今から、約六年前のこと。
あの日は梅雨の時期で雨が降っていて、少し寒かった。
「ねぇ、兄さま。何時もと違う通学路で帰ろうよ!」
「真央がそう言うなら違う道で帰ろうか」
「うん!」
 きっと、その選択が間違っていたのだろう。
雨粒が頬に当たる。今日の降水確率は十バーセント以下だったが、念の為、傘を持って来ていた。
「傘、持って来ておいて良かったね!」
「ああ、真央のお蔭だな」
「えへへ」
一つの傘に一緒に入る。子供用の小さな傘だから、少し横に動けば肩が当たってしまう。でも、その距離が丁度良い。
雨で髪や服が濡れてしまったら、私が水を操って乾かす。
「真央、手を繋いでよ」
「兄さまの怖がり〜!もう五年生なのに雷が怖いの?」
「良いから。手、貸して」
手を繋いで何時もと違う帰路を冒険感覚で歩く。
雨は本降りに近付き、どんどん強くなる。
 それから、美味しかった給食の話や雨の話、社会科見学のことなど他愛のない話をする。
「あーめあーめふーれふーれかあさんがー」
「じゃのめでお迎え嬉しーな」
 二人で歌も歌ったりしていると、兄さまが急に止まる。目線の先には邪鬼。それも相当強力な、、、。
「あ、、、いる、、、」
「真央、下がれ。オレが倒す」
「でも、、、」
足が震える。動けずに地面に座り込む。
 兄さまは傘から出て、降り続ける本降りの雨を氷にして、少しずつ、少しずつ攻撃をしていく。
それでも、力の差というのは埋まらないようで、邪鬼の攻撃も食らってしまう。
「クソッ。彼奴、真央に選んでもらった服を破きやがった、、、」
膝や口の端が切れ、血が滲んでいる。
 それからのことはあまり覚えていない。
気が付けば邪鬼は消え、冷たくなった兄さまが倒れていた。
「あ、、、兄さま、、、?」
声をかけても、揺さぶっても起きない。
「し、死んだフリなんてしないでよ、、、兄さま、、、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!置いて逝かないで!うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 ひたすらに泣いた。叫び過ぎて声が枯れて出なくなっても泣いた。
雨は涙を隠すと言うけれど、雨なんかでは隠しきれない。
それから、父が慌てて来たが、、、記憶がおぼろげで何を話したのかもう覚えていない。

 兄さまの葬儀が済んだ後、兄さまの魂が私の体に宿って―――。