キーンコーンカーンコーン。
最終下校を知らせるチャイムが鳴る。
真央はその音に反応して、教室にかけられた時計を見た。
(あっ、もうこんな時間?)
いつの間にか最終下校時刻になっていた。部活に集中すると、時間が経つの早い。
 真央が所属している漫画イラスト研究部は週に一回の頻度で集まり、イラストを描いたりお喋りをしたりする自由度の高い部活だった。
(そろそろ帰らなきゃ)
 真央は両腕を大きく広げて伸びをする。
描きかけのイラストをクリアファイルに挟み、通学鞄に入れた。
「真央ちゃん、また明日〜!」
「うん。また明日〜!」
パラパラ帰っていく先輩や同級生に挨拶をして教室を出る。
 昇降口で靴を履き替えていると、時雨に声をかけられた。
「今日、ペンギン公園で待ってる」
 ペンギン公園というのは大きなペンギンの滑り台がある公園なので、みんなペンギン公園と呼んでいる。
 今日は一緒に憑き物を祓う約束をしているのだ。
その理由は、あまりの力の差で時雨が玲央に負けたから。その日から玲央を師匠と呼ぶようになった。

 その日の夜、真央、否、玲央達は新宿の外れにいた。
ペンギン公園で待ち合わせをして目的地である新宿に向かった。
 人が沢山集まる場所は、自然と憑き物が集まりやすいのだ。
「始めるぞ」
「はい、師匠!」
「、、、」
 華やかな場所も、大通りから外れれば嘘のように静けさが包む。人通りが少ない小道を玲央と時雨は警戒しながら進む。
「イイノミツケタァ」
 声の方を見ると物陰から物欲しそうに見つめる人影を見付けた。ぽっかりと空いた黒い目をしたこれは、人ざらなる者だ。
「くらえ!」
時雨は持っていた札を投げつける。真っ直ぐに飛んだそれは見事に命中した。
「ギャァ」
一瞬悲鳴のような声が聞こえたが、やがて人影はモヤとなって消えていく。
「どうか安らかに」
時雨は先程の邪鬼がいた所に向かって手を合わせる。
 自ら望んで憑き物になった者などいない。彼らはこの世に未練があり、未練を晴らす為に体を探しているうちに憑き物となる。
その話を玲央に教えられてから、自発的に時雨は彼らの冥福を祈るようになった。
「、、、オレから真央を奪う奴はどんな奴だろうと許さねぇ」
玲央は周りにいる人ざらなる者を凍らせ、消していく。
 彼は幼い頃から"何か"によるトラブルに巻き込まれてきたので、真央以外の人間は全員『アホな霊障予備軍』くらいにしか思っていない。
天邪鬼な性格で素直になることが苦手だが、生まれつき溺愛している真央に対しては恥ずかしがることなく堂々と愛情表現をする。
 それでも、時雨に戦い方を教えているのはただ単に、真央の友達が死ねば真央が悲しむ。という理由だった。
つまり、彼にとって妹は何に代えても守るべき存在であるのだ。