僕の対戦相手、ベクターは、僕の憎き叔父──ドーソン・ルーゼントの息子だった。
彼はリング上で言った。
「僕はこの学院の寮にいて、父には最近、会っていないけどね。父が昨日の夜、珍しく魔導通信で、僕に連絡をとってきたからさ。レイジ君、君、父と会ったんだって?」
「ベクター、君は、ドーソン叔父さんの息子だったのか!」
「そうだ。だが、母と父──ドーソン・ルーゼントは君と住む前に離婚しているからね。子どもの頃、君とはそんなに会うことはなかったな。ちなみに、母はエルフ族だ。僕は人間とエルフのハーフだよ」
そういえば僕と子どもの頃、何回か叔父さんの息子と庭で会ったことがある。それがベクターだ。そういえば、面影があるような。
ドーソン叔父さんには、おととい、散々悪態をつかれた。その息子、ベクターか。どんな人間なのか、察しがつく。喋り方も嫌味ったらしい。
「君、僕の父さんを殴り倒したって?」
や、やっぱり、知っていたか。──ベクターは話を続ける。
「信じられないなあ。父さんは魔導体術の全国大会で八位入賞者だ。年は取ったが、体重があるから、まだまだ強いはずなんだけどね。……だが、僕は父と違って、甘くないよ。君をギタギタに叩きのめす! ウフフフ」
やっぱりな。ベクターはドーソン叔父さんと同類だ。
カーン!
試合のゴングが鳴った。鳴らしたのは例によって、ルイーズ学院長。待ってくれ、心の準備が……!
「レイジ!」
セコンドについてくれたアリサが叫んだ。
「ベクターは蹴りの名手よ! 彼には特殊な連続攻撃があるから、気を付けて!」
「特殊な……連続攻撃?」
僕がどんな技だ、と考えていると、ベクターはいきなり襲い掛かってきた。
スッと片足立ちになったかと思うと、鋭い横蹴りが飛んできた。一発、二発、三発、四発! 連発だ。
僕はすべて片手で叩き落した。
今度はベクターの右中段蹴り! これは左あばら骨を狙う攻撃だ。僕はギリギリのところでかわした。とにかく彼の蹴りは素早い。ケビンの五倍のスピードがあるだろう。確かに、エースリートのランキング一位の生徒だけはある。
「レイジ君」
ベクターはものすごく恐ろしい目で僕をにらみつけた。
「君のような貧弱な少年が……僕の蹴りを全部かわす? ありえない!」
ベクターは、今度は左下段蹴りを放ってくる。
「計算上ありえない!」
ガッ
僕の足元で音がした。僕の体が宙に浮かぶ。そうか、なるほど。これは太ももを蹴る下段蹴りではなく、足首を刈って、僕を転ばせる技術! ケビンも使ってきた技だ。
僕は宙を舞い、背中からリング床に落ちた。しかし、たいした痛みはない。
「連続攻撃が来る!」
アリサの声がした。
ベクターは狙っていた。僕が倒れた時に、上からパンチを顔に落とす! しかし、それは僕も読んでいた。彼の振り下ろすパンチをよけ、素早く立ち上がる。
「な、なにいいい~!」
ベクターは、審判席のルイーズ学院長の方を振り返り、叫んだ。
「学院長! 彼はダウンしたでしょう! 背中から倒れたんだから!」
「レイジがダウンしたって?」と、観客──生徒たちは騒然となった。
生徒たちの誰もが、ルイーズ学院長の判断を待った。ルイーズ学院長はちょっと考えてから、首を横に振った。そして魔導拡声器に向かって言った。
『ダウンとはみなしません! レイジはダメージを負っていない。試合続行!』
ドオオオッ! 場内は大盛り上がりだ。
「ちくしょおおおおっ……クソ野郎がああっ!」
ベクターは試合前の冷静な顔とはうって変わって、鬼のような形相だ。汗もかいている。僕は逆に、自分が汗一つかいていないのが分かっていた。
とても冷静だった。
「ん? あ、うう?」
ベクターは素早く僕の方に向かってきたが、足がもつれた。そしてよろよろと膝をついてしまった。
『ダウン! 1、2、3……』
何だ、何が起こった? と観客は騒然となっている。ベクターはロープをつかんで必死に立ち上がる。そして足を押さえながら、リングの中央にフラフラと戻った。
彼は僕に言った。
「レイジ君、お前、何てヤツだ……。僕の蹴りを避けているフリをして、僕のふくらはぎに蹴りを叩き込んでいたんだから」
その通り。僕は彼の横蹴りを避けつつ、彼の軸足に蹴りを叩き込んでいた。つまり、ふくらはぎに蹴りを放っていた。細かい地味な蹴り技だが、筋肉が断裂する恐れのある、危険な技だ。カーフキックとも呼ばれている。
足首刈りを受けたのも、彼を油断させるため。
ベクターは自分の足に気合を入れるようにパシパシ叩いて、ニヤリと笑った。
「そうかい、ようやく理解した。君は僕の計算の上をいっている。しかし、これならどうだろう?」
彼は物凄いスピードで、左中段蹴りを僕の右腕に叩き込んできた。僕は避けたが、なるほど、防御する腕自体を破壊する手段に切り替えてきたわけだ。
しかし、軸足を痛めているベクターの蹴りは、もうそれほど速くはない!
すると彼は突如、その足を宙に掲げた。
かかと落としが来る! 蹴り技が得意な選手が、最も華麗に魅せることのできる技だ!
「ダメね。レイジの勝ちよ」
ルイーズ学院長の声が、僕の耳に入った。その通り! 僕は彼のナタのように振り下ろす足技を避け、右に一歩前に出た。
もらった。
僕の拳は、ベクターの耳の後ろ──急所を直撃した。
──手ごたえがあった。
彼はリング上で言った。
「僕はこの学院の寮にいて、父には最近、会っていないけどね。父が昨日の夜、珍しく魔導通信で、僕に連絡をとってきたからさ。レイジ君、君、父と会ったんだって?」
「ベクター、君は、ドーソン叔父さんの息子だったのか!」
「そうだ。だが、母と父──ドーソン・ルーゼントは君と住む前に離婚しているからね。子どもの頃、君とはそんなに会うことはなかったな。ちなみに、母はエルフ族だ。僕は人間とエルフのハーフだよ」
そういえば僕と子どもの頃、何回か叔父さんの息子と庭で会ったことがある。それがベクターだ。そういえば、面影があるような。
ドーソン叔父さんには、おととい、散々悪態をつかれた。その息子、ベクターか。どんな人間なのか、察しがつく。喋り方も嫌味ったらしい。
「君、僕の父さんを殴り倒したって?」
や、やっぱり、知っていたか。──ベクターは話を続ける。
「信じられないなあ。父さんは魔導体術の全国大会で八位入賞者だ。年は取ったが、体重があるから、まだまだ強いはずなんだけどね。……だが、僕は父と違って、甘くないよ。君をギタギタに叩きのめす! ウフフフ」
やっぱりな。ベクターはドーソン叔父さんと同類だ。
カーン!
試合のゴングが鳴った。鳴らしたのは例によって、ルイーズ学院長。待ってくれ、心の準備が……!
「レイジ!」
セコンドについてくれたアリサが叫んだ。
「ベクターは蹴りの名手よ! 彼には特殊な連続攻撃があるから、気を付けて!」
「特殊な……連続攻撃?」
僕がどんな技だ、と考えていると、ベクターはいきなり襲い掛かってきた。
スッと片足立ちになったかと思うと、鋭い横蹴りが飛んできた。一発、二発、三発、四発! 連発だ。
僕はすべて片手で叩き落した。
今度はベクターの右中段蹴り! これは左あばら骨を狙う攻撃だ。僕はギリギリのところでかわした。とにかく彼の蹴りは素早い。ケビンの五倍のスピードがあるだろう。確かに、エースリートのランキング一位の生徒だけはある。
「レイジ君」
ベクターはものすごく恐ろしい目で僕をにらみつけた。
「君のような貧弱な少年が……僕の蹴りを全部かわす? ありえない!」
ベクターは、今度は左下段蹴りを放ってくる。
「計算上ありえない!」
ガッ
僕の足元で音がした。僕の体が宙に浮かぶ。そうか、なるほど。これは太ももを蹴る下段蹴りではなく、足首を刈って、僕を転ばせる技術! ケビンも使ってきた技だ。
僕は宙を舞い、背中からリング床に落ちた。しかし、たいした痛みはない。
「連続攻撃が来る!」
アリサの声がした。
ベクターは狙っていた。僕が倒れた時に、上からパンチを顔に落とす! しかし、それは僕も読んでいた。彼の振り下ろすパンチをよけ、素早く立ち上がる。
「な、なにいいい~!」
ベクターは、審判席のルイーズ学院長の方を振り返り、叫んだ。
「学院長! 彼はダウンしたでしょう! 背中から倒れたんだから!」
「レイジがダウンしたって?」と、観客──生徒たちは騒然となった。
生徒たちの誰もが、ルイーズ学院長の判断を待った。ルイーズ学院長はちょっと考えてから、首を横に振った。そして魔導拡声器に向かって言った。
『ダウンとはみなしません! レイジはダメージを負っていない。試合続行!』
ドオオオッ! 場内は大盛り上がりだ。
「ちくしょおおおおっ……クソ野郎がああっ!」
ベクターは試合前の冷静な顔とはうって変わって、鬼のような形相だ。汗もかいている。僕は逆に、自分が汗一つかいていないのが分かっていた。
とても冷静だった。
「ん? あ、うう?」
ベクターは素早く僕の方に向かってきたが、足がもつれた。そしてよろよろと膝をついてしまった。
『ダウン! 1、2、3……』
何だ、何が起こった? と観客は騒然となっている。ベクターはロープをつかんで必死に立ち上がる。そして足を押さえながら、リングの中央にフラフラと戻った。
彼は僕に言った。
「レイジ君、お前、何てヤツだ……。僕の蹴りを避けているフリをして、僕のふくらはぎに蹴りを叩き込んでいたんだから」
その通り。僕は彼の横蹴りを避けつつ、彼の軸足に蹴りを叩き込んでいた。つまり、ふくらはぎに蹴りを放っていた。細かい地味な蹴り技だが、筋肉が断裂する恐れのある、危険な技だ。カーフキックとも呼ばれている。
足首刈りを受けたのも、彼を油断させるため。
ベクターは自分の足に気合を入れるようにパシパシ叩いて、ニヤリと笑った。
「そうかい、ようやく理解した。君は僕の計算の上をいっている。しかし、これならどうだろう?」
彼は物凄いスピードで、左中段蹴りを僕の右腕に叩き込んできた。僕は避けたが、なるほど、防御する腕自体を破壊する手段に切り替えてきたわけだ。
しかし、軸足を痛めているベクターの蹴りは、もうそれほど速くはない!
すると彼は突如、その足を宙に掲げた。
かかと落としが来る! 蹴り技が得意な選手が、最も華麗に魅せることのできる技だ!
「ダメね。レイジの勝ちよ」
ルイーズ学院長の声が、僕の耳に入った。その通り! 僕は彼のナタのように振り下ろす足技を避け、右に一歩前に出た。
もらった。
僕の拳は、ベクターの耳の後ろ──急所を直撃した。
──手ごたえがあった。