ついにこの日が来てしまった。
ゲルドン杯格闘トーナメント準決勝──俺、ゼント・ラージェントと大勇者ゲルドンの試合がこれから始まる。
俺は、武闘リングの上から、王立スタジアムの観客席をながめた。超満員だ。ゲルドンもすでにリングに上がっており、セコンドのクオリファと話をしている。俺のセコンドはミランダさんだ。
大勇者ゲルドンが準決勝に出ると聞いた、王国の格闘技ファンは、チケットの争奪戦をしたらしい。
「おいゼント。2分でおめぇっをぶっ倒してやるからよ」
俺はゲルドンの言葉を無視した。この男には、いろんな思いが詰まり過ぎている──。
◇ ◇ ◇
カーン
試合開始のゴングが鳴った。鳴ってしまった。あっけなく、何事もなかったのように。
「てめーをぶっとばす!」
ゲルドンは走り込んで、パンチを打ってきた。
ブン
右フック! 俺はすぐに避けたが、もの凄い風圧だ。
ゲルドンの左ストレート!
ブアッ
耳もとでパンチがかすめる。これまたものすごい風圧だ。
まともにくらったら、吹っ飛ぶぞ……!
これ、人間の力なのか? それとも大勇者の実力なのか?
「おい、ゲルドン、悪魔と契約なんか、してないよな?」
俺は挑発するつもりで、言った。するとゲルドンはなぜかピクリと俺をにらんだが──。
「うるせええええーっ!」
ゲルドンは俺の胸のあたりに向かって、タックルに来た。
ガスゥッ
俺はそれを受け止める。
グググ……!
ゲルドンは俺に抱きつき、倒そうとしている。俺はそれをこらえる。
「てめえ……倒れろよ……!」
ゲルドンは声を上げた。
「倒れるのは、お前だ!」
俺は叫んだ。
ガスッ
俺はゲルドンのアゴに肘をくらわせた。そしてすかさず、ゲルドンの足を引っかけようとした。
しかし、ゲルドンもこらえる。
ゲルドンは重量級、俺は軽量級。かなりの体格差だ。
しかし、俺は何とかこらえている。
ガスッ
ゴスッ
ゲスッ
組つきながら、ゲルドンのボディーブロー。一方の俺は膝蹴りを返す。お互いに5、6発は組み合いながらの打撃を出し合っただろうか。
ゲルドンは両肘に青いサポーターをしている。怪我をしているのか? 肘を攻撃にうまく使うのか?
俺は組み合いながら考えていた。
じりじりとした、立ったままの組み合い、こらえ合いが続く。
「ゼントも体重差があるのに、こらえてるぜ」
「ゲルドンもさすが大勇者だけあって、一応根性あるな」
「おい、どうでもいいけど、さっさとどっちか、倒せよ!」
観客はざわつき始めている。
「だああっ!」
先に動いたのはゲルドンだった。
強引に俺を横に投げた。
俺はバランスを崩し、リングに膝をついた。
「もらったぜ!」
ゲルドンが俺に対して、馬乗り状態をしかけた──が──。
(ここだ! 3、2、1……)
くるり
勢いで一回転し、逆に俺が馬乗りの体勢になった!
ウウオオオオッ……。
観客が騒ぎ出す。
「な、なんだと」
ゲルドンが声を上げる。
俺は、ゲルドンが勢いをつけて、格闘技における最も有利な体勢──馬乗り状態を狙ってくると予想していた。
その勢いを利用して、逆に馬乗り状態にさせてもらった、というわけだ。
ガスウッ
俺はすぐに、ゲルドンを上から殴った。
「あぐ」
ゲルドンが声を上げる。
ゴスッ
もう一発!
「のやろおおおっ!」
ゲルドンは暴れ、馬乗り状態の俺から、逃げ出した。
悪いな、それも想定内だ!
俺は座って背中を向けているゲルドンの首に、右腕を巻きつけた。
チョークスリーパー! つまり腕による首絞め──頸動脈を締める技だ!
ぐぐぐぐぐ……。
これが決まれば……ゲルドンは「まいった」するはずだが……!
しかし、ゲルドンは力によって、俺の腕を外し、逃げ出した!
くっ! やはりゲルドンの力が強い……!
俺たちは立ったまま、またにらみ合った。
「う、うおおおっ……」
「ゼント、やるじゃねえか?」
「ゲルドンもさすが、大勇者だぜ」
観客たちのため息が聞こえる。
「てめぇ……なんでそんなに強くなったんだ……!」
ゲルドンはそう言いつつ、右アッパー! しかし、俺はそれをかわす。
ゲルドンはあわてている!
(ここだ!)
俺はグッと体重をかけ、ゲルドンの頬めがけ、左ジャブ!
そして、渾身の右ストレート!
「ガフッ」
そして、のけぞったゲルドンのアゴめがけて──。
手の平の下部を利用した、俺独自の打撃法である──右掌底!
グワシイッ
「ぐへ」
ゲルドンは見事に、俺の掌底を受け、片膝をついた。
ウオオオオオオオオーッ
観客席が騒然となる。
「大勇者のダウンだ! や、やりやがったああああーっ!」
「ゼント、すげええええーっ!」
「大勇者、やべえぞ! どうなる? どうなる?」
『ダウンカウント! 1…………2…………3……!』
ゲルドンはふらつきながらも体を起こし、リングに張りめぐらされたロープを利用して、立ち上がろうとした。
しかし、足元がおぼつかない。アゴへの打撃が効いているのだ。
『4…………5…………6…………7!』
し、しかし、何て遅いダウンカウントだ! 審判団め、ゲルドンの味方なのか?
「フフフッ、助かったぜ。カウントが遅いからよ」
ゲルドンはそう言って、中腰になって、両膝に手をつき──。勢いをつけて、立って構えた!
「立ったぞお! どうだ、立ったぞ!」
ゲルドンは叫んで、審判団にアピールした。審判団も納得して、カウントをやめた。俺は、嫌な予感がしていた。
審判団は……ゲルドンの味方だ!
「おおおおーっ! やっぱり立ったぜ」
「おい、何かダウンカウントが遅くなかったか?」
「ああ……変なカウントだったが、さすが大勇者」
観客たちはざわつきながらも、声を上げる。
「俺を怒らせちまったようだな」
大勇者ゲルドンはニヤリと笑った。
「うっ……?」
俺は目を丸くした。
何と、ゲルドンの体から、闇色のもやのようなものが発生している。
な、何だ? これは?
蜃気楼──? いや、これが「オーラ」「闘気」ってヤツなのか?
それにしては、何て禍々しいんだ! 不気味なんだ!
「こうなるとヤベえぞ」
ゲルドンはクスクス不気味に笑った。
ゲルドン杯格闘トーナメント準決勝──俺、ゼント・ラージェントと大勇者ゲルドンの試合がこれから始まる。
俺は、武闘リングの上から、王立スタジアムの観客席をながめた。超満員だ。ゲルドンもすでにリングに上がっており、セコンドのクオリファと話をしている。俺のセコンドはミランダさんだ。
大勇者ゲルドンが準決勝に出ると聞いた、王国の格闘技ファンは、チケットの争奪戦をしたらしい。
「おいゼント。2分でおめぇっをぶっ倒してやるからよ」
俺はゲルドンの言葉を無視した。この男には、いろんな思いが詰まり過ぎている──。
◇ ◇ ◇
カーン
試合開始のゴングが鳴った。鳴ってしまった。あっけなく、何事もなかったのように。
「てめーをぶっとばす!」
ゲルドンは走り込んで、パンチを打ってきた。
ブン
右フック! 俺はすぐに避けたが、もの凄い風圧だ。
ゲルドンの左ストレート!
ブアッ
耳もとでパンチがかすめる。これまたものすごい風圧だ。
まともにくらったら、吹っ飛ぶぞ……!
これ、人間の力なのか? それとも大勇者の実力なのか?
「おい、ゲルドン、悪魔と契約なんか、してないよな?」
俺は挑発するつもりで、言った。するとゲルドンはなぜかピクリと俺をにらんだが──。
「うるせええええーっ!」
ゲルドンは俺の胸のあたりに向かって、タックルに来た。
ガスゥッ
俺はそれを受け止める。
グググ……!
ゲルドンは俺に抱きつき、倒そうとしている。俺はそれをこらえる。
「てめえ……倒れろよ……!」
ゲルドンは声を上げた。
「倒れるのは、お前だ!」
俺は叫んだ。
ガスッ
俺はゲルドンのアゴに肘をくらわせた。そしてすかさず、ゲルドンの足を引っかけようとした。
しかし、ゲルドンもこらえる。
ゲルドンは重量級、俺は軽量級。かなりの体格差だ。
しかし、俺は何とかこらえている。
ガスッ
ゴスッ
ゲスッ
組つきながら、ゲルドンのボディーブロー。一方の俺は膝蹴りを返す。お互いに5、6発は組み合いながらの打撃を出し合っただろうか。
ゲルドンは両肘に青いサポーターをしている。怪我をしているのか? 肘を攻撃にうまく使うのか?
俺は組み合いながら考えていた。
じりじりとした、立ったままの組み合い、こらえ合いが続く。
「ゼントも体重差があるのに、こらえてるぜ」
「ゲルドンもさすが大勇者だけあって、一応根性あるな」
「おい、どうでもいいけど、さっさとどっちか、倒せよ!」
観客はざわつき始めている。
「だああっ!」
先に動いたのはゲルドンだった。
強引に俺を横に投げた。
俺はバランスを崩し、リングに膝をついた。
「もらったぜ!」
ゲルドンが俺に対して、馬乗り状態をしかけた──が──。
(ここだ! 3、2、1……)
くるり
勢いで一回転し、逆に俺が馬乗りの体勢になった!
ウウオオオオッ……。
観客が騒ぎ出す。
「な、なんだと」
ゲルドンが声を上げる。
俺は、ゲルドンが勢いをつけて、格闘技における最も有利な体勢──馬乗り状態を狙ってくると予想していた。
その勢いを利用して、逆に馬乗り状態にさせてもらった、というわけだ。
ガスウッ
俺はすぐに、ゲルドンを上から殴った。
「あぐ」
ゲルドンが声を上げる。
ゴスッ
もう一発!
「のやろおおおっ!」
ゲルドンは暴れ、馬乗り状態の俺から、逃げ出した。
悪いな、それも想定内だ!
俺は座って背中を向けているゲルドンの首に、右腕を巻きつけた。
チョークスリーパー! つまり腕による首絞め──頸動脈を締める技だ!
ぐぐぐぐぐ……。
これが決まれば……ゲルドンは「まいった」するはずだが……!
しかし、ゲルドンは力によって、俺の腕を外し、逃げ出した!
くっ! やはりゲルドンの力が強い……!
俺たちは立ったまま、またにらみ合った。
「う、うおおおっ……」
「ゼント、やるじゃねえか?」
「ゲルドンもさすが、大勇者だぜ」
観客たちのため息が聞こえる。
「てめぇ……なんでそんなに強くなったんだ……!」
ゲルドンはそう言いつつ、右アッパー! しかし、俺はそれをかわす。
ゲルドンはあわてている!
(ここだ!)
俺はグッと体重をかけ、ゲルドンの頬めがけ、左ジャブ!
そして、渾身の右ストレート!
「ガフッ」
そして、のけぞったゲルドンのアゴめがけて──。
手の平の下部を利用した、俺独自の打撃法である──右掌底!
グワシイッ
「ぐへ」
ゲルドンは見事に、俺の掌底を受け、片膝をついた。
ウオオオオオオオオーッ
観客席が騒然となる。
「大勇者のダウンだ! や、やりやがったああああーっ!」
「ゼント、すげええええーっ!」
「大勇者、やべえぞ! どうなる? どうなる?」
『ダウンカウント! 1…………2…………3……!』
ゲルドンはふらつきながらも体を起こし、リングに張りめぐらされたロープを利用して、立ち上がろうとした。
しかし、足元がおぼつかない。アゴへの打撃が効いているのだ。
『4…………5…………6…………7!』
し、しかし、何て遅いダウンカウントだ! 審判団め、ゲルドンの味方なのか?
「フフフッ、助かったぜ。カウントが遅いからよ」
ゲルドンはそう言って、中腰になって、両膝に手をつき──。勢いをつけて、立って構えた!
「立ったぞお! どうだ、立ったぞ!」
ゲルドンは叫んで、審判団にアピールした。審判団も納得して、カウントをやめた。俺は、嫌な予感がしていた。
審判団は……ゲルドンの味方だ!
「おおおおーっ! やっぱり立ったぜ」
「おい、何かダウンカウントが遅くなかったか?」
「ああ……変なカウントだったが、さすが大勇者」
観客たちはざわつきながらも、声を上げる。
「俺を怒らせちまったようだな」
大勇者ゲルドンはニヤリと笑った。
「うっ……?」
俺は目を丸くした。
何と、ゲルドンの体から、闇色のもやのようなものが発生している。
な、何だ? これは?
蜃気楼──? いや、これが「オーラ」「闘気」ってヤツなのか?
それにしては、何て禍々しいんだ! 不気味なんだ!
「こうなるとヤベえぞ」
ゲルドンはクスクス不気味に笑った。