僕とアイリーンは、周囲に気を付けながら墓地をまっすぐ歩いた。
歩いていくと墓地の奥に、大屋敷が建っているのが見えた。
まるで城のような大屋敷だ。
しかし、大屋敷の大きな鉄の扉は閉まっている。
「お、おっと」
そのとき、僕は体のバランスを崩して転びそうになった。
右足が動かない! そ、そうか。僕のユニークスキル、【大天使の治癒】が切れたんだ。
「大丈夫?」
アイリーンは僕の異変に気付き、すぐ僕を支えてくれた。そして、彼女は顔を赤らめながら言った。
「いつでも、私が君を支えるから……」
「あ、ありがとう」
ふう、アイアンナイトとの戦闘で、愛用の松葉杖を無くさないで良かった。
僕は松葉杖をついて、体勢を立て直した。
さて、僕らが周囲を見回していると……。
『認識……ダナン・アンテルド。アイリーン・フェリクス……。門が開きます。お入りください』
抑揚のない声がした。
そしてグワン、という重々しい金属音とともに、扉が自動的に開かれた。
「ダナン・アンテルド様、アイリーン・フェリクス様ですね」
大屋敷の中から、若いスーツ姿の男性が出てきてこう言った。
「私はパメラ・エステラン様、マリー・エステラン様、ご姉妹の秘書、セバスチャンです。お二人があなたたちをお待ちですよ」
「パメラさんとマリーさんは、僕らが来ることを知っていたんですか?」
「ええ、ご存知ですよ。パメラ様は名探偵、マリー様は占い師ですからね。──さあ、どうぞ」
セバスチャン氏に、大屋敷の中にある、一階の一室に案内された。
その部屋には薬品、古い本の棚が所せましとある。
中央には机があり、その奥に女性が座っていた。
「久しぶりね」
女性が言った。マリーさんだ!
僕がランゼルフ・ギルドにやってきてから、何ヶ月経っただろう? あれから色々なことがあった。
「マリー先生! なんでこんな屋敷にいるんですか?」
アイリーンがマリーさんに、大声で聞いた。アイリーンはマリーさんお魔法の弟子だったそうだ。
「こんな恐ろしい街に住むなんて!」
「結界を張れば、静かで良い街なのよね。……アイリーンは相変わらず元気がいいわね。ダナン君も……あら、あなた、すごく強くなったわね。雰囲気で分かるわ。──さて……と、ご用件は色々と分かっているけど、一応、話したいことを話してごらんなさい」
「はい!」
僕は口を開いた。
「僕を馬車で事故にあわせた者の、正体を知りたいんです。そして、僕に濡れ衣を着せた、とある写真がウソだということを、証明したいんです」
『では、私が証明してやるぞよ~!』
その時! 部屋の中に、子どもの声が響いた?
『隣の部屋に来い! 私が名探偵のパメラ・エステランじゃ~! マリーよ、私の部屋に連れてこいっ!」
な、何で、部屋中に子どもの声が響き渡っているんだ? どんな仕掛けだ? そもそも、パメラって人は、マリーさんの「姉」だったはずだ。
まるで子どものような、幼い声だけど。それにしては高飛車な話し方だな。
「ウフフッ」
マリーさんはふき出しそうになりながら、言った。
「じゃあ、姉に会いにいきましょう。ついてきて」
◇ ◇ ◇
マリーさんは、僕らを隣の部屋に連れていった。
「う、うわあ~……」
アイリーンは声を上げた。な、何だ? この部屋は。
それはとても大きな部屋だった。周囲は巨大水槽になっており、魚がたくさん泳いでいる。
その部屋の中央に机があり、誰かが座っていた。
「ほうれ! 早くこっちゃこい! 待ちくたびれたわい」
その誰かが声を張り上げた。子どもの声なのに、老婆のようなしゃべり方だ。
その机の上には、巨大な透明な球体──水晶球があり、その水晶球から導線がたくさん出ていた。
その導線は、壁に設置された、本棚のような鉄の装置と繋がっている。
「ダナン・アンテルド! お前の事故の真実を、完全解明してやるわい」
椅子には、三角帽を被った、幼いかわいい女の子がちょこんと座っていた。
「私はパメラ・エステラン。マリーの姉じゃ。ほりゃ、こっちゃこい!」
女の子は僕の腕にがっしと組み付き、自分の机の前に僕を引っ張った。
「ほほう、おぬしがダナンか! かわいい男子が来たのぉ~!」
「ちょっと、パメラ姉さん! ダナンとアイリーンが困惑しているじゃないの」
マリーさんはパメラさんに注意し、僕を見た。
「パメラ姉さんは、前世では百八十八歳まで生きたらしいのよ。だけど、神様にお願いして、記憶を保ちつつ、赤ちゃんに生まれ変わったの。転生ってヤツね」
「は、はあ? 前世? 転生?」
僕は首を傾げたが、マリーさんの説明は続く。
「百八十八歳の知識、記憶を保ちつつ、十歳になったわけ。で、錬金術で錬成した薬を飲んで、十歳の体を保っているわ。正式な年齢としては、三十八歳だけど」
「よ、よけいなことを言うなっ、マリー! 化け物あつかいされるじゃろが~! 転生の話は秘密じゃ~」
パメラさんは顔を真っ赤にして、座りつつ足をバタバタさせながら言った。
マリーさんとパメラさんの言っている意味は、さっぱり分からん。
「そんなことより、ダナンよ! お主の馬車の事故の話だ」
パメラさんは巨大水晶球とつながった、文字板を操作し始めた。
「お前が事故にあった場所と、日時を教えてくれ。検索するからのう」
「えーっと、確か……。マルスタ地区の有名レストランがある交差点で……。レストランの名前は忘れちゃったなあ。……今年の四月……何日に事故があったんだっけ」
僕は本当に忘れていた。しかし、アイリーンが助け舟を出してくれた。
「ダナンが事故にあったのは、マルスタ地区の有名レストラン、『スライバス』がある交差点よ。日時は今年の四月十九日。その日、ダナンは私の勤めていた病院に運び込まれました。だけど、それで何か分かるんですか?」
「この国は極秘で、『魔導監視装置』というものを街中に取り付けておる。その数、1967個!」
ま、魔導監視……装置?
パメラさんは文字板を打ち込み、巨大水晶球の横の装置から、写真を取り出した。写真が印刷できるらしい。
「これを見よ」
「え……? あっ……」
僕は思わず声を上げた。
誰かが馬車にはねられた瞬間が、右斜め上から撮影されている! つまり、事故の瞬間だ。
その誰かとは……! この写真の中で、馬車にはねられているのは……!
僕だ!
歩いていくと墓地の奥に、大屋敷が建っているのが見えた。
まるで城のような大屋敷だ。
しかし、大屋敷の大きな鉄の扉は閉まっている。
「お、おっと」
そのとき、僕は体のバランスを崩して転びそうになった。
右足が動かない! そ、そうか。僕のユニークスキル、【大天使の治癒】が切れたんだ。
「大丈夫?」
アイリーンは僕の異変に気付き、すぐ僕を支えてくれた。そして、彼女は顔を赤らめながら言った。
「いつでも、私が君を支えるから……」
「あ、ありがとう」
ふう、アイアンナイトとの戦闘で、愛用の松葉杖を無くさないで良かった。
僕は松葉杖をついて、体勢を立て直した。
さて、僕らが周囲を見回していると……。
『認識……ダナン・アンテルド。アイリーン・フェリクス……。門が開きます。お入りください』
抑揚のない声がした。
そしてグワン、という重々しい金属音とともに、扉が自動的に開かれた。
「ダナン・アンテルド様、アイリーン・フェリクス様ですね」
大屋敷の中から、若いスーツ姿の男性が出てきてこう言った。
「私はパメラ・エステラン様、マリー・エステラン様、ご姉妹の秘書、セバスチャンです。お二人があなたたちをお待ちですよ」
「パメラさんとマリーさんは、僕らが来ることを知っていたんですか?」
「ええ、ご存知ですよ。パメラ様は名探偵、マリー様は占い師ですからね。──さあ、どうぞ」
セバスチャン氏に、大屋敷の中にある、一階の一室に案内された。
その部屋には薬品、古い本の棚が所せましとある。
中央には机があり、その奥に女性が座っていた。
「久しぶりね」
女性が言った。マリーさんだ!
僕がランゼルフ・ギルドにやってきてから、何ヶ月経っただろう? あれから色々なことがあった。
「マリー先生! なんでこんな屋敷にいるんですか?」
アイリーンがマリーさんに、大声で聞いた。アイリーンはマリーさんお魔法の弟子だったそうだ。
「こんな恐ろしい街に住むなんて!」
「結界を張れば、静かで良い街なのよね。……アイリーンは相変わらず元気がいいわね。ダナン君も……あら、あなた、すごく強くなったわね。雰囲気で分かるわ。──さて……と、ご用件は色々と分かっているけど、一応、話したいことを話してごらんなさい」
「はい!」
僕は口を開いた。
「僕を馬車で事故にあわせた者の、正体を知りたいんです。そして、僕に濡れ衣を着せた、とある写真がウソだということを、証明したいんです」
『では、私が証明してやるぞよ~!』
その時! 部屋の中に、子どもの声が響いた?
『隣の部屋に来い! 私が名探偵のパメラ・エステランじゃ~! マリーよ、私の部屋に連れてこいっ!」
な、何で、部屋中に子どもの声が響き渡っているんだ? どんな仕掛けだ? そもそも、パメラって人は、マリーさんの「姉」だったはずだ。
まるで子どものような、幼い声だけど。それにしては高飛車な話し方だな。
「ウフフッ」
マリーさんはふき出しそうになりながら、言った。
「じゃあ、姉に会いにいきましょう。ついてきて」
◇ ◇ ◇
マリーさんは、僕らを隣の部屋に連れていった。
「う、うわあ~……」
アイリーンは声を上げた。な、何だ? この部屋は。
それはとても大きな部屋だった。周囲は巨大水槽になっており、魚がたくさん泳いでいる。
その部屋の中央に机があり、誰かが座っていた。
「ほうれ! 早くこっちゃこい! 待ちくたびれたわい」
その誰かが声を張り上げた。子どもの声なのに、老婆のようなしゃべり方だ。
その机の上には、巨大な透明な球体──水晶球があり、その水晶球から導線がたくさん出ていた。
その導線は、壁に設置された、本棚のような鉄の装置と繋がっている。
「ダナン・アンテルド! お前の事故の真実を、完全解明してやるわい」
椅子には、三角帽を被った、幼いかわいい女の子がちょこんと座っていた。
「私はパメラ・エステラン。マリーの姉じゃ。ほりゃ、こっちゃこい!」
女の子は僕の腕にがっしと組み付き、自分の机の前に僕を引っ張った。
「ほほう、おぬしがダナンか! かわいい男子が来たのぉ~!」
「ちょっと、パメラ姉さん! ダナンとアイリーンが困惑しているじゃないの」
マリーさんはパメラさんに注意し、僕を見た。
「パメラ姉さんは、前世では百八十八歳まで生きたらしいのよ。だけど、神様にお願いして、記憶を保ちつつ、赤ちゃんに生まれ変わったの。転生ってヤツね」
「は、はあ? 前世? 転生?」
僕は首を傾げたが、マリーさんの説明は続く。
「百八十八歳の知識、記憶を保ちつつ、十歳になったわけ。で、錬金術で錬成した薬を飲んで、十歳の体を保っているわ。正式な年齢としては、三十八歳だけど」
「よ、よけいなことを言うなっ、マリー! 化け物あつかいされるじゃろが~! 転生の話は秘密じゃ~」
パメラさんは顔を真っ赤にして、座りつつ足をバタバタさせながら言った。
マリーさんとパメラさんの言っている意味は、さっぱり分からん。
「そんなことより、ダナンよ! お主の馬車の事故の話だ」
パメラさんは巨大水晶球とつながった、文字板を操作し始めた。
「お前が事故にあった場所と、日時を教えてくれ。検索するからのう」
「えーっと、確か……。マルスタ地区の有名レストランがある交差点で……。レストランの名前は忘れちゃったなあ。……今年の四月……何日に事故があったんだっけ」
僕は本当に忘れていた。しかし、アイリーンが助け舟を出してくれた。
「ダナンが事故にあったのは、マルスタ地区の有名レストラン、『スライバス』がある交差点よ。日時は今年の四月十九日。その日、ダナンは私の勤めていた病院に運び込まれました。だけど、それで何か分かるんですか?」
「この国は極秘で、『魔導監視装置』というものを街中に取り付けておる。その数、1967個!」
ま、魔導監視……装置?
パメラさんは文字板を打ち込み、巨大水晶球の横の装置から、写真を取り出した。写真が印刷できるらしい。
「これを見よ」
「え……? あっ……」
僕は思わず声を上げた。
誰かが馬車にはねられた瞬間が、右斜め上から撮影されている! つまり、事故の瞬間だ。
その誰かとは……! この写真の中で、馬車にはねられているのは……!
僕だ!