俺の相手は、バッティングという故意の頭突き──反則をおり交ぜてくる、とんでもない武闘拳闘士、シュライナーだ。
シュライナーは、すばやく走り込んで、大きな右フックを俺に叩きこもうとした。
しかしだ!
俺は見逃さなかった。ヤツの弱点!
ビシイッ
「ぎゃっ!」
シュライナーが再び声を上げた。
俺の下段蹴りが決まっていた。左の内腿がガラ空きだ! シュライナーは苦痛に顔をゆがめる。
ベチイッ
今度は外から! 上から振り下ろすような下段蹴りを食らわせてやった。
「ぐうっ!」
そんな声とともに、シュライナーはリング上に倒れ込んだ。内と外の痛みのサンドイッチだ。効かないわけがない。
こいつはやはり拳闘士。蹴られ慣れていない!
『ダウン! 1……2……3……!』
シュライナーは地面に座り込みながら、俺をにらみつける。
「シュライナー!」
声を上げたのは、客席のセバスチャンだ。
「負けた者は──『儀式』にかける! 分かっているだろうな!」
「儀式! ひ、ひいいっ!」
シュライナーの顔が、いっぺんに真っ青になった。な、なんだ?
あわててシュライナーは、ヨロヨロと立ち上がる。
「冗談じゃない……『儀式』なんてごめんだ!」
シュライナーは意味の分からないことを言いながら、俺に向かって走り込んでくる。
ブウンッ
うおっ!
シュライナーの見事な右フック!
そして素早い右ストレート!
俺はそれを避けるが、下から!
手の甲を使った、トリッキーなパンチ、フリッカージャブ!
か、間一髪で避けた。
だが、み、見事な連続技だ!
シュライナーが一歩踏み込み、左ジャブ──、いや! またも、ジャブに見せかけた頭突き! 俺の側頭部めがけて、自分の額を突き出す!
グワシイッ
「ぐへ」
当たったのは……俺の右肘だった。シュライナーのアゴに、頭突き──反則のバッティングが来る前に、肘を叩き込んでやったのだ。
シュライナーは倒れようとするが、ふんばる。
反則野郎だが、こ、根性のあるヤツだ!
「うおらああっ!」
シュライナーの上から振りかぶるような、右パンチ!
しかし、このパンチは動きが遅い! 俺は──。
ガシイッ
「ガフ」
シュライナーの頬に、左ストレートを叩き込んだ。
「あぐ」
ヨロヨロとふらつくシュライナー。
しかし、彼は再びふんばり──。
「だああっ!」
シュライナーの左ジャブから右ボディーブロー! そして、ワン・ツー!
見事な連続攻撃だ!
俺はすべて防御したが──シュライナーは上から肘を落としてきた!
シュッ
シュライナーの肘は空を切る。俺の鼻の前を通過していった。
あ、危なかった! こいつは実力者だ。どうして反則なんかに頼るんだ?
「ゼ、ゼント……。どうして君は、俺のパンチを避け続けられるんだ? 一体、何者なんだ? 僕は拳闘士だぞ、パンチに自信を持っている! なのに君は──」
シュライナーが声を上げる。
「今よ!」
エルサが声を上げる。
俺は一歩前に進み出て、右フックを彼の側頭部に──。
ガスッ
叩き込んだ。確実にシュライナーの急所をとらえた!
シュライナーはヨロリと体をふらつかせる。
そして──ここだあああっ!!
ガシイイッ
「グ、ハ」
シュライナーが声を上げた。
俺は、左手の平の下部を使った、掌底を、シュライナーのアゴに叩き込んでいた。
「ぐ、ふ」
観客がざわめく。
シュライナーは、小鹿のようにヨロヨロとふんばったが、やがて両膝を床につけた。
ダウンだ……。
その時、リング外の白魔法医師が、立ち上がってあわてて手でバツの字を作った。
その時!
カンカンカン!
──と、ゴングの音が鳴った。
『8分20秒、でドクターストップでゼント・ラージェントの勝ち!』
ウオオオオオオオッ
「あ、あのゼントってチビ、やったぁ!」
「すげえ……顔の急所を完全に打ち抜いてるぜ」
「ゼントぉっ! 1回戦から観てるぞ! お前は強い!」
観客席から声が上がる。
「きゃああーっ、すごいですうっ」
俺がホッとしてリングを下りた時、観客席に座っていたアシュリーが、俺に抱きついた。
「ゼントさんは、やっぱりすごーい!」
「こ、こら! ゼントは疲れてるのよ」
エルサはアシュリーに注意したが、エルサも笑顔を隠し切れないようだった。
ありがとう、エルサ、お前のアドバイス、役に立ったぜ。
◇ ◇ ◇
花道を通り、控え室に向かう通路に向かうと──。
何と、セバスチャンが笑顔で待っていた。
「な、何だ。あんたか」
俺が言うと、セバスチャンが口を開いた。
「私の弟子を、見事に倒しましたね。見事な掌打でした」
「あ、ああ」
「君はとんでもない打撃の正確性を持っている。君は一体、何者なんです?」
……セバスチャン、俺はそれをあんたに言いたい。
「ゼント君、不可思議だ。君のような強い人を、どうしてゲルドン様は自分のパーティーから追い出したのか」
「それは昔の話だよ。セバスチャン、あんただって、ゲルドンの秘書かなんかだろ? 武闘家でもあるって聞いたけど?」
「フフッ」
セバスチャンは不敵に笑った。
「私はゲルドンの執事家秘書ですよ。武闘家としてもまあまあの腕があります。その実力を、次の試合で君にお見せしたいと思います」
え? あ、そうか。次の試合は確か……。
「そうです。私の相手は、君の友人のローフェン君です。私に歯向かわないように、叩きのめします」
な、なんだと? 叩きのめす?
ローフェンは強いぞ。そんな簡単にいくもんか。
「それはそうと、ゼント君。君は強い。君が私の仲間になってくれたら──。ローフェン君を無事にリングから帰してあげよう」
「ど、どういう意味だ。俺があんたの仲間に? お、俺があんたの仲間になんか、なるわけないだろ!」
俺はセバスチャンに嫌悪感を感じていた。このセバスチャンという男は、信用ならない。──そうか!
俺はハッとした。
「シュライナーが握手に見せかけた肘打ち攻撃や、故意の頭突き──まさか、あんたの指導か?」
「フフッ。そうだとしたら? どんな手を使っても勝負に勝つ。相手を再起不能にしてもね──」
俺はセバスチャンという男の心の闇を、確実に感じた。こいつは──ヤバい!
「君を仲間にできないのは残念だ。ローフェン君には地獄を見てもらいましょう」
セバスチャンは悪魔のように笑いながら、廊下の奥の方に去って行った。
シュライナーは、すばやく走り込んで、大きな右フックを俺に叩きこもうとした。
しかしだ!
俺は見逃さなかった。ヤツの弱点!
ビシイッ
「ぎゃっ!」
シュライナーが再び声を上げた。
俺の下段蹴りが決まっていた。左の内腿がガラ空きだ! シュライナーは苦痛に顔をゆがめる。
ベチイッ
今度は外から! 上から振り下ろすような下段蹴りを食らわせてやった。
「ぐうっ!」
そんな声とともに、シュライナーはリング上に倒れ込んだ。内と外の痛みのサンドイッチだ。効かないわけがない。
こいつはやはり拳闘士。蹴られ慣れていない!
『ダウン! 1……2……3……!』
シュライナーは地面に座り込みながら、俺をにらみつける。
「シュライナー!」
声を上げたのは、客席のセバスチャンだ。
「負けた者は──『儀式』にかける! 分かっているだろうな!」
「儀式! ひ、ひいいっ!」
シュライナーの顔が、いっぺんに真っ青になった。な、なんだ?
あわててシュライナーは、ヨロヨロと立ち上がる。
「冗談じゃない……『儀式』なんてごめんだ!」
シュライナーは意味の分からないことを言いながら、俺に向かって走り込んでくる。
ブウンッ
うおっ!
シュライナーの見事な右フック!
そして素早い右ストレート!
俺はそれを避けるが、下から!
手の甲を使った、トリッキーなパンチ、フリッカージャブ!
か、間一髪で避けた。
だが、み、見事な連続技だ!
シュライナーが一歩踏み込み、左ジャブ──、いや! またも、ジャブに見せかけた頭突き! 俺の側頭部めがけて、自分の額を突き出す!
グワシイッ
「ぐへ」
当たったのは……俺の右肘だった。シュライナーのアゴに、頭突き──反則のバッティングが来る前に、肘を叩き込んでやったのだ。
シュライナーは倒れようとするが、ふんばる。
反則野郎だが、こ、根性のあるヤツだ!
「うおらああっ!」
シュライナーの上から振りかぶるような、右パンチ!
しかし、このパンチは動きが遅い! 俺は──。
ガシイッ
「ガフ」
シュライナーの頬に、左ストレートを叩き込んだ。
「あぐ」
ヨロヨロとふらつくシュライナー。
しかし、彼は再びふんばり──。
「だああっ!」
シュライナーの左ジャブから右ボディーブロー! そして、ワン・ツー!
見事な連続攻撃だ!
俺はすべて防御したが──シュライナーは上から肘を落としてきた!
シュッ
シュライナーの肘は空を切る。俺の鼻の前を通過していった。
あ、危なかった! こいつは実力者だ。どうして反則なんかに頼るんだ?
「ゼ、ゼント……。どうして君は、俺のパンチを避け続けられるんだ? 一体、何者なんだ? 僕は拳闘士だぞ、パンチに自信を持っている! なのに君は──」
シュライナーが声を上げる。
「今よ!」
エルサが声を上げる。
俺は一歩前に進み出て、右フックを彼の側頭部に──。
ガスッ
叩き込んだ。確実にシュライナーの急所をとらえた!
シュライナーはヨロリと体をふらつかせる。
そして──ここだあああっ!!
ガシイイッ
「グ、ハ」
シュライナーが声を上げた。
俺は、左手の平の下部を使った、掌底を、シュライナーのアゴに叩き込んでいた。
「ぐ、ふ」
観客がざわめく。
シュライナーは、小鹿のようにヨロヨロとふんばったが、やがて両膝を床につけた。
ダウンだ……。
その時、リング外の白魔法医師が、立ち上がってあわてて手でバツの字を作った。
その時!
カンカンカン!
──と、ゴングの音が鳴った。
『8分20秒、でドクターストップでゼント・ラージェントの勝ち!』
ウオオオオオオオッ
「あ、あのゼントってチビ、やったぁ!」
「すげえ……顔の急所を完全に打ち抜いてるぜ」
「ゼントぉっ! 1回戦から観てるぞ! お前は強い!」
観客席から声が上がる。
「きゃああーっ、すごいですうっ」
俺がホッとしてリングを下りた時、観客席に座っていたアシュリーが、俺に抱きついた。
「ゼントさんは、やっぱりすごーい!」
「こ、こら! ゼントは疲れてるのよ」
エルサはアシュリーに注意したが、エルサも笑顔を隠し切れないようだった。
ありがとう、エルサ、お前のアドバイス、役に立ったぜ。
◇ ◇ ◇
花道を通り、控え室に向かう通路に向かうと──。
何と、セバスチャンが笑顔で待っていた。
「な、何だ。あんたか」
俺が言うと、セバスチャンが口を開いた。
「私の弟子を、見事に倒しましたね。見事な掌打でした」
「あ、ああ」
「君はとんでもない打撃の正確性を持っている。君は一体、何者なんです?」
……セバスチャン、俺はそれをあんたに言いたい。
「ゼント君、不可思議だ。君のような強い人を、どうしてゲルドン様は自分のパーティーから追い出したのか」
「それは昔の話だよ。セバスチャン、あんただって、ゲルドンの秘書かなんかだろ? 武闘家でもあるって聞いたけど?」
「フフッ」
セバスチャンは不敵に笑った。
「私はゲルドンの執事家秘書ですよ。武闘家としてもまあまあの腕があります。その実力を、次の試合で君にお見せしたいと思います」
え? あ、そうか。次の試合は確か……。
「そうです。私の相手は、君の友人のローフェン君です。私に歯向かわないように、叩きのめします」
な、なんだと? 叩きのめす?
ローフェンは強いぞ。そんな簡単にいくもんか。
「それはそうと、ゼント君。君は強い。君が私の仲間になってくれたら──。ローフェン君を無事にリングから帰してあげよう」
「ど、どういう意味だ。俺があんたの仲間に? お、俺があんたの仲間になんか、なるわけないだろ!」
俺はセバスチャンに嫌悪感を感じていた。このセバスチャンという男は、信用ならない。──そうか!
俺はハッとした。
「シュライナーが握手に見せかけた肘打ち攻撃や、故意の頭突き──まさか、あんたの指導か?」
「フフッ。そうだとしたら? どんな手を使っても勝負に勝つ。相手を再起不能にしてもね──」
俺はセバスチャンという男の心の闇を、確実に感じた。こいつは──ヤバい!
「君を仲間にできないのは残念だ。ローフェン君には地獄を見てもらいましょう」
セバスチャンは悪魔のように笑いながら、廊下の奥の方に去って行った。