図書館。昨日、思い切って私から誘った。
午後1時の約束だったのに、もう3時間も経ってしまった。時間が永遠に終わらなければいいのに、なんて。今日は本当は伝えたいことがあって、来た。本当は怖いけど、言わなきゃ。それなのに違う話ばっかりしちゃってた。

「湊音《みなと》。あのさっ、聞いて!」

「なあに?いきなり」

「私は、障がい者っていうか、あの、みっみんなと違くて、あの、えっと…生まれつきで、治らなくて、だからっ…」
 
「うん、知ってる。だってそれ、もう何回も聞いたじゃん」

__なんで。なんでいつもそばにいてくれるの。一緒にいたって迷惑ばっかりかけちゃうのに。というか、なんでそんなにいつも通りに笑ってるの。嫌にならないのかな。

「...っ、あの、さ」

「ん?どした、莉緒《りお》?」

__怖い。本当は、すごく怖い。...でも、やっぱり訊かなきゃ。

「なんで私なんかと一緒にいてくれるの。いいことなんてなんにもないはずだよね」

声が震えた。きっと顔も引きつってるはず。

「いいこと、かあ。うん、あるよ」

「...は?え、なんで」

__どうせ嘘だ。気遣ってくれてるだけなんだ、きっと。

「例えば、一緒にいると本音を出せること。いつもみたいに、苦しくないんだ。自分でも不思議なんだけど」

__そんなの、私だって。君といるのが一番だし、楽だよ。でも、他の人でも代わりは務まるし。

「そんなの、私じゃなくたってっ...」

「違う。莉緒は、俺のこと認めてくれる。絶対に否定しないじゃん。それに悪口言わない。でも、代わりに溜め込んじゃう。本当は、すごく辛いんじゃない?」

「でも、そっちだっておんなじだよ」

_あ、もう6時間も経ったんだ。でもまだ隣で話してたい。

「あ、もうこんな時間だ、外暗いし送ってく」

「あ、ありがとうっ…」

_もうちょっと一緒にいたかったなあ。

「今日は誘ってくれて嬉しかった、でもなんか寂しいからつづきはLINEしてもいい?」

「えっ、や、あ、うん!もちろんっ」

「やったあ、ありがと!」そう言って君は笑った。

その横顔が少し悲しそうに見えた気がしたのは、気のせいだろうか。

時間はすぐに過ぎていって、もう家についてしまった__。

「ばいばい。送ってくれてありがと。嬉しかった。」

『こちらこそ!ばいばい!』

そう言いながら手を振ったあと、君はすたすた歩いていった。なんか、それを見てたら寂しくなってきちゃった。

__ああ、もうちょっと、一緒にいたかったな。そう思うのは、私だけ?