「目撃情報では白いワンピースを着た二十代くらいの女性、、、でしたよね?」
「ああ」
 邪鬼は力によっていくつかのランクがある。玲央から聞いた話ではこの世の未練の強さで決まるそうだ。
未練が弱いモノは人の形を保っておらず、逆に強ければ人と区別がつきにくい。人の形を保っているモノは人を呑む可能性が高いので、見付け次第祓わないと危険なのだ。
(油断しないようにしないと、、、)
 時雨は緊張から手をぎゅっと握る。自分が足を引っ張ったらどうしようという不安もあった。
「此処は広い。二手に分かれるか」
 ぽつりと玲央が呟き、時雨は勿論了承する。
玲央と分かれ、時雨は一人で邪鬼を探す。
「キキッ」
何処からか耳障りな声が聞こえた。そちらに目を向けると、ぽっかりと穴の空いたような目で此方見つめる、真っ黒な物体と目が合う。
(いたっ!)
しかも一体ではなく複数だ。
 時雨はあらかじめ持っていた祓札を投げつけ、それらは邪鬼に見事に命中して「ギャァ」と悲鳴が上がった。体がモヤのように(かす)み、やがて消えていった。
 祓札とは、名前の通り憑き物などを祓える札のこと。その威力は縛呪札同様、作った術者の霊力によって変わる。
 その後も散策を続けては祓い、見付けては祓うの繰り返しをしていると、道の隅でうずくまる女性を見付けた。
「大丈夫ですか?」
「すこし、たいちょうがわるくて」
 女性が顔を上げる。暗い道でも分かるくらいに顔が青ざめていた。
(顔色悪っ!病院に連れてった方が良いのか?)
時雨は驚いた。
「タスケテください」
「あ、人を呼んで来ましょうか?」
 時雨は頷く。邪鬼退治の途中だとはいえ、目の前の体調が悪そうな人を放っておくことなど出来ない。
「このままじゃたてないので、てをかしてください」
「分かりました」
時雨は女性に手を差し出す。その手が触れた瞬間、遠くの方で沢山の邪鬼の相手をしていた玲央が叫ぶ。
「触るな!其奴だ!!」
「は?」
時雨は女性を見つめる。先程まで体調が悪そうな女性はにんまりと口の端を上げる。
「ツカマエタ」
 目が合った瞬間、ゾクッと寒気がした。
(人間じゃない、、、!)
 握られた手がガクンと重くなる。時雨は咄嗟にその手を振り払った。反動で女性が地面に倒れる。
「タスケテクレルッテイッタノニ」
―――白いワンピースを着た、若い女性!
 その女性は目撃情報通りだった。
再び触られそうになり、時雨は後ろへ下がって距離を保つ。
 持っていた祓札を投げつけるが、女性はひらりと避ける。
最悪なことに、この祓札が今日持って来ていた最後の札だった。
(速っ!?)
 女性が飢えた狼のようなスピードで、時雨に触れようとした時、女性を水が包み込んだ。
水を操っていたのは、真央だった。
「真央さん、、、?」
『真央、、、』
 二人は驚いた。
あれだけ憑き物などを怖がっていたのに、自ら戦いに参加したのだ。
多分、一番驚いているのは玲央だと思う。
「もう、私から仲間を奪わないで!せっかく出来た居場所を壊そうとする人は、誰だって許さない!」
 真央がそう叫んだ。女性を包んだ水は玲央の能力によって凍っていく。
―――パキン!
女性を閉じ込めた氷は粉々に砕け散る。
「こんな花氷は嫌だなぁ」虚無の感情でハハハと笑う玲央。
「凄い、、、」時雨は目を見開いて驚いている。
 自分でも歯が立たなかった邪鬼を、同じ年齢で気の弱い真央が祓ってしまったのだ。
そしてそれと同時に、夏谷家と村上家の力の差に気付かされる。
「師匠だけは敵ではなくて良かった、、、」二人に聞こえないように時雨は安堵(あんど)する。
『真央、大丈夫なのか?』
「た、、、多分?」
自分でも祓ったことに驚き、夢か現実かの区別が付かなくなるが、夢でも祓えたことが嬉しかった。