花氷の琥珀糖

公園一帯に充満する緊張の気配。
頬を汗がつたう。
占い結果は当たっていたのだ。
 憑き物を示す月。
 操りを示す糸。
 力試しを示す影。
 そして風。
全てを並べ変えると、村上時雨は憑き物に憑依され、近々危険が迫り来る。
力試しというのは、この憑き物が憑依した理由だろう。強い者との対戦を望む。
 占いの時、同時に時雨のことも占った。まさか、こういうことだとは思わなかった。
「ああ、そう警戒しなさんな。この体は返してあげるよ」
 時雨の中から何かが現れ、それは人の形を模した黒いモノになった。
時雨本人は倒れている。
 不気味な笑みを浮かべた憑き物は笑っていた。
(、、、勝てる?)
お守りを握りしめ、息を整える。
(大丈夫。目を閉じて、集中する。大丈夫、、、怖くない)
 頬に、鋭い物が掠った。
「え、、、?」
頬を掠っていたのは鎖に繋がれたナイフ。
操っていたのは、憑き物だった。
―――水がある場所なら"二人"は最強だな。
 昔、誰かが言っていた言葉だ。
『真央、走れ!』
玲央のその言葉を合図にして走る。
まずは相手と距離を取って、水脈がある所に近付きたい。
 それでも躊躇(ちゅうちょ)なく刃が首を()ろうと襲いかかる。少し掠っただけで服が切れてしまった。
「速攻でトドメを刺さねぇと!」
『ダメ、、、殺さないで!』
「真央、離せ!」
(オレにとって、真央以外どうでも良い!)
グググと玲央の腕を真央が意志の力で抑え込む。
このまま彼に変わっていれば、間違いなく憑き物だけじゃなく、時雨も巻き込んで殺してしまうだろう。
 真央の操る水は早く動かせないので、スピード戦には弱い。
「、、、友達を殺すなんて、出来ないよ、、、」
『、、、分かった。なら、、、真央!彼奴の周りに地下水をばら撒け!オレが氷漬けにしてやる!』
「ダメ、、、。今、憑き物の足元に水道管は通ってないの、、、地下水脈も遠い。それに私、水をそんなに速く動かせないし、きっと気付かれちゃう」
『諦めるな!クソッ、水さえ豊富ならオレと真央のコンビは最強なんだ。何処かに水脈さえあれば、、、。いや、ある。この手なら此奴を倒せる』
 思い付くのは公園内に設置された噴水。だけど、噴水は今の時間は止まっている。
『真央、あと少しだ。近くのコンビニまで走れ!』
「え、え!?」

 誰もいないコンビニの監視映像が見れる薄暗い部屋の中。
息を殺して監視映像の一角を睨み付けている。
憑き物が入店。定員達は全員、玲央によって気絶させられ、スタッフルームに押し込まれた。
 ペットボトルコーナーの近くに憑き物が近付いた瞬間、一斉にペットボトルが破裂した。お茶、ジュース、水、あらゆる飲み物が憑き物にかかる。そしてそれは凍っていき、動きを封じる。武器も上手く凍ってくれた。
「よし、、、かかった!」
 勢い良く部屋を飛び出す。
玲央が仕掛けた罠に、まんまと引っかかってくれたようだ。
 店内には凍った憑き物が脱出を試みようと足掻いていた。
「残念だったな。オレ達が操れるのは真水だけじゃねぇんだ」
 落ちているペットボトルの水を鋭く凍らせ、「真央を傷付けた罰だ」
刺した。
何度も何度も、角度を変えて刺す。
体全体を鋭い氷が貫く。玲央が凍らせた氷は枝分かれしていき、憑き物は悲鳴を上げる。
だが、玲央が耳を貸すことはなかった。
それに追い討ちをかけるように真央によって操られた水が酸素を奪っていく。
―――バキンッ!
「氷漬けか溺死、どっちが辛いんだ?、、、ああ、もう聞こえちゃいないか」
 散らばった氷の破片は辺り一面に散らばった。
憑き物は完全に祓えただろう。
真央に変わると、脱力感に襲われた。床に座り込む。
『やれば出来るじゃねぇか』
「うん、、、!!」