ベクターとの試合から一週間が経った。

「ついにこの日がやってきた……」

 今日、僕──レイジ・ターゼットが所属するエースリート学院は、僕を退学させたドルゼック学院との団体戦を行う。ついに、僕は宿敵、ボーラスと闘うことになるのだ。

 場所は、エースリート学院の近く、王立ランダーリア体育館。僕らは午前九時半、馬車で体育館に着き、控え室で試合の支度を始めていた。
 試合まで後二時間。初めての公式試合……。客席はエースリート学院とドルゼック学院の生徒、一般客で埋まって、超満員だ。  

(緊張で、おしっこチビりそうだ……)

 僕は控え室の椅子に座って、色々モヤモヤ考えていた。

 アリサはバナネの実やアプルの実に、ハチミツをかけたデザートを用意してくれてきていた。試合前のエネルギー食だ。これで息切れはしにくいだろう。

「レイジ、ケビンとベクターが外にいるわ」

 ルイーズ学院長が言った。

「二人を探してきなさい。すぐに団体戦のミーティングを始めます」

 僕は、「はい」と返事をして、すぐに控え室を出た。ケビンとベクターを探さなければ。廊下にもいないな。じゃあ、玄関前ロビーか。
 僕が体育館の玄関前ロビーに行くと、見覚えのあるヤツらがそこに立っていた。

 うう……! あいつらは……。

「ん? あれ? あれぇ?」

 ボーラス・ダイラントが、僕を見て声を上げた。ジェイニーも、マークもいる。ボーラスは馬鹿丁寧な言葉で言った。

「これはこれは。弱虫レイジ君じゃないか。どうしたんだ、こんなところに。そうか、観客して来たのか、お前」

 ボーラスは僕と闘うことを知らないようだ。それもそのはず、団体戦の対戦相手は、試合の一時間前までは発表しなくて良いルールだからだ。僕らエースリート学院は、ボーラスたちに出場メンバーを知らせていない。
 ボーラスは当然、僕と闘うことを知らないだろう。

「おい、ボーラス!」

 声がした。後ろからベクターがやってきた。ケビンもいる。

「レイジは……彼は、僕らエースリート学院のNO1魔導体術家(まどうたいじゅつか)だ! 今日の団体戦の大将だよ」
「はああ? 何言ってんだ、ベクター」

 ボーラスはゲラゲラ笑っている。

「お前、頭がおかしくなっちまったんじゃねえのか。何だ、お前ら知り合いかよ。そんな冗談を言える仲なのか? おい、レイジ、どうなってんだ」
「僕は、エースリート学院に入学した。そして、学院のトップになっている」

 僕は勇気を出して、はっきりと事実を言ってみた。するとボーラスは眉をひそめた。

「おい、何の冗談なんだ? お前のような弱いヤツが? お前ら、名門エースリートだろ」
「冗談なんて言わないぞ、ボーラス」
 
 ベクターは眼鏡を擦りあげた。

「レイジは、僕らエースリート学院の代表だ。そしてボーラス、君と闘う予定だ!」
「おいおいおい……。マジなのか」

 ボーラスはひきつって笑っている。後ろでは、ジェイニーとマークが驚いたように顔を見合わせている。ジェイニーやマークも本当に、僕がこの団体戦の出場選手であること、ボーラスと闘うことを知らないようだ。
 ボーラスは口を開いた。

「……おい、レイジ。どんな姑息(こそく)な手段でエースリートのトップに上りつめたのかは分からねえ。まあ百歩ゆずって、今の話を信じてやるよ。で、俺と対戦? ぶっとばされてぇの?」
「ぶっとばされるのは、そっちじゃないの~? ボーラス君」

 ケビンが軽く僕の肩を組んで、ボーラスに言う。

「マジでレイジは強いよ。驚くぞぉ」

 ボーラスはしばらく黙っていたが、すぐに横にいたドルゼック学院の下級生二人に、何か耳打ちし始めた。下級生は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに体育館の外に走って行った。

(なんだ? ボーラスのヤツ、下級生に何か指示したぞ?)

 僕は首を傾げた。一方、ボーラスは舌打ちし、僕をにらみつけた。

「……さてと。じゃあ対戦を楽しみにしておくぜ。レイジ、この一週間、何があったんだ? いや、試合をすれば分かるか。じゃあな」

 ボーラスやジェイニー、マークは自分たちの控え室のほうに行ってしまった。

「あなたたち、こんなところにいたの?」

 ルイーズ学院長は僕たちの方に駆けつけた。

「さあ、全力をつくして、勝ちにいきましょう!」
「おお!」

 僕らは声を上げた。どんどんと試合時間は近づいてきている。
 
 そして、僕らの公式試合──ドルゼック学院との真の勝負は始まった!