地下にあるはずの「秘密の部屋」に行け──。ルイーズさんは、そんな謎の言葉を残して去っていった。
(僕は、その「秘密の部屋」を知っている……? 多分、あそこだと思う)
僕は自分の知っている場所に、地下室があることを思い出した。確か、叔父──ドーソン・ルーゼントの家の庭には、とても古い地下室がある。鍵がかかっており、中には入ったことがない。僕は地下倉庫だと思っていたが……。そこがもしかしたら、「秘密の部屋」なのか……?
ただし、叔父の家に行くのは、かなり辛いことだ。僕は十歳まで、父親と一緒に暮らしていた。ある日、父親が失踪。代わりに叔父が来て、僕の家に住みついたのだ。
しかし、叔父は酒乱で、僕はひどい暴力を受け、十二歳の時に逃げ出した。
それからずっと、叔父は僕と父の家に、勝手に住みついている。
(よ、よし、行くぞ)
僕は叔父の家──本当は僕と父の家だが──に行き、家のチャイムを鳴らした。すると扉が開き、筋肉質の中年男が出てきた。頭は丸坊主。
彼が僕の叔父さんだ。
「うう……誰だ? あっ」
「僕だ」
「なんだぁ? レイジか、この野郎」
ドーソン叔父さんは、酒を飲んでいるようだ。顔が真っ赤だ。
「何の用だぁ? 今さら家を返してもらおうってわけか」
叔父さんは僕を冷たい目で見ながら言った。虫を見るような目だ。叔父さんは身長はそれほど高くないが、筋肉質でゴツい。肉体労働者だから、毎日鍛えられている。
「秘密の部屋……いや、地下室があるだろ? そこを見せてもらいたいんだ」
僕は頼んだ。
「勝手に入ることはできないだろうから、許可をもらいにきた」
「……ああ? 地下室? 鍵がかかってるよ。そんなもん見てどうするんだ」
「別に中を見るだけさ。じゃあ、許可はとれたということだね」
「おいお前……。俺がお前を殴っていたことを、誰かに言うんじゃねえだろうな」
ドーソン叔父さんは、僕をにらんだ。足元がふらついている。完全に酔っ払っているようだ。
叔父さんは、僕がこの家で暮らしていた時、僕をしょっちゅう殴っていた。
現在のグラントール王国では、子どもに暴力を行うと、親でも育ての親であっても、すぐに逮捕される。ちなみに、昔の暴力が発覚した場合も、逮捕される。叔父はそれをひどく気にしているらしい。
「誰かに言いつけたら、ぶち殺すぞ。あれは……しつけだ」
「叔父さん、王立警察に、あれはしつけだったと言おうか」
僕は歯向かった。
ガスッ
ドーソン叔父さんは、僕の頬を殴りつけた。酔っ払いのパンチだから、ボーラスのパンチほどではないが、かなり痛い。
叔父さんは、魔導体術全国大会で八位入賞者だ。しかも今は建築業をしており、肉体労働をしている。まともにケンカしたら敵わない。休みの日は、今日のように酒ばかり飲んでいる。
「今のは生意気を言った罰だ」
「……ど、どうでもいいけど、地下室は見せてくれる?」
僕は頬をさすりながら、もう一度確認した。叔父さんは、バカバカしいという風に、両手を広げた。
「ふん、あの地下室は単なるガラクタ部屋だろ。いいか、お前の父親は、お前を捨てたゲス野郎だ。一方、俺は、お前を十二歳まで育ててやった」
「恩があるってわけか」
「……おおそうだ、よくわかってるじゃないか! 俺はお前の恩人だぞぉ! だから、この家はお前の親父が建てたけど、今は俺のもので良いだろうが?」
叔父さんは笑い、僕の肩をバシバシと叩いた。くそ、痛い。めちゃくちゃな言い分だが、酔っ払いと言い合いをしても仕方がない。
すると叔父さんはまた真顔に戻った。
「もう一度言うが、子どもの時のお前を、俺が殴っていたことを、誰かに言うんじゃねえぞ。……地下室? この家の庭に、大昔からあるんだ。そんなもん勝手にしろ!」
バタン!
ドーソン叔父さんは、思いっきりドアを閉めてしまった。まあ、それほど大した騒ぎにならなくて良かった。殴られたのは頭にくるが、地下室──つまり「秘密の部屋」が見れるなら、何でもいい。
僕は叔父の家の裏庭に行った。裏庭は庭園になっていたが、隅に、地下室への階段を見つけた。地下への階段は、石でできている。
もう何百年も誰も入っていないらしく、階段にはコケが生えていた。
階段を下りると、十メートルくらいの通路があり、その奥に金属の扉があった。でも扉には……。
「叔父さんの言う通り、鍵が掛かってそうだな」
僕は扉のドアノブに手を掛けてみる。やっぱり、鍵が掛かっている。どうする? 街の鍵屋に鍵を作ってもらうか。でも、そんなお金はないし……。
するとその時だ。
『レイジ・ターゼット……認識しました』
抑揚のない声が周囲に響き、扉の中で「ガチャリ」と音がした。まさか、鍵が開いた? 扉が開くのか?
僕は恐る恐る、ドアノブに手を掛けた。
ギイッ
ああ! 扉が開く。その扉の中は……。
(僕は、その「秘密の部屋」を知っている……? 多分、あそこだと思う)
僕は自分の知っている場所に、地下室があることを思い出した。確か、叔父──ドーソン・ルーゼントの家の庭には、とても古い地下室がある。鍵がかかっており、中には入ったことがない。僕は地下倉庫だと思っていたが……。そこがもしかしたら、「秘密の部屋」なのか……?
ただし、叔父の家に行くのは、かなり辛いことだ。僕は十歳まで、父親と一緒に暮らしていた。ある日、父親が失踪。代わりに叔父が来て、僕の家に住みついたのだ。
しかし、叔父は酒乱で、僕はひどい暴力を受け、十二歳の時に逃げ出した。
それからずっと、叔父は僕と父の家に、勝手に住みついている。
(よ、よし、行くぞ)
僕は叔父の家──本当は僕と父の家だが──に行き、家のチャイムを鳴らした。すると扉が開き、筋肉質の中年男が出てきた。頭は丸坊主。
彼が僕の叔父さんだ。
「うう……誰だ? あっ」
「僕だ」
「なんだぁ? レイジか、この野郎」
ドーソン叔父さんは、酒を飲んでいるようだ。顔が真っ赤だ。
「何の用だぁ? 今さら家を返してもらおうってわけか」
叔父さんは僕を冷たい目で見ながら言った。虫を見るような目だ。叔父さんは身長はそれほど高くないが、筋肉質でゴツい。肉体労働者だから、毎日鍛えられている。
「秘密の部屋……いや、地下室があるだろ? そこを見せてもらいたいんだ」
僕は頼んだ。
「勝手に入ることはできないだろうから、許可をもらいにきた」
「……ああ? 地下室? 鍵がかかってるよ。そんなもん見てどうするんだ」
「別に中を見るだけさ。じゃあ、許可はとれたということだね」
「おいお前……。俺がお前を殴っていたことを、誰かに言うんじゃねえだろうな」
ドーソン叔父さんは、僕をにらんだ。足元がふらついている。完全に酔っ払っているようだ。
叔父さんは、僕がこの家で暮らしていた時、僕をしょっちゅう殴っていた。
現在のグラントール王国では、子どもに暴力を行うと、親でも育ての親であっても、すぐに逮捕される。ちなみに、昔の暴力が発覚した場合も、逮捕される。叔父はそれをひどく気にしているらしい。
「誰かに言いつけたら、ぶち殺すぞ。あれは……しつけだ」
「叔父さん、王立警察に、あれはしつけだったと言おうか」
僕は歯向かった。
ガスッ
ドーソン叔父さんは、僕の頬を殴りつけた。酔っ払いのパンチだから、ボーラスのパンチほどではないが、かなり痛い。
叔父さんは、魔導体術全国大会で八位入賞者だ。しかも今は建築業をしており、肉体労働をしている。まともにケンカしたら敵わない。休みの日は、今日のように酒ばかり飲んでいる。
「今のは生意気を言った罰だ」
「……ど、どうでもいいけど、地下室は見せてくれる?」
僕は頬をさすりながら、もう一度確認した。叔父さんは、バカバカしいという風に、両手を広げた。
「ふん、あの地下室は単なるガラクタ部屋だろ。いいか、お前の父親は、お前を捨てたゲス野郎だ。一方、俺は、お前を十二歳まで育ててやった」
「恩があるってわけか」
「……おおそうだ、よくわかってるじゃないか! 俺はお前の恩人だぞぉ! だから、この家はお前の親父が建てたけど、今は俺のもので良いだろうが?」
叔父さんは笑い、僕の肩をバシバシと叩いた。くそ、痛い。めちゃくちゃな言い分だが、酔っ払いと言い合いをしても仕方がない。
すると叔父さんはまた真顔に戻った。
「もう一度言うが、子どもの時のお前を、俺が殴っていたことを、誰かに言うんじゃねえぞ。……地下室? この家の庭に、大昔からあるんだ。そんなもん勝手にしろ!」
バタン!
ドーソン叔父さんは、思いっきりドアを閉めてしまった。まあ、それほど大した騒ぎにならなくて良かった。殴られたのは頭にくるが、地下室──つまり「秘密の部屋」が見れるなら、何でもいい。
僕は叔父の家の裏庭に行った。裏庭は庭園になっていたが、隅に、地下室への階段を見つけた。地下への階段は、石でできている。
もう何百年も誰も入っていないらしく、階段にはコケが生えていた。
階段を下りると、十メートルくらいの通路があり、その奥に金属の扉があった。でも扉には……。
「叔父さんの言う通り、鍵が掛かってそうだな」
僕は扉のドアノブに手を掛けてみる。やっぱり、鍵が掛かっている。どうする? 街の鍵屋に鍵を作ってもらうか。でも、そんなお金はないし……。
するとその時だ。
『レイジ・ターゼット……認識しました』
抑揚のない声が周囲に響き、扉の中で「ガチャリ」と音がした。まさか、鍵が開いた? 扉が開くのか?
僕は恐る恐る、ドアノブに手を掛けた。
ギイッ
ああ! 扉が開く。その扉の中は……。