真っ白な札紙に、一心不乱に筆を走らせる。
意識を集中して、体の中の霊力を注ぎ込むように、、、。
「、、、し、、、時雨!」
自分が呼ばれていることに気付き、時雨はハッとした。顔を上げると斜め前に四十代半ばの男が座っていた。
「父さん、、、」
「あまり根詰めることはない。少し休憩したらどうだ」
「大丈夫。まだやれる」
 夏谷家は村上家と違って、生まれつき何かしら能力を持っている子供が生まれる。その子供はそれを使って祓うんだから生まれながらのエリートという訳だ。では自分達は?能力を持たない村上家含め祓い屋の一族は札や武器に頼るしかない。ずっと、それで祓ってきた。
一日も早く色々な札を使いこなせるようになりたい。
だから、休んでいる暇なんてない。
 時雨の気持ちを否定するように父は首を横に振る。
「霊力の込め方にムラが出ている。集中力が欠けている証拠だ。やみくもに書けば良いというものではない」
「あ、、、ごめん」
時雨は畳に並べられた札達を手に取り、一枚一枚を見つめる。どれも同じような文字が(つづ)られているけれど、よく観察するとそれそれの札から感じられる霊力には差があった。
 しかし、祓い屋が作れる札は十種類以上になる。ベテランの祓い屋はそれを全ての状況によって使いこなし、強力な憑き物も祓ってしまう。
 今、時雨が作っているのは縛呪(ばくじゅ)札と呼ばれる札だ。これを使うと憑き物の動きを一定時間、縄で縛ったように動きを封じることが出来るという。封じられる時間は、それを作った術者の力量による。つまり、時雨のように一枚一枚にクオリティの差があると、あるときは一分保ったのに別のあるときは数秒しか保たない、ということもありうるのだ。
「お前はよく頑張っている」
 父は時雨を元気付けるようにそういうと、部屋から出ていった。
シーンと静まりかえった和室に、時雨はひとりぽつんと残される。
「はぁ、、、俺、駄目だったな、、、」
床の間に飾られた菊の掛け軸を眺めながら、独りごもる。
頑張っているつもりでいたけれど、自分の集中具合すら把握出来ていないなんて―――。