「ずいぶん、挨拶に来るのが、おせえじゃねえかよ、ダナン! ええ?」
ドルガーは、僕をにらみつけながら言った。足を机の上に投げ出して、とんでもなく態度が悪い。
一体、マリーさんはどこに行ったんだ? なぜドルガーがここにいる? 後ろには魔法使いのジョルジュも立っていた。こいつは、ドルガーの腰ぎんちゃくだった。
「ど、どうして、君がここにいる? マリーさんはどうしたんだ?」
僕が聞くと、ドルガーはハエでも追っ払う仕草をしながら言った。
「あの占い師みてぇな女か? 俺の親父は、このランゼルフ・ギルドの社長だからよ。親父に命令してもらって、さっさとギルド長を辞めてもらった」
「で、どうして、ドルガーがここにいるんだよ?」
「分かり切ったことを聞くんじゃねえよ! ボケナス!」
ドガッ
ドルガーは机から足を降ろし、机を蹴っ飛ばした。
「俺がランゼルフ・ギルドのギルド長になったからだ! 親父にやってくれと言われたからな」
父親にやってくれ、と言われた? 本当は、僕の動向を探りにでも来たんじゃないのか……?
「ドルガー……君も十六歳のはずだ。ギルド長になるなんて、まだ早すぎないか」
僕が聞くと、ジョルジュがケラケラ笑って言った。
「ダナン君、君は頭が悪いですねえ。この国では、若い経営者がたくさんいるのを知らないんですか? 十五歳で武具店を開き、一億ルピーを稼ぎ出している人もいるんですよ」
「俺だって、流れにのらねぇとな! ワハハ」
ドルガーがジョルジュの言葉に、大きくうなずいた。
「魔物討伐業はどうしたんだ? 僕を追放しておいて」
僕が聞くと、ドルガーは機嫌が悪そうに答えた。
「当然、平行して続けるぜ? 文句あるのか」
そういえば、アイリーンはどうしたんだろう? 聞くべきか……? そう考えていると……。
「おい、ダナン。お前が魔法剣術の指導ができるなんて、まだ信じられねえなあ。話を聞くと、道場生が増えたらしい……じゃねえか」
「ああ、おかげさまで」
確かに僕が師範代になってから、魔法剣術道場の道場生は増加傾向にある。何だ、ドルガーはそんなことを気にしているのか。
ドルガーは舌打ちした。そのことが気に喰わないらしい。
「な、何か汚い方法で、道場生を引きつけてんのかぁ?」
「そ、そんなわけないだろ」
「ギルド長、そろそろお時間のようですよ」
ジョルジュがドルガーに静かに言った。僕の指導の時間だ。
「ちっ、しょうがねえな! おお──そういや……」
ドルガーはニヤリと笑って言った。
「今日は、新しい『お友達』がくるから、楽しみにしてな」
ん? どういうことだ? 新しい道場生か?
いや……何かありそうだ。僕は気を引き締めた。
◇ ◇ ◇
僕が魔法剣術の道場へ行くと、道場生たちがたくさん集まっていた。今日は男子、女子合同の指導だったな。
「やあ、待たせてごめん。今日は、中段構えからの練習を始めよう」
「はい!」
「わかりました!」
十五歳以下の道場生たちは、皆、素直だ。今日は三十名はいるな。
「皆、ダナン先生の言うことをよく聞くように!」
率先してそう声を出しているのは、女子部のモニカ・ルパードだ。
……いつのまにリーダーっぽい役割になっていたんだ……。
僕も木剣を用意して、説明した。
「皆、木剣を中段に構えよう。その時に、木剣をブラブラ上下させない。ピタッと正面で木剣を構える。なぜなら、上下にブラブラすると、隙ができて、簡単に敵が飛びこんでくるよ」
「はい!」
「もし実戦なら、顔、胴、手を、簡単に斬りつけられてしまう。それを防ぐためには、剣を中段の位置にピタリと保つ。これが鉄則だ」
僕が講義すると、皆、真剣に聞き入ってくれた。しかし、三名──道場の奥で座ってペチャクチャしゃべっているヤツらがいる。
あいつら! デリック、マーカス、ジョニーだ。
僕はつかつかと歩いていって、三人の前に立った。
「しゃべっているなら、道場から出てしゃべってくれるか」
僕はしっかりと注意した。
「本当に練習をしたい人に迷惑だ」
「すいませんでーす、先生。反省してまーす」
デリックがヘラヘラ笑って言った。とても反省しているとは思えない。
「でさぁ、ダナン先生。今日は先生に会わせたい人がいるんだよ」
「は? 誰だ? 新しい道場生か?」
「私だ」
うっ……!
僕はあわてて、うまく左手の松葉杖を使い、その場を飛びのいた。
「君がダナン君か? 私はパトリシア・ワードナス」
後ろには、僕と同年齢──十六歳か、十七歳くらいの、髪の毛が短い少女が立っていた。
し、しかし、すごい殺気だ。この少女──素人ではない。この道場生の新入生ってわけでもなさそうだ。
でも、顔立ちが整っていて、かなりの美少女だなぁ……。
「ダナン先生、こ、この人! 今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシア・ワードナスですよ!」
モニカが僕に耳打ちした。
「し、新聞や雑誌で見たことがあります」
僕は新聞や雑誌を見ないから、このパトリシアのことは知らなかった。だけど、どうやらかなり強い、少女魔法剣士のようだ。
だけど、何でランゼルフ・ギルドの道場にいるんだ?
「君がダナン君? 知人のドルガー君が、『ムカついてしょうがないヤツがいる』と言っていたので、このランゼルフ・ギルドに駆けつけたんだ。だけど……フッフッフ」
パトリシアはニヤニヤ笑った。
「君は体も小さいし、弱そうだし。何より松葉杖をついているのか……? 君と練習試合をしようと思ったが、これでは、きちんとした試合になりそうにないね」
そうか、さっきドルガーが言っていた、「新しいお友達」っていうのは、こいつか!
「でもまあ、私と勝負してみるかい? ドルガー君に、君をたたきのめせと頼まれてね」
パトリシアは、短い髪の毛をさらっとなでつけながら言った。
「絶対に、私には勝てないけど」
ドルガーの刺客か……! くそっ!
僕は周囲を見回した。道場生たちが、心配そうに僕を見ている。そ、そうか。僕はもう、師範代だったのだ。彼らの先生なんだ!
「パトリシア! この勝負、受けさせてもらう!」
僕はパトリシアに言った。
松葉杖の僕と、学生魔法剣術大会優勝者!
突如、試合をすることになってしまった!
ドルガーは、僕をにらみつけながら言った。足を机の上に投げ出して、とんでもなく態度が悪い。
一体、マリーさんはどこに行ったんだ? なぜドルガーがここにいる? 後ろには魔法使いのジョルジュも立っていた。こいつは、ドルガーの腰ぎんちゃくだった。
「ど、どうして、君がここにいる? マリーさんはどうしたんだ?」
僕が聞くと、ドルガーはハエでも追っ払う仕草をしながら言った。
「あの占い師みてぇな女か? 俺の親父は、このランゼルフ・ギルドの社長だからよ。親父に命令してもらって、さっさとギルド長を辞めてもらった」
「で、どうして、ドルガーがここにいるんだよ?」
「分かり切ったことを聞くんじゃねえよ! ボケナス!」
ドガッ
ドルガーは机から足を降ろし、机を蹴っ飛ばした。
「俺がランゼルフ・ギルドのギルド長になったからだ! 親父にやってくれと言われたからな」
父親にやってくれ、と言われた? 本当は、僕の動向を探りにでも来たんじゃないのか……?
「ドルガー……君も十六歳のはずだ。ギルド長になるなんて、まだ早すぎないか」
僕が聞くと、ジョルジュがケラケラ笑って言った。
「ダナン君、君は頭が悪いですねえ。この国では、若い経営者がたくさんいるのを知らないんですか? 十五歳で武具店を開き、一億ルピーを稼ぎ出している人もいるんですよ」
「俺だって、流れにのらねぇとな! ワハハ」
ドルガーがジョルジュの言葉に、大きくうなずいた。
「魔物討伐業はどうしたんだ? 僕を追放しておいて」
僕が聞くと、ドルガーは機嫌が悪そうに答えた。
「当然、平行して続けるぜ? 文句あるのか」
そういえば、アイリーンはどうしたんだろう? 聞くべきか……? そう考えていると……。
「おい、ダナン。お前が魔法剣術の指導ができるなんて、まだ信じられねえなあ。話を聞くと、道場生が増えたらしい……じゃねえか」
「ああ、おかげさまで」
確かに僕が師範代になってから、魔法剣術道場の道場生は増加傾向にある。何だ、ドルガーはそんなことを気にしているのか。
ドルガーは舌打ちした。そのことが気に喰わないらしい。
「な、何か汚い方法で、道場生を引きつけてんのかぁ?」
「そ、そんなわけないだろ」
「ギルド長、そろそろお時間のようですよ」
ジョルジュがドルガーに静かに言った。僕の指導の時間だ。
「ちっ、しょうがねえな! おお──そういや……」
ドルガーはニヤリと笑って言った。
「今日は、新しい『お友達』がくるから、楽しみにしてな」
ん? どういうことだ? 新しい道場生か?
いや……何かありそうだ。僕は気を引き締めた。
◇ ◇ ◇
僕が魔法剣術の道場へ行くと、道場生たちがたくさん集まっていた。今日は男子、女子合同の指導だったな。
「やあ、待たせてごめん。今日は、中段構えからの練習を始めよう」
「はい!」
「わかりました!」
十五歳以下の道場生たちは、皆、素直だ。今日は三十名はいるな。
「皆、ダナン先生の言うことをよく聞くように!」
率先してそう声を出しているのは、女子部のモニカ・ルパードだ。
……いつのまにリーダーっぽい役割になっていたんだ……。
僕も木剣を用意して、説明した。
「皆、木剣を中段に構えよう。その時に、木剣をブラブラ上下させない。ピタッと正面で木剣を構える。なぜなら、上下にブラブラすると、隙ができて、簡単に敵が飛びこんでくるよ」
「はい!」
「もし実戦なら、顔、胴、手を、簡単に斬りつけられてしまう。それを防ぐためには、剣を中段の位置にピタリと保つ。これが鉄則だ」
僕が講義すると、皆、真剣に聞き入ってくれた。しかし、三名──道場の奥で座ってペチャクチャしゃべっているヤツらがいる。
あいつら! デリック、マーカス、ジョニーだ。
僕はつかつかと歩いていって、三人の前に立った。
「しゃべっているなら、道場から出てしゃべってくれるか」
僕はしっかりと注意した。
「本当に練習をしたい人に迷惑だ」
「すいませんでーす、先生。反省してまーす」
デリックがヘラヘラ笑って言った。とても反省しているとは思えない。
「でさぁ、ダナン先生。今日は先生に会わせたい人がいるんだよ」
「は? 誰だ? 新しい道場生か?」
「私だ」
うっ……!
僕はあわてて、うまく左手の松葉杖を使い、その場を飛びのいた。
「君がダナン君か? 私はパトリシア・ワードナス」
後ろには、僕と同年齢──十六歳か、十七歳くらいの、髪の毛が短い少女が立っていた。
し、しかし、すごい殺気だ。この少女──素人ではない。この道場生の新入生ってわけでもなさそうだ。
でも、顔立ちが整っていて、かなりの美少女だなぁ……。
「ダナン先生、こ、この人! 今年、学生魔法剣術大会で優勝した、パトリシア・ワードナスですよ!」
モニカが僕に耳打ちした。
「し、新聞や雑誌で見たことがあります」
僕は新聞や雑誌を見ないから、このパトリシアのことは知らなかった。だけど、どうやらかなり強い、少女魔法剣士のようだ。
だけど、何でランゼルフ・ギルドの道場にいるんだ?
「君がダナン君? 知人のドルガー君が、『ムカついてしょうがないヤツがいる』と言っていたので、このランゼルフ・ギルドに駆けつけたんだ。だけど……フッフッフ」
パトリシアはニヤニヤ笑った。
「君は体も小さいし、弱そうだし。何より松葉杖をついているのか……? 君と練習試合をしようと思ったが、これでは、きちんとした試合になりそうにないね」
そうか、さっきドルガーが言っていた、「新しいお友達」っていうのは、こいつか!
「でもまあ、私と勝負してみるかい? ドルガー君に、君をたたきのめせと頼まれてね」
パトリシアは、短い髪の毛をさらっとなでつけながら言った。
「絶対に、私には勝てないけど」
ドルガーの刺客か……! くそっ!
僕は周囲を見回した。道場生たちが、心配そうに僕を見ている。そ、そうか。僕はもう、師範代だったのだ。彼らの先生なんだ!
「パトリシア! この勝負、受けさせてもらう!」
僕はパトリシアに言った。
松葉杖の僕と、学生魔法剣術大会優勝者!
突如、試合をすることになってしまった!