ついに決勝が始まった。

 僕とディーボはリング上で構えている。ディーボは打ってくるのか? 守るのか?

 するとディーボがいきなり踏み込んできた! 右のストレートパンチ!

 ビュオッ

 速い! 単なるストレートパンチではなかった。
 僕はすんでのところでかわした。普通、ストレートは体をひねるが、そのまま直線的に入り込んできた! ノーモーション・パンチか!

 挙動が分かりにくい──。

 ヒュッ

 ディーボの左から右のフック! そして軽いジャブ。
 僕はすべて手で打ち払った。
 今度は僕の攻撃だ。

 左ストレート!

 ディーボは素早く後退する。すぐに僕は前進し、ボディーブローから、下段蹴り! しかし、ディーボは全てカットする。
 下段蹴りは、スネではなく、足の裏でカットされてしまった。

(ここだ!)

 僕はワン・ツーからの中段蹴り。ディーボは受けたが、これはおとりだ。僕の右アッパー。しかしディーボは、涼しい顔でかわしてしまう。
 代わりに、今度はディーボが左ジャブ、左ボディー。同じ腕で素早く打ってきた。僕はそれを手で払いのけると、(すき)を見つけて右ストレートを放った。しかし、ディーボはそれさえも、身をかがめてかわしてしまった。
 
 直後、ディーボの右直突(みぎちょくづ)き!

 僕はそれを読んでいたので、後退してかわす。

 ウオオオ……。

「すげえ……」
「速い」
「見えたか、今の攻防?」

 観客たちの声が聞こえてくる。
 すると、ディーボはすぐさま、足を前に運んだ。

 何と!

 僕の胴に抱きついてきた! 組み付くのが、これまた速い。これは倒すのが狙いだ。肩と側頭部を使って、左右どちらかに押し倒してくるはずだ。

 僕はふんばって、すぐさま、ディーボの腕を引き()がす。
 ──離れることに成功した! これはケビンとベクターとの特訓の成果だ。

「へえー……ここまでやるとはね」

 ディーボは愉快そうに笑っている。

「うれしいよ……。僕と互角に闘える人間がいてくれたことが」

 ゆらり、ディーボの体が揺れた。

 ディーボが消え……た、と思った時、彼は目の前に現れていた。僕は腕を掴まれ、彼は正面を向いた。
 ボーラスを痛めつけた、伝説の投げ技がくる!

変形山嵐(へんけいやまあらし)! 切り抜けて!」

 アリサの声がする。僕は彼に掴まれた手を引き剥がした。

 驚いた彼の顔がそこにあった。そこに隙ができていた。
 僕は彼の顔めがけて、右ストレートを放っていた。しかしディーボは姿勢を低くし、五ミリ程度の差でパンチをかわす。

 観客がざわめいている。

「ど、どっちの攻撃も当たらねえじゃねえか!」
「レベル高ぇ~」

 しかし、ディーボはまた組みつけてきた。恐らく、「変形山嵐(へんけいやまあらし)」を狙っているのだろう。僕は、同じように彼を引き()がそうとした。
 しかし、彼は離れない。

 僕は動いて、彼を転ばせようとした。しかし、彼は僕の胴に組み付いたままだ。
 
 僕は強引に、僕の胴を掴んでいるディーボの手を引き()がすことにした。しかし、もの凄い力だ。なかなか離れない!

 ううっ……!

 僕が立ち、彼が組み付いて、一分が経過した。僕が動こうとすると、彼も動く。彼が動こうとすると、投げを放ってくる危険性があるので、僕もすぐ反応する。
 ディーボが僕の胴に組み付いたまま、二分が経過。

 三分が経過……。こんな状況、初めてだ!
 
 また観客がざわめきだした。

「おい、なんとかしろよ、この状態!」
「試合になってないぞ!」
「バカ、真剣勝負なんだぞ、こういう状況になっても何もおかしくない」

 すると、審判団の一人が、リング上に上がってきた。組み合っている僕らを見て、言った。

「いったん、離れなさい!」

 僕らはうなずいて、組むのをやめた。その審判団の一人は、リング下に降りて、「再開!」と叫んだ。

 僕らは離れて、また構える。

 ウオオオオッ……。

 観客はどよめく。
 
 ディーボは足をふらつかせた。ん? さっきの三分の組み合いで、スタミナを失ったのか。足しきりに気にして、顔をしかめている。
 
(怪我か? (わな)か?)

 僕がディーボを観察していると、ディーボはすさまじい速さで、僕の方に近寄ってきた!

 ディーボは素早く、僕の腕を取った。ディーボは僕の腕を取りつつ前を向くと、僕の右スネを自分の右足裏で払った!
 またディーボの変形山嵐(へんけいやまあらし)

「レイジ!」

 アリサが声を上げる。

(ディーボ! 読んでいたぞ!)
 
 僕はディーボの首を、腕で抱えた。

「ぐっ」

 ディーボが声を上げた。 
 ディーボの首に、僕の締めが決まりかけたのだ。そのまま一緒に、前に倒れ込んだ。
 僕はすぐさま距離を取り──。ディーボが立ち上がって、振り返った直後を狙い……。

 僕は、ディーボのアゴに──突き上げるパンチ、右アッパーを決めていた。
 手ごたえがあった。
 吹っ飛ぶディーボ。

 場内は、ドオオオッと騒然となった。すべてがゆっくり時間が流れていくように思えた。

 ディーボはリング上で仰向けになっている。完全に、アゴの急所にアッパーが決まった。あれは立ち上がれないはずだ。
 審判団の団長があわてて、「ダウンカウントをしろ!」と声を上げた。

『ダウン! 1……2……3……4……!』

 カウントが進んでいく。
 しかし、ディーボはぴくりと動いた。やがてゆらりと体を起こしたのだ。
 顔は真っ青で、滝のような汗をかいている。

 これで終わるのか? それとも? 僕は身構えた。

「これで終わるわけないだろ?」

 ディーボはそう言いながら、ゆっくり立ち上がろうとしている。顔は笑っている。

 僕は、彼のユニークスキル(その人だけに備わっている強力なスキル、能力)──。


【ユニークスキル】痛みの反響魔導力 痛みを二倍にして返す

【ユニークスキル】???


 を思い出していた。

 そうだ、ディーボがこれで終わるわけがない。必ず、何かを隠しているはずだ!