『私は宮廷直属バルフェス学院の学院長、デニルです。学生トーナメント決勝が終わったばかりではありますが、皆様にお知らせがございます』
リング上のデニル学院長は、魔導拡声器を使って、観客に話し始めた。僕の試合直後だというのに、自分の言いたいことを話し始めるのか?
『我がバルフェス学院は、今後の王国の平和を考え、そして学生魔導体術家の育成を、いつも考えております』
デニル学院長は胸を張り、演説をしている。そして彼はチラリと僕を見て、フン、と鼻で息をしてから言った。
『そのために、グラントール王国にある全校生徒千人以下の魔導体術学校をまとめあげることにしました。その中に、有名なエースリート学院やゾーグール学院などもございます』
僕は悔しかった。アリサ、ケビン、ベクターも悔しそうな表情をしている。どうして僕らのエースリート学院が、無くならなければならないのか?
『この学生トーナメントを来年もしっかり続けるためには、今後は教育制度の改革も視野に入れ──」
デニル学院長の立派な演説の後ろで、ルイーズ学院長の声がした。
「では、よろしくお願いします」
「うむ」
ルイーズ学院長とともにリング上に上がってきたのは、一人の男性──老人だった。
「う、うわっ!」
僕は声を上げてしまった。何と、リング上に上がってきたのは、王冠を被った男性──グラントール王国国王だったのだ。ルイーズ学院長が、来賓席に座っていたグラントール王を連れてきたらしい。
グラントール王は、デニル学院長に言った。
「デニル! よさんか」
『ん? 何だ? ……ひ、ひいっ!』
デニル学院長は、王冠を被った国王を見て、飛び上がってしまった。王は静かに言った。
「その魔導拡声器をよこしなさい」
「い、いえ……いや、は、はひっ」
デニル学院長は震える手で、魔導拡声器をグラントール王に手渡した。
グラントール王は観客に向かって、魔導拡声器を使い、声を上げた。
『あー、皆の者、今のバルフェス学院の学院長、デニルの話だが』
観客はざわめいている。
『すべて無しだ』
僕らは驚いて、グラントール王を見た。
「な、なにを……」
デニル学院長は真っ青な顔になっていたが、国王の話を止めるわけにはいかない。
『エースリート学院から、この歴史ある学生トーナメント大会で優勝者が出た。その学院を無くすわけにはいかない』
国王は、僕とルイーズ学院長を見た。
『そもそも国王の私は、バルフェス学院に、様々な魔導体術養成学校が吸収合併される話など、今日まで聞いていなかった! 先程聞いて、驚いた。真面目に魔導体術を学んでいる学生を驚かせ、傷つける行為を、私は許さん! どんな事情があってもだ!』
グラントール王は、デニル学院長をにらみつけた。デニル学院長は口をあんぐり開けている。
グラントール王は話を続けた。
『今まで通り、学生たちは魔導体術の訓練を、それぞれの学校で、いそしんでもらう。エースリート、ゾーグール、その他の吸収合併される予定だった学院は、そのまま。吸収合併の話とやらは、無しだ。わかったか、バルフェス学院の学院長、デニルよ!』
「え? それは……は、ははあっ! わ、わかりましたぁっ!」
デニル学院長は、国王に土下座しようとした。しかし国王は、「いや、謝る相手を間違っておるぞ」と言った。
「デニルが謝るべきなのは、レイジ・ターゼットやルイーズ学院長たちなのではないかね? おぬしは、彼らに脅しともとれる発言をしたのだろう? 教育者として、謝罪せねばいかんぞ!」
デニル学院長は、「は、はい!」と言って、僕とルイーズ学院長に向き直った。
「レイジさん、ルイーズ学院長、も、申し訳ございませんでしたあっ」
デニル学院長は、声を上げ、土下座をした。
はあー、まいったなぁ。僕は頭をかいた。
ウオオオオッ
観客は歓声を上げている。
でもこれで、エースリート学院は、救われたわけだ。……助かったんだ! 僕とアリサはホッとして顔を見合わせた。
ルイーズ学院長も、笑顔を見せている。
グラントール王は、魔導拡声器を審判員に手渡した。デニル学院長といえば、あわててリング下に逃げるように降り去ってしまった。
「君が、レイジ・ターゼットかね?」
国王が僕にそう聞いた。僕は直立不動で返事をした。
「は、はい!」
「両親がいない、と聞いたが、どうやって生活をしておる?」
「ギ、ギルドの書類整理のアルバイトをしております」
「ほほう……。この学生トーナメントには、優勝賞金はなかったな。では、私から特別に、君に報奨金を授けよう。私も含め、国民を熱狂させ、楽しませてくれたのだからな。君に差し上げるのは、五百万ルピーくらいならよかろう」
「ご、五百万……?」
僕は頭がくらくらした。聞いたこともない大金だ。国王は続ける。
「それで、レイジよ。君の本当の願いは何かね?」
「えっ、ね、願いですか?」
「そうだ。金では解決できない願いなど、あるなら聞くが」
「えーっと、その……」
僕はまごついた。しかし、すぐに言った。
「僕はサーガ族の生き残りです。その故郷といわれる、『東の果ての国』に行きたいです!」
「ほほう! 魔導体術の本拠地であり、宮廷護衛隊の本部がある、東の果ての国か……よかろう!」
グラントール王は言った。
「レイジ・ターゼットの優勝を祝し、我がグラントール王国から、君たちが東の果ての国に行くことができるよう、手配しよう! では、またな」
グラントール王はリングを降り去った。万雷の拍手だ。
「ねえ、見て。レイジ君」
いつの間にかリングに上がってきたララベルが、水晶球を僕に見せた。
「ほら、君がディーボとの闘いの中で発動した、最後のユニークスキル……分かったよ。この水晶球は新しい情報が出ると、『新着!』と表示されるの。そこを見て」
「……あっ」
僕は声を上げた。そこには僕のスキルが映し出されている。
レイジ・ターゼットのスキル
【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力
【スキル】龍王の攻撃力 常人の七倍の攻撃力
【スキル】獣王の筋力 常人の七倍の筋力
【スキル】神速 常人の七倍の瞬発力
【ユニークスキル】神の加護 神の加護により、人の悪意をはね返す
【ユニークスキル】勇者の凱旋 1・人々の応援、声援、愛情を力、強さに変換できる 2・常人の三十倍、人々から愛される 3・このユニークスキルを持つ者は、「勇者の生まれ変わり」である←新着!
「すごい試合だったぞ、レイジ!」
「また試合、見せてくれよ!」
「ファンになったぞー!」
観客から声援が飛んでいる。
僕は手を挙げて応えた。
アリサやルイーズ学院長、ケビン、そしてリング下にいるベクターとも喜び合った。
僕は歓喜の中に、幸せの中に、そして人々の愛の中に包まれていた。
──完──
リング上のデニル学院長は、魔導拡声器を使って、観客に話し始めた。僕の試合直後だというのに、自分の言いたいことを話し始めるのか?
『我がバルフェス学院は、今後の王国の平和を考え、そして学生魔導体術家の育成を、いつも考えております』
デニル学院長は胸を張り、演説をしている。そして彼はチラリと僕を見て、フン、と鼻で息をしてから言った。
『そのために、グラントール王国にある全校生徒千人以下の魔導体術学校をまとめあげることにしました。その中に、有名なエースリート学院やゾーグール学院などもございます』
僕は悔しかった。アリサ、ケビン、ベクターも悔しそうな表情をしている。どうして僕らのエースリート学院が、無くならなければならないのか?
『この学生トーナメントを来年もしっかり続けるためには、今後は教育制度の改革も視野に入れ──」
デニル学院長の立派な演説の後ろで、ルイーズ学院長の声がした。
「では、よろしくお願いします」
「うむ」
ルイーズ学院長とともにリング上に上がってきたのは、一人の男性──老人だった。
「う、うわっ!」
僕は声を上げてしまった。何と、リング上に上がってきたのは、王冠を被った男性──グラントール王国国王だったのだ。ルイーズ学院長が、来賓席に座っていたグラントール王を連れてきたらしい。
グラントール王は、デニル学院長に言った。
「デニル! よさんか」
『ん? 何だ? ……ひ、ひいっ!』
デニル学院長は、王冠を被った国王を見て、飛び上がってしまった。王は静かに言った。
「その魔導拡声器をよこしなさい」
「い、いえ……いや、は、はひっ」
デニル学院長は震える手で、魔導拡声器をグラントール王に手渡した。
グラントール王は観客に向かって、魔導拡声器を使い、声を上げた。
『あー、皆の者、今のバルフェス学院の学院長、デニルの話だが』
観客はざわめいている。
『すべて無しだ』
僕らは驚いて、グラントール王を見た。
「な、なにを……」
デニル学院長は真っ青な顔になっていたが、国王の話を止めるわけにはいかない。
『エースリート学院から、この歴史ある学生トーナメント大会で優勝者が出た。その学院を無くすわけにはいかない』
国王は、僕とルイーズ学院長を見た。
『そもそも国王の私は、バルフェス学院に、様々な魔導体術養成学校が吸収合併される話など、今日まで聞いていなかった! 先程聞いて、驚いた。真面目に魔導体術を学んでいる学生を驚かせ、傷つける行為を、私は許さん! どんな事情があってもだ!』
グラントール王は、デニル学院長をにらみつけた。デニル学院長は口をあんぐり開けている。
グラントール王は話を続けた。
『今まで通り、学生たちは魔導体術の訓練を、それぞれの学校で、いそしんでもらう。エースリート、ゾーグール、その他の吸収合併される予定だった学院は、そのまま。吸収合併の話とやらは、無しだ。わかったか、バルフェス学院の学院長、デニルよ!』
「え? それは……は、ははあっ! わ、わかりましたぁっ!」
デニル学院長は、国王に土下座しようとした。しかし国王は、「いや、謝る相手を間違っておるぞ」と言った。
「デニルが謝るべきなのは、レイジ・ターゼットやルイーズ学院長たちなのではないかね? おぬしは、彼らに脅しともとれる発言をしたのだろう? 教育者として、謝罪せねばいかんぞ!」
デニル学院長は、「は、はい!」と言って、僕とルイーズ学院長に向き直った。
「レイジさん、ルイーズ学院長、も、申し訳ございませんでしたあっ」
デニル学院長は、声を上げ、土下座をした。
はあー、まいったなぁ。僕は頭をかいた。
ウオオオオッ
観客は歓声を上げている。
でもこれで、エースリート学院は、救われたわけだ。……助かったんだ! 僕とアリサはホッとして顔を見合わせた。
ルイーズ学院長も、笑顔を見せている。
グラントール王は、魔導拡声器を審判員に手渡した。デニル学院長といえば、あわててリング下に逃げるように降り去ってしまった。
「君が、レイジ・ターゼットかね?」
国王が僕にそう聞いた。僕は直立不動で返事をした。
「は、はい!」
「両親がいない、と聞いたが、どうやって生活をしておる?」
「ギ、ギルドの書類整理のアルバイトをしております」
「ほほう……。この学生トーナメントには、優勝賞金はなかったな。では、私から特別に、君に報奨金を授けよう。私も含め、国民を熱狂させ、楽しませてくれたのだからな。君に差し上げるのは、五百万ルピーくらいならよかろう」
「ご、五百万……?」
僕は頭がくらくらした。聞いたこともない大金だ。国王は続ける。
「それで、レイジよ。君の本当の願いは何かね?」
「えっ、ね、願いですか?」
「そうだ。金では解決できない願いなど、あるなら聞くが」
「えーっと、その……」
僕はまごついた。しかし、すぐに言った。
「僕はサーガ族の生き残りです。その故郷といわれる、『東の果ての国』に行きたいです!」
「ほほう! 魔導体術の本拠地であり、宮廷護衛隊の本部がある、東の果ての国か……よかろう!」
グラントール王は言った。
「レイジ・ターゼットの優勝を祝し、我がグラントール王国から、君たちが東の果ての国に行くことができるよう、手配しよう! では、またな」
グラントール王はリングを降り去った。万雷の拍手だ。
「ねえ、見て。レイジ君」
いつの間にかリングに上がってきたララベルが、水晶球を僕に見せた。
「ほら、君がディーボとの闘いの中で発動した、最後のユニークスキル……分かったよ。この水晶球は新しい情報が出ると、『新着!』と表示されるの。そこを見て」
「……あっ」
僕は声を上げた。そこには僕のスキルが映し出されている。
レイジ・ターゼットのスキル
【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力
【スキル】龍王の攻撃力 常人の七倍の攻撃力
【スキル】獣王の筋力 常人の七倍の筋力
【スキル】神速 常人の七倍の瞬発力
【ユニークスキル】神の加護 神の加護により、人の悪意をはね返す
【ユニークスキル】勇者の凱旋 1・人々の応援、声援、愛情を力、強さに変換できる 2・常人の三十倍、人々から愛される 3・このユニークスキルを持つ者は、「勇者の生まれ変わり」である←新着!
「すごい試合だったぞ、レイジ!」
「また試合、見せてくれよ!」
「ファンになったぞー!」
観客から声援が飛んでいる。
僕は手を挙げて応えた。
アリサやルイーズ学院長、ケビン、そしてリング下にいるベクターとも喜び合った。
僕は歓喜の中に、幸せの中に、そして人々の愛の中に包まれていた。
──完──