なんだ。仲良くしろとか言ってきたくせに話をしてこようともしないなんて。

 冷たい言葉達は私の心を次々と矢で突き刺してくるみたいだし。ムカつく。絶対に仲良くなんてしてやるものか。

 とはいえ、これでやっと読書に集中できる。

「はーっ」

 盛大なため息が自然と口をついて出た。緊張が一気に解けたせいで、全身から力が抜けていくような感覚に襲われる。 

 それから、机の上に置いてあった本を手に取り、ゆっくりとページをめくった。本の内容に集中しようとしたが、頭の中には先ほどの筆談や椋翔くんのペンの音がちらついて、なかなか文字が頭に入ってこない。

 記憶は頭の中で何回もリピートされ、同じビデオを繰り返し見させられているような気分になる。

「どうしてこんなに気持ちになるんだろう……」

 自問自答してみるが、答えは出ない。心の中の感情が少しずつ膨れ上がるのを感じる。こんな時こそ本の世界に逃げ込みたいのに、今日はそれができず、もどかしい。

 力なく本を閉じる。それからただ、机に突っ伏してため息をまたひとつ。やがて深い眠りに吸い込まれるようにして意識が途切れた。


 ガラガラッ。
 
 どれくらいの時間が経ったのだろうか。深い湖の底にいるような眠りの感覚は、引き戸が開かれる音で強制的に中断させられた。

「……ん?」
「へんねまはそこまでね」
 
 重いまぶたは嫌でも開いてしまう。丘先生の声だ。穏やかでいつもよりこころなしか声を潜めている。
 
「……その方言、どこのですか?」
「さぁ、昼寝って言う意味よ」
「福井県の方言らしいですよ。先生」