「オレから真央を奪おうとするのはお前か」
 何時も通りに憑き物を凍らせ、魂ごと破壊した後、待っていた人が来る。
「、、、やっと来た」
 祓い屋の少年はオレを見て刀に手をかける。これは相当、警戒しているな。
「真央さん、、、貴方は憑き物落としの家系ですね?」
「オレは玲央。真央の双子の兄だ」
「、、、は?」
理解出来ていない祓い屋の少年。
「死者の魂が生者に宿っている、、、ということだけ言っておこう」
「だから魂の気配が二つ感じられたのか、、、」
(魂の気配、ね。とんでもないこをを言ったな、おい)
 魂の気配を感じ取るなど、流石のオレでもかなり集中しないと読み取れない。つまりは至難の技という訳だ。それを易々と出来るとは、感心するな。それか、村上家はそういうことを得意としているのか?
 否、オレの知る限りでは聞いたことがない。そんなことが可能な家系だったら、かなり有名になっていただろう。
『兄さま、言うの?』
「言ってほしくないなら言わない。真央が決めろ」
『うん、、、』
祓い屋の少年は刀を(さや)から引き抜き、オレに向ける。
戦闘になるな、と瞬時に理解してペットボトルのキャップを開ける。
『兄さま、、、ダメ!』
 真央の声が頭に響く。真央の願いは叶えてあげたい。だが、これだけは駄目だ。
 ペットボトルの水を流すと、パキパキと凍っていく。さっきまでの威勢の良さは何処にいったのか、少年は目を見開いていたが、やがて我に返えり、刀で斬りかかって来る。右に左に刀を振るが全然当たらない。(かす)りもしない。
 扱い慣れていないのだろう。
此奴は先程まで札を使って戦っていた。刀は確かに威力が上がるが、その分、霊力の消費も激しいと聞く。案の定、此奴は立っているのもままならない状態だ。
「おい、そのまま戦えばお前、倒れるぞ!」
 流石に倒れた此奴を運ぶのは嫌だ。倒れたら公園のベンチにでも放っておこう。
「お前に言われなくても分かってる!」
下に潜り、少年から刀を取り上げ、ついでに腕を捻り上げて地面に押し付ける。
「ぐぁ、、、」
「弱っ」
(よくこんな弱さで今まで憑き物を祓えたな、、、)
 触れた箇所から感じる霊力の少なさ、戦って消費したのか、元から少ないのか、、、。
『兄さまは強いもん!』
 使うかと思って凍らせた鋭利な氷を此奴の首に当てる。周りには数枚の札。
(ああ、なるほと、、、)
 人間相手だから刀に持ち替えたのか、、、。
「お前は札を主に使って祓っている。別に刀に持ち替えなくても飛び道具で戦えば良いだろう」
まぁその場合、札を凍らせて進行を阻止すれば良い話だが、、、。
 そう指摘すると、図星だったのか言葉を吐き捨てた。「俺たちは夏谷家みたいに能力は持っていない!だから何かの力を借りなければいけないんだ。お前達みたいに、、、生まれながらのエリートじゃないんだ!」
『あ、、、』
 嗚呼、真央が悲しむ。泣いてしまう。オレが慰めないと、ずっと守るって約束したのに。
「オレ達は確かに能力を持っている。だが、それは自由を縛る鎖でもある」
「!!」
「オレ達は、お前が羨ましいよ」
能力を持っているということは、将来が決められているのと同じだ。
 期待が重い両親。
真央が何度その期待に応えようとして、認められたくて頑張っていたこと。だけど、どれだけ頑張っても認めてもらえずに布団に潜って泣いていたことも、、、。
「お前にひとつ警告をしておこう。真央に変なことを教えたら殺す。真央の寝顔を拝んでも殺す」
 服に付いた砂を落とし、(きびす)を返した。