どうやらディーボは、僕と同様に、スキルを四つ持っており、僕と同じスキルを二つ持っているらしい? 
 しかもそのうち二つは、ユニークスキル(その人だけに備わっている強力なスキル、能力)。その内の一つは、ララベルでも知らない謎のユニークスキル……だそうだ。
 ララベルは言った。

「ディーボって子の試合映像を魔導鏡(まどうきょう)で見て、鑑定したんだよ~ん」
「ララベル、ディーボも『秘密の部屋』に行ったということ?」

 ルイーズ学院長の問いに重ねるように、ララベルは言った。

「うーん……彼はアルフェウス家の息子でしょう? 『秘密の部屋』に入る資格のある、サーガ族と何か関係があるのかまでは、今の段階では分からない」

 ララベルはいったん言葉を切った。

「さてと、ディーボのスキルをこれから見せるよ。──と、その前にレイジ君。ディーボの試合を間近で見ていたでしょう? 彼の試合には、どの試合にも共通点があるよ。何か分かる?」
「共通点って……」

 僕はしばらく考えていたが、ピンときた。

「ああ、それは、気付いていました。ディーボは必ず最初、攻撃を受ける。ダウン寸前になることもありました」
「どうして、彼は最初に攻撃を受けると思う?」
「いや……分かりません。彼はバルフェス学院の一位です。彼なら、先手攻撃で有利に展開できるはずだと思いますけど」
「うん、その通り。じゃあ、ディーボのスキルを見せるよ!」

 ララベルは水晶球に文字を映し出してみせた。水晶球の表面にはこう書かれてあった。


 ディーボ・アルフェウスのスキル

【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力

【スキル】龍王(りゅうおう)の攻撃力 常人の七倍の攻撃力

【ユニークスキル】痛みの反響魔導力 痛みを二倍にして返す

【ユニークスキル】??? 鑑定不可能


「こ、これは!」

 ルイーズ学院長が声を上げた。

「上の二つは、レイジと同じ! 『大魔導士の知恵』と『龍王(りゅうおう)の攻撃力』は、レイジも持っているスキル! その下の『痛みの反響魔導力』は……?」
「敵から受けた攻撃を、二倍にして返す、特殊なスキルよ。これこそが、彼のユニークスキル! 彼独自だけが持つことができる、強力なスキルだよ」

 ララベルは説明した。

「だ、だから相手の攻撃を受けていたのか!」

 僕は声を上げた。ララベルはうなずいた。

「相手の攻撃を受けた時の『痛み』が、自分の『気』に混ざり合い、攻撃力が高まる、というわけ」
「こ、怖いな……。でも、最も下の『???』は何なんですか?」
「これは、分からない。あたしの水晶球でも見ることができなかったんだよね~。しかも貴重なユニークスキルみたいだし」

 ララベルは腕組みをした。

「いや~、屈辱(くつじょく)だわ。あたしが鑑定することができないスキルが存在するとは」
「一体、どんなスキルなのかしら」

 ルイーズ学院長も首を傾げている。僕は思い切って聞いた。

「僕にはユニークスキルはないんですか?」
「ない」

 ララベルの即答に、僕は肩を落とした。

「ないと思うけど……水晶球よ、もう一度、レイジ君のスキルを出して」

 ララベルはそう言いながら、僕に手をかざして、水晶球をもう一度のぞく。

「ん……? えええっ?」


 レイジ・ターゼットのスキル

【スキル】大魔導士の知恵 常人の七倍の判断力

【スキル】龍王(りゅうおう)の攻撃力 常人の七倍の攻撃力

【スキル】獣王(じゅうおう)の筋力 常人の七倍の筋力

【スキル】神速(しんそく) 常人の七倍の瞬発力

【ユニークスキル】神の加護 神の加護により、人の悪意をはね返す ←新着!

【ユニークスキル】??? 鑑定不可能 ←新着!


「えええ~? さ、さっきまでは水晶球に映ってなかったのに! レイジ君のスキルが増えてる! こんなの初めて!」

 ララベルは目を丸くして、声を上げた。

「し、しかも、ユニークスキルが二つ! ひ、一つは……【ユニークスキル】神の加護? こんなの初めて見た……。もう一つは? ええ? また鑑定不可能~! キィ~! 再び屈辱~」
「あ、あの~」

 僕はララベルに聞いた。

「突然、僕のスキルが増えたんですか?」
「違うわよ、多分、水晶球が隠してたんだわ!」
「どうして突然、水晶球に僕のユニークスキルが現われたんでしょうか?」
「そ、そうね~。水晶球は知能を持っているのよ。その水晶球が、今日、この時間まで、あなたに備わっていた二つのユニークスキルを、隠しておいた方がよいと判断したんじゃないかしら……多分」
「それってどういう……。あ、そもそも、この僕の隠されていたユニークスキルって一体、何なんですか?」
「え、えーっと……。一つめの【ユニークスキル】神の加護 の方は、『神の加護により、その者の意志で人の悪意をはね返す』って書いてある……うーん……私もよくわからない。もう一つの、『???』の方は、これは鑑定ができないってこと。あたしも知りたい! ぎゃー! 屈辱!」

 ララベルは一通り叫んだあと、ようやく落ち着きながら言った。

「当日は、あたしもレイジ君とディーボの試合を観るから。ディーボとレイジ君の謎のユニークスキル、その時に解明できたらいいよね~」

 ララベルは悔しそうに言った。

 ディーボ……スキル鑑定士でも鑑定できないスキルを持つ少年……。一体、何者なんだ? 勝負をすれば、彼の正体が分かるのだろうか?
 それに、僕にも同様に、『神の加護』っていうユニークスキルと、鑑定できないユニークスキルがあるって?
 それって、どんなスキルなんだろう?

 ◇ ◇ ◇

 そしてついに、決勝当日──ディーボ・アルフェウスとの試合の日が来た。

 空は晴天。雲一つない、素晴らしい天気に恵まれた。決勝の対戦場所は、王立競技場「グラントールスタジアム」だ。

 王立競技場の敷地内には、スタジアムが三つある。魔導体術(まどうたいじゅつ)の学生トーナメントや一般トーナメントは、決勝のみ、グラントールスタジアムで行われる。グラントールスタジアムは、グラントール王国国民にとって、特別な場所なのだ。
 五万人収容できて、座席、壁、柱などは大理石、金、銀、などがふんだんに使われている。壁などに彫られた装飾も、グラントールの職人たちが彫り上げた美しく豪華なものだ。
 ちなみに雨が降った時は、天井の屋根が、魔導力によって閉じる。

「えーい!」
「やああっ!」

 リング上では、幼年部の子どもたちによる、魔導体術(まどうたいじゅつ)演武が行われている。
 拍手も盛大だ。
 すでに客席は、僕とディーボの決勝目当てのお客で、五万人の超満員だ。学生トーナメントの決勝は、国民的行事の中でも最も大きな行事の一つだ。

 二時間後には、僕とディーボの試合が行われる。

 ◇ ◇ ◇

 僕は控え室で試合開始時間を待っていた。控え室には、ルイーズ学院長、ケビン、車椅子に乗ったベクター、スキル鑑定士のララベルがいる。

「の、喉が渇いたな」

 僕はケビンに飲料水をもらった。手がプルプル震える。……あー、緊張する。し、試合中におしっこ、ちびったらどうしよう……。
 ルイーズ学院長は、「まあ、緊張するのは仕方ないわよね」と言った。

「グラントールスタジアムで闘える魔導体術家(まどうたいじゅつか)なんて、大人でもほとんどいないんだから」
「……にしても、レイジよぉ。震えすぎじゃねえのか」

 ケビンは腕組みをしながら僕に行った。僕は言い返した。

「僕の身にもなってみてくれよ。今日はグラントール王や王族たちも来てるって話だぞ」

 僕が文句を言うと、ケビンは呆れたように言った。

「パンチが正確に打てないぜ、こりゃあ」

 その時、控え室の扉が勢いよく開いた。

「ちょっと、変なことになってるよ、レイジ!」

 控え室に飛び込んできたのは、アリサだった。

「レイジ側の花道両側の席が、全部、バルフェス学院の生徒や関係者に買われているみたい」
「どういうことだ?」

 僕は首を傾げて聞いた。花道とは、選手がスタジアムに入り、試合リングに上がるまで歩く道のことだ。左右に観客がいて、声援を送ってくれる。
 僕が試合する場合、花道両側の席には必ず、エースリート学院の生徒たちが座って、声援を送ってくれていた。
 しかし今日は何と、敵側のバルフェス学院の生徒が座ることになる? 僕は嫌な予感がした。

「フン、それはバルフェス学院の──。ディーボ・アルフェウスの作戦だよ」

 スキル鑑定士のララベルは言った。

「こざかしい真似をするよね、ホントに」
「作戦? ディーボは何を企んでいるんですか?」

 僕が聞くと、ララベルはニヤリと笑った。

「レイジ君。これをはね返さないとダメだよ。逆にはね返したら、試合前の段階で、君が精神的優位に立つかも……」
「ええ? どういうことです?」

 僕はルイーズ学院長と顔を見合わせた。