巨大水晶球は、様々な地区の魔導監視装置の記録を、ものの数秒で取り出せるのじゃ~! すごいじゃろ」
「こ、この写真の馬車の御者を、拡大して見ることができますか?」
「できるとも」
パメラさんは、また文字板を操作して、今度は馬車の御者の拡大写真を見せてくれた。
ううっ……! こ、これは! 黒服を着た御者が、くっきりと拡大されて写っている。しかも、しっかりと顔まで分かる鮮明さだ!
「見て! ダナン」
アイリーンが声を上げた。
「この御者、口ヒゲがあるわ。でも……どこかで見たことがあるような気がする」
「僕もだ……」
僕がつぶやくように言うと、マリーさんが提案した。
「その御者《ぎょしゃ》の口ヒゲを無くしてみたら? ツケヒゲで変装しているのかも。写真から、ヒゲだけ消去はできる?」
マリーさんの直感だ。さすが占い師。
パメラさんはニヤリと笑った。
「では、写真を加工して、この御者の口ヒゲをなくしてみよう」
パメラさんは色々操作して、また写真を見せてくれた。
あ……っ! な、なんてことだ!
「この人……。いえ、この男!」
アイリーンが声を上げた。
「バルドン! バルドン・ロードス!」
「バ、バルドンか……」
僕もつぶやくように言った。
このちょっといかつい、大柄な男……。まさに幼なじみのバルドンだ。
頭の中が整理できない。
幼なじみで、魔物討伐隊「ウルスの盾」のパーティーメンバーだったバルドンが、御者だった。
な、何でだ?
「答えは一つじゃない?」
アイリーンは怒りを堪えるように言った。
「バルドンに誰かが命令したのよ。そんなことをする人間といえば、『ウルスの盾』のリーダー、ドルガーしかいない! ドルガーがバルドンに、馬車の御者になり、ダナンを怪我させろと命令したのよ」
「そ、そんなバカな……」
「確か、バルドンはお金に相当困っていたはずよ。飲み屋のツケ、家賃も相当、滞納していたと聞いたわ」
「……分かった。事故のことで今の時点で分かる事実は、バルドンが御者だった、ということだ。──では、僕がランゼルフ・ギルドで道場生に暴力をふるっている写真は、なんなんだ?」
「その写真をお見せ」
パメラさんも乗り気だ。
僕は、ブーリン氏から渡された僕の暴力写真を、パメラさんに手渡した。僕がランゼルフ・ギルドで、道場生を木剣でなぐっている写真だ。
僕自身は、こんな暴力、身に覚えはないけれど……。
「怪しい写真だね」
パメラさんはその写真を装置で読み取らせて、何か操作している。
「できた。この解析写真を見よ。ダナン、お前の顔部分を拡大してある」
パメラさんは僕の暴力写真の、拡大写真を見せてきた。僕の顔部分が、拡大されている。
よく見ると、僕の顔の周囲に黒いスジがあり、首にも黒いスジがある。
「よくできとるのぉ~。これはプロの捏造写真家、ドッツ・ボードマートがよくやる合成手法じゃわい」
パメラさんは説明した。
「元の誰かの暴力写真に、お前さんの顔写真を切り抜いて貼り付け、その写真を再撮影しただけじゃ」
「え? そ、そんな簡単な……」
「ただし、その貼り付けた部分には、独特の線がでる。ボードマートはその線を薬剤で消去するのが得意でな。巧妙な捏造写真を新聞社に売りつけて、大儲けしとるわ。しかし、ワシの分析装置にかかれば、その線の存在はバレてしまう!」
「一つの仮説だけど」
アイリーンは言った。
「元々、ドルガーか誰かが、ランゼルフ・ギルドで暴力写真を撮影した。それは演技でもやらせでも、何でもいい。その顔部分に、ダナンの顔写真を切り抜いて、貼り付けたのね」
「単純だな……でも、分かって一安心だ」
僕は言った。
「甘いっ! 一安心ではない」
しかし、パメラさんは怒鳴った。
「写真というものはな、『焼き増し』『複製』ができるんじゃ。お前さんの、この捏造写真が様々なギルドにバラまかれると、ダナン──! お前さんの信用は、完全に地に落ちてしまうぞ」
「で、でも、僕はこんな暴力はやっていないんですよ」
「やっていなかろうが、関係ない。人はゴシップを好むからな。お前の暴力写真が、人々によって拡散してしまえば、大変なことになる。早急に手を打て!」
「そうね。解決方法としては──」
マリーさんが口を開いた。
「あなたが所属する、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏にランゼルフ・ギルドでの暴力が事実無根であることを話す。写真を見せれば、何とかなりそうね。──それから、馬車の事故の犯人を、きっちりドルガーに問い詰める」
「御者はバルドン。指示役は……多分、ドルガーだと思います」
僕が言うと、アイリーンはうなずいた。
「そうね。すぐに行動しましょう。ドルガーも何か手をうってくるかもしれないわ。意地でも、自分の指示であなたを事故にあわせたなんて、バレたくないはずだもの」
僕とアイリーンはパメラさんから、たくさんの証拠写真をもらい、マルスタへ帰ることにした。