「、、、央。真央!」
懐かしい声が遠くの方で聞こえる。白い光が包む。
「う、、、う〜ん」
目を擦って起き上がると少し見慣れない部屋が目に映る。
私の部屋なのだが、少し違う。勉強机が二つあったり、二段ベットだったり。
「、、、よう、眠り姫」
「あ、、、」
ずっと会いたかった人が目の前にいる。私と似た双子の兄さま。
「あ、、、兄さま!!」
嬉しくて、泣きそうになりながら兄さまに抱きつく。
「お願い!もう置いて逝かないで!私を一人にしないで!」
大粒の涙が頬を流れる。
「もう置いて逝かねぇから、、、泣くのはやめろ。悪かったな。辛い思い、させちまった」
時戻しは成功したのだ。
「ううん。良いよ。こうして会えて、、、抱きしめてくれたから。兄さま、ずっと前から同じ、温かい、、、」
「、、、ああ、お前も」
上着を羽織る兄さまは、とてもとても格好良かった。
「今日は休日だから、何処か行こうか。礼も兼ねて彼奴も誘うか、、、」
兄さまは年相応な服装で、身長も私より少し高い。

町を兄さまと並んで歩く。
たったそれだけなのに、心が踊り出すように軽い。
お母さんとお父さんも優しい。兄さまが死んじゃう前に遡って、あの悲劇をなかったことにしたから、家族四人揃って、兄さまもお母さんとお父さんとも仲が良い。二人は何も覚えていなかったけど、、、。
「どうした?真央。そんなに嬉しそうにして」
「兄さまと一緒に歩けるのが嬉しい!」
「オレも、嬉しいよ。だが、、、」
兄さまは顎に手を置き、本気で困ったような顔をした。
「真央に変な虫がくっつかないか心配だな」
「えへへ、兄さまがいるから大丈夫だよ!」
不意に、「はい、そこー、イチャつかないでもらえますか?恋人がいない僕に見せ付けですか?」という時雨くんの声が聞こえた。
「、、、本当にそっくりですね」
私と兄さまを交互に見比べて呟く。
「まぁ、双子だしな。お前、真央に手を出すなよ」
「分かってますよ。師匠がいる限り真央さんに恋人は難しそうですね」
「真央の恋人はオレだけどな」
さらっと爆弾発言落とした兄さま。顔が赤くなる、少し恥ずかしい。
「え、、、付き合ってたんですか!?」
「時戻し前にな」
「付き合ってはないけどね、、」
「じゃあ、今改めて言うから、返事を聞かせてくれ」
真剣に、でも優しく言った。
「真央、お前を愛している。オレと付き合ってくれ」
その告白の答えなんて、ずっと昔から決まっている。
「うん!」
そういうと、兄さまは幸福そのものの笑みを浮かべる。
本日、晴れて兄さまと恋人関係になれました!

夕食時、カランとお母さんのスプーンが落ちる。
「え、、、二人が付き合った、、、?」
「うん!」
「ああ」
お父さんに目を向けると、空いた口が塞がっていなかった。なんなら微塵(みじん)も動いていない。
「今日は赤飯の方が良かったかしら、、、」カレーを見て呟くお母さん。
「、、、玲央、予定より少し早いが、当主にならないか?」夏谷家の当主を勧めるお父さん。
「お前の霊力は俺より強くなっている。もう老いぼれは若い者に任せようと思う」わざとらしく腰をさする。
「老いぼれって歳じゃねぇだろ」


「兄さまは、当主になるの?」
「まぁ、跡継ぎだしな」
「嫌じゃないの?」
「、、、嫌じゃない。前の家は嫌いで、当主になる気なんかなかった。でも、今は継いでも良いと思っている」
「そっか!」
兄さまが夏谷家の当主。嬉しいな!
兄さまと同じ部屋。二段ベットで寝て起きて、すぐ隣には兄さまの勉強机。引き出しには同じ色のハサミ。
ずっと夢見ていた生活。あの日常も、今の日常も大切な宝物。
「兄さま世界一格好良いよ!明日は今日より格好良いんだろうな〜」
「真央もな。天使より可愛い」
壁に掛けられている時計に目を向ける。針は夜の十一時を指していた。
「さて、寝ようか」
「うん」
電気を消し、ベッドに入る。
「おやすみ、また明日」
「おやすみ!」
ワクワクして眠れないか心配だったが、数分で夢の中に落ちていった。