夏樹(なつき)ー!」

 大声を出しながら思いっきり走った。彼の背中は五年前よりもたくましく見える。

「久しぶり!」

 彼の肩に体重を乗せ、寄りかかる。彼と目が合った。夏樹は私のことが見えるようだ。とても嬉しくなった。

「渚! 久しぶりだな」

 当たり前のように横に並んで一緒に歩く。
 脳内で並んで歩く昔の私たちの姿が流れる。これは走馬灯なのだろうか。

 私の右手は既にすべて消え、左手の指が消えかかってしまっている。私の手が消えてるのに夏樹は気づいていないようだった。

「確か、最後に会ったのは五年前だっけ。大きくなったね〜」

 照れ笑いをする姿が可愛らしい。顔立ちも声も姿も少しだけ変わっていても面影は残ってる。それでも、大人になっていて寂しさを感じた。

「何でここにいるの? 今の家から遠いだろ」

「ここ、私のお気に入りの場所なの。一人になりたい時はたまに来るんだよね」

 適当に嘘をついてやり過ごす。ここには引っ越してから来てないのに。

「それに、ここに毎日来れば会えるかなって」

 つい本音が漏れてしまった。頭の中で理由を探す。

「あ、いや、ほら私が引っ越してから連絡も何も出来なかったでしょ。だから会いたくなっちゃって」 

 私が話すと彼は笑った。

「何で笑ってるのー?」

 少しだけ怒ってみた。でも、彼はまた笑う。敵わないな、昔から。

「懐かしいな。怒ったときいつもそんな顔してた」

 彼の指がそっと私の頬に触れた。不思議な感じ。顔が火照っていく感覚がする。

「あっ、ごめん。渚の頬が可愛くて、つい」

「そんな理由? それならいくらでも触っていいよ」

 火照りを冷まし、私の頬を差し出す。
 少し焦った。これが「恋」という感情なのかもしれないと。

「やめとくよ。許可もなく触ってしまったんだから」

「そう。別に私は気にしないけどね」

 強がってしまった。本当は、ドキドキしたのに。