「ゲルドン杯格闘トーナメント」に出場するため、中央都市ライザーンのホテルに宿泊した俺たち。
次の日、ついに試合に出場することになった。1回戦だ!
1回戦は「予選」のようなもので、開会セレモニー前に行われる。
出場選手16名が8名にしぼられるのだ。
ひええ~……試合なんて学生時代以来だ。第1回戦は、まだスタジアムでは試合できない。小規模の体育館で試合をする。
「うわ~、緊張する! 怖ぇよ~」
試合1時間前──俺は、試合会場の控え室で真っ青になって、頭を抱えていた。緊張して仕方ない。
エルサが杖をつきながらも、控え室についてきてくれた。
俺の第1回戦の相手は──何と、あの大勇者ゲルドンの現在のパーティーメンバーだった。一番弟子の武闘家、クオリファだ。
しかもクオリファの所属は、「G&Sトライアード」。グランバーン王国最大の武闘家養成所だ。Gとはゲルドンのことで、ゲルドンが社長をしているらしい。
か、勝てるのか? 俺……。
「ゼント、武闘グローブをはめるよ」
エルサは杖を置き、俺の手に、武闘グローブをはめてくれた。武闘グローブとは、格闘技の試合の時に手にはめる、指が出ているグローブのことだ。
指が出ているので、相手をつかむことができる。
エルサはグローブをつけた俺の両手をにぎって、俺の目を見てこう言った。
「大丈夫だよ、ゼント。あたしがいるよ。神様が見てるよ。君の努力、悔しさ、悲しみ、全部、神様が見てくださっていたんだよ。きっと、それが報われるよ」
「え? ああ……」
「だから……自分を信じてね」
なんだ? 俺の心が、少し熱くなったように感じた。
ちなみに俺のコスチュームは、エルフ族特注の青い武闘着だった。エルサとアシュリーが、村で作ってくれた。
◇ ◇ ◇
リング上ではすでに、武闘家のクオリファが腕組みして待っていた。
ニヤニヤ笑っている。
俺は、緊張しながらリングに上がり、ロープをくぐった。ゲルドンはこの試合会場にはいないらしい。
「おめぇか? もともとゲルドンさんのパーティーメンバーだったっていう、ヘタレ野郎は」
クオリファはクスクス笑っている。赤い武闘着を着て、気合十分だ。
「何だか知らねーけどよ。ゲルドンさんに挑戦するんだって?」
ギャハハ! セコンドにいるクオリファの付き人たちもゲラゲラ笑っている。
「あのゼントってヤツ、バカじゃねーの」
「見るからに弱々しいあいつが?」
「身の程知らずにも、程があるってもんだぜ」
今の俺の体は、身長162センチ、体重55キロ。しかしクオリファの体は、身長188センチ、84キロらしい……。
ハハハ。こいつはひどい差だ。笑うしかない。
『私語はつつしめ!』
審判席の審判が、魔導拡声器──魔法の力で声を大きくする魔道具──で声を上げた。
「ゼント! 集中!」
セコンドの方から声が上がった。う、うわっ! エルサがセコンドについている!
「お、お前、そんな体調で、セコンドなんて大丈夫なのか?」
「大丈夫! あたしもセコンドとして、闘う!」
カーン!
リング外のエルサと会話をしている間に、試合は始まってしまった。
「さーてと……おーら? どうすんだ?」
シュッ
クオリファは半笑いで、軽い横蹴りを繰り出してきた。
一発、二発、三発……そして、華麗な回し蹴り!
観客がどよめく……が!
ここだ!
俺はすぐに、彼の懐に飛び込み、左ジャブを突き出した。
クオリファは、「おっ?」と声を出し、ふっと避ける。
「ん? ちょっとは早いじゃねえか」
クオリファが体勢を立て直し、一歩前に出て、余裕の下段蹴り──。
見えた! 俺は飛び込んだ!
ガスウッ
俺の素早い、右ストレートパンチ!
このパンチは、完全にクオリファの右頬をとらえていた。クオリファが前に出ると同時に放った、カウンター攻撃だ!
──彼の体が傾いた。
「なっ……」
クオリファが後退しかかった。
「お、お前……ゼント! い、いや、まぐれだ。そうに違いねえ」
クオリファはあわてたように、一歩前に進み出た。
もらった!
俺は下段蹴りで、クオリファの足を刈った!
ガッ
「なっ!」
クオリファはバランスを崩しながら、声を上げる!
ドタアッ
「うっ!」
俺はクオリファの足を刈って、クオリファを転倒させた! ヤツは見事にひっくり返って、背中を武闘リング上に打ち付けた。
「な、なんだと……!」
クオリファは驚きの声を上げる。
この技は、蹴り技ではない! 転倒させて背中から落とす、いわば足を使った刈り技だ! クオリファは蹴られたダメージよりも、転ばされて背中を打った、という精神的ダメージが大きいはずだ。
「て、てめえぇ~! 生意気だぁあああ!」
クオリファはあわてて立ち上がり、向かってきた。そう、この技をくらった者は、焦ってこうなる!
ビュッ
クオリファの左中段回し蹴り! 良い蹴りだが……俺は見切った!
ここっ!
俺は、クオリファの蹴り足を掴んだ! 彼の左足を、脇に抱えたのだ。これは蹴り技に対する防御技術だ!
「お、と、と」
当然、クオリファは片足で立っているので、バランスを崩さざるを得ない!
俺はクオリファの肩を思いきり押し、1メートル半突き放して──!
全速力で向かっていった。
「お、おい! や、やめ……!」
クオリファは目を丸くしている。──俺は飛んだ──。
ガッスウッ
右飛び膝蹴りだ! 俺の右膝が、クオリファのアゴに当たった! 完璧な手ごたえ!
「グフウウウッ」
クオリファは大きく吹っ飛び、尻もちをついた。
しかしクオリファは、あわてて立ち上がろうとした。舌打ちして、「へ、やるじゃねえかよ」とつぶやいている。
ムダだぜ、クオリファ。お前はアゴの急所にくらった! そうなると、どうなるか?
クオリファは立ち上がろうとして、膝に手をつく。
「え?」
しかし、クオリファはグラリと体を揺らし──。
ドタッ
彼は、右にまた転倒した。
ウ、ウオオオッ……。
「え? クオリファが……?」
「何だ? おい、何が起こっているんだ?」
「お、おい。ダウンか? ゲルドンの弟子がダウン?」
「何かの間違いじゃねーの?」
観客がざわざわと騒ぎ始める。何かが起こっている、と。
『クオリファのダウンです! 1……2……3……!』
ダウンカウントが審判席から数えられる。
ウオオオオオオオッ……。
「きたああああーっ!」
「クオリファのダウン!」
「ゼント、何者だ?」
少ない観客が声を上げる。
俺は、開始35秒で、ゲルドンの一番弟子をダウンさせた!
クオリファは、リングに片膝をつき、目を丸くして、俺を見上げていた。
「お、おい、何かの間違いだ……そうだろ? おい」
クオリファはブツブツ言いながらも、ギロリと俺をにらみつけて言った。
「ゼント、お前……。一体、何者だ? い、いや、そんなことはどうでもいい!」
クオリファは立ち上がろうとしながら、吼えた。
「分かっているだろうな! 俺に恥をかかせやがってぇ……!」
次の日、ついに試合に出場することになった。1回戦だ!
1回戦は「予選」のようなもので、開会セレモニー前に行われる。
出場選手16名が8名にしぼられるのだ。
ひええ~……試合なんて学生時代以来だ。第1回戦は、まだスタジアムでは試合できない。小規模の体育館で試合をする。
「うわ~、緊張する! 怖ぇよ~」
試合1時間前──俺は、試合会場の控え室で真っ青になって、頭を抱えていた。緊張して仕方ない。
エルサが杖をつきながらも、控え室についてきてくれた。
俺の第1回戦の相手は──何と、あの大勇者ゲルドンの現在のパーティーメンバーだった。一番弟子の武闘家、クオリファだ。
しかもクオリファの所属は、「G&Sトライアード」。グランバーン王国最大の武闘家養成所だ。Gとはゲルドンのことで、ゲルドンが社長をしているらしい。
か、勝てるのか? 俺……。
「ゼント、武闘グローブをはめるよ」
エルサは杖を置き、俺の手に、武闘グローブをはめてくれた。武闘グローブとは、格闘技の試合の時に手にはめる、指が出ているグローブのことだ。
指が出ているので、相手をつかむことができる。
エルサはグローブをつけた俺の両手をにぎって、俺の目を見てこう言った。
「大丈夫だよ、ゼント。あたしがいるよ。神様が見てるよ。君の努力、悔しさ、悲しみ、全部、神様が見てくださっていたんだよ。きっと、それが報われるよ」
「え? ああ……」
「だから……自分を信じてね」
なんだ? 俺の心が、少し熱くなったように感じた。
ちなみに俺のコスチュームは、エルフ族特注の青い武闘着だった。エルサとアシュリーが、村で作ってくれた。
◇ ◇ ◇
リング上ではすでに、武闘家のクオリファが腕組みして待っていた。
ニヤニヤ笑っている。
俺は、緊張しながらリングに上がり、ロープをくぐった。ゲルドンはこの試合会場にはいないらしい。
「おめぇか? もともとゲルドンさんのパーティーメンバーだったっていう、ヘタレ野郎は」
クオリファはクスクス笑っている。赤い武闘着を着て、気合十分だ。
「何だか知らねーけどよ。ゲルドンさんに挑戦するんだって?」
ギャハハ! セコンドにいるクオリファの付き人たちもゲラゲラ笑っている。
「あのゼントってヤツ、バカじゃねーの」
「見るからに弱々しいあいつが?」
「身の程知らずにも、程があるってもんだぜ」
今の俺の体は、身長162センチ、体重55キロ。しかしクオリファの体は、身長188センチ、84キロらしい……。
ハハハ。こいつはひどい差だ。笑うしかない。
『私語はつつしめ!』
審判席の審判が、魔導拡声器──魔法の力で声を大きくする魔道具──で声を上げた。
「ゼント! 集中!」
セコンドの方から声が上がった。う、うわっ! エルサがセコンドについている!
「お、お前、そんな体調で、セコンドなんて大丈夫なのか?」
「大丈夫! あたしもセコンドとして、闘う!」
カーン!
リング外のエルサと会話をしている間に、試合は始まってしまった。
「さーてと……おーら? どうすんだ?」
シュッ
クオリファは半笑いで、軽い横蹴りを繰り出してきた。
一発、二発、三発……そして、華麗な回し蹴り!
観客がどよめく……が!
ここだ!
俺はすぐに、彼の懐に飛び込み、左ジャブを突き出した。
クオリファは、「おっ?」と声を出し、ふっと避ける。
「ん? ちょっとは早いじゃねえか」
クオリファが体勢を立て直し、一歩前に出て、余裕の下段蹴り──。
見えた! 俺は飛び込んだ!
ガスウッ
俺の素早い、右ストレートパンチ!
このパンチは、完全にクオリファの右頬をとらえていた。クオリファが前に出ると同時に放った、カウンター攻撃だ!
──彼の体が傾いた。
「なっ……」
クオリファが後退しかかった。
「お、お前……ゼント! い、いや、まぐれだ。そうに違いねえ」
クオリファはあわてたように、一歩前に進み出た。
もらった!
俺は下段蹴りで、クオリファの足を刈った!
ガッ
「なっ!」
クオリファはバランスを崩しながら、声を上げる!
ドタアッ
「うっ!」
俺はクオリファの足を刈って、クオリファを転倒させた! ヤツは見事にひっくり返って、背中を武闘リング上に打ち付けた。
「な、なんだと……!」
クオリファは驚きの声を上げる。
この技は、蹴り技ではない! 転倒させて背中から落とす、いわば足を使った刈り技だ! クオリファは蹴られたダメージよりも、転ばされて背中を打った、という精神的ダメージが大きいはずだ。
「て、てめえぇ~! 生意気だぁあああ!」
クオリファはあわてて立ち上がり、向かってきた。そう、この技をくらった者は、焦ってこうなる!
ビュッ
クオリファの左中段回し蹴り! 良い蹴りだが……俺は見切った!
ここっ!
俺は、クオリファの蹴り足を掴んだ! 彼の左足を、脇に抱えたのだ。これは蹴り技に対する防御技術だ!
「お、と、と」
当然、クオリファは片足で立っているので、バランスを崩さざるを得ない!
俺はクオリファの肩を思いきり押し、1メートル半突き放して──!
全速力で向かっていった。
「お、おい! や、やめ……!」
クオリファは目を丸くしている。──俺は飛んだ──。
ガッスウッ
右飛び膝蹴りだ! 俺の右膝が、クオリファのアゴに当たった! 完璧な手ごたえ!
「グフウウウッ」
クオリファは大きく吹っ飛び、尻もちをついた。
しかしクオリファは、あわてて立ち上がろうとした。舌打ちして、「へ、やるじゃねえかよ」とつぶやいている。
ムダだぜ、クオリファ。お前はアゴの急所にくらった! そうなると、どうなるか?
クオリファは立ち上がろうとして、膝に手をつく。
「え?」
しかし、クオリファはグラリと体を揺らし──。
ドタッ
彼は、右にまた転倒した。
ウ、ウオオオッ……。
「え? クオリファが……?」
「何だ? おい、何が起こっているんだ?」
「お、おい。ダウンか? ゲルドンの弟子がダウン?」
「何かの間違いじゃねーの?」
観客がざわざわと騒ぎ始める。何かが起こっている、と。
『クオリファのダウンです! 1……2……3……!』
ダウンカウントが審判席から数えられる。
ウオオオオオオオッ……。
「きたああああーっ!」
「クオリファのダウン!」
「ゼント、何者だ?」
少ない観客が声を上げる。
俺は、開始35秒で、ゲルドンの一番弟子をダウンさせた!
クオリファは、リングに片膝をつき、目を丸くして、俺を見上げていた。
「お、おい、何かの間違いだ……そうだろ? おい」
クオリファはブツブツ言いながらも、ギロリと俺をにらみつけて言った。
「ゼント、お前……。一体、何者だ? い、いや、そんなことはどうでもいい!」
クオリファは立ち上がろうとしながら、吼えた。
「分かっているだろうな! 俺に恥をかかせやがってぇ……!」