時雨が倒れたその日の夜、家に帰ってからも玲央はひとり考え込んでいた。
時雨が真央の肩に触れようとした時、弾く音と共に倒れた。
そして時雨を運ぼうと手を掴んだ時、違和感を覚えたのだ。
 全身の毛が逆立つような感覚。
体にまとわりつくようなドロっとした嫌な気配。
まるで、憑き物を相手にしているかのような嫌な感覚、否、時雨は生身の人間で、憑き物ではない。玲央自身はこの嫌な正体に確信が持てず、イライラしている。
 机に置かれた餡子餅に手を伸ばしながら、歌夜から貰った資料に目を通す。
【先月二十三日、商店街辺りにて憑き物の目撃情報。目撃情報によると少年のような見た目だったと言う。恐らく十五から十七だと推測。調査を依頼する】
(考え過ぎか、、、?)
 脳裏に過ぎるのは時雨の姿。
時雨の転校初日、教室に入ってきた時雨に強い嫌悪を覚えた。嫌な、憑き物の気配。予想が当たらないか不安だったが、確信に近付いている。
―――村上時雨は憑き物に憑依されている―――
 考えたくもない最悪の状況。
時雨はまだ未熟者だとはいえ、腐っても祓い屋の子供だ。普通の人間より霊力が高く、それと同時に憑き物を祓う方法を知っている。
可笑しい。
全てにおいて可笑しいのだ。
 時雨は自分達に対して丁寧な話し方だった。だが、歌夜が家に来た日、電話越しでは砕けた話し方だった。まるで、人がガラッと変わってしまったような。
 そしていきなり倒れた時もだ。弾ける音。真央に渡しているお守りが一瞬、何かに反応を示すように光ったような気がした。あのお守りが反応するのは憑き物だけだ。玲央が自身の霊力を込めて作った、憑き物避けのお守り。
「あークソッ、イライラする」頭を掻きながら、何処へぶつければ良いのか分からないイラつきを口に出す。
『どうしたの?』
「今日、彼奴が倒れた時、手を掴んだだろ?その時」
 玲央はそこで言葉を止める。
玲央の予想が正しければ時雨は憑き物に憑依されている。
(あまり不安にさせない方が良いな)
 憑き物を祓えるようになったからといって、まだ完全には克服出来ていない真央に新しい情報を与えて不安にさせる訳にはいかない。
「真央が彼奴と親しくなるのが嫌だ」
『誰が?』
「オレが」
 これは嘘ではなく、本心だ。叶うことなら真央を自分以外の男に接触させることなく大切に、大切に守りたい。
『え、、、?』
今まで流す程度の反応だった真央が急に反応する。
玲央にとっては大事件だ。
『あ、、、えっと、、、その〜、、、』
オドオドする真央に、可愛いと思う玲央であった。