僕ら、魔物討伐(とうばつ)隊は、探偵のパメラさんと占い師のマリーさん姉妹に会うために、グバルー魔霊街(まれいがい)に侵入した。

 しかしさびれた商店街で、魔物ではなく住人──人間に取り囲まれたのだ。

「魔物討伐(とうばつ)など、余計なことをするなって言ってるんだ。出ていけ!」

 副町長のルバール氏は、ナタを構えて言った。素人の構えだ。

 僕はルバール氏に言った。

「僕らはパメラさんと、マリーさんという人に会いにきただけです」
「……パメラ……マリー……」
「でも、パメラさんとマリーさんを探している最中、魔物に遭遇(そうぐう)したら、討伐(とうばつ)するしかありません」
「その魔物は恐ろしいヤツらだ。俺らは魔物に上納金(じょうのうきん)を払って、この街で生きているんだ!」

 じょ、上納金(じょうのうきん)だって? この人たち、魔物に金を払って生きているのか?

 ルバール氏は、チッと舌打ちをして言った。

「そういうことだ。魔物に上納金(じょうのうきん)を払って、俺らは一応、安全に生活できてんだよ。だから、余計な騒ぎを立てるなってんだ」
「どれくらい払っているんですか?」
「……まあ、隠す必要もないから、堂々と言ってやろう。……毎月百万ルピーだ」

 するとランダースが、「お、おいおい! 百万だと?」と声を上げた。

「魔物に、そんな大金を払ってんのか? バカか? あんたたちは」
「うるせえっ」

 ルバール氏は声を荒げた。

「俺たちの生き方を否定するな。これは三十年以上、続いているんだ。今さらやめるわけにいかねえだろ」
「……なるほど。この魔霊街(まれいがい)を見ると、とても商売をやっていけるような街には見えないね。その金はどこから出てくる?」

 今度はパトリシアが聞いたが、ルバール氏は首を横に振った。

「それは言えない」
「では、当ててやろう。あんたたちがどうやって、金を手に入れているのか」

 パトリシアがそう言ったので、僕やアイリーンは驚いた。ルバール氏たちも眉をひそめた。

「別の街に行き、スリか強盗をしているんだろう?」
「うっ……」

 ルバール氏は一歩後ずさりをした。パトリシアはため息をついた。

「金を作ることができないのなら、どこからか金を盗むか、別の悪事を働く。それなら、手っ取り早く金を作れるからな。そもそも、別の街で、グバルー魔霊街(まれいがい)の住人たちが、強盗をしていると噂になっているんだよ」
「……黙れっ……とにかくだ!」

 ルバール氏は叫んだ。

「魔物……特に、アイアンナイトには手を出すんじゃないぞ! 絶対に殺される。とくにお前らのような弱そうな魔物討伐(とうばつ)家たちはな。今までそんなヤツらを、たくさん見てきたんだ。おい、もう行こう」

 ルバール氏はそう言うと、他の住人とともに、商店街の奥に去っていった。

「……なんなんだよ、あいつら」

 ランダースは腕組みした。

「自分から、不幸になりにいっているようなもんじゃねえか」
「そうね」

 アイリーンがうなずいた。

「人間は、心の表層部分では幸せを求めている。だけどあの人たちは、心の奥底では自ら悪の道や不幸を求めてしまっているわ」

 ◇ ◇ ◇

 僕らは、商店街に隣接(りんせつ)した墓地に進むことにした。

「この墓地を突っ切りましょう。地図を信じれば、この墓地の奥に、マリー先生たちの住む大屋敷があるはず」

 アイリーンが言った。

 墓石は倒れ、コケが生えている。この墓地は廃墟(はいきょ)といって良いだろう。

 しかし、本当にこの墓地の奥に、パメラさんとマリーさんが住んでいるのか? にわかには信じがたいが……。

「魔物の気配がするわ」

 アイリーンがつぶやいた。彼女は、魔物の気配を察知する能力があるようだ。

「魔物か。じ、実体があるならば、勝負になる。行くぞ」

 パトリシアは少し顔を上げた。

 僕らが墓地を歩いていくと、周囲の森からガサゴソと音がした。

 そして──。

 バキバキバキッ

 森から枝をかきわけて出てきたのは──。

 骸骨剣士──スケルトンナイト、鬼系の魔物──レッドオーガ、触手系魔物──ビッグローパー! そして鉄の(よろい)、鉄の(かぶと)、鉄の剣を装備した魔物の剣士──アイアンナイトだ!

 アイアンナイトは、体長3メートルはありそうだ。で、でかい!

 すると、スケルトンナイトはナイフを投げつけてきた。

 ガイン

 パトリシアはそれを愛剣ムラマサで受け──。
 
「たああっ」

 バキイッ

 スケルトンナイトを斜めから斬り下ろした。

 スケルトンナイトは骨ごと斬り裂かれ、パトリシアの剣によって破壊された。

 するとスケルトンナイトは、その瞬間、青色の宝石に変化した。

 魔物は宝石からできており、絶命すると宝石に変化してしまう。噂では、魔王が特殊な術で、宝石から魔物を作り上げているらしい。

「あらよっ」

 ランダースは、レッドオーガの棍棒(こんぼう)攻撃を()け──。

 ズバアッ
 
 (はがね)の剣で、魔物の胴を横払いで斬った。レッドオーガの死体は、赤い宝石に変化した。

 ちなみにランダースには、愛用の剣というものはない。武器屋で売っている気にいった剣を、ただ装備する。刃が欠けたら、さっさと新しいのを買うらしい。

 一方、アイリーンは愛用の剣──ジュレ・ブランシュを構えた。異国の言葉で、「(しも)」の意味らしい。

 青白く波打った、珍しい形状の剣だ。

 シャッ

 氷の魔法剣で、ビッグローパーを斜めから斬り裂いた。

 ビッグローパーは氷属性に弱い魔物だ。

 ビッグローパーは断面が氷結し、絶命すると、そのまま宝石に変化してしまった。

「さあてと」

 ランダースはニヤリと笑って、今まで微動(びどう)だにしなかったアイアンナイトをにらみつけた。

 アイリーンもパトリシアも構えている。

「手合わせといこうぜ、デカブツ」

 すると──。

「クオオオオオッ」

 アイアンナイトはそんな声とともに、全身から衝撃波(しょうげきは)を放った。

 アイリーン、ランダース、パトリシアたちは5メートル以上もふっ飛ばされ、墓石や地面に体を打ちつけてしまった。

 しかし、僕は吹き飛ばされなかった。松葉杖をついていたが、気を高め、とっさに魔法の結界を瞬時につくり出していた。

 ──自分で、「結界を作る? こんなことができたのか」と驚いたが。

「ぬう……?」
 
 アイアンナイトは声を上げた。

「俺の衝撃波(しょうげきは)を受けて、ふっ飛ばされなかった人間は……初めてだ」

 アイアンナイトの目が光った。人語(じんご)をしゃべった! 知的レベルが高い魔物のようだ。

「少年……お前、何者だ? いや、その前に……」

 アイアンナイトはそう言いつつ、右手を出した。

上納金(じょうのうきん)をもらいうける。いまなら150万ルピーでどうだ? 宝石や金塊でも良いぞ」
「残念だな」

 僕はアイアンナイトに言った。

「お前を倒し、逆に宝石になってもらう」
「ぬうう……! こしゃくな」

 アイアンナイトは一歩前に進み出た。

 戦闘開始だ!