セバスチャンは「歴戦の魔闘神」となった。一方、俺はスキル「歴戦の武闘王」を持っている。
(宿命の対決……というわけだ。だが、アシュリーは返してもらうぞ、セバスチャン!)
俺は決意した。
セバスチャンの帯の左には、念じ刃という武器が、鞘に入っておさめられている。念じ刃は、念で作られている剣──刀状の武器だ。
念でできていると言っても、ほぼ物質化しているように見える。
審判団は、それを見て見ぬフリをしている。やはり、セバスチャンはこのトーナメントの最高責任者であり、武闘家連盟会長だから、一切口出しできないらしい。
セバスチャンは俺をじっと見る。
(う、うおおおっ……、こ、この感覚は!)
こ、これが念じ刃という刃物と相対する、ということなのか。斬られる恐れ、不安、そして強敵と闘える不可思議な喜び、感謝──ごちゃまぜの感情が俺の頭の中を駆け巡っている。
「くくくっ……。素手の君が、念じ刃を持った私に、勝てるわけがない。切り刻んでくれよう、ゼント君」
セバスチャンはクスクス笑った。
カチャリ
セバスチャンは、反物質化した念じ刃の鍔に親指をかけ、すべらせる。右手で念じ刃を引き抜こうとしている。
スッ
最初はそんな音がしたと思った。
念じ刃を引き抜──……いや、引き抜いていない! 手だけ、念じ刃を引き抜くフリをしただけだ! しかしその後──。
ブアアアアッ
本当に念じ刃を抜き、横に払った!
「うおおっ!」
俺は思わず前転して、それを避ける!
念じ刃を抜く……と見せかけて、二回目で? こ、これは「歴戦の魔闘神」の技術か! セバスチャンはつぶやくように、技の名を言った。
「秘剣──騙し払い──」
カチャッ
セバスチャンは納刀──念じ刃を鞘に戻してしまった。
俺は立ち上がり、横に移動する。
その瞬間、セバスチャンは素早く念じ刃を抜き、何と前に突き刺してきた! 刃の裏部分に手の甲を添え、刃先がブレないようにしている!
俺は、今度は後ろに飛んで、それをかわす!
「ゼント君、血まみれになる前に、『まいった』をしてもよかろう」
セバスチャンはまた笑う。
「そうすれば、命は助けてやる。私としてはもっと闘いを楽しみたいが」
誰が、「まいった」なんか、するもんか! 俺は勝つ!
またセバスチャンは納刀。しかし、俺はその瞬間を見逃さなかった!
ガスウッ
俺の左ジャブ!
セバスチャンの頬に当たった! しかし、俺は近づきすぎた?
「隙ありだ! ゼント君!」
セバスチャンは構わず、今度は何と、素早く念じ刃を引き抜き、リングに直角に刺してきた! お、俺の左足の甲を刺そうとした。
そ、それはうまいこと外れた。
しかし、続けてセバスチャンの上段斬り!
バサッ
俺の武闘着の袖を斬っただけだ!
「何! かわすとは!」
セバスチャンは声を上げた。そして──俺は素早く踏み込み──。
ドボオッ
セバスチャンの腹に、左ボディーブローを入れた!
「ぐへ」
続けて、左フック!
ガスッ
彼は念じ刃を持っているから、逆にまともな防御ができないのだ。
セバスチャンはフラつき、立っているだけで精一杯だった。
しかし、彼の手には念じ刃がある。油断したら、一撃でやられる。それが恐ろしい!
「貴様あ……ゼントォ……!」
セバスチャンは怒り狂った目で、俺をにらみつけている。
「ふうっ」
俺は息が切れてきた。この緊張感の中だ、体力の消費が速い!
しかし、セバスチャンにも打撃は効いている。
念じ刃の3回目の納刀は──しない!
セバスチャンは念じ刃を自分に引き寄せ、脇を締め、構える。
ここしかない!
「ゆるさん! 斬られた痛みで、悶え苦しめ! ゼント!」
セバスチャンは本性を表した。
上段から斬る──と見せかけて、何と、念じ刃を下から斬り上げてきた!
だが、俺はその前に、素早く接近していたのだ。
パシッ
念じ刃を持った手首を掴む!
「まさか!」
セバスチャンが声を上げた時、俺は──。
ガッシイッ
セバスチャンのアゴに、左ストレートを決めていた。
セバスチャンは念じ刃を落とした。物質化しているから、ガラン、と音がした。
「ううっ?」
セバスチャンは驚きの声を上げる。
そしてそのまま、念じ刃は消えてしまった……。
「あ、う、う」
セバスチャンは俺を見て、一歩後退する。
俺は前進して、左ジャブ! セバスチャンの頬をかすめる。セバスチャンも、あわてたように右ストレート! 俺はそれを手で受け、前蹴り! セバスチャンは膝でそれを受け止めた。
そして、セバスチャンの上から振り下ろすような、変形右フック! 軌道が独特だ! こんなパンチを隠し持っていたのか?
ガシイッ
俺は、左アッパーを、セバスチャンのアゴに決めていた。逆に俺は、セバスチャンの変形右フックをよけていた。
セバスチャンはフラつきながら、笑う。彼は倒れない。
「さ、す、が、ですね」
ゆらり
セバスチャンが横に移動する。
カッ
セバスチャンは目を見開き、力を振り絞って──今度は上からの変形左フック!
ここだ──俺は、それを待っていた。
俺は一歩踏み込み、全身全霊の力を込め──。
彼のアゴに、右手の平の下部を使った打撃──! 右掌底を放った!
グワシイイイイッ
「ガフ」
そんな声とともに、セバスチャンのアゴに俺の右掌底が叩き込まれた。
完全なカウンター攻撃……! セバスチャンのアゴをとらえていた。
「そ、そんな……。まさか……この私が」
彼はそうつぶやきながら、フラつき、片膝を──ついた!
そして……リング上の全身を突っ伏した。
「ああ……」
「ついに」
「ど、どうなった?」
観客たちが静かにざわめく。
リング外の審判団が、白魔法医師たちの方を見る。白魔法医師は、バツの字を作って、首を横に振る。
カンカンカン
乾いた金属音──試合終了のゴングの音がした。そして──。
『16分20秒! KO勝ちで、ゼント・ラージェントの勝ち!』
スタジアム全体に、放送が──審判長の声が響き渡った。
『ゼント・ラージェント選手の優勝です!」
ドオオオオオオオオッ
「きたあああああああーっ!」
「完全決着だああああ!」
「ゼント、すげええええ!」
「やりやがったあ!」
「すげえ試合を観たああ!」
あまりの歓声に、スタジアムが揺れたように思えた。
「やったあああ!」
エルサがリング上に上がってきて、俺に抱きつく。
「ゼント、おめでとう!」
一方、セバスチャンは座り込んで、呆然としている。まあ、そっとしておこう。
おや? スタジアムの奥……花道の方から大勢の軍人がやってきた。
「ええっ? あれは、国王親衛隊よ!」
エルサが声を上げた。
20名はいるだろうか? 軍隊の正装をしている。彼らはリングサイドに近づいた。そして彼ら20名をかきわけて、一人の少女が前に進み出た。
「ゼントさん!」
アシュリ―だ!
ほおおお……っ! 俺とエルサは、やっと息をついた。無事だったかぁ……。
俺はエルサとともにリング下に降りて、アシュリーに聞いた。
「アシュリー! 怪我はないか?」
「平気だよ。国王親衛隊の人たちが助けてくれたんです」
「どこにいたんだ?」
「二階の来賓客用観戦室です! ゼントさんの試合もきちんと観れました!」
アシュリ―が言うと、エルサがうなった。
「そうか……。来賓席だと、貴族や王族の人たちが入る場所だから、皆、入り辛いものね。見つけるのに、時間がかかったわけか」
「赤鬼さんが、お菓子を一杯くれたんですよ」
アシュリ―が小声で言う。
一応、アレキダロスや赤鬼たちは、アシュリーを丁重に扱ったわけか。まあ、ゆるせんけど。
すると、国王親衛隊たちがまた、6名、俺の目の前にきた。彼らは白仮面の大魔導士──アレキダロスと赤鬼を連れて歩いてきた。アレキダロスと赤鬼の手首には、手錠がはめられている。
「私は副親衛隊長のアルフォ・マリウです。このアレキダロスが、アシュリーさんを拉致した、真の計画者であります。よろしければ、仮面の中の正体を見ていただきたいと思います。あなた方が知っている人物か、見てもらうためです」
俺は戸惑ったが、うなずいた。
「おい、やれ」
マリウ副親衛隊長は、アレキダロスの仮面に手をかけた。アレキダロスは抵抗しなかった。仮面は簡単に外れた。
「あああっ!」
俺とエルサは、同時に声を上げた。
アレキダロスは……! アレキダロスの正体は、俺の、俺たちの知っている人物だったからだ。
(宿命の対決……というわけだ。だが、アシュリーは返してもらうぞ、セバスチャン!)
俺は決意した。
セバスチャンの帯の左には、念じ刃という武器が、鞘に入っておさめられている。念じ刃は、念で作られている剣──刀状の武器だ。
念でできていると言っても、ほぼ物質化しているように見える。
審判団は、それを見て見ぬフリをしている。やはり、セバスチャンはこのトーナメントの最高責任者であり、武闘家連盟会長だから、一切口出しできないらしい。
セバスチャンは俺をじっと見る。
(う、うおおおっ……、こ、この感覚は!)
こ、これが念じ刃という刃物と相対する、ということなのか。斬られる恐れ、不安、そして強敵と闘える不可思議な喜び、感謝──ごちゃまぜの感情が俺の頭の中を駆け巡っている。
「くくくっ……。素手の君が、念じ刃を持った私に、勝てるわけがない。切り刻んでくれよう、ゼント君」
セバスチャンはクスクス笑った。
カチャリ
セバスチャンは、反物質化した念じ刃の鍔に親指をかけ、すべらせる。右手で念じ刃を引き抜こうとしている。
スッ
最初はそんな音がしたと思った。
念じ刃を引き抜──……いや、引き抜いていない! 手だけ、念じ刃を引き抜くフリをしただけだ! しかしその後──。
ブアアアアッ
本当に念じ刃を抜き、横に払った!
「うおおっ!」
俺は思わず前転して、それを避ける!
念じ刃を抜く……と見せかけて、二回目で? こ、これは「歴戦の魔闘神」の技術か! セバスチャンはつぶやくように、技の名を言った。
「秘剣──騙し払い──」
カチャッ
セバスチャンは納刀──念じ刃を鞘に戻してしまった。
俺は立ち上がり、横に移動する。
その瞬間、セバスチャンは素早く念じ刃を抜き、何と前に突き刺してきた! 刃の裏部分に手の甲を添え、刃先がブレないようにしている!
俺は、今度は後ろに飛んで、それをかわす!
「ゼント君、血まみれになる前に、『まいった』をしてもよかろう」
セバスチャンはまた笑う。
「そうすれば、命は助けてやる。私としてはもっと闘いを楽しみたいが」
誰が、「まいった」なんか、するもんか! 俺は勝つ!
またセバスチャンは納刀。しかし、俺はその瞬間を見逃さなかった!
ガスウッ
俺の左ジャブ!
セバスチャンの頬に当たった! しかし、俺は近づきすぎた?
「隙ありだ! ゼント君!」
セバスチャンは構わず、今度は何と、素早く念じ刃を引き抜き、リングに直角に刺してきた! お、俺の左足の甲を刺そうとした。
そ、それはうまいこと外れた。
しかし、続けてセバスチャンの上段斬り!
バサッ
俺の武闘着の袖を斬っただけだ!
「何! かわすとは!」
セバスチャンは声を上げた。そして──俺は素早く踏み込み──。
ドボオッ
セバスチャンの腹に、左ボディーブローを入れた!
「ぐへ」
続けて、左フック!
ガスッ
彼は念じ刃を持っているから、逆にまともな防御ができないのだ。
セバスチャンはフラつき、立っているだけで精一杯だった。
しかし、彼の手には念じ刃がある。油断したら、一撃でやられる。それが恐ろしい!
「貴様あ……ゼントォ……!」
セバスチャンは怒り狂った目で、俺をにらみつけている。
「ふうっ」
俺は息が切れてきた。この緊張感の中だ、体力の消費が速い!
しかし、セバスチャンにも打撃は効いている。
念じ刃の3回目の納刀は──しない!
セバスチャンは念じ刃を自分に引き寄せ、脇を締め、構える。
ここしかない!
「ゆるさん! 斬られた痛みで、悶え苦しめ! ゼント!」
セバスチャンは本性を表した。
上段から斬る──と見せかけて、何と、念じ刃を下から斬り上げてきた!
だが、俺はその前に、素早く接近していたのだ。
パシッ
念じ刃を持った手首を掴む!
「まさか!」
セバスチャンが声を上げた時、俺は──。
ガッシイッ
セバスチャンのアゴに、左ストレートを決めていた。
セバスチャンは念じ刃を落とした。物質化しているから、ガラン、と音がした。
「ううっ?」
セバスチャンは驚きの声を上げる。
そしてそのまま、念じ刃は消えてしまった……。
「あ、う、う」
セバスチャンは俺を見て、一歩後退する。
俺は前進して、左ジャブ! セバスチャンの頬をかすめる。セバスチャンも、あわてたように右ストレート! 俺はそれを手で受け、前蹴り! セバスチャンは膝でそれを受け止めた。
そして、セバスチャンの上から振り下ろすような、変形右フック! 軌道が独特だ! こんなパンチを隠し持っていたのか?
ガシイッ
俺は、左アッパーを、セバスチャンのアゴに決めていた。逆に俺は、セバスチャンの変形右フックをよけていた。
セバスチャンはフラつきながら、笑う。彼は倒れない。
「さ、す、が、ですね」
ゆらり
セバスチャンが横に移動する。
カッ
セバスチャンは目を見開き、力を振り絞って──今度は上からの変形左フック!
ここだ──俺は、それを待っていた。
俺は一歩踏み込み、全身全霊の力を込め──。
彼のアゴに、右手の平の下部を使った打撃──! 右掌底を放った!
グワシイイイイッ
「ガフ」
そんな声とともに、セバスチャンのアゴに俺の右掌底が叩き込まれた。
完全なカウンター攻撃……! セバスチャンのアゴをとらえていた。
「そ、そんな……。まさか……この私が」
彼はそうつぶやきながら、フラつき、片膝を──ついた!
そして……リング上の全身を突っ伏した。
「ああ……」
「ついに」
「ど、どうなった?」
観客たちが静かにざわめく。
リング外の審判団が、白魔法医師たちの方を見る。白魔法医師は、バツの字を作って、首を横に振る。
カンカンカン
乾いた金属音──試合終了のゴングの音がした。そして──。
『16分20秒! KO勝ちで、ゼント・ラージェントの勝ち!』
スタジアム全体に、放送が──審判長の声が響き渡った。
『ゼント・ラージェント選手の優勝です!」
ドオオオオオオオオッ
「きたあああああああーっ!」
「完全決着だああああ!」
「ゼント、すげええええ!」
「やりやがったあ!」
「すげえ試合を観たああ!」
あまりの歓声に、スタジアムが揺れたように思えた。
「やったあああ!」
エルサがリング上に上がってきて、俺に抱きつく。
「ゼント、おめでとう!」
一方、セバスチャンは座り込んで、呆然としている。まあ、そっとしておこう。
おや? スタジアムの奥……花道の方から大勢の軍人がやってきた。
「ええっ? あれは、国王親衛隊よ!」
エルサが声を上げた。
20名はいるだろうか? 軍隊の正装をしている。彼らはリングサイドに近づいた。そして彼ら20名をかきわけて、一人の少女が前に進み出た。
「ゼントさん!」
アシュリ―だ!
ほおおお……っ! 俺とエルサは、やっと息をついた。無事だったかぁ……。
俺はエルサとともにリング下に降りて、アシュリーに聞いた。
「アシュリー! 怪我はないか?」
「平気だよ。国王親衛隊の人たちが助けてくれたんです」
「どこにいたんだ?」
「二階の来賓客用観戦室です! ゼントさんの試合もきちんと観れました!」
アシュリ―が言うと、エルサがうなった。
「そうか……。来賓席だと、貴族や王族の人たちが入る場所だから、皆、入り辛いものね。見つけるのに、時間がかかったわけか」
「赤鬼さんが、お菓子を一杯くれたんですよ」
アシュリ―が小声で言う。
一応、アレキダロスや赤鬼たちは、アシュリーを丁重に扱ったわけか。まあ、ゆるせんけど。
すると、国王親衛隊たちがまた、6名、俺の目の前にきた。彼らは白仮面の大魔導士──アレキダロスと赤鬼を連れて歩いてきた。アレキダロスと赤鬼の手首には、手錠がはめられている。
「私は副親衛隊長のアルフォ・マリウです。このアレキダロスが、アシュリーさんを拉致した、真の計画者であります。よろしければ、仮面の中の正体を見ていただきたいと思います。あなた方が知っている人物か、見てもらうためです」
俺は戸惑ったが、うなずいた。
「おい、やれ」
マリウ副親衛隊長は、アレキダロスの仮面に手をかけた。アレキダロスは抵抗しなかった。仮面は簡単に外れた。
「あああっ!」
俺とエルサは、同時に声を上げた。
アレキダロスは……! アレキダロスの正体は、俺の、俺たちの知っている人物だったからだ。