ルイーズ学院長の声は震えていた。しかし、逃げるわけにはいかない。このディーボという少年を見ていると、なぜかそんな気にさせられた。
「……そして、学生魔導体術家は、対魔物のための、若い兵士と言えます」
ルイーズ学院長は言った。
「もっと大きく言えば、魔王復活した際に起こると預言される、『魔導戦争』のための若い兵士よ」
ルイーズの言葉を聞いたディーボは、クスクス笑いながらうなずいた。
「フフフ、その通りですよ。ところで、そちらの持っている駒──。レイジ・ターゼット君ですが」
「駒?」
ルイーズ学院長はディーボをにらみつけた。人の学院の生徒を「駒」呼ばわり。この少年、一体、何なの?
「これから話すことは、レイジ・ターゼット君を優遇する、という前提で聞いてほしいのです」
「……どういう意味?」
「あなたのエースリート学院は、三ヶ月後、僕たち宮廷直属バルフェス学院に吸収合併される。つまりあなたの学校は無くなり、あなたの生徒はバルフェスに通うことになる」
「は? 何を言って──」
吸収合併──大きな組織が、小さい組織を全部、取り込む。その時、小さい組織は無くなる。簡単に言えばそういうことだ。
ディーボは続けた。
「レイジ・ターゼット君は特別に優遇します。バルフェスのランキングトップ10に入れてさしあげましょう。授業料なども免除」
「ディーボ、何を突飛なことを」
「ルイーズ学院長、あなたが今の話に背いたら──」
ディーボは悪魔的な笑いを浮かべた。これが彼の本性か?
「あなたは魔導体術協会から、『追放』です。つまり魔導体術家を名乗れなくなる」
ルイーズ学院長は、この恐ろしい少年に、何を言われているのか、ようやく理解した。
「冗談じゃないっ!」
ルイーズ学院長は、机を叩いた。
「なぜ私たちのエースリート学院が、バルフェスに吸収合併されなきゃいけないの!」
「生徒を──学生魔導体術家を管理するんですよ、当たり前でしょう」
ディーボ少年は、ハエをはらうような仕草を見せた。
「生徒……管理?」
ルイーズ学院長は、口の中で繰り返した。
「魔物、そして魔王との戦争になったら──」
ディーボが言った。
「学生魔導体術家を兵士として扱わなきゃならない。正確な管理が必要です。そのためには、宮廷直属の僕たちが、あなたたちの生徒を監理するのが一番です」
ディーボの言葉を聞いたデルゲスは、ニヤニヤ笑っている。ルイーズ学院長はデルゲスをにらんだ。そうか、こいつら、仲間だったのか!
「近い将来、魔物との闘いを見越した決定です」
ディーボは言った。
ルイーズ学院長は、(吸収合併なんて言ってるけど、これは、私たちエースリート学院に対する『乗っ取り』じゃないの!)と声を上げそうになった。
──デルゲスは笑っている。ということは、デルゲスのドルゼック学院は!
「俺たちのドルゼック学院は生徒数八千人だ」
デルゲスは言った。
「今回対象となるのは、生徒数千人程度の学校だけだ。すでにルバイン学院、ゾーグール学院、ライアス学院などの学院長は了承している。バルフェスの支配下に入ることを、OKしたぜ」
「そんなバカなっ」
「バカもへったくれもありませんよ。ルイーズ学院長。魔物と戦うことになるかもしれないのに。あなた方の生徒たちは、来年の四月から、宮廷が建設中の学校に通ってもらいます」
ディーボはルイーズ学院長は、虫でも見るような目で言った。
「そもそも──。グラントール王国には、魔導体術学校が百八もある。これは多すぎるなぁ。これを六十程度にする予定です。僕たちが生徒を管理します」
「……絶対にゆるすことはできない」
「何がです? ルイーズ学院長」
「生徒を……子どもたちを管理することを、よ」
「仕方ないですよ、魔王と魔物と戦うことになるかもしれないのだから」
「そんな方法をとらなくても、良い方法があるはず」
「ないですよ、そんなもの」
ディーボはぴしゃりと言った。
「ということは、ルイーズ学院長。あなた方エースリートは、僕たち宮廷やバルフェスに背くということ? 魔導体術協会に背くということ? それが何を意味するか……」
「『追放』ってわけ?」
「そうですよ」
ディーボの氷のような言葉に、ルイーズ学院長は、くっと声を上げた。
「生徒たちを管理するなんて……私はのびのびと、子どもたちに育ってもらいたいわ。それに、生徒たちはそれぞれの自分の学院を愛しているはず。自分の学校がなくなったら、きっと悲しむでしょう?」
「悲しんだからなんだっていうのかなぁ?」
ディーボはあっけらかんと言った。
「生徒なんて、おさえつけときゃ、黙って指導する側にしたがうに決まってる」
ルイーズ学院長は、堪忍袋の緒が切れそうだった。このバカガキが……!
ここで暴れてやることもできる。しかし、ルイーズ学院長はぐっと我慢した。生徒たちは宮廷保養訓練施設で過ごすことを、楽しみにしているのだ。ここで何か問題を起こしたら、それがダメになってしまうはずだ。しかし……。
デルゲスはニヤニヤ笑って、二人のやり取りを見ている。
ルイーズ学院長は口を開いた。
「このお話は、バルフェスの学生が、我がエースリートの学生よりも強い、ということを前提としたお話に聞こえるわ」
「当然です。バルフェスの生徒は将来、僕を含めて、国王に仕える『宮廷護衛隊』になるわけだから。魔導体術のエリート中のエリートですよ」
「もし、来年二月のグラントール大会個人戦で、バルフェスの子にエースリートの子が勝ったとしたら? それならば、我がエースリートは宮廷直属の子より、強いということになる」
「……ありえない」
ディーボはルイーズ学院長をにらみつけた。
「そんなバカなことはありえない」
「ディーボ、あなたは確か、魔導体術指導長でありながら、生徒だったわね。今度のグラントール王国主催の個人戦、あなたは出場する?」
「出場します。しかし、悪いけど、僕には誰も勝てない。その前に、宮廷直属の生徒が、単なる私立の養成学校の生徒に負けるわけがない。エースリートがバルフェスに勝つなんて、そんなバカなことはありえません」
「バカなことがありえるわよ。レイジ・ターゼットが、あなたと、バルフェス学院の生徒を倒します」
ディーボは首を横に振ったが、デルゲスはクスクス笑っている。ディーボは言った。
「僕は確かに、レイジ君の強さを認めています。でも、バルフェスの生徒に勝つなんて、百年早い」
「いえ、レイジは勝つわ」
「愚かな」
ディーボはため息をつきながら言った。
「ルイーズ学院長、わかりました。ならば、ルイーズ学院長、あなたは魔導体術協会から『追放』です」
デルゲスは笑っている。
「おいおい、謝れって、ルイーズ」
「ところで我が校の生徒が、宮廷保養訓練施設に旅行する件はどうなりますか」
ルイーズ学院長はデルゲスの言葉を無視して、ディーボに聞いた。
「まあ……それは認めましょう。すでに決まっていたことだし……。でも、そんな場合じゃないんじゃないですか、ルイーズ学院長」
ディーボはまた悪魔のように笑った。
「……そして、学生魔導体術家は、対魔物のための、若い兵士と言えます」
ルイーズ学院長は言った。
「もっと大きく言えば、魔王復活した際に起こると預言される、『魔導戦争』のための若い兵士よ」
ルイーズの言葉を聞いたディーボは、クスクス笑いながらうなずいた。
「フフフ、その通りですよ。ところで、そちらの持っている駒──。レイジ・ターゼット君ですが」
「駒?」
ルイーズ学院長はディーボをにらみつけた。人の学院の生徒を「駒」呼ばわり。この少年、一体、何なの?
「これから話すことは、レイジ・ターゼット君を優遇する、という前提で聞いてほしいのです」
「……どういう意味?」
「あなたのエースリート学院は、三ヶ月後、僕たち宮廷直属バルフェス学院に吸収合併される。つまりあなたの学校は無くなり、あなたの生徒はバルフェスに通うことになる」
「は? 何を言って──」
吸収合併──大きな組織が、小さい組織を全部、取り込む。その時、小さい組織は無くなる。簡単に言えばそういうことだ。
ディーボは続けた。
「レイジ・ターゼット君は特別に優遇します。バルフェスのランキングトップ10に入れてさしあげましょう。授業料なども免除」
「ディーボ、何を突飛なことを」
「ルイーズ学院長、あなたが今の話に背いたら──」
ディーボは悪魔的な笑いを浮かべた。これが彼の本性か?
「あなたは魔導体術協会から、『追放』です。つまり魔導体術家を名乗れなくなる」
ルイーズ学院長は、この恐ろしい少年に、何を言われているのか、ようやく理解した。
「冗談じゃないっ!」
ルイーズ学院長は、机を叩いた。
「なぜ私たちのエースリート学院が、バルフェスに吸収合併されなきゃいけないの!」
「生徒を──学生魔導体術家を管理するんですよ、当たり前でしょう」
ディーボ少年は、ハエをはらうような仕草を見せた。
「生徒……管理?」
ルイーズ学院長は、口の中で繰り返した。
「魔物、そして魔王との戦争になったら──」
ディーボが言った。
「学生魔導体術家を兵士として扱わなきゃならない。正確な管理が必要です。そのためには、宮廷直属の僕たちが、あなたたちの生徒を監理するのが一番です」
ディーボの言葉を聞いたデルゲスは、ニヤニヤ笑っている。ルイーズ学院長はデルゲスをにらんだ。そうか、こいつら、仲間だったのか!
「近い将来、魔物との闘いを見越した決定です」
ディーボは言った。
ルイーズ学院長は、(吸収合併なんて言ってるけど、これは、私たちエースリート学院に対する『乗っ取り』じゃないの!)と声を上げそうになった。
──デルゲスは笑っている。ということは、デルゲスのドルゼック学院は!
「俺たちのドルゼック学院は生徒数八千人だ」
デルゲスは言った。
「今回対象となるのは、生徒数千人程度の学校だけだ。すでにルバイン学院、ゾーグール学院、ライアス学院などの学院長は了承している。バルフェスの支配下に入ることを、OKしたぜ」
「そんなバカなっ」
「バカもへったくれもありませんよ。ルイーズ学院長。魔物と戦うことになるかもしれないのに。あなた方の生徒たちは、来年の四月から、宮廷が建設中の学校に通ってもらいます」
ディーボはルイーズ学院長は、虫でも見るような目で言った。
「そもそも──。グラントール王国には、魔導体術学校が百八もある。これは多すぎるなぁ。これを六十程度にする予定です。僕たちが生徒を管理します」
「……絶対にゆるすことはできない」
「何がです? ルイーズ学院長」
「生徒を……子どもたちを管理することを、よ」
「仕方ないですよ、魔王と魔物と戦うことになるかもしれないのだから」
「そんな方法をとらなくても、良い方法があるはず」
「ないですよ、そんなもの」
ディーボはぴしゃりと言った。
「ということは、ルイーズ学院長。あなた方エースリートは、僕たち宮廷やバルフェスに背くということ? 魔導体術協会に背くということ? それが何を意味するか……」
「『追放』ってわけ?」
「そうですよ」
ディーボの氷のような言葉に、ルイーズ学院長は、くっと声を上げた。
「生徒たちを管理するなんて……私はのびのびと、子どもたちに育ってもらいたいわ。それに、生徒たちはそれぞれの自分の学院を愛しているはず。自分の学校がなくなったら、きっと悲しむでしょう?」
「悲しんだからなんだっていうのかなぁ?」
ディーボはあっけらかんと言った。
「生徒なんて、おさえつけときゃ、黙って指導する側にしたがうに決まってる」
ルイーズ学院長は、堪忍袋の緒が切れそうだった。このバカガキが……!
ここで暴れてやることもできる。しかし、ルイーズ学院長はぐっと我慢した。生徒たちは宮廷保養訓練施設で過ごすことを、楽しみにしているのだ。ここで何か問題を起こしたら、それがダメになってしまうはずだ。しかし……。
デルゲスはニヤニヤ笑って、二人のやり取りを見ている。
ルイーズ学院長は口を開いた。
「このお話は、バルフェスの学生が、我がエースリートの学生よりも強い、ということを前提としたお話に聞こえるわ」
「当然です。バルフェスの生徒は将来、僕を含めて、国王に仕える『宮廷護衛隊』になるわけだから。魔導体術のエリート中のエリートですよ」
「もし、来年二月のグラントール大会個人戦で、バルフェスの子にエースリートの子が勝ったとしたら? それならば、我がエースリートは宮廷直属の子より、強いということになる」
「……ありえない」
ディーボはルイーズ学院長をにらみつけた。
「そんなバカなことはありえない」
「ディーボ、あなたは確か、魔導体術指導長でありながら、生徒だったわね。今度のグラントール王国主催の個人戦、あなたは出場する?」
「出場します。しかし、悪いけど、僕には誰も勝てない。その前に、宮廷直属の生徒が、単なる私立の養成学校の生徒に負けるわけがない。エースリートがバルフェスに勝つなんて、そんなバカなことはありえません」
「バカなことがありえるわよ。レイジ・ターゼットが、あなたと、バルフェス学院の生徒を倒します」
ディーボは首を横に振ったが、デルゲスはクスクス笑っている。ディーボは言った。
「僕は確かに、レイジ君の強さを認めています。でも、バルフェスの生徒に勝つなんて、百年早い」
「いえ、レイジは勝つわ」
「愚かな」
ディーボはため息をつきながら言った。
「ルイーズ学院長、わかりました。ならば、ルイーズ学院長、あなたは魔導体術協会から『追放』です」
デルゲスは笑っている。
「おいおい、謝れって、ルイーズ」
「ところで我が校の生徒が、宮廷保養訓練施設に旅行する件はどうなりますか」
ルイーズ学院長はデルゲスの言葉を無視して、ディーボに聞いた。
「まあ……それは認めましょう。すでに決まっていたことだし……。でも、そんな場合じゃないんじゃないですか、ルイーズ学院長」
ディーボはまた悪魔のように笑った。