花氷の琥珀糖

 その日の夜、真央は喫茶店・鈴でプリンアラモードを食べていた。
「ん〜、美味し〜!」
プリンと果物とホイップクリームが楽しく踊ってるよ〜。
「よく頼むよね〜、プリン好きなの?」
店の制服姿の鈴音が此方へ来た。
「好きだよ!美味しいし、美味しいのに値段が安い」
 メニュー表に載ってるプリンアラモードを指差す。写真と値段が記載されている。値段は百七十円。
「ありがとう」
「美味しいからね〜、、、それよりあれからどうなったの?」
 あれからというのは占い詐欺のことだ。
「今はお客さんが沢山増えて、時間帯によっては行列が出来るようになったんだ!」嬉しそうに話す鈴音。
「良かったね!」
「うん!」鈴音は眩しいくらいに、この夏一番の笑みを向けた。

「あー美味しかった!」
『ああ、美味しそうに食べてたな』
「うん!」
 美味しくて二個頼み、鈴音にえ、、、まだ食べるの?みたいな顔をされてしまった。
 ペンギン公園の側を通りかかった時、憑き物の気配が強くなる。
急いでペンギン公園に向かい、大きなペンギンの滑り台がある所まで来たが、何もいなかった。
「いない、、、?」
(確かに憑き物の気配がしたんだけど、、、)
噴水の所も、砂場の所も見た。でも、気配だけ感じて姿は見えない。
『いや、いる』
 何かに警戒するように呟く玲央。
気配の源を感じ取るのに集中していると、ガザッと近くで草むらが揺れる音が聞こえた。
真央は顔を上げて、そこにいる人に驚いた。
「あれ?時雨くん?こんな時間にどうしたの?」
草むらから出てきたのは制服姿の時雨だった。
(まだ着替えていないのかな?)
 真央が時雨に近付こうと、一歩を踏み出した時、『近寄るな!』と頭の中で叫ぶ声がした。
『彼奴に近寄るな。彼奴は憑き物だ』
「え、、、?」
 よく気配を読むと、公園内に漂う憑き物の気配は時雨から強く感じられる。
「あーあ、バレちゃった。何で分かるんだろうね〜憑き物落としの家系って」
背筋に冷たいものが滑り落ちる。
目の前にいるのは時雨の姿なのだが、中身が違う。
 手が小刻みに震える。自然と時雨と距離を取る。
「何が目的だ」
 強い殺気を放ちながら、玲央は微笑んでいる憑き物を睨みつける。
「怖っ、、、。殺気が凄いね君」自分に向けられた殺気に驚きながらも、笑みを崩さない。
「まぁ良いや。どうせ大したことは、、、!?」
 その言葉が言い終わらないうちに先手を仕掛けたのは玲央だった。
拳を振りかざし、時雨の頬を思いっきり殴る。勢いに任せで殴ったので、時雨は抵抗する暇もなく殴打を受けた。
「ぐっ、、、此奴はお前の弟子じゃなかったのか、、、?」口の端が切れ、真っ赤な血が滲み出ている。
「弟子に憑依すれば、オレが手加減するとでも思ったのか?」その他の感情が感じられない、怒りの声。
「生憎様、オレはそういうのに容赦しない主義なんでね」
『兄さま、、、凄い』
真央はそっと声を漏らした。