ゼントがルーゼリック村で、エルフ族と生活し、武闘家(ぶとうか)修業を始めて1ヶ月が経った頃──。

 その頃大勇者ゲルドンは──。毎晩毎晩、飲み歩いていた!

 連れは、ゲルドンのパーティーメンバー、一番弟子ともいえる、武闘家(ぶとうか)のクオリファ・ダルゼムだ。
 ゲルドンは妻──フェリシアがいるというのに、道で女性をナンパして歩いた。

 ドガッ

 その時、ゲルドンはいかつい男と、肩がぶつかった。
 男はチンピラの(たぐい)だろう。男はゲルドンにすごんだ。

「おい……肩がぶつかったぞ」
「は? 知らねえよ」

 ゲルドンはニヤニヤ笑って、言った。

「てめえ! (あやま)らねえのか!」

 いかつい男は逆上(ぎゃくじょう)して、ゲルドンに(おそ)い掛かった。

 グワシッ

 しかし、ゲルドンは男の額に、頭突きをくらわしていた。いかつい男は、クラリとよろける。
 そこを──。

 ガスウッ

 ゲルドンの右ストレートパンチ。男の(ほお)をとらえる。
 そして、得意の前蹴りだ。いかつい男は、路上を二メートル吹っ飛んだ。

「ひ、ひい~!」

 いかつい男は、フラフラと立ち上がり、逃げ去っていった。男はおそらく街のチンピラだろうが、格闘技の素人だ。数々の戦闘をこなしてきた、ゲルドンの敵ではない。

「さ~すがッスね!」

 横にいた弟子のクオリファは、ゲルドンに向かって拍手した。

 ◇ ◇ ◇

 女たちと遊び、彼女たちと別れたゲルドンは、行きつけの酒場に移動。座った席でゲラゲラ笑いながら、クオリファにこう言った。

「『ゲルドン杯格闘トーナメント』のことだけどよ。まあ、息子のゼボールが優勝するのは、決定なんだよ」
「え? そ、それ、八百長ってことッスか?」
「そうだよ、何がおかしい? これは興行(こうぎょう)だぞ。商売だ」

 主催者(しゅさいしゃ)のゲルドンは平然と言った。

「クオリファ、お前の第一試合はまあ、真剣勝負(ガチンコ)でやってみるか? でも、一番弱そうなヤツを当ててやるがな」

 クオリファは驚いていた。この人、大勇者だろ? 八百長なんて、弟子の俺にやらせるのか? 国民にこれがバレたら……。
 い、いや、何か深い考えがおありなのだ。な、なにしろ大勇者だしな……。

 すると──。

「おー、ここだここだ」

 ゲルドンの後ろで声がした。

「あれ? 人が座ってら。俺が予約した席だろうが」

 ゲルドンが振り向くと、そこには小柄な男が一人、立っていた。小柄なホビット族だ。身長は153センチくらいか。

「おい、どいてくれ。そこ、俺が予約した席だからさ」

 ホビット族の男は、ゲルドンに言った。
 酔っ払ったゲルドンは、ホビット族の男をにらみつけた。

「何だ、お前?」
「俺か? 俺はホビット族の武闘家(ぶとうか)、リンゲル・ドルバース。はやくどいてくれ。俺はこの席を予約してたんだ。演奏を聴く一番良い席なんだよ」

 ガシャン!

 ゲルドンはムカッ腹をたてて、酒のコップを地面に叩きつけた。
 
「バカが! 『どいてくれ』だって? アホか? 俺を誰だと思ってるんだ?」
「知らねえな。いいから、席、かわってくれや」
「ああ? 俺に勝負で勝てたらな」
「俺とか? 俺は小柄だが、結構ケンカ強いよ。俺は去年の王立格闘トーナメントの五位。おととしは四位だぞ」

 小柄なドルバースは、ゲルドンを見て言った。

 バシャッ

 するとゲルドンは、ドルバースに()()ましの水をぶっかけた。

「……やる気だな? おい」

 ドルバースはそう言いつつ、頭がびしょぬれになりながらも、一歩前に進み出ていた。

 ドガッ

 ドルバースはいきなり──座ったゲルドンのアゴに肘打ちをくらわせた。153センチの超小柄ながらも、見事なタイミングで入った肘打ちだった。

 身長183センチ、体重83キロ前後あるゲルドンは、クラリと床に膝をついた。

「ぐぐ……この野郎」

 そして、ドルバースを見上げてにらんだ。

 闘い──ケンカが始まろうとしていた。