俺はゼント・ラージェント。ゲルドン杯格闘トーナメントで優勝した。

 俺はグランバーン王との、謁見式(えっけんしき)を行っている。今、俺がいるバルコニーの下の屋外広場には、1万人以上の観衆が集まってきていた──。

 そこに、後ろの扉からグランバーン王が入ってきた。

 そのグランバーン王は……! 

「あ、あなたは!」

 俺は目を丸くした。グランバーン王は、俺が知っている人だったからだ。

「わしだよ、わし!」

 グランバーン王は、グワシッと俺の肩を(つか)んだ。

「ワッハッハ! ゲルドン杯格闘トーナメントの優勝者は君だったか! ゼント・ラージェントよ」
「まさか、あなただとは……」

 俺は驚いて、呆然となった。

 何と、グランバーン王は、マール村の質屋で、俺の子ども部屋にあった本を買い取ってくれた、あの金持ち老人だった。100万ルピーで買い取ってくれたっけ……。

「マ、マール村の質屋では、お世話になりました」
「うむ、あの時は休暇(きゅうか)でな。お(しの)びで、趣味の古書めぐりをしていた時だったのじゃ」
「まさか、あなたが王様だとは……」
「そのまさかじゃよ! ワハハハハ!」

 グランバーン王はワッハッハと笑っている。俺はもう、あの質屋で失礼がなかったか、心配で仕方がなかった。

 でも、笑っているから大丈夫か……。

「いや~、しかし、あの質屋にいた君が、この国民的イベントの優勝者か。すごいことだのぉ~」

 グランバーン王は豪快に笑い、また言った。

「ゼントよ。ゲルドン杯格闘トーナメントは、全国民が注目する格闘技イベントとなった。セバスチャンの一戦は、大変なことであっただろう。──というわけで皆の者!」

 グランバーン王は、眼下の観衆たちに向かって叫んだ。

『この勇気あるゼント・ラージェントに、我が国から報奨金(ほうしょうきん)を差し上げようと思う!』

 ウオオオオーッ

 観衆たちは歓声を上げた。

 王の執事(しつじ)、マクダニエル氏は、王に魔導拡声器(まどうかくせいき)を向けている。グランバーン王の声が大きくなり、はっきり観衆に聞こえ渡っている。

『では、皆に聞きたい! ゼントへの報奨金(ほうしょうきん)はいくらが良いかな?』

 グランバーン王が観衆に聞くと、下から、「500万ルピー!」「200万ルピー!」「800万!」「家一軒!」「食べ物のほうがいいんじゃねーのか?」などと声が上がった。

 ……競売じゃないんだから……と俺はツッコミたくなったが。ってうか、盛り上げ方が上手いな、この王様……。

「それでな、ゼントよ、副賞なんだが……」
「副賞?」
「うむ、君には、ジパンダルへ行ってほしいのだ」

 王様が静かに言った。

 え? ジ、ジパンダル~?

「で、でも、ジパンダルって、幻の国といわれていて、本当にはない国じゃないんですか?」

 俺があわてて聞くと、王はひょうひょうと答えた。

「ん? ジパンダルは最近見つかったぞ」
「は?」
「いや、だから、実際にジパンダルを見つけたんだよ。我がグランバーン王国の国王直属捜索隊(そうさくたい)が!」
「えええ~!」

 マジか……。

『で、だな。ゼント! 君はグランバーン王国国民を代表して、ジパンダルの武闘家(ぶとうか)たちに会いにいってきてくれないか!』

 グランバーン王はすごいことを言っている。魔導拡声器(まどうかくせいき)のでかい声で、観衆にも聞こえるように言った。

「すげえ!」
「ジパンダルかよ!」
「幻の国じゃなかったのか~!」

 観衆はまた、ドオオッと盛り上がっている。

『ジパンダルには、恐ろしく強い武闘家(ぶとうか)がゴロゴロいるらしいのだ。我が国からは、君のような強い人間を紹介したい! ゼント、外交官(がいこうかん)のような役割だが、引き受けてくれるな?」
「が、外交官(がいこうかん)~!」

 えーっと……俺は少し迷ったが、言った。

「い、行っちゃおうかな~……」
『というわけだ! ゼント・ラージェントは、ジパンダルへ行くぞ~!』

 グランバーン王は観衆へ向かって叫んだ!

 ドオオオオオッと、観衆は大盛り上がりだ。

 俺は幻の国とされていた、ジパンダルへ行くことになった。俺は苦笑いしたが、とてもワクワクしていた。

 ◇ ◇ ◇

 数ヶ月後……。俺は船の上にいた。周囲は海だ。

 俺たちは、船旅に出ている。2ヶ月以上の長旅だ。周囲は海。向こうには島国が見える。

 どこへの旅行かと言うと……あのジパンダルだ!

 今回の旅行には、仲間たちがついてきてくれた。ミランダさん、エルサ、ローフェン、アシュリーたちだ。

 例の謁見式(えっけんしき)の後、グランバーン王国は、幻の国(とされていた)ジパンダルと国交を始めたと、正式に発表した。王国民は全員、ひっくり返ったと思う。おとぎ話に出てくる、実際にはない国だと思われえていたジパンダルと、実際に国交を結んでしまったのだから。

 島国だというジパンダルの場所は、グランバーン王国から(はる)か東に1万キロメートルの場所にある。これがグランバーン王国の正式な発表だ。
 王国民には、ジパンダルブームが起こっている。

(あれが、ジパンダルか)

 俺たちは船の甲板の上で、ついに、ジパンダルという島国を見た。まず俺たちが、船の上から見たのは、素晴らしい、本当に美しい一つの山だった。

「うわああーっ! すっごーい! あの山、ゼントさん、見て!」

 アシュリ―は俺の腕を(つか)んで叫んだ。アシュリーは、最近、もう遠慮なく何でも話してくる。

 その美しい山の正式名は、「不死鳥山(ふしちょうさん)」だそうだ。不死(ふし)の山と異名(いみょう)をとる山らしい。

「おー、すげぇ! これが不死鳥山(ふしちょうさん)かよぉー、でけえなあー、きれいだなー」

 ローフェンが声を上げる。隣にはローフェンのアバラを看病してくれた、女性看護師さんがいる。付き合って1ヶ月らしい。

「結婚式は、このジパンダルであげようかなー。誰かさんと」

 エルサは俺と並びながら言った。エルサの顔は真っ赤だ。

「ゼント君、ジパンダルの武闘家(ぶとうか)たちに会ってみましょう」

 ミランダさんが言った。

「素晴らしい武闘家(ぶとうか)たちがいるという(うわさ)よ。私も会いたいわ……。まず、ジパンダルの首都に行ってみましょうよ」

 俺は深くうなずいた。どんな武闘家(ぶとうか)に出会えるのだろう? どんな出会いが待っているのだろう?

 俺は引きこもりだった。20年間も引きこもっていた。その時の俺と、今の俺は、中身はたいして変わっていない。グズで甘えん坊で、悩んでばっかりいる俺だ。

 ただ、今は周囲に愛があふれていた。

【第一部 完】