「ね、一緒に故郷に帰りましょう」
俺に向かって、そんな謎の言葉を発した、少女武闘家サユリ──。
資料によると──何と、所属は「G&Sトライアード」だって?
「G&Sトライアード」は、ゲルドンが社長をしている、グランバーン王国最大の武闘家養成所だ!
サユリは、ゲルドンとどういう関係なんだ?
彼女は武闘リングに上がった。
何とも小さい体だ。パンフレットを見ると、身長154センチ、体重48キロらしい。とても、このトーナメントを勝ち上がれるとは思えない。
俺は観客席で、試合を見守ることになった。俺の隣には、ミランダさんが座っている。
サユリの相手は、バドライズ・ドリューン。すでに武闘リングに上がっている。
身長180センチ、体重78キロ。武闘家として、堂々とした体格だ。種族は、肌の色が赤い、山鬼族。35歳。地区大会トーナメントで何度か優勝の強豪だ。
所属は、「山鬼族蛇の穴」。地方の武闘家養成所だ。
「何を好んで、おめえみたいな小さい女と闘わなくちゃならねーんだよ」
ドリューンは苦笑いするようにして、小さいサユリを見下ろした。
しかし、サユリは言葉を返す。
「……私が勝つんですよ、ドリューンさん」
「は? おい、何の冗談なんだ?」
「冗談でも何でもありませんよ。勝つのは私です」
サユリは静かに言った。戦闘民族といわれる山鬼族を、まったく怖れていない! い、一体、この子はどういう女の子なんだ?
カーン!
その時、ゴングが鳴り、試合が始まってしまった!
ドリューンは仕方なく、サユリに近づく。構えていない。構えなくても、16歳の小柄な女の子には勝てる、という意味だろう。
一方、サユリは横を向いたままだ。すると──。
ピタッ
サユリは右手を開いて、ドリューンに向かって差し出した。
「うっ……」
ドリューンは、あわてて構える。
……何も起こらない。当たり前だ。サユリはただ、右手を差し出しただけなのだから。
「何だっつーんだよ。おい、女、俺が怒らねえうちにギブアップしろよ。マジで殴るぞ」
ドリューンはイライラしながらサユリに言った。
「私は、あなたに勝つと言ったでしょう?」
「こ、この……!」
ドリューンは、左ジャブを軽く出した。パスッパスッと、サユリの差し出した右手に軽く当てる。
「今度は顔に当てちまうぞ」
ギュッ
……えっ?
サユリはドリューンの左ジャブの手首を、……いつの間にか握っていた! い、いつ、握ったんだ?
サユリはハンドスピードが速いってことか? まさか?
「うっ……?」
ドリューンは動かない。いや、動けないのだ。ドリューンの顔は、驚きの表情だ。
観客は首を傾げている。
「お、おい」
「なんなんだ? どういうことだ?」
「八百長じゃねえだろうな~」
会場に冷ややかな笑いが起こる。
ギリリッ……
そんな、何か腕をひねるような音がした。
ドリューンは本当に動けないのだ。サユリにただ、手首を掴まれているだけだ。ドリューンの顔は、苦痛にゆがんでいる。
「サユリはね、ドリューンの手首を掴んで、彼の手首の痛点を極めているのよ」
隣のミランダさんが話してくれた。
い、いや、まさか? そんな格闘の技術、聞いたことがないぞ?
するとサユリは体を一歩前に前進させ、ドリューンのふくらはぎの裏……アキレス腱の部分に、自分の足をひっかけた。
ドタアッ
「いてぇ!」
ドリューンはそんな声を上げ、いとも簡単に背中から倒れ込んだ。
ま、まさか……サユリに投げられた?
あわてて、ドリューンは顔を真っ赤にしながら起き上がった。
「きさま~!」
ドリューンは立ち上がり、サユリに向かって右ストレートパンチを放つ。
しかし、サユリはいとも簡単にそれを避け──。
ゲシイッ
自分の拳を突き上げるように、ドリューンの鼻の下に当てた。サユリのパンチが当たった!
「ぐへ」
ドリューンはひるんだ。カ、カウンター攻撃だ!
サユリはドリューンと身長差があるから、拳を突き上げたのだ。しかし、女の子の打撃が、あんな大柄な男に当たるものなのか?
「サユリのパンチは、『直突き』ね」
隣に座っていた、ミランダさんが言った。
「拳を縦に繰り出し、あまり体をひねらない、独特の打撃法よ」
ドリューンはあわてている。
「てめえええ~! サユリ! お前を潰す!」
ドリューンの左フック! 大振りのパンチだ。本当にサユリは潰されるぞ!
ガスウッ
しかしこれもまた、サユリの突き上げるような左直突きが、ドリューンのアゴに決まっていた。
「ゴフ」
ドリューンは一歩後退する。
するとサユリはドリューンの腰に手を回し──ものすごい勢いで──。
ドリューンを体ごと、ぶん投げた!
ドタアンッ
「ガヘエッ!」
ドリューンは、リングに叩きつけられてうめいた。女の子に投げられて……!
サユリは倒れたドリューンを、無表情で見下ろしている。
な、なんて素早い投げ技んだ……。体重差をものともしない!
「うおおっ! はええっ」
「投げだ!」
「マジか」
観客も声を上げる。
「ふうん……あれは高度な投げ技よ──。浮腰といわれる投げね」
ミランダさんが俺に言った。
「タイミングがバッチリあって、素早く投げることができたようね」
あ、あのサユリって子……!
強い! すさまじく強い!
『ダウン! 1……2……3……!』
魔導拡声器で、審判団のダウンカウントが会場内に響く。
ウオオオオオッ……。
マジか……! 観客たちは声を上げた。サユリがダウンを奪った!
ドリューンはフラフラと倒れた体を起こし、立ち上がりながら、ギロリとサユリをにらんでいた。
俺に向かって、そんな謎の言葉を発した、少女武闘家サユリ──。
資料によると──何と、所属は「G&Sトライアード」だって?
「G&Sトライアード」は、ゲルドンが社長をしている、グランバーン王国最大の武闘家養成所だ!
サユリは、ゲルドンとどういう関係なんだ?
彼女は武闘リングに上がった。
何とも小さい体だ。パンフレットを見ると、身長154センチ、体重48キロらしい。とても、このトーナメントを勝ち上がれるとは思えない。
俺は観客席で、試合を見守ることになった。俺の隣には、ミランダさんが座っている。
サユリの相手は、バドライズ・ドリューン。すでに武闘リングに上がっている。
身長180センチ、体重78キロ。武闘家として、堂々とした体格だ。種族は、肌の色が赤い、山鬼族。35歳。地区大会トーナメントで何度か優勝の強豪だ。
所属は、「山鬼族蛇の穴」。地方の武闘家養成所だ。
「何を好んで、おめえみたいな小さい女と闘わなくちゃならねーんだよ」
ドリューンは苦笑いするようにして、小さいサユリを見下ろした。
しかし、サユリは言葉を返す。
「……私が勝つんですよ、ドリューンさん」
「は? おい、何の冗談なんだ?」
「冗談でも何でもありませんよ。勝つのは私です」
サユリは静かに言った。戦闘民族といわれる山鬼族を、まったく怖れていない! い、一体、この子はどういう女の子なんだ?
カーン!
その時、ゴングが鳴り、試合が始まってしまった!
ドリューンは仕方なく、サユリに近づく。構えていない。構えなくても、16歳の小柄な女の子には勝てる、という意味だろう。
一方、サユリは横を向いたままだ。すると──。
ピタッ
サユリは右手を開いて、ドリューンに向かって差し出した。
「うっ……」
ドリューンは、あわてて構える。
……何も起こらない。当たり前だ。サユリはただ、右手を差し出しただけなのだから。
「何だっつーんだよ。おい、女、俺が怒らねえうちにギブアップしろよ。マジで殴るぞ」
ドリューンはイライラしながらサユリに言った。
「私は、あなたに勝つと言ったでしょう?」
「こ、この……!」
ドリューンは、左ジャブを軽く出した。パスッパスッと、サユリの差し出した右手に軽く当てる。
「今度は顔に当てちまうぞ」
ギュッ
……えっ?
サユリはドリューンの左ジャブの手首を、……いつの間にか握っていた! い、いつ、握ったんだ?
サユリはハンドスピードが速いってことか? まさか?
「うっ……?」
ドリューンは動かない。いや、動けないのだ。ドリューンの顔は、驚きの表情だ。
観客は首を傾げている。
「お、おい」
「なんなんだ? どういうことだ?」
「八百長じゃねえだろうな~」
会場に冷ややかな笑いが起こる。
ギリリッ……
そんな、何か腕をひねるような音がした。
ドリューンは本当に動けないのだ。サユリにただ、手首を掴まれているだけだ。ドリューンの顔は、苦痛にゆがんでいる。
「サユリはね、ドリューンの手首を掴んで、彼の手首の痛点を極めているのよ」
隣のミランダさんが話してくれた。
い、いや、まさか? そんな格闘の技術、聞いたことがないぞ?
するとサユリは体を一歩前に前進させ、ドリューンのふくらはぎの裏……アキレス腱の部分に、自分の足をひっかけた。
ドタアッ
「いてぇ!」
ドリューンはそんな声を上げ、いとも簡単に背中から倒れ込んだ。
ま、まさか……サユリに投げられた?
あわてて、ドリューンは顔を真っ赤にしながら起き上がった。
「きさま~!」
ドリューンは立ち上がり、サユリに向かって右ストレートパンチを放つ。
しかし、サユリはいとも簡単にそれを避け──。
ゲシイッ
自分の拳を突き上げるように、ドリューンの鼻の下に当てた。サユリのパンチが当たった!
「ぐへ」
ドリューンはひるんだ。カ、カウンター攻撃だ!
サユリはドリューンと身長差があるから、拳を突き上げたのだ。しかし、女の子の打撃が、あんな大柄な男に当たるものなのか?
「サユリのパンチは、『直突き』ね」
隣に座っていた、ミランダさんが言った。
「拳を縦に繰り出し、あまり体をひねらない、独特の打撃法よ」
ドリューンはあわてている。
「てめえええ~! サユリ! お前を潰す!」
ドリューンの左フック! 大振りのパンチだ。本当にサユリは潰されるぞ!
ガスウッ
しかしこれもまた、サユリの突き上げるような左直突きが、ドリューンのアゴに決まっていた。
「ゴフ」
ドリューンは一歩後退する。
するとサユリはドリューンの腰に手を回し──ものすごい勢いで──。
ドリューンを体ごと、ぶん投げた!
ドタアンッ
「ガヘエッ!」
ドリューンは、リングに叩きつけられてうめいた。女の子に投げられて……!
サユリは倒れたドリューンを、無表情で見下ろしている。
な、なんて素早い投げ技んだ……。体重差をものともしない!
「うおおっ! はええっ」
「投げだ!」
「マジか」
観客も声を上げる。
「ふうん……あれは高度な投げ技よ──。浮腰といわれる投げね」
ミランダさんが俺に言った。
「タイミングがバッチリあって、素早く投げることができたようね」
あ、あのサユリって子……!
強い! すさまじく強い!
『ダウン! 1……2……3……!』
魔導拡声器で、審判団のダウンカウントが会場内に響く。
ウオオオオオッ……。
マジか……! 観客たちは声を上げた。サユリがダウンを奪った!
ドリューンはフラフラと倒れた体を起こし、立ち上がりながら、ギロリとサユリをにらんでいた。