次の日──。
ついにローフェンと、謎のゲルドンの秘書、セバスチャンが闘うことになった。
2回戦第4試合。
ゲルドンの秘書の闘いぶりを観ようと、たくさんの客がスタジアムに入っている。
「ついに、セバスチャンをぶっとばす時がやってきましたよーっと」
ローフェンはすでに武闘リングに上がり、軽い柔軟体操をしている。
いつも通り、軽口を叩いているようだ。
「お、おいっ! 気を引き締めろ、ローフェン」
俺はローフェンのセコンドを申し出て、リング下からアドバイスするつもりだ。
俺の側には、ミランダさんもいる。彼女もセバスチャンの試合を近くで観たいらしい。
エルサも娘のアシュリーと一緒に、セバスチャンの試合を観ると言い出した。観客席に座っている。
「相手はどんな技術を持っているか、さっぱり情報がないんだ。気を付けろ」
俺はローフェンに注意した。
「情報? いらねーよ、そんなモン。俺が蹴り飛ばしてやるさ」
ローフェンは余裕の表情だ。
一方のセバスチャンの武闘リングに上がり、ローフェンをじっと見ている。
何をやってくるのか? それとも、たいしたことないヤツなのか?
セバスチャン──この試合で、彼の実力が明らかになる!
◇ ◇ ◇
カーン
試合開始のゴングが打ち鳴らされた。
「あーらよっ!」
ローフェンはいきなり走り込んで、上段回し蹴りだ! よ、よし、いきなり大技だが、いいぞ!
セバスチャンは薄く笑って、スウェーでそれを避ける。
ローフェンはそのまま後ろ回し蹴りに移行した。
スッ
ローフェンはすずしい顔で、後退。これも見事に避ける。
「だッ」
ローフェンのパンチ──左ジャブ!
セバスチャンは顔を傾けて、それを避けた。
「いいね。君、なかなか良い蹴りだよ。ローフェン君」
セバスチャンは笑って言った。
「君は我が武闘家養成所、『G&Sトライアード』では、中級クラスで学ぶといい」
「中級クラスだとおおおお? バカにすんだ!」
ローフェンの右ストレートパンチ、左ジャブ、そして右中段回し蹴り!
セバスチャンは二回のパンチを手で叩き落し、回し蹴りは左スネでカット。
「どらあっ!」
ローフェンの大振りのパンチ──左フック! 速い! これはもらったか?
シュパッ
「あっ……!」
「見ろ」
「何だ?」
観客たちは声を上げた。
セバスチャンは、そのローフェンのパンチ──拳をいとも簡単に、手で掴んでいた。
ゆるり
その時──そんな音がしたような気がした。セバスチャンはムダのない動きで、ローフェンの背後に回り込んだ!
そ、そして、ローフェンの鼻を──。
セバスチャンは自分の手で、ローフェンの鼻をふさいだ?
「お、う?」
ローフェンは後ろに回り込まれてあわてた。
するとセバスチャンは、ローフェンの膝裏を、右足で踏んだ!
すると、セバスチャンは、ゆっくりとリング上に座らされてしまったのだ。
まるであやつり人形のように……。
な、なんだ、この技術は?
「あれは軍隊格闘技の技術よ!」
ミランダさんが声を上げた。
ぐ、軍隊格闘技? 戦場で使う格闘術ってことか?
「相手の力を制圧する、超実戦的な格闘技よ」
セバスチャンはローフェンの首に、自分の右腕をかける。
やばい! 首絞め──チョークスリーパーだ!
「だらあっ!」
ローフェンは肘を振り回し、セバスチャンの頬に当て、あわてて立ち上がった。そしてチョークスリーパーから、逃れた……! あ、危ない、危ない……。
「ふふっ」
セバスチャンは肘が当たった頬を手でこすって、ローフェンと対峙した。
セバスチャンは深追いしない。
──二人はまたスタンディング──立ったままで、にらみあった。
「君、なかなかしぶといね」
セバスチャンはひょうひょうと言った。
「あいにく、優勝ねらってるんで──」
ローフェンは答えた。
「って、おい! てめー、さっきから上から目線でムカつくな」
ローフェンはそう言いつつ、またしても右ジャブを繰り出し、今度は接近して──左ボディーブロー! セバスチャンの腹を狙った。
し、しかしだ!
セバスチャンは右ジャブを避け、しかも左ボディーブローを避けたと思ったら──。
ローフェンの左腕を、自分の脇に挟んで、フック──固定した!
「なっ!」
ローフェンは驚く。
この超近距離のまま、セバスチャンはローフェンに、パンチで打撃を加えた。
ガスッ
ゴスッ
そんな音が聞こえる。セバスチャンは、ローフェンの顔、胸、腹に、器用にパンチで超接近の打撃を与えていく。ローフェンの左腕は、固定したままだ!
あ、あんな打撃技があるのか? そ、そうか。これも軍隊格闘技ってヤツの技術か!
「まるでタコね」
ミランダさんは腕組みをしながら言った。
俺もうなずいた。セバスチャン──まさしくタコのようにからみつくような戦術!
ああっ……! 超近距離のパンチをくらったローフェンから、鼻血が!
すると、セバスチャンはその接近状態を解き、ローフェンの首と腰に腕をかけて──。
「投げ──!」
俺は声を上げた。
セバスチャンは、ローフェンを後ろに投げ捨てたのだ!
ベキイッ
「グヘッ」
ローフェンは右あばらから落ちて、声を上げる。し、しかし声を上げる直前に、へ、変な音がしたぞ?
ウオオオオッ
観客がセバスチャンの投げに興奮している。
「今の音!」
俺はミランダさんを見た。
「ええ、私も聞いたわ。まずいわね。──セバスチャンの放った投げは、『裏投げ』よ」
ミランダさんは静かに言った。あ、あれが裏投げか! 噂には聞いたことがあったが……。
「軍隊格闘家が得意とする投げ技の一つね。そのまま寝技に移行できる! そして──ローフェン君はあばら骨を折ったわね……」
セバスチャンはニー・オン・ザ・ベリーの状態になった。
ローフェンが仰向けに寝ている状態だが、セバスチャンは片膝をローフェンの胸の上に乗っけている状態。これがニー・オン・ザ・ベリーだ。
一見不安定だが、この状況はある意味で馬乗りよりも危険だ!
するとセバスチャンは、何とローフェンが痛めているあばら骨を、もう片方の膝で蹴りだした。
ガスッ
バキッ
ドゴッ
くっ……エグい攻撃だ! ローフェンは……! 痛みで失神しかかっている!
俺は……俺は我慢できなかった。
「のやろおおおおっ!」
「ゼント君!」
ミランダさんが声を上げる!
俺はリングに上がった……! 上がってしまった。
そして、ローフェンの上で攻撃しているセバスチャンに向かって、突進し──。
ドガッ
セバスチャンに体当たりをかました。
セバスチャンは俺の体当たりで吹っ飛ぶ。彼はすぐに状態を起こし、ニヤリと俺を見た。
ウオオオオオッ
観客たちが声を上げる。
「うおおっ! 何だ?」
「あれ、ゼントってヤツじゃねえのか?」
「乱闘じゃん! セコンドが入ってきちゃダメだろうが~!」
何を言われてもいい! これ以上、ローフェンを攻撃させない!
「早くローフェンを治療してください! あばらが折れている!」
俺はリング外にいる白魔法医師たちに向かい、叫んだ。
白魔法医師たちは何やら審判員と相談していたが、あわててリングに上がってきた。すぐに、ローフェンを診察し始めた。
「ククク……」
セバスチャンは立ち上がって、リング上にいる俺に言った。
「ダメじゃないか、ゼント君。セコンドが試合中に上がってきちゃあ」
「うるさい! ローフェンのあばらは折れている! お前、折れているのが分かっていて、あばらに追撃しただろう!」
「フフフ……。相手の怪我をした箇所を狙うのも、戦術の1つではないか」
「バカ言うな! もう勝負は決まっていた! ローフェンの選手生命を奪う気か?」
その時、白魔法医師長はリング外に向かい、手でバツの字を作った。
カンカンカン
とゴングの音がした。試合終了か……。
『4分20秒、ドクターストップおよび、反則勝ちでセバスチャン選手の勝ち! なお、反則の原因となったゼント・ラージェントには、何らかのペナルティが課せられます!』
ペナルティ? そんなものどうだっていい。
ローフェンは? 俺は仰向けに寝ているローフェンに近寄った。
「ゼ、ゼントのバカヤローが」
ローフェンは真っ青な顔で、俺に言った。
「お前のせいで、反則負けだろーが……。これから俺が、ヤツをぶちのめすところだったのに……」
「後で色々、聞いてやる。あまりしゃべるな、ローフェン! あばらにひびくぞ」
俺は言った。
ローフェンは悔しそうな顔をしながら、白魔法医師たちが用意した、タンカに乗せられて武闘リング外に出された。
セバスチャンも、さっさとリング外に降りてしまっている。
俺も審判長に注意されて、リングを降りた。
すると──武闘リング下で見たものは、意外な光景だった。
サユリがセバスチャンの前に立っている。
「セバスチャン先生、準決勝は私と勝負しましょう」
「トーナメント上ではそうなるね。だが、君は棄権《きけん》したまえ」
セバスチャンは首を横に振りながら言った。
「教え子を傷つけたくはない」
「あなたが間違っていることに気付きました」
「……何?」
「傷ついた相手を叩きのめすのは、武闘家の精神に反すると思います。私がそれを身をもって示すために、私は、先生と──いえ、セバスチャン、あなたと闘います」
セバスチャンは眉をひそめて、サユリに、「お前」と言った。
「考え直せ。今からでも遅くない、棄権《きけん》しろ」
セバスチャンはそう言って、花道をさっさと歩いていった。
ついにローフェンと、謎のゲルドンの秘書、セバスチャンが闘うことになった。
2回戦第4試合。
ゲルドンの秘書の闘いぶりを観ようと、たくさんの客がスタジアムに入っている。
「ついに、セバスチャンをぶっとばす時がやってきましたよーっと」
ローフェンはすでに武闘リングに上がり、軽い柔軟体操をしている。
いつも通り、軽口を叩いているようだ。
「お、おいっ! 気を引き締めろ、ローフェン」
俺はローフェンのセコンドを申し出て、リング下からアドバイスするつもりだ。
俺の側には、ミランダさんもいる。彼女もセバスチャンの試合を近くで観たいらしい。
エルサも娘のアシュリーと一緒に、セバスチャンの試合を観ると言い出した。観客席に座っている。
「相手はどんな技術を持っているか、さっぱり情報がないんだ。気を付けろ」
俺はローフェンに注意した。
「情報? いらねーよ、そんなモン。俺が蹴り飛ばしてやるさ」
ローフェンは余裕の表情だ。
一方のセバスチャンの武闘リングに上がり、ローフェンをじっと見ている。
何をやってくるのか? それとも、たいしたことないヤツなのか?
セバスチャン──この試合で、彼の実力が明らかになる!
◇ ◇ ◇
カーン
試合開始のゴングが打ち鳴らされた。
「あーらよっ!」
ローフェンはいきなり走り込んで、上段回し蹴りだ! よ、よし、いきなり大技だが、いいぞ!
セバスチャンは薄く笑って、スウェーでそれを避ける。
ローフェンはそのまま後ろ回し蹴りに移行した。
スッ
ローフェンはすずしい顔で、後退。これも見事に避ける。
「だッ」
ローフェンのパンチ──左ジャブ!
セバスチャンは顔を傾けて、それを避けた。
「いいね。君、なかなか良い蹴りだよ。ローフェン君」
セバスチャンは笑って言った。
「君は我が武闘家養成所、『G&Sトライアード』では、中級クラスで学ぶといい」
「中級クラスだとおおおお? バカにすんだ!」
ローフェンの右ストレートパンチ、左ジャブ、そして右中段回し蹴り!
セバスチャンは二回のパンチを手で叩き落し、回し蹴りは左スネでカット。
「どらあっ!」
ローフェンの大振りのパンチ──左フック! 速い! これはもらったか?
シュパッ
「あっ……!」
「見ろ」
「何だ?」
観客たちは声を上げた。
セバスチャンは、そのローフェンのパンチ──拳をいとも簡単に、手で掴んでいた。
ゆるり
その時──そんな音がしたような気がした。セバスチャンはムダのない動きで、ローフェンの背後に回り込んだ!
そ、そして、ローフェンの鼻を──。
セバスチャンは自分の手で、ローフェンの鼻をふさいだ?
「お、う?」
ローフェンは後ろに回り込まれてあわてた。
するとセバスチャンは、ローフェンの膝裏を、右足で踏んだ!
すると、セバスチャンは、ゆっくりとリング上に座らされてしまったのだ。
まるであやつり人形のように……。
な、なんだ、この技術は?
「あれは軍隊格闘技の技術よ!」
ミランダさんが声を上げた。
ぐ、軍隊格闘技? 戦場で使う格闘術ってことか?
「相手の力を制圧する、超実戦的な格闘技よ」
セバスチャンはローフェンの首に、自分の右腕をかける。
やばい! 首絞め──チョークスリーパーだ!
「だらあっ!」
ローフェンは肘を振り回し、セバスチャンの頬に当て、あわてて立ち上がった。そしてチョークスリーパーから、逃れた……! あ、危ない、危ない……。
「ふふっ」
セバスチャンは肘が当たった頬を手でこすって、ローフェンと対峙した。
セバスチャンは深追いしない。
──二人はまたスタンディング──立ったままで、にらみあった。
「君、なかなかしぶといね」
セバスチャンはひょうひょうと言った。
「あいにく、優勝ねらってるんで──」
ローフェンは答えた。
「って、おい! てめー、さっきから上から目線でムカつくな」
ローフェンはそう言いつつ、またしても右ジャブを繰り出し、今度は接近して──左ボディーブロー! セバスチャンの腹を狙った。
し、しかしだ!
セバスチャンは右ジャブを避け、しかも左ボディーブローを避けたと思ったら──。
ローフェンの左腕を、自分の脇に挟んで、フック──固定した!
「なっ!」
ローフェンは驚く。
この超近距離のまま、セバスチャンはローフェンに、パンチで打撃を加えた。
ガスッ
ゴスッ
そんな音が聞こえる。セバスチャンは、ローフェンの顔、胸、腹に、器用にパンチで超接近の打撃を与えていく。ローフェンの左腕は、固定したままだ!
あ、あんな打撃技があるのか? そ、そうか。これも軍隊格闘技ってヤツの技術か!
「まるでタコね」
ミランダさんは腕組みをしながら言った。
俺もうなずいた。セバスチャン──まさしくタコのようにからみつくような戦術!
ああっ……! 超近距離のパンチをくらったローフェンから、鼻血が!
すると、セバスチャンはその接近状態を解き、ローフェンの首と腰に腕をかけて──。
「投げ──!」
俺は声を上げた。
セバスチャンは、ローフェンを後ろに投げ捨てたのだ!
ベキイッ
「グヘッ」
ローフェンは右あばらから落ちて、声を上げる。し、しかし声を上げる直前に、へ、変な音がしたぞ?
ウオオオオッ
観客がセバスチャンの投げに興奮している。
「今の音!」
俺はミランダさんを見た。
「ええ、私も聞いたわ。まずいわね。──セバスチャンの放った投げは、『裏投げ』よ」
ミランダさんは静かに言った。あ、あれが裏投げか! 噂には聞いたことがあったが……。
「軍隊格闘家が得意とする投げ技の一つね。そのまま寝技に移行できる! そして──ローフェン君はあばら骨を折ったわね……」
セバスチャンはニー・オン・ザ・ベリーの状態になった。
ローフェンが仰向けに寝ている状態だが、セバスチャンは片膝をローフェンの胸の上に乗っけている状態。これがニー・オン・ザ・ベリーだ。
一見不安定だが、この状況はある意味で馬乗りよりも危険だ!
するとセバスチャンは、何とローフェンが痛めているあばら骨を、もう片方の膝で蹴りだした。
ガスッ
バキッ
ドゴッ
くっ……エグい攻撃だ! ローフェンは……! 痛みで失神しかかっている!
俺は……俺は我慢できなかった。
「のやろおおおおっ!」
「ゼント君!」
ミランダさんが声を上げる!
俺はリングに上がった……! 上がってしまった。
そして、ローフェンの上で攻撃しているセバスチャンに向かって、突進し──。
ドガッ
セバスチャンに体当たりをかました。
セバスチャンは俺の体当たりで吹っ飛ぶ。彼はすぐに状態を起こし、ニヤリと俺を見た。
ウオオオオオッ
観客たちが声を上げる。
「うおおっ! 何だ?」
「あれ、ゼントってヤツじゃねえのか?」
「乱闘じゃん! セコンドが入ってきちゃダメだろうが~!」
何を言われてもいい! これ以上、ローフェンを攻撃させない!
「早くローフェンを治療してください! あばらが折れている!」
俺はリング外にいる白魔法医師たちに向かい、叫んだ。
白魔法医師たちは何やら審判員と相談していたが、あわててリングに上がってきた。すぐに、ローフェンを診察し始めた。
「ククク……」
セバスチャンは立ち上がって、リング上にいる俺に言った。
「ダメじゃないか、ゼント君。セコンドが試合中に上がってきちゃあ」
「うるさい! ローフェンのあばらは折れている! お前、折れているのが分かっていて、あばらに追撃しただろう!」
「フフフ……。相手の怪我をした箇所を狙うのも、戦術の1つではないか」
「バカ言うな! もう勝負は決まっていた! ローフェンの選手生命を奪う気か?」
その時、白魔法医師長はリング外に向かい、手でバツの字を作った。
カンカンカン
とゴングの音がした。試合終了か……。
『4分20秒、ドクターストップおよび、反則勝ちでセバスチャン選手の勝ち! なお、反則の原因となったゼント・ラージェントには、何らかのペナルティが課せられます!』
ペナルティ? そんなものどうだっていい。
ローフェンは? 俺は仰向けに寝ているローフェンに近寄った。
「ゼ、ゼントのバカヤローが」
ローフェンは真っ青な顔で、俺に言った。
「お前のせいで、反則負けだろーが……。これから俺が、ヤツをぶちのめすところだったのに……」
「後で色々、聞いてやる。あまりしゃべるな、ローフェン! あばらにひびくぞ」
俺は言った。
ローフェンは悔しそうな顔をしながら、白魔法医師たちが用意した、タンカに乗せられて武闘リング外に出された。
セバスチャンも、さっさとリング外に降りてしまっている。
俺も審判長に注意されて、リングを降りた。
すると──武闘リング下で見たものは、意外な光景だった。
サユリがセバスチャンの前に立っている。
「セバスチャン先生、準決勝は私と勝負しましょう」
「トーナメント上ではそうなるね。だが、君は棄権《きけん》したまえ」
セバスチャンは首を横に振りながら言った。
「教え子を傷つけたくはない」
「あなたが間違っていることに気付きました」
「……何?」
「傷ついた相手を叩きのめすのは、武闘家の精神に反すると思います。私がそれを身をもって示すために、私は、先生と──いえ、セバスチャン、あなたと闘います」
セバスチャンは眉をひそめて、サユリに、「お前」と言った。
「考え直せ。今からでも遅くない、棄権《きけん》しろ」
セバスチャンはそう言って、花道をさっさと歩いていった。