僕はダナン。ダナン・アンテルド。
僕がランゼルフ・ギルドで師範代を始めてから、約一ヶ月が経った。
ランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場は、今や道場生が四十九名になっている。
たった十名だった、一ヶ月前とはえらい違いだ……。
「さてと、やっと着いた」
僕は馬車から松葉杖をついて降り立った。ここは、隣町のマルスタという港町だ。
その町のマルスタ・ギルドで、急遽、魔法剣術を教えることになった。
マルスタ・ギルドの師範が急病になったため、マリーさんの紹介で、臨時で助けにいくことになってしまったのだ。
◇ ◇ ◇
「今日は、魔法剣術の基礎の一つ、魔法の発動の仕方について説明します」
僕は、マルスタ・ギルドにある魔法剣術道場の、少年少女部の道場生たちにいった。
ここは、マルスタ・ギルドの道場の庭。
約二十名の道場生たちが、真剣に僕の指導を見ている。
「皆さんの体には、七つの『門』があると想像してください」
僕は皆に説明した。
あれから魔法剣術をかなり勉強した。このように説明できるのは、【スキル・英雄王の戦術眼】のおかげでもあったが。
「七つの門は、魔法剣術の達人だと、だいたい三つくらい開いています。それ以上の人は英雄、偉人レベルですね」
「門ってどこにあるの?」
道場生から質問が飛んできた。僕は答えた。
「この門はね、見えないんだよ。お尻の下、お腹、へそ、胸、のど、眉と眉の間、頭の中にあると、想像してください」
この門とは、想像上のものだ。しかし、魔法使いや賢者、霊能者など、「霊視」ができる人には見えるという。開いている門が多ければ多いほど、剣術の能力が発達しているというわけだ。
「ないのに、あるの?」
「そう。一つ目の門が開いているイメージで、魔法を放つと──こうなります」
僕の体に、空中から魔力が集まってきた。
「はあっ!」
僕は氷の魔法を、松葉杖をついていない右手で、庭に設置された練習用人形に向かって放った。
ビキイッ
練習用人形は、一瞬にして、氷漬けになった。
道場生から、歓声があがる。
魔法は、僕がマリーさんからスキルを開花させてもらって、放てるようになった。
「わあー」
「あれが魔法なんだね」
「人形が凍っちゃった!」
道場生の子どもたちは、驚きの顔で僕と練習用人形を見た。
僕はすぐに、持参してきた魔力模擬刀を取り出した。
この武器は主に対人試合で使用され、実際には人を斬ることはできない。魔法の刃で斬るわけだ。斬った人体の部分は痺れるだけで、無殺傷の魔法武具だ。
そして、その魔力模擬刀に雷の魔法を放出し──。
「魔法剣──雷龍斬!」
バリイイッ
片手で、さっき凍った練習用人形とは別の練習用人形に、叩き込む。
すると練習用人形は帯電し、バリバリと音を立てて煙を発した。
この魔法剣は対人試合で使えるかどうかは、ルール次第だ。だが、道場生には見せておいたほうが勉強になるだろう。
「わーっ」
「雷の魔法剣だ」
「カッコイイ!」
道場生たちは目を輝かせて、僕を見た。
僕はこの不自由な右足のおかげで、戦う力はないが、こうやって人に教えることができる。
エクストラ・スキルの【大天使の治癒】で一時的に右足を治すことはできるようだが、それは自分の意志ではできない。【大天使の治癒】が勝手に、その「時」を選ぶ。残念だけど。
「ねえ、どうやるの?」
「先生、教えて」
僕の実演は、子どもたちに良い影響を与えたようだ。
さっきの魔法と魔法剣を見せた後、質問攻めにあった。
◇ ◇ ◇
「とても良い指導だったよ、ダナン君!」
指導後、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏が言った。ヒゲの太った中年男性で、気の良さそうなまん丸な顔をしている。
「君は指導がすごく丁寧だ。自分で道場生に、魔法剣術を実演して見せているし、分かりやすい。実は今、休んでいる魔法剣術の師範のバンスリーさんは、大酒のみでさ」
「ああ……剣術の先生って、お酒を飲んでいる人が多いですよね」
「そうなんだ。まともに指導しないんだよ。口では道場生に、ああしろ、こうしろと言って、自分じゃ何もしない。『今日は調子が悪い』とか言っちゃってさ」
「うーん、そういう人、いますね」
「何しろ、魔物討伐から引退した魔法剣士が多いだろ。気持ちもだらけちゃっているのさ。だが、今日の道場生は、目の輝きが違った。君の指導のおかげだよ」
僕は照れくさかった。
ブーリン氏は、僕に謝礼の封筒を手渡しながら言った。
「何回か、来てくれると嬉しいんだけどね」
「はい……あれっ? 五万ルピーも入っているじゃないですか。三万ルピーの約束でしたが……」
「感謝の気持ちだよ。受け取ってくれ。また来てよ、頼むよ」
「あ、ありがとうございます」
僕は多めの謝礼を受け取り、馬車でランゼルフ・ギルドに帰った。
◇ ◇ ◇
ところが、ランゼルフ・ギルドに到着すると、事務員になったポルーナさんが僕の方に走り寄ってきた。この間、マリーさんに無理矢理、魔法剣術の師範代にされてしまった女性だ。
「た、大変なのよ、ダナン君! マリーさんが!」
「ど、どうしたんですか?」
「ギルド長をやめさせられちゃったのよ~!」
「えっ! そうなんですか?」
驚いた。僕の恩人ともいえるマリーさんが、ギルド長をやめさせられるなんて? ん? となると、今のギルド長は……。
「でね、さっき新しいギルド長が就任したの。すぐにギルド長室に挨拶に行って」
「え? あ、はい」
僕は急いでギルド長室に駆けこんだ。
そこには、見覚えのある少年が、椅子に偉そうに座っていた。
勇者、ドルガー・マックス……!
僕を魔物討伐隊から追放した男だった!
僕がランゼルフ・ギルドで師範代を始めてから、約一ヶ月が経った。
ランゼルフ・ギルドの魔法剣術道場は、今や道場生が四十九名になっている。
たった十名だった、一ヶ月前とはえらい違いだ……。
「さてと、やっと着いた」
僕は馬車から松葉杖をついて降り立った。ここは、隣町のマルスタという港町だ。
その町のマルスタ・ギルドで、急遽、魔法剣術を教えることになった。
マルスタ・ギルドの師範が急病になったため、マリーさんの紹介で、臨時で助けにいくことになってしまったのだ。
◇ ◇ ◇
「今日は、魔法剣術の基礎の一つ、魔法の発動の仕方について説明します」
僕は、マルスタ・ギルドにある魔法剣術道場の、少年少女部の道場生たちにいった。
ここは、マルスタ・ギルドの道場の庭。
約二十名の道場生たちが、真剣に僕の指導を見ている。
「皆さんの体には、七つの『門』があると想像してください」
僕は皆に説明した。
あれから魔法剣術をかなり勉強した。このように説明できるのは、【スキル・英雄王の戦術眼】のおかげでもあったが。
「七つの門は、魔法剣術の達人だと、だいたい三つくらい開いています。それ以上の人は英雄、偉人レベルですね」
「門ってどこにあるの?」
道場生から質問が飛んできた。僕は答えた。
「この門はね、見えないんだよ。お尻の下、お腹、へそ、胸、のど、眉と眉の間、頭の中にあると、想像してください」
この門とは、想像上のものだ。しかし、魔法使いや賢者、霊能者など、「霊視」ができる人には見えるという。開いている門が多ければ多いほど、剣術の能力が発達しているというわけだ。
「ないのに、あるの?」
「そう。一つ目の門が開いているイメージで、魔法を放つと──こうなります」
僕の体に、空中から魔力が集まってきた。
「はあっ!」
僕は氷の魔法を、松葉杖をついていない右手で、庭に設置された練習用人形に向かって放った。
ビキイッ
練習用人形は、一瞬にして、氷漬けになった。
道場生から、歓声があがる。
魔法は、僕がマリーさんからスキルを開花させてもらって、放てるようになった。
「わあー」
「あれが魔法なんだね」
「人形が凍っちゃった!」
道場生の子どもたちは、驚きの顔で僕と練習用人形を見た。
僕はすぐに、持参してきた魔力模擬刀を取り出した。
この武器は主に対人試合で使用され、実際には人を斬ることはできない。魔法の刃で斬るわけだ。斬った人体の部分は痺れるだけで、無殺傷の魔法武具だ。
そして、その魔力模擬刀に雷の魔法を放出し──。
「魔法剣──雷龍斬!」
バリイイッ
片手で、さっき凍った練習用人形とは別の練習用人形に、叩き込む。
すると練習用人形は帯電し、バリバリと音を立てて煙を発した。
この魔法剣は対人試合で使えるかどうかは、ルール次第だ。だが、道場生には見せておいたほうが勉強になるだろう。
「わーっ」
「雷の魔法剣だ」
「カッコイイ!」
道場生たちは目を輝かせて、僕を見た。
僕はこの不自由な右足のおかげで、戦う力はないが、こうやって人に教えることができる。
エクストラ・スキルの【大天使の治癒】で一時的に右足を治すことはできるようだが、それは自分の意志ではできない。【大天使の治癒】が勝手に、その「時」を選ぶ。残念だけど。
「ねえ、どうやるの?」
「先生、教えて」
僕の実演は、子どもたちに良い影響を与えたようだ。
さっきの魔法と魔法剣を見せた後、質問攻めにあった。
◇ ◇ ◇
「とても良い指導だったよ、ダナン君!」
指導後、マルスタ・ギルドのギルド長、ブーリン氏が言った。ヒゲの太った中年男性で、気の良さそうなまん丸な顔をしている。
「君は指導がすごく丁寧だ。自分で道場生に、魔法剣術を実演して見せているし、分かりやすい。実は今、休んでいる魔法剣術の師範のバンスリーさんは、大酒のみでさ」
「ああ……剣術の先生って、お酒を飲んでいる人が多いですよね」
「そうなんだ。まともに指導しないんだよ。口では道場生に、ああしろ、こうしろと言って、自分じゃ何もしない。『今日は調子が悪い』とか言っちゃってさ」
「うーん、そういう人、いますね」
「何しろ、魔物討伐から引退した魔法剣士が多いだろ。気持ちもだらけちゃっているのさ。だが、今日の道場生は、目の輝きが違った。君の指導のおかげだよ」
僕は照れくさかった。
ブーリン氏は、僕に謝礼の封筒を手渡しながら言った。
「何回か、来てくれると嬉しいんだけどね」
「はい……あれっ? 五万ルピーも入っているじゃないですか。三万ルピーの約束でしたが……」
「感謝の気持ちだよ。受け取ってくれ。また来てよ、頼むよ」
「あ、ありがとうございます」
僕は多めの謝礼を受け取り、馬車でランゼルフ・ギルドに帰った。
◇ ◇ ◇
ところが、ランゼルフ・ギルドに到着すると、事務員になったポルーナさんが僕の方に走り寄ってきた。この間、マリーさんに無理矢理、魔法剣術の師範代にされてしまった女性だ。
「た、大変なのよ、ダナン君! マリーさんが!」
「ど、どうしたんですか?」
「ギルド長をやめさせられちゃったのよ~!」
「えっ! そうなんですか?」
驚いた。僕の恩人ともいえるマリーさんが、ギルド長をやめさせられるなんて? ん? となると、今のギルド長は……。
「でね、さっき新しいギルド長が就任したの。すぐにギルド長室に挨拶に行って」
「え? あ、はい」
僕は急いでギルド長室に駆けこんだ。
そこには、見覚えのある少年が、椅子に偉そうに座っていた。
勇者、ドルガー・マックス……!
僕を魔物討伐隊から追放した男だった!