俺──ゼント・ラージェントは、セバスチャンとの決勝戦に挑んでいる。
そして、セバスチャンのチョークスリーパーを防御するため、自分の首を、腕で守っているのだった。
「ムダだ!」
セバスチャンは俺の背中に乗り、俺の首に腕を回してくる。俺の首に、セバスチャンの腕が回り込めば、頸動脈を絞められておしまいだ。
俺は腕を使って、首を守る。
「くっ! しぶといヤツだ」
セバスチャンはイラだち、パンチを俺の後頭部に打ち下ろしてくる。
ガスッ
俺は──何とか膝をたたみ、脇を絞めて首を腕で守る。
「うっ……こいつ!」
セバスチャンはうめいた。
おおっ……と観客からため息がもれる。
「あれは総合格闘技でいう『亀』の状態ってヤツだ!」
「ゼントがピンチってことか?」
「い、いや、首を守れるし、悪くないんじゃないか?」
「バカ、あの状態じゃ、セバスチャンは後ろから打撃を打ち放題だ」
観客たちもざわめく。俺はまるで岩のような丸まった体勢になっている。
「フフッ、これは驚いた。なるほど、『亀』の体勢というわけか──。いわゆる君は『引きこもり』したのだ。再び」
セバスチャンは半ば呆れたように言った。
ガスッ
セバスチャンは上から後頭部にパンチを落としてくる。俺は「亀」になって引きこもった。
「愚《おろ》かだ! 本当に君は愚《おろ》かだ!」
ガスッ ガスッ
セバスチャンは調子に乗って、何発も俺の後頭部にパンチを落としてくる。
この調子だと、もう一発パンチが必ず来るはずだ!
俺は背中に、多少の軽さを感じた。セバスチャンは打撃に夢中になり、体重の掛け方、バランスをおろそかにしている!
ここだっ! せえのっ!
ぐるり
俺は亀の状態から右横に転がり、背中の上のセバスチャンのバランスを崩した。セバスチャンはパンチを打ち途中だったので、左腕を上げた状態だった。
「なにっ?」
体勢を崩したセバスチャンが声を上げた。
俺はうつ伏せから、仰向けの状態になり──。
ガスウッ
素早くセバスチャンの腹を蹴っ飛ばした! セバスチャンは吹っ飛んだ。
「ぐぐっ! な……んだと!」
セバスチャンは驚いて、またしても声を上げた。
俺は立ち上がった。そしてすぐに、膝をついているセバスチャンの顔目がけて! 地面すれすれの左アッパーを放った!
ガッスウウウッ
「ぐうっ」
アゴに当たった! しかし完全な当たりではなかった。セバスチャンはあわてて立ち上がる。しかし俺は、隙を見逃さなかった。
ここだああああっ!
全体重を乗せ──右ストレート!
ガシイイッ
そんな音がした。俺の拳が、セバスチャンの頬に当たった。
「あが、ぐ」
セバスチャンはうめき、ヨロヨロと左によろけ──武闘リングに倒れ込んだ!
「お、おい……何が起こったんだ?」
「ゼントが逆転?」
「まさか? セバスチャンがあんなに攻めていたんだぞ」
ザワザワと観客たちが騒いでいる。俺は……セバスチャンをダウンさせたのか?
『ダ……ダウンです! 1……2……3……4……』
審判団長を声を上げる。
ウオオオオオオオオオッ
観客が騒然とする。そう……セバスチャンのダウンだ! セバスチャンは目を丸くし、座り込んで俺を見上げている。
「そんな……そんな……どうして……?」
セバスチャンはつぶやきながら、呆然としている。
『5……6……7……』
セバスチャンはあわてて、よろよろと立ち上がった。
「うう……私が、まさか? 2回もダウンを取られるとは? 信じられん。ゼント……君は何者なんだ?」
「俺は、20年間、子ども部屋に引きこもっていた、ゼント・ラージェントだ!」
俺はそう言った。
その時だ。リングサイドにミランダさんが駆け寄ってきた。
「ゼント君!」
手には魔導通信機を持っている。
「アシュリーを捜索してくれる組織が、駆けつけてくれたわ。アシュリーは、まだ見つからない。私も捜索に参加するから」
「分かった!」
俺は声を上げた。
「エルサ、ゼント君を見守ってあげて。それがあなたの仕事よ」
ミランダはエルサに言った。エルサは静かにうなずくと、ミランダさんは、試合会場の奥の方に走っていってしまった。
そうだ……俺たちはアシュリーも見つけなければならない。だから、俺はこの勝負、絶対に勝たなくてはいけないのだ!
「屈辱だ……」
立ち上がったセバスチャンの顔は、真っ青だった。
「私は武闘家を支配し、世界を支配し、全てを支配するのだ。なのに、2回もダウンをとられる醜態を……!」
セバスチャンはブルブル震えている。ミランダさんの、アシュリーの捜索の話も、耳に入ったのだろうか?
「屈辱だあああああああーっ! ゼントォオオオッ」
その瞬間、セバスチャンの体から、彼の頭上に、不気味な灰色の影が飛び出した。武人の亡霊だ! 5名いる。筮内的な体の色は灰色であるが、全員、それぞれ、頭や腕や胸などから血を流してみえた。
不気味だ……!
俺はそのあまりの禍々しさに、一歩後退した。
セバスチャンは、「亡霊よ、来い!」と声を上げた。すると、セバスチャンの頭上にいる武人の亡霊の一人が、セバスチャンの体内に入っていった。
「お、おい……何なんだ? セバスチャン」
俺はそう言いつつ、目の前の奇妙な出来事に呆然とした。
セバスチャンの体は震え、煙のような闇色のもやに包まれた。セバスチャンの姿は、煙に包まれ、見えなくなった。
「な、何だ?」
俺は目を丸くした。やがて煙は薄れ、ぼんやりセバスチャンが姿を現わした。
「ほほう、これは……」
セバスチャンはしげしげと、自分の手や腕を見ている。
セバスチャンの姿自体は何も変わっていない。しかし、彼を包んでいるオーラが、もっとドス黒くなっている。いや、赤黒いと言っていい……。そうか、血の色か!
そのオーラは、この世の恐怖や絶望、悲しみをすべて表わしているようだった。
「我が名は、『歴戦の魔闘神』セバスチャン──ということらしいよ、ゼント君」
セバスチャンはまるで他人ごとのように、笑顔で言った。
「歴戦の魔闘神」? ど、どこかで似たような名前を聞いたような……。
その時! 俺の頭の中で女性の声がした。聞き覚えのある声だ。
『お久しぶりです』
あ、この声は! マリア! 俺の守護霊!
『そこはかわいらしく、守護天使といってください。って、前にも言いましたっけ?』
頭の中のマリアは、そう俺に声をかけてきた。
『セバスチャンは体の中に取り憑いていた、本物の古代の悪魔的英雄、〈歴戦の魔闘神〉と合体しました」
「そんなバカな……」
『最悪ですよ、あいつを早く倒さないと! 一般の人々にも被害が及びます!」
「え、えーっと……倒せったって……」
俺が困惑していると、セバスチャンの手に、いつの間にか、光る棒状のものが握られていることに気が付いた。
……棒? いや、剣? そうだ、武器だ、剣だ!
『あ、あれは! 魔力──いや、怨念で作り上げた、刀剣──〈念じ刃〉です』
マリアはあわてながら言った。
「ゼント君、君の頭の中にいる守護霊の言う通り、私は武器を念で作り上げたんだ」
観客たちも、静まり返って、俺たちを見ている。審判団も呆然としている。
「『歴戦の魔闘神』と『歴戦の武闘王』は古代、彼らが生きていた時、好敵手同士だったそうですよ」
セバスチャンは話を続ける。
「ゼント君、君の体の中に、『歴戦の武闘王』のスキルがあることは分かっている。だから、これから行う闘いは、宿命の闘いだと言っていい」
「お、お前……その得体の知れない武器で、俺と闘うってのか?」
すると……。
「審判、この闘い、何かおかしいよ。中止させて! ゼントの命が危ない!」
エルサが声を上げる。しかし、審判団は周囲と相談してはいるが、試合を止めない。
「選手が武器を持ったら、相手の反則勝ちになる。通常は──」
セバスチャンは笑って言った。
「しかし、この武器は念で作り上げられた武器だ。私の肉体の一部でもある。──そもそも、私は君に敗れ去ったゲルドンに代わり、このトーナメントの最高責任者となった。だから、どんな武器を持ってこようと、審判団は私を止められないのだ」
「き、汚ねえ……」
俺が言うと、セバスチャンはクスクス笑って言った。
「ここからの勝負は、命をかけた勝負になる。ゼント君、この勝負、受け入れますか?」
命をかける……! 俺はゾクリとした。なぜだか俺は、この勝負を受けなければならない気持ちになっていた。
だが……そんなことより……俺にはやらなければならないことがある。
この勝負に勝って、アシュリーを返してもらわなければならない!
「いい加減、アシュリーを返せ!」
俺はセバスチャンに向かって、怒鳴った。
「アシュリーを返してほしければ、私との勝負を受けるんですね」
セバスチャンはひょうひょうと言った。
「いや……君が真の武闘家ならば──『歴戦の武闘王』の魂を継ぐ者ならば、この闘いからは逃げられない」
「この野郎……」
俺はセバスチャンをにらみつけた。
「こんな勝負、危険すぎるよ、ゼント……。あれは刃物……武器だよ……。私、どうしたら……?」
エルサは泣いている。俺は、エルサに言った。
「エルサ、大丈夫だ。俺は勝つ」
「ハハ、いいね、ゼント君。君はすごい、すごいヤツだ」
セバスチャンは笑った。いつの間にか、念じ刃には鞘がきちんとできていた。彼は帯の左に、念じ刃を差し入れた。
「だが、斬られたら死にますよ」
セバスチャンはニコッと笑って言った。簡単に言いやがって。
「さあ、アシュリーを返してもらうぜ!」
俺は叫んだ。
真の闘い、いや、真実の闘いが──これから始まる。
そして、セバスチャンのチョークスリーパーを防御するため、自分の首を、腕で守っているのだった。
「ムダだ!」
セバスチャンは俺の背中に乗り、俺の首に腕を回してくる。俺の首に、セバスチャンの腕が回り込めば、頸動脈を絞められておしまいだ。
俺は腕を使って、首を守る。
「くっ! しぶといヤツだ」
セバスチャンはイラだち、パンチを俺の後頭部に打ち下ろしてくる。
ガスッ
俺は──何とか膝をたたみ、脇を絞めて首を腕で守る。
「うっ……こいつ!」
セバスチャンはうめいた。
おおっ……と観客からため息がもれる。
「あれは総合格闘技でいう『亀』の状態ってヤツだ!」
「ゼントがピンチってことか?」
「い、いや、首を守れるし、悪くないんじゃないか?」
「バカ、あの状態じゃ、セバスチャンは後ろから打撃を打ち放題だ」
観客たちもざわめく。俺はまるで岩のような丸まった体勢になっている。
「フフッ、これは驚いた。なるほど、『亀』の体勢というわけか──。いわゆる君は『引きこもり』したのだ。再び」
セバスチャンは半ば呆れたように言った。
ガスッ
セバスチャンは上から後頭部にパンチを落としてくる。俺は「亀」になって引きこもった。
「愚《おろ》かだ! 本当に君は愚《おろ》かだ!」
ガスッ ガスッ
セバスチャンは調子に乗って、何発も俺の後頭部にパンチを落としてくる。
この調子だと、もう一発パンチが必ず来るはずだ!
俺は背中に、多少の軽さを感じた。セバスチャンは打撃に夢中になり、体重の掛け方、バランスをおろそかにしている!
ここだっ! せえのっ!
ぐるり
俺は亀の状態から右横に転がり、背中の上のセバスチャンのバランスを崩した。セバスチャンはパンチを打ち途中だったので、左腕を上げた状態だった。
「なにっ?」
体勢を崩したセバスチャンが声を上げた。
俺はうつ伏せから、仰向けの状態になり──。
ガスウッ
素早くセバスチャンの腹を蹴っ飛ばした! セバスチャンは吹っ飛んだ。
「ぐぐっ! な……んだと!」
セバスチャンは驚いて、またしても声を上げた。
俺は立ち上がった。そしてすぐに、膝をついているセバスチャンの顔目がけて! 地面すれすれの左アッパーを放った!
ガッスウウウッ
「ぐうっ」
アゴに当たった! しかし完全な当たりではなかった。セバスチャンはあわてて立ち上がる。しかし俺は、隙を見逃さなかった。
ここだああああっ!
全体重を乗せ──右ストレート!
ガシイイッ
そんな音がした。俺の拳が、セバスチャンの頬に当たった。
「あが、ぐ」
セバスチャンはうめき、ヨロヨロと左によろけ──武闘リングに倒れ込んだ!
「お、おい……何が起こったんだ?」
「ゼントが逆転?」
「まさか? セバスチャンがあんなに攻めていたんだぞ」
ザワザワと観客たちが騒いでいる。俺は……セバスチャンをダウンさせたのか?
『ダ……ダウンです! 1……2……3……4……』
審判団長を声を上げる。
ウオオオオオオオオオッ
観客が騒然とする。そう……セバスチャンのダウンだ! セバスチャンは目を丸くし、座り込んで俺を見上げている。
「そんな……そんな……どうして……?」
セバスチャンはつぶやきながら、呆然としている。
『5……6……7……』
セバスチャンはあわてて、よろよろと立ち上がった。
「うう……私が、まさか? 2回もダウンを取られるとは? 信じられん。ゼント……君は何者なんだ?」
「俺は、20年間、子ども部屋に引きこもっていた、ゼント・ラージェントだ!」
俺はそう言った。
その時だ。リングサイドにミランダさんが駆け寄ってきた。
「ゼント君!」
手には魔導通信機を持っている。
「アシュリーを捜索してくれる組織が、駆けつけてくれたわ。アシュリーは、まだ見つからない。私も捜索に参加するから」
「分かった!」
俺は声を上げた。
「エルサ、ゼント君を見守ってあげて。それがあなたの仕事よ」
ミランダはエルサに言った。エルサは静かにうなずくと、ミランダさんは、試合会場の奥の方に走っていってしまった。
そうだ……俺たちはアシュリーも見つけなければならない。だから、俺はこの勝負、絶対に勝たなくてはいけないのだ!
「屈辱だ……」
立ち上がったセバスチャンの顔は、真っ青だった。
「私は武闘家を支配し、世界を支配し、全てを支配するのだ。なのに、2回もダウンをとられる醜態を……!」
セバスチャンはブルブル震えている。ミランダさんの、アシュリーの捜索の話も、耳に入ったのだろうか?
「屈辱だあああああああーっ! ゼントォオオオッ」
その瞬間、セバスチャンの体から、彼の頭上に、不気味な灰色の影が飛び出した。武人の亡霊だ! 5名いる。筮内的な体の色は灰色であるが、全員、それぞれ、頭や腕や胸などから血を流してみえた。
不気味だ……!
俺はそのあまりの禍々しさに、一歩後退した。
セバスチャンは、「亡霊よ、来い!」と声を上げた。すると、セバスチャンの頭上にいる武人の亡霊の一人が、セバスチャンの体内に入っていった。
「お、おい……何なんだ? セバスチャン」
俺はそう言いつつ、目の前の奇妙な出来事に呆然とした。
セバスチャンの体は震え、煙のような闇色のもやに包まれた。セバスチャンの姿は、煙に包まれ、見えなくなった。
「な、何だ?」
俺は目を丸くした。やがて煙は薄れ、ぼんやりセバスチャンが姿を現わした。
「ほほう、これは……」
セバスチャンはしげしげと、自分の手や腕を見ている。
セバスチャンの姿自体は何も変わっていない。しかし、彼を包んでいるオーラが、もっとドス黒くなっている。いや、赤黒いと言っていい……。そうか、血の色か!
そのオーラは、この世の恐怖や絶望、悲しみをすべて表わしているようだった。
「我が名は、『歴戦の魔闘神』セバスチャン──ということらしいよ、ゼント君」
セバスチャンはまるで他人ごとのように、笑顔で言った。
「歴戦の魔闘神」? ど、どこかで似たような名前を聞いたような……。
その時! 俺の頭の中で女性の声がした。聞き覚えのある声だ。
『お久しぶりです』
あ、この声は! マリア! 俺の守護霊!
『そこはかわいらしく、守護天使といってください。って、前にも言いましたっけ?』
頭の中のマリアは、そう俺に声をかけてきた。
『セバスチャンは体の中に取り憑いていた、本物の古代の悪魔的英雄、〈歴戦の魔闘神〉と合体しました」
「そんなバカな……」
『最悪ですよ、あいつを早く倒さないと! 一般の人々にも被害が及びます!」
「え、えーっと……倒せったって……」
俺が困惑していると、セバスチャンの手に、いつの間にか、光る棒状のものが握られていることに気が付いた。
……棒? いや、剣? そうだ、武器だ、剣だ!
『あ、あれは! 魔力──いや、怨念で作り上げた、刀剣──〈念じ刃〉です』
マリアはあわてながら言った。
「ゼント君、君の頭の中にいる守護霊の言う通り、私は武器を念で作り上げたんだ」
観客たちも、静まり返って、俺たちを見ている。審判団も呆然としている。
「『歴戦の魔闘神』と『歴戦の武闘王』は古代、彼らが生きていた時、好敵手同士だったそうですよ」
セバスチャンは話を続ける。
「ゼント君、君の体の中に、『歴戦の武闘王』のスキルがあることは分かっている。だから、これから行う闘いは、宿命の闘いだと言っていい」
「お、お前……その得体の知れない武器で、俺と闘うってのか?」
すると……。
「審判、この闘い、何かおかしいよ。中止させて! ゼントの命が危ない!」
エルサが声を上げる。しかし、審判団は周囲と相談してはいるが、試合を止めない。
「選手が武器を持ったら、相手の反則勝ちになる。通常は──」
セバスチャンは笑って言った。
「しかし、この武器は念で作り上げられた武器だ。私の肉体の一部でもある。──そもそも、私は君に敗れ去ったゲルドンに代わり、このトーナメントの最高責任者となった。だから、どんな武器を持ってこようと、審判団は私を止められないのだ」
「き、汚ねえ……」
俺が言うと、セバスチャンはクスクス笑って言った。
「ここからの勝負は、命をかけた勝負になる。ゼント君、この勝負、受け入れますか?」
命をかける……! 俺はゾクリとした。なぜだか俺は、この勝負を受けなければならない気持ちになっていた。
だが……そんなことより……俺にはやらなければならないことがある。
この勝負に勝って、アシュリーを返してもらわなければならない!
「いい加減、アシュリーを返せ!」
俺はセバスチャンに向かって、怒鳴った。
「アシュリーを返してほしければ、私との勝負を受けるんですね」
セバスチャンはひょうひょうと言った。
「いや……君が真の武闘家ならば──『歴戦の武闘王』の魂を継ぐ者ならば、この闘いからは逃げられない」
「この野郎……」
俺はセバスチャンをにらみつけた。
「こんな勝負、危険すぎるよ、ゼント……。あれは刃物……武器だよ……。私、どうしたら……?」
エルサは泣いている。俺は、エルサに言った。
「エルサ、大丈夫だ。俺は勝つ」
「ハハ、いいね、ゼント君。君はすごい、すごいヤツだ」
セバスチャンは笑った。いつの間にか、念じ刃には鞘がきちんとできていた。彼は帯の左に、念じ刃を差し入れた。
「だが、斬られたら死にますよ」
セバスチャンはニコッと笑って言った。簡単に言いやがって。
「さあ、アシュリーを返してもらうぜ!」
俺は叫んだ。
真の闘い、いや、真実の闘いが──これから始まる。