あーあ、さっきまで運命だなんだと言っていた私が馬鹿みたいだ。
第一、この土手沿いはみんなよく通る道なんだから遭遇するのは当たり前じゃないか。
運命だなんて、そんなに簡単に落っこちてるものじゃないんだから。
しばらく走った辺りの土手の斜面に座る。服を汚したくないからあまり普段はしないが、今回はいいとする。
息を整えつつ、考える。
正直、吉川海晴に負けて悔しいと言う気持ちはないわけじゃないが、まあ仕方ないような気もする。
池川はプライドが高いから自分より頭がいい女子は嫌かもしれ
ないし、そもそも吉川海晴はかわいいと思う。
女子力は高いし、私がかなりズボラなせいでできていないヘアアレンジも毎日違う。キーホルダーのカラビナの付け方にはセンスが光っているし、スカートの丈も自分が一番可愛く見える丈を知っている。

私には敵わない。
少なくとも池川相手にはそうなのだろう。しかし、世の中には真面目な女子が好きという男子も、不真面目な女子は嫌いと言う男子も一定数いるはずだ。
私はそういう男子とのほうがあっているのだろう。今知れてよかった。
そう一人、納得して立ち上がろうとすると、
「あれ、川野さんじゃん。どうしたの?こんなところで。俺まだ時間あるし。」
え、佐藤君?佐藤孝。隣のクラスで同じ中学校出身である。何とも個性のない名前のせいで平凡に思われがちだが、実は学校一のイケメンでモテモテだ。
「佐藤くん!?いや、あの、ね…。」
詳細や相手の名前は伏せつつ、失恋したことだけ話した。これくらいはいいだろう。
「まあ、そういうこともあるよね。大丈夫でしょ。池川さんなら絶対いい彼氏できるよ。」
優しいところも魅力で落ちる女子が後をたたないんだとか。
「そうかな…。」
「うん。僕で良かったらいつでも相談乗るし。」
た、だ、…。同じ中学だった私はなんとなくわかっている。完全無欠の佐藤孝の唯一の欠点。
「ねえ。時間。大丈夫?」
実はまだ5分も経っていないが、どう来るか。
「あー。やばー。行かなきゃ。」
そう立ち上がると、向こうから一人の女子が走ってくる。 
「ちょっと孝?何してんの?何分待ってると思ってんの?」
あ、唯一どころじゃなかったわ…。欠点。
浮気性で女好き。
待ち合わせは遅刻が当たり前。
すぐ猫かぶり。


とにかく、典型的なダメ男なのだ。たまたま彼女が知り合いだったのでさっきあった時点でメッセージをこっそり送っておいたのだが、やっぱり。

正直、いかがなものだろうか。

ふたりの後ろ姿を見送りながら、あんなのに引っかかったら大変だな~。と、若干他人事だ。