ゲルドン杯格闘トーナメントの1回戦が、小体育館で続けられている。
リング上では、俺の試合に続く、今日の第2試合が行われていた。
「どおりゃあーっ!」
元気の良い気合一閃、エルフ族のローフェンの試合だ。俺──ゼントは、ローフェンのセコンドとなり、リング下で彼の闘いぶりを見守っていた。
シュバッ
「ぐへ」
ローフェンの素早い横蹴りが、相手に当たった。
相手はドワーフ族のマドール・グスターボ。
身長は170センチ前後だが、体がまるで箱のように分厚い武闘家だ。
「のやろおお~!」
グスターボは怒り狂って、猛獣のような声を上げる。グスターボの風貌も、ひげ面で猛獣のようだが……。
不器用ながら、力強いハンマーパンチを、上から振り下ろしてくる。
しかし、ローフェンはそれをかいくぐり──。
ガスッ
上段蹴り! グスターボを一発KOだ!
「見たかあっ! ゼントォッ!」
ローフェンは、リング上からセコンドの俺を指差して、アピールする。ローフェンはリング下に下り立った後も、俺に言った。
「おい、俺の見事で華麗なハイキックを見たかよ。な? すごかったろ?」
「わかったわかった」
まったく、子どもかよ、こいつは……。
俺は苦笑いした。しかし、ローフェンは強い。
エルフ族は、魔法能力が素早い剣技が得意だとは聞いていた。しかしローフェンは格闘術で、華麗で力強い蹴りを繰り出せるようだ。
「ゼントさん」
ん? 後ろで女の子の声がしたな? 俺とローフェンは振り返った。
「私と一緒に帰りましょう」
は?
俺は目を丸くした。俺の後ろには、16歳くらいの女の子が立っていた。
黒髪で前髪ぱっつん、ロングヘア……。
うわっ……かわいい……。美少女だ!
ん? この女の子、武闘グローブを手にはめているぞ。何と、この子、武闘家か! トーナメント出場選手だ!
「ね、一緒に故郷に帰りましょう」
女の子は、俺の手を握る。お、おわあああ~! 何だ? 夢か?
「おいおいおいおいおい!」
ローフェンがすかさず、俺にツッコミを入れる。
「いつ、こんなかわいい女の子をナンパしたんだ! お前!」
いや、ナンパなんてしている余裕ないぞ。お前じゃないんだから、ローフェン。
「そ、それより、君は誰?」
俺は女の子に聞いた。
「サユリ……。サユリ・タナカと申します」
「サユリ……」
俺はその名前を心の中で復唱した。何だか不思議な名前だ。懐かしいような、聞いたことがあるような、ないような。
「では、私は試合がありますので」
サユリはそのまま、武闘リングの方に行ってしまった。本当に、トーナメント出場選手だったのか!
あのサユリって子、不思議なユニフォームを着ているなあ。
白い民族衣装のような服。そして下にはズボンのような、スカートのような、幅広の不思議な黒いズボンを穿いている。
「あれは、袴というものよ。東の果ての国、ジパンダルの民族衣装のようなものね」
横から、ミランダさんが俺に話しかけてきた。試合、観ててくれたのか。
でも、ジパンダル? どこかで聞いたな。
サユリって子が言ってた「故郷」って、そのジパンダルって国のことなのか?
「おっ、おい。見ろ、あの女性」
「あの人……ミランダ・レーンじゃないのか?」
ん? いつの間にか俺たちの周りに人だかりができている。
さっきのサユリも気になるけど、何だか周囲が騒がしくなってしまったぞ?
パシャパシャパシャ
何と、雑誌記者たちも集まってきて、ミランダさんの魔導写真を撮り始めた!
「ミランダさん! どうして急に、表舞台に出られることにしたのですか?」
「あなたの『ミランダ武闘家養成所』、有望選手はいるんですか?」
「ミランダさん、インタビューさせてください! 何か一言!」
雑誌記者たちは、ミランダさんに魔導収音機(注・マイクのような魔道具。言葉を記録する魔力が込められている)をつきつけている。
どういうことだ? ミランダさんって、何者なんだ?
「ゼント! お前、今さら、何驚いた顔をしてんだよっ」
ローフェンが俺に声をかけてきた。
「お、お前、まさか……。ミランダ先生が、女子武闘家唯一の、世界武闘選手権三連覇の『ミランダ・レーン』って知らなかった……なんてことはないよな?」
ん? ミランダ・レーン?
俺が引きこもるちょっと前──20年前。
伝説的強さを誇った、「ミランダ・レーン」という女子武闘家がいることは、もちろん知っていた。
新聞には毎日、ミランダ・レーンの特集が組まれ、まさに国民的スターだったけど……。
「そ、そのミランダ・レーンが、ミランダさん……?」
「あったり前だろが! 国民的スターだぞ、ミランダ先生は!」
「マジか!」
いや、全然気づかなかった。ミランダなんて、ありふれた名前だもんな。
「ゼント……トンマなヤツだな、おめぇは。一緒の村にいて、2ヶ月も気付かないなんて」
ローフェンが額に手をやって呆れている。そのミランダさんは、雑誌記者たちに向かって、「今、いそがしいのよ」と笑って対応している。
世界武闘選手権三連覇──。ミランダさんに、「この人には絶対逆らえそうにない」と感じたのは、不思議じゃなかったってことか。
◇ ◇ ◇
さて──この後、俺たちは驚愕の試合を観ることになる!
それはさっきの美少女武闘家、サユリの試合だった──。
リング上では、俺の試合に続く、今日の第2試合が行われていた。
「どおりゃあーっ!」
元気の良い気合一閃、エルフ族のローフェンの試合だ。俺──ゼントは、ローフェンのセコンドとなり、リング下で彼の闘いぶりを見守っていた。
シュバッ
「ぐへ」
ローフェンの素早い横蹴りが、相手に当たった。
相手はドワーフ族のマドール・グスターボ。
身長は170センチ前後だが、体がまるで箱のように分厚い武闘家だ。
「のやろおお~!」
グスターボは怒り狂って、猛獣のような声を上げる。グスターボの風貌も、ひげ面で猛獣のようだが……。
不器用ながら、力強いハンマーパンチを、上から振り下ろしてくる。
しかし、ローフェンはそれをかいくぐり──。
ガスッ
上段蹴り! グスターボを一発KOだ!
「見たかあっ! ゼントォッ!」
ローフェンは、リング上からセコンドの俺を指差して、アピールする。ローフェンはリング下に下り立った後も、俺に言った。
「おい、俺の見事で華麗なハイキックを見たかよ。な? すごかったろ?」
「わかったわかった」
まったく、子どもかよ、こいつは……。
俺は苦笑いした。しかし、ローフェンは強い。
エルフ族は、魔法能力が素早い剣技が得意だとは聞いていた。しかしローフェンは格闘術で、華麗で力強い蹴りを繰り出せるようだ。
「ゼントさん」
ん? 後ろで女の子の声がしたな? 俺とローフェンは振り返った。
「私と一緒に帰りましょう」
は?
俺は目を丸くした。俺の後ろには、16歳くらいの女の子が立っていた。
黒髪で前髪ぱっつん、ロングヘア……。
うわっ……かわいい……。美少女だ!
ん? この女の子、武闘グローブを手にはめているぞ。何と、この子、武闘家か! トーナメント出場選手だ!
「ね、一緒に故郷に帰りましょう」
女の子は、俺の手を握る。お、おわあああ~! 何だ? 夢か?
「おいおいおいおいおい!」
ローフェンがすかさず、俺にツッコミを入れる。
「いつ、こんなかわいい女の子をナンパしたんだ! お前!」
いや、ナンパなんてしている余裕ないぞ。お前じゃないんだから、ローフェン。
「そ、それより、君は誰?」
俺は女の子に聞いた。
「サユリ……。サユリ・タナカと申します」
「サユリ……」
俺はその名前を心の中で復唱した。何だか不思議な名前だ。懐かしいような、聞いたことがあるような、ないような。
「では、私は試合がありますので」
サユリはそのまま、武闘リングの方に行ってしまった。本当に、トーナメント出場選手だったのか!
あのサユリって子、不思議なユニフォームを着ているなあ。
白い民族衣装のような服。そして下にはズボンのような、スカートのような、幅広の不思議な黒いズボンを穿いている。
「あれは、袴というものよ。東の果ての国、ジパンダルの民族衣装のようなものね」
横から、ミランダさんが俺に話しかけてきた。試合、観ててくれたのか。
でも、ジパンダル? どこかで聞いたな。
サユリって子が言ってた「故郷」って、そのジパンダルって国のことなのか?
「おっ、おい。見ろ、あの女性」
「あの人……ミランダ・レーンじゃないのか?」
ん? いつの間にか俺たちの周りに人だかりができている。
さっきのサユリも気になるけど、何だか周囲が騒がしくなってしまったぞ?
パシャパシャパシャ
何と、雑誌記者たちも集まってきて、ミランダさんの魔導写真を撮り始めた!
「ミランダさん! どうして急に、表舞台に出られることにしたのですか?」
「あなたの『ミランダ武闘家養成所』、有望選手はいるんですか?」
「ミランダさん、インタビューさせてください! 何か一言!」
雑誌記者たちは、ミランダさんに魔導収音機(注・マイクのような魔道具。言葉を記録する魔力が込められている)をつきつけている。
どういうことだ? ミランダさんって、何者なんだ?
「ゼント! お前、今さら、何驚いた顔をしてんだよっ」
ローフェンが俺に声をかけてきた。
「お、お前、まさか……。ミランダ先生が、女子武闘家唯一の、世界武闘選手権三連覇の『ミランダ・レーン』って知らなかった……なんてことはないよな?」
ん? ミランダ・レーン?
俺が引きこもるちょっと前──20年前。
伝説的強さを誇った、「ミランダ・レーン」という女子武闘家がいることは、もちろん知っていた。
新聞には毎日、ミランダ・レーンの特集が組まれ、まさに国民的スターだったけど……。
「そ、そのミランダ・レーンが、ミランダさん……?」
「あったり前だろが! 国民的スターだぞ、ミランダ先生は!」
「マジか!」
いや、全然気づかなかった。ミランダなんて、ありふれた名前だもんな。
「ゼント……トンマなヤツだな、おめぇは。一緒の村にいて、2ヶ月も気付かないなんて」
ローフェンが額に手をやって呆れている。そのミランダさんは、雑誌記者たちに向かって、「今、いそがしいのよ」と笑って対応している。
世界武闘選手権三連覇──。ミランダさんに、「この人には絶対逆らえそうにない」と感じたのは、不思議じゃなかったってことか。
◇ ◇ ◇
さて──この後、俺たちは驚愕の試合を観ることになる!
それはさっきの美少女武闘家、サユリの試合だった──。