公園に行く前、不思議に思っていた。なんで椋翔が知ってるような言葉を書いてきたんだろうって。ああ、それでか。だから、会いたがってたんだ。僕と錦奈が知り合いだということを椋翔に話してくれたんだ。

 消えたい、死にたい。苦しい、悔しい。自分がみじめすぎてもどかしい。そんな日々をずっと送ってきた僕なんかに会いたがってる人がいるなんて嘘みたいだ。
  
「忘れた」

 もう、いい。傍から見れば些細なことだと思いながらも、探し続けた。その思いが報われた瞬間、それだけで心が満たされた。何かを成し遂げたような安堵感が広がり、それ以上を望むことはなかった。

 錦奈は少し躊躇しながらも、「そうなんだ……じゃあ、私の話をしてもいい?」と問いかける。僕は静かに頷いて、その言葉を待った。

「弟の耳がさ、おかしくなっちゃったんだよね。聞こえすぎちゃうっていうか。そうなった理由、母さんはわたしのせいだって言ったんだ。弟は違うって言うんだけど、わたし小さい頃から周りに迷惑ばかりかけていたらしいから直そうとしても今度は他のところでミスしちゃうしきりがないよ発達障害っていって、生まれつきの脳の特性のせいなんだって」「……」
 
 いきなり何を話出すのかと思えば、そんな重たい発言に、僕は息をすることすら忘れた。言葉を選ぶ余裕もなく、黙り込むしかなかった。

「ペンケース探してたら遅刻したとか、電車の時刻表見たのにいざ乗ったら行く場所とは反対だったなんてことしょっちゅうあるから直そうとしても今度は他のところでミスしちゃうしきりがないよ」

 錦奈は苦笑いを浮かべながら続けた。その声には、どこか自分を責めるような響きがあった。

「わたしって、バカだよね……どうしてこうなんだろ。この先もずっとそうなのかな。何度も人に迷惑かけて、自分がダメな人間だなって思い知らされて、その繰り返しなのかな。こんな世界、生きづらいよ」

 その言葉には、自分に対する深い無力感が滲んでいた。僕はどう言葉を返せばいいのか分からず、頭の中で必死に言葉を探していた。しかし、気づけば無意識にブランコを降り、錦奈の手を掴んでいた。そしてそのまま、彼女を自分の胸に引き寄せていた。