退院した僕は、午後四時半、急いでランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場に向かった。
医師からは、家でまだ休んでいるように、と言われたが、そうもいかない。
(どうなってんだ……?)
道場生の人数が、四十九名から三十五名に減ったらしい。そうモニカが言っていた。
このことを、急いで確かめなくてはいけない。
僕の入院中は、モニカとポルーナさんが師範代をしてくれたそうだ。
見舞いに来てくれたマイラたち小学部の子たちは、モニカは真面目だし、ポルーナさんは優しいし、教え方も分かりやすい、と言っていた。
二人とも、子どもたちにも大人の道場生たちにも、人気があるようだ。
(二、三人、増減するなら分かる。だけど、三週間のうちに、いっぺんに十四人も減るとは? 何かがあったんだ!)
今、魔法剣術道場は、ちょうど指導時間だ。何があったのか、調べるぞ!
◇ ◇ ◇
僕がランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場に入ると──。
おや?
師範代であるはずの、モニカとポルーナさんは、壁際にいた。道場生は一応、来ている。今日は三十名くらいか?
そして、道場にはドルガーがいたのだ。
(あいつ……。道場で何やってんだ?)
「おいっ、俺の言う通りにやれよ。まずは整列だ」
ドルガーは木剣を持ちながら、整列している道場生をジロジロ見た。
「動くんじゃねえぞ。集中力を鍛える訓練だ」
な、なんだ? ドルガーが師範役? 聞いてないぞ!
「お前っ! 動くんじゃねえと言っただろうが!」
バシイッ
ドルガーは、木剣で男子を叩いた。叩かれたのは、中学部の男子、ラーティス・マッツだ
僕は声を上げそうになった。
(な、何なんだ? これは)
「てめぇらに、戦場の現実を教えてやってんだよ。俺のような勇者様がよ!」
ドルガーはニヤニヤ笑いながら、木剣を床にガツガツ打ちつけ、叫んだ。
「これが戦場ならな、血が吹き飛び、全身が砕けるぜ」
すると中学部の男子──エルドラン・ボイドが、叩かれたラーティスを助け起こそうとした。
ドルガーは、エルドランに聞いた。
「お前……何やってんだ?」
「ラーティスは血が出ています。早く治療しないと……」
「てめぇ! 戦場でのんびり治療なんかできるか! 魔物が待ってくれるか? 現実みろや」
ドルガーは、今度はエルドランに木剣を振り下ろそうとした。
パシッ
僕はすぐに、剣を持ったドルガーの手首をつかんだ。何とか、彼の暴力を阻止した……。
「……ああ? なんだてめぇ」
「おい、やめろ。ドルガー、何やってんだよ」
「おお、ダナンじゃねーか。てめぇは今、師範じゃねーんだよ。すっこんでろ。……おい! 入ってこい!」
すると、道場に大柄な黒服の男たちが三人、入ってきて、僕の肩をつかんだ。
そして黒服の一人が言った。
「ドルガー坊っちゃんの指導の邪魔ですよ。ダナンさんは退出してください」
「お、おい! 何をするんだ。何なんだ、あなたたちは?」
「邪魔です」
黒服の男たちは、僕の肩と腕をつかみ──。
ドシャッ
僕を道場の外の廊下へ、放り出した。僕はすぐに、松葉杖を拾い、立ち上がった。
ドルガーの声が道場の中から聞こえてくる。
「お前ら、俺の言うことを聞けよ! 逆らったら、承知しねえぞ」
バシイッ
「ギャッ!」
また悲鳴が聞こえた。
ドルガーが道場生を、木剣でなぐっている。
……あの野郎!
すると、モニカやポルーナさん、マイラが道場から出てきた。
その時、ピシャッと扉が閉まってしまった。黒服のヤツらが、閉めてしまったんだろう。カギも掛かっている!
「くそ、何なんだよ!」
「ダナン先生、私、こんな暴力を見ていられません!」
モニカは僕に抱きついて泣き出した。マイラも泣いている。
「あんなに楽しい道場だったのに、怖いとこになっちゃたよう」
「うーん……」
僕はとにかく、何が起こったのか知りたかった。
「後で、僕がドルガーと話をするよ」
「ええっ?」
モニカが驚いたように言った。
「大丈夫ですか? あのドルガーって人、ちょっとおかしいですよ。道場生に、一方的な暴力をふるって」
「うん。僕が、そんな暴力はやめさせる」
僕はそう言った。しかし、ドルガーに話し合いが通用するのか?
しかもさっきの黒服たち……。どこかで見たことがあるんだよな。
ドルガーの手下らしいけど。
……ん?
あれ? ちょっと思い出した。
僕は馬車にはねられた。
その時の御者が、黒服の男ではなかったか?
ゾクリ
僕は嫌な予感がして仕方なかった。
……まさかドルガーが……。あいつが指示して、馬車を僕に向かって突っ込ませたのか?
医師からは、家でまだ休んでいるように、と言われたが、そうもいかない。
(どうなってんだ……?)
道場生の人数が、四十九名から三十五名に減ったらしい。そうモニカが言っていた。
このことを、急いで確かめなくてはいけない。
僕の入院中は、モニカとポルーナさんが師範代をしてくれたそうだ。
見舞いに来てくれたマイラたち小学部の子たちは、モニカは真面目だし、ポルーナさんは優しいし、教え方も分かりやすい、と言っていた。
二人とも、子どもたちにも大人の道場生たちにも、人気があるようだ。
(二、三人、増減するなら分かる。だけど、三週間のうちに、いっぺんに十四人も減るとは? 何かがあったんだ!)
今、魔法剣術道場は、ちょうど指導時間だ。何があったのか、調べるぞ!
◇ ◇ ◇
僕がランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場に入ると──。
おや?
師範代であるはずの、モニカとポルーナさんは、壁際にいた。道場生は一応、来ている。今日は三十名くらいか?
そして、道場にはドルガーがいたのだ。
(あいつ……。道場で何やってんだ?)
「おいっ、俺の言う通りにやれよ。まずは整列だ」
ドルガーは木剣を持ちながら、整列している道場生をジロジロ見た。
「動くんじゃねえぞ。集中力を鍛える訓練だ」
な、なんだ? ドルガーが師範役? 聞いてないぞ!
「お前っ! 動くんじゃねえと言っただろうが!」
バシイッ
ドルガーは、木剣で男子を叩いた。叩かれたのは、中学部の男子、ラーティス・マッツだ
僕は声を上げそうになった。
(な、何なんだ? これは)
「てめぇらに、戦場の現実を教えてやってんだよ。俺のような勇者様がよ!」
ドルガーはニヤニヤ笑いながら、木剣を床にガツガツ打ちつけ、叫んだ。
「これが戦場ならな、血が吹き飛び、全身が砕けるぜ」
すると中学部の男子──エルドラン・ボイドが、叩かれたラーティスを助け起こそうとした。
ドルガーは、エルドランに聞いた。
「お前……何やってんだ?」
「ラーティスは血が出ています。早く治療しないと……」
「てめぇ! 戦場でのんびり治療なんかできるか! 魔物が待ってくれるか? 現実みろや」
ドルガーは、今度はエルドランに木剣を振り下ろそうとした。
パシッ
僕はすぐに、剣を持ったドルガーの手首をつかんだ。何とか、彼の暴力を阻止した……。
「……ああ? なんだてめぇ」
「おい、やめろ。ドルガー、何やってんだよ」
「おお、ダナンじゃねーか。てめぇは今、師範じゃねーんだよ。すっこんでろ。……おい! 入ってこい!」
すると、道場に大柄な黒服の男たちが三人、入ってきて、僕の肩をつかんだ。
そして黒服の一人が言った。
「ドルガー坊っちゃんの指導の邪魔ですよ。ダナンさんは退出してください」
「お、おい! 何をするんだ。何なんだ、あなたたちは?」
「邪魔です」
黒服の男たちは、僕の肩と腕をつかみ──。
ドシャッ
僕を道場の外の廊下へ、放り出した。僕はすぐに、松葉杖を拾い、立ち上がった。
ドルガーの声が道場の中から聞こえてくる。
「お前ら、俺の言うことを聞けよ! 逆らったら、承知しねえぞ」
バシイッ
「ギャッ!」
また悲鳴が聞こえた。
ドルガーが道場生を、木剣でなぐっている。
……あの野郎!
すると、モニカやポルーナさん、マイラが道場から出てきた。
その時、ピシャッと扉が閉まってしまった。黒服のヤツらが、閉めてしまったんだろう。カギも掛かっている!
「くそ、何なんだよ!」
「ダナン先生、私、こんな暴力を見ていられません!」
モニカは僕に抱きついて泣き出した。マイラも泣いている。
「あんなに楽しい道場だったのに、怖いとこになっちゃたよう」
「うーん……」
僕はとにかく、何が起こったのか知りたかった。
「後で、僕がドルガーと話をするよ」
「ええっ?」
モニカが驚いたように言った。
「大丈夫ですか? あのドルガーって人、ちょっとおかしいですよ。道場生に、一方的な暴力をふるって」
「うん。僕が、そんな暴力はやめさせる」
僕はそう言った。しかし、ドルガーに話し合いが通用するのか?
しかもさっきの黒服たち……。どこかで見たことがあるんだよな。
ドルガーの手下らしいけど。
……ん?
あれ? ちょっと思い出した。
僕は馬車にはねられた。
その時の御者が、黒服の男ではなかったか?
ゾクリ
僕は嫌な予感がして仕方なかった。
……まさかドルガーが……。あいつが指示して、馬車を僕に向かって突っ込ませたのか?