僕はレイジ・ターゼット。魔導体術家を目指していたが、養成学校であるドルゼック学院を、追放という名の退学。僕はメチャクチャ弱い、はずだったのだが……強くなってしまった(らしい)。
なんだかんだで、エースリート学院のランキング三位、ケビン・ザークと試合することになってしまった。
(はあ……まいったなあ)
僕はアリサとルイーズ学院長と一緒に、エースリート学院の試合用コロシアムに向かった。
ドルゼック学院よりは小さいコロシアムだが、きれいな試合場だ。中央には最新の試合用リングが設置されている。
その最新のリング上には、あの赤い肌の山鬼族……ケビンが立っていた。セコンドのヤツらと笑って話をしている。ちきしょう、余裕だな。
「こっち向いて、レイジ」
アリサが、用意してくれた体術グローブ(指の部分がないグローブ。魔導体術試合では、必ず着用しなければならない)を僕の手につけてくれた。
「で、おまじない。一分はリングに立っていられますように」
アリサはグローブの拳部分を、ぽんぽん、と叩いた。適当なおまじないだな。一分も持つかな……。
僕はリング前に来た。周囲には観客席があり、すでにたくさんの生徒たちが座っていた。授業はこの試合のために、休止になったらしい。なんてこった。
僕は試合用リングを見上げた。観客の生徒たちは、まさかチビでヒョロガリの僕が、ケビンのような強う男と闘うなんて、誰も思っていないだろう。
「さ、お行きなさい。何も心配はいらない」
ルイーズ学院長は、僕を強引に、リング上に押し上げた。そして自分は審判席に座り、アリサにも声をかけた。
「アリサ、あなたはレイジのセコンドについてあげなさい」
「あー、言うと思った。本当は男子のセコンドにはつかない主義だけど。レイジには借りがあるから、今日は特別」
アリサは嬉しいんだか悲しいんだか、よく分からないことを言っている。
さて、見るからに弱そうな僕がリングに上がってきたのを見て、首を傾げたのは、ケビンだった。
「な、なんだ、お前は?」
「あ、そ、その」
僕は戸惑いながら言った。
「あ、あなたの相手の新入生、レイジ・ターゼットです」
ケビンは眉をひそめた。すると、「あっ」と声を出した。
「お前、昨日の! 俺にボコボコにされたヤツか!」
「あ、そ、そうですけど」
「え? 何で俺が、昨日、ボコボコにした君と闘わなくちゃならないの?」
「さ、さあー? でも、ぼ、僕はあなたと闘わなければなら、なら、ならなくなりました」
僕は緊張して、ろれつが回っていない。
するとケビンは頬を膨らまし、セコンドの仲間と一緒に、ギャハハハハと笑いだした。
「おいおいおい、マジかよ。君、本気なの? 本気で俺と試合するつもり?」
ケビンは見たところ身長183センチ前後、体重78キロ前後。魔導体術家としては理想的な体格だ。一方、僕といえば、身長156センチ、体重58キロ。
ドラゴンと子犬が闘うようなものだ。常識で考えれば、闘う前から勝負はついている。観客席からも失笑がもれている。
僕は怖くて恥ずかしくって、逃げ出したくなった。
「いやいやいや~、まいったな」
ケビンは苦笑いして、審判席についているルイーズ学院長を見た。
「学院長~、冗談はやめてくださいよ。このチビの新入生、俺のパンチで死んじゃいますよ」
「冗談でも何でもありませんよ。この新入生、レイジ・ターゼットと真剣勝負で闘いなさい」
僕は頭がクラクラした。真剣勝負うぅぅ? ななななな何言ってくれちゃってんの~、この学院長!
「ほ、本気ッスか?」
ケビンは目を丸くしている。無理もない。
「ケビン、闘わないと、不戦勝とみなしますよ。あなたの成績にそう残ります」
「悪い冗談だろ~。昨日、俺がボコッたヤツじゃん」
ケビンはブツブツつぶやいた。
「しょうがねーなー。レイジ君、ちょっと遊ぼうか~」
観客席はドヨドヨドヨっとざわめいている。一体、この光景は何なんだ? 学院三位の男、ケビンが、チビでヒョロガリの僕と真剣勝負を行うという。こんなバカな話があるか? ルイーズ学院長は、いったい何を考えているんだろう?
はい、観客席の生徒の皆さん、あなた方は正しいです。僕はそう言いたかった。
「不戦勝になっちゃうなんて、不名誉だなあ。成績にも響くし。じゃあレイジ君、ちょっと軽~く、いくからね」
ケビンは半笑いしながら、上から軽いパンチ──左ジャブをゆるーく打ち下ろした。身長差があるから、ケビンもパンチを打ち下ろさざるを得ない。
僕はそのパンチを避け、ケビンのお腹にチョンとパンチを当てた。目の前にケビンの体しかないんだから、仕方ない。
お、うまい具合に、カウンターになったぞ? それに、体がやけに軽いな?
「お? うう?」
ケビンは首を傾げている。
……なんだ? 僕はの体は、羽が生えているように軽かった。そして、拳がうずいている。
もしかして僕は、本当に強くなったのか?
そう、僕は本当に強くなったのだ。
なんだかんだで、エースリート学院のランキング三位、ケビン・ザークと試合することになってしまった。
(はあ……まいったなあ)
僕はアリサとルイーズ学院長と一緒に、エースリート学院の試合用コロシアムに向かった。
ドルゼック学院よりは小さいコロシアムだが、きれいな試合場だ。中央には最新の試合用リングが設置されている。
その最新のリング上には、あの赤い肌の山鬼族……ケビンが立っていた。セコンドのヤツらと笑って話をしている。ちきしょう、余裕だな。
「こっち向いて、レイジ」
アリサが、用意してくれた体術グローブ(指の部分がないグローブ。魔導体術試合では、必ず着用しなければならない)を僕の手につけてくれた。
「で、おまじない。一分はリングに立っていられますように」
アリサはグローブの拳部分を、ぽんぽん、と叩いた。適当なおまじないだな。一分も持つかな……。
僕はリング前に来た。周囲には観客席があり、すでにたくさんの生徒たちが座っていた。授業はこの試合のために、休止になったらしい。なんてこった。
僕は試合用リングを見上げた。観客の生徒たちは、まさかチビでヒョロガリの僕が、ケビンのような強う男と闘うなんて、誰も思っていないだろう。
「さ、お行きなさい。何も心配はいらない」
ルイーズ学院長は、僕を強引に、リング上に押し上げた。そして自分は審判席に座り、アリサにも声をかけた。
「アリサ、あなたはレイジのセコンドについてあげなさい」
「あー、言うと思った。本当は男子のセコンドにはつかない主義だけど。レイジには借りがあるから、今日は特別」
アリサは嬉しいんだか悲しいんだか、よく分からないことを言っている。
さて、見るからに弱そうな僕がリングに上がってきたのを見て、首を傾げたのは、ケビンだった。
「な、なんだ、お前は?」
「あ、そ、その」
僕は戸惑いながら言った。
「あ、あなたの相手の新入生、レイジ・ターゼットです」
ケビンは眉をひそめた。すると、「あっ」と声を出した。
「お前、昨日の! 俺にボコボコにされたヤツか!」
「あ、そ、そうですけど」
「え? 何で俺が、昨日、ボコボコにした君と闘わなくちゃならないの?」
「さ、さあー? でも、ぼ、僕はあなたと闘わなければなら、なら、ならなくなりました」
僕は緊張して、ろれつが回っていない。
するとケビンは頬を膨らまし、セコンドの仲間と一緒に、ギャハハハハと笑いだした。
「おいおいおい、マジかよ。君、本気なの? 本気で俺と試合するつもり?」
ケビンは見たところ身長183センチ前後、体重78キロ前後。魔導体術家としては理想的な体格だ。一方、僕といえば、身長156センチ、体重58キロ。
ドラゴンと子犬が闘うようなものだ。常識で考えれば、闘う前から勝負はついている。観客席からも失笑がもれている。
僕は怖くて恥ずかしくって、逃げ出したくなった。
「いやいやいや~、まいったな」
ケビンは苦笑いして、審判席についているルイーズ学院長を見た。
「学院長~、冗談はやめてくださいよ。このチビの新入生、俺のパンチで死んじゃいますよ」
「冗談でも何でもありませんよ。この新入生、レイジ・ターゼットと真剣勝負で闘いなさい」
僕は頭がクラクラした。真剣勝負うぅぅ? ななななな何言ってくれちゃってんの~、この学院長!
「ほ、本気ッスか?」
ケビンは目を丸くしている。無理もない。
「ケビン、闘わないと、不戦勝とみなしますよ。あなたの成績にそう残ります」
「悪い冗談だろ~。昨日、俺がボコッたヤツじゃん」
ケビンはブツブツつぶやいた。
「しょうがねーなー。レイジ君、ちょっと遊ぼうか~」
観客席はドヨドヨドヨっとざわめいている。一体、この光景は何なんだ? 学院三位の男、ケビンが、チビでヒョロガリの僕と真剣勝負を行うという。こんなバカな話があるか? ルイーズ学院長は、いったい何を考えているんだろう?
はい、観客席の生徒の皆さん、あなた方は正しいです。僕はそう言いたかった。
「不戦勝になっちゃうなんて、不名誉だなあ。成績にも響くし。じゃあレイジ君、ちょっと軽~く、いくからね」
ケビンは半笑いしながら、上から軽いパンチ──左ジャブをゆるーく打ち下ろした。身長差があるから、ケビンもパンチを打ち下ろさざるを得ない。
僕はそのパンチを避け、ケビンのお腹にチョンとパンチを当てた。目の前にケビンの体しかないんだから、仕方ない。
お、うまい具合に、カウンターになったぞ? それに、体がやけに軽いな?
「お? うう?」
ケビンは首を傾げている。
……なんだ? 僕はの体は、羽が生えているように軽かった。そして、拳がうずいている。
もしかして僕は、本当に強くなったのか?
そう、僕は本当に強くなったのだ。